『M 愛すべき人がいて』三浦翔平演じるマックス・マサに学ぶヒットを生み出すビジネスメソッド

歌姫・浜崎あゆみのデビュー秘話をもとにした原作を、スターダムを駆け上がる女性トップアーティスト・アユと音楽を通じて新しい時代を築こうとしたマックス・マサの姿を描いたドラマ『M 愛すべき人がいて』。業界の慣習や常識を覆し、ヒットを予測するマックス・マサの行動から、新たなムーブメントの興し方や人材発掘・育成のヒントを沢渡あまねさんに語っていただきました。

M 愛すべき人がいて

あまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん

沢渡あまねさん業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書『職場の問題地図』『運用☆ちゃんと学ぶ システム運用の基本』『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』『仕事は「徒然草」でうまくいく~【超訳】時を超える兼好さんの教え()』ほか多数。

【1】業績好調な企業が陥りがちな経営の落とし穴とは?

新興音楽レーベル「A VICTORY」の天才音楽プロデューサー・輝楽天明(新納慎也)は次々と新曲をリリースし、ビッグヒットを飛ばします。しかし、専務でプロデューサーのマックス・マサ(三浦翔平)は、業績好調な既存事業に頼り切り、新規事業の必要性に向き合わない経営層に対し、強い危機感を示します。(1話より)

マサ「うちの会社は輝楽プロデュース以外のビッグヒットを飛ばさないとまずい。(中略)A VICTORYの売上、1年で約145億。そのうち輝楽プロデュースが8割だ」
三ツ谷(和田颯/Da-iCE)「すごい…!」
マサ「すごくない、まずいんだ」
特定の事業だけに頼るリスク【評価】★★★★★沢渡あまねさん
多くの人は目先の好業績だけを見て、「これからも好調が続くだろう」と思い込みがちです。しかし、その事業の業績が悪化した時に、売上の柱となるビジネスが1つしかないという大きなリスクを抱えています。

業績好調に甘えず、常にリスクマネジメントも考える

輝楽プロデュースの経営戦略のように、その1カ所が動かなくなるとシステム全体が停止してしまうポイントのことをシステム用語で「SPOF」(単一障害点)と呼びます。例えば綺羅プロデュースのトップタレントが体調を崩したり、他社に移籍してしまったりした場合、その売り上げが丸ごとなくなってしまいます。

マサはそこに危機感を感じているのです。輝楽がビッグヒットを飛ばしているうちに、ほかのビジネスも生み出し、人材も育成しなければ会社の行く末は危ないと捉えています。こうしたマサの視点は、企業の将来性を正しく見通している健全な危機感だと言えます。

こうした自社のリスクを把握するためには、年に一度会社の業績や組織体制、自分自身の働き方について振り返りをしてみると良いでしょう。その際、「SWOT分析」というフレームワークを使うのがお勧めです。自社の強みと弱みを整理し、社内・社外にどのような脅威とチャンスがあるのかを整理します。すると、一見好調に見える会社にも実は致命的なウィークポイントがあることに気づけるかもしれません。

SWOT分析とは:強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つを組み合わせて分析することで、自社にとっての、市場機会や事業課題を発見するフレームワーク

社外の勉強会に出かけたり、異業種の友だちを作ったりするなど、新しい出会いを増やして視野を広げる心がけも重要です。同じメンバーと仕事をすることが増え、「世界は狭い」と感じるようになったら要注意。「ヤバい」という危機感を持ち、異なる業界・会社で働く人たちが今どんなことに着目し、他社ではどんなビジネスがヒットしているのか学ぶ姿勢が必要となるでしょう。

常にリスクマネジメントを考えておくことは会社の未来予測のみならず、自分の働き方を見直し、キャリア設計やライフプランを立てる際などにも有効です。例えば、企業の業績悪化などを見越し、先行きが不透明な将来に備えて、複数の収入源を確保する、などです。つまり、「キャッシュポイント」が現在の勤務先企業しかない状況はリスクと捉えて副業を始めたり、新たなスキルを習得したりするなど、今の仕事とは違うキャリアの強みを持つことが有益になるでしょう。

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【2】これから伸びる人材やビジネスを見極める方法は?

六本木の有名なディスコでマックス・マサの電話番号をもらったアユ(安斉かれん)。アユはマサに媚びず、はっきりと自分の考えや意見を言うことでマサの心をつかみました。その現場を見ていたマサの後輩、流川(白濱亜嵐)は、マサに「かわいい子なら、もっとほかにいたはず」と首をかしげます。(1話より)

マサ「あの子は多少なりとも俺の心を揺さぶった。(中略)5万人の心を揺さぶりたければ、まず目の前の1人の心を揺さぶれ。(中略)何かの可能性なんてものは誰にだってある。その可能性を磨く人間がいるかどうかだ」

ビジネスチャンスを見極める視野を広げる【評価】★★★★★沢渡あまねさん
これから伸びそうな人材や「次にくる」逸材や商品、ビジネスチャンスを見極めるのはとても難しい。しかしそれらを獲得し、業績を伸ばすためには、現場の状況を知り、「次の時代のキーワードを想像する」視野の広さが必要です。

自分の目と足でリアルに触れ、次の時代を仕掛けよう

次の時代を創るビジネスや人材を見抜くには、街や現場に出て世の中やユーザーの「リアル」に触れる必要があります。この時マサはオーディションを人任せにせず、自ら六本木のディスコに出かけて、歌手志望者たちの声や態度、マインドセットを直接見極めました。

ここでマサが見ていたのは「目の前の人間の心を揺さぶれる力があるかどうか」ということ。おそらくマサは、アユが、次の音楽シーンを創っていける逸材だと見抜いたのでしょう。

とはいえ、いざ現場へ出ていくだけでは、新しいムーブメントを起こすのは難しいですよね。次のヒットビジネスやそれを生み出す人材を見出すために必要なのは、まず視野を広げること。

本を読み、ネットの話題に触れ、仕事以外のコミュニティに参画する。業種や職種、地域を超えてさまざまな人の話を聞き、他業界の動きやトレンドを知る。自分が全てゼロから新しい時代を創る必要はありません。外部からたくさんの情報を得て、そこからインスパイアされることで、次の時代を創るテーマやキーワードにたどり着くことができるでしょう。

例えば今なら、「withコロナ」「xTech」「リモートワーク」「DX」「経済活動の縮小」など。こうしたキーワードをもとに、現場で見知った人材やプロダクトなどの可能性を見極めればいいのではないかと思います。さらにそれをSNSなどで発信すれば、さまざまなコミュニケーションが生まれ、新たなアイデアへと繋げることができるのではないでしょうか。

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【3】古き慣例・ルールを打破するために必要なこととは?

アユの才能に確信を持ったマックス・マサは、老舗芸能プロダクション・中谷プロに所属していたアユを引き抜こうとします。しかし中谷プロの社長・中谷(高橋克典)はタレントの引き抜きは「ルール違反だ」と怒りをあらわにします。そこでマサは「アユをうちにください」と土下座します。(2話より)

マサ「ルールはいつか破られるものです。誰かがルールを破った時、新しいものが生まれる。僕はそう思います」

時代にそぐわないルールを見直そう【評価】★★★★★沢渡あまねさん
今まさに印鑑の廃止やリモートワークの拡大、ビデオ会議中のスーツ不要といった仕事の新常識が生まれようとしています。時代にそぐわないルールを変えるにはマサのように誰かが声を上げ、変化のムーブメントを生み出す必要があるでしょう。

声を上げ続け、新しいルールのムーブメントを起こそう

今、デジタル化やテレワークが推進されているにもかかわらず、古いルールを変えられず新しい時代の変化に順応できない会社があります。

そのような硬直した環境に変化を起こすには、まず個人や取引先、オピニオンリーダー、社員の家族といったそれぞれの立場で「よりよい職場にしよう」と発信し続けることが大切です。

発信者が増えてきたら、次は人々の共感を呼ぶような社会性の高いキーワードと組み合わせ、ルールを変える必要性をストーリーにします。例えば「働き方改革」「在宅勤務」といったキーワードと組み合わせると有効です。次第にそのストーリーに共感する人が現れ、新しいルールに対するファンが増えてくるでしょう。

多くの人が変化を求め、新しいルールを導入する合理性が高ければ、変化のうねりは次第に大きくなり、一つのムーブメントとなって職場や社会に変化をもたらすでしょう。

【まとめ】時代と共にビジネスルールもアップデートしよう

かつては合理性のあったビジネスルールも、時代が変われば陳腐化し、むしろ邪魔なものになってしまいます。

一時期うまくいったからといってそこで満足せず、時代に合わせてアップデートし、変革を生み出す行動をしなければ変化の激しいこれからの時代に取り残されてしまうでしょう。

自分の仕事や会社にはびこるルールが、成果に繋がらない「仕事ごっこ」になっていないか、マサのような鋭い視点で発信していく必要があると思います。

<番組情報>

『M~愛すべき人がいて』テレビ朝日系・土曜・23:15~/ABEMAで独占配信

歌姫・浜崎あゆみ誕生に秘められた出会いと別れを描いたフィクション小説『M 愛すべき人がいて』(小松成美著・幻冬舎文庫刊)をドラマ化。90年代の音楽シーンを舞台に、アユとマサが音楽で新しい時代を創っていく様子を描きます。脚本は『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)『奪い愛、夏』『会社は学校じゃねぇんだよ』(共にABEMA)などの鈴木おさむ、角川大映スタジオが制作協力に入り、「愛のどろ沼」も繰り広げられる。出演は安斉かれん、三浦翔平、白濱亜嵐、田中みな実、高橋克典、高嶋政伸 ほか

WRITING:石川香苗子
新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。テレビやドラマに関する取材記事・コラムを多数執筆。
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