不景気の転職は不利? 転職活動に景気・不景気がどう影響するか、ズバリ解説

景気には、良いときもあれば悪いときもあります。目下、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、景気への影響は深刻とも言われています。転職を考えるに際して、景気はどう影響するのでしょう。不景気の時には、転職しない方がいいのでしょうか。企業の採用活動はどのように変わるのでしょうか。

特にはじめての転職を考える若手ビジネスパーソンには不安は多いことでしょう。そこで雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんに、景気の良いときと悪いときの転職活動のポイントを聞きました。

公園で悩んでいるビジネスマン

プロフィール

海老原嗣生さんプロフィール写真海老原嗣生(えびはら・つぐお)

雇用ジャーナリスト、経済産業研究所コア研究員、人材・経営誌『HRmics』編集長、ニッチモ代表取締役、リクルートキャリア社フェロー(特別研究員)。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(リクルートエージェント→リクルートキャリアに社名変更)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。リクルートワークス研究所にて人材マネジメント雑誌『Works』編集長。2008年、人事コンサルティング会社ニッチモを設立。近著『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』(イースト・プレス)のほか著書多数。

転職者の数は、好不況に影響しない

「景気が後退すると、転職も難しそうだし、転職者も減る」と思いがちですが、「不景気になっても、転職している人の数は、好景気のときと比べて、ほぼ、変わりません」と海老原さん。

実際、労働力調査を長期時系列でみてみると、景気動向の一つの目安とされる完全失業率は大きく上下動していますが、転職者比率は1990年代以降、ほぼ4.0~5.0%の範囲にあり、転職者数には大きな変化がないことがわかります。

では、景気は、転職の何に影響するのでしょう。

転職者比率と完全失業率
労働力調査より編集部で作成(転職者比率は2001年以前は「労働力調査特別調査」2002年以降は「労働力調査詳細集計」によるもので調査月などが異なる。転職者比率は01年までは2月、2002年以降は1~3月期。完全失業率は転職者比率の調査時期に合わせ各年2月のデータをピックアップ)。

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不況時は、会社を見極める絶好のタイミング。捉え方次第で大きなチャンスに

景気によって、転職で大きな違いが出てくるのは、採用募集する企業の顔ぶれです。
海老原さんは、「不景気のときこそ会社を見極めるいいタイミング、企業を選び甲斐がある」と指摘します。なぜなら、「不況時には社会全体の求人は減少しますが、そんなときだからこそ、景気後退期に求人を出せるだけの体力がある企業と見ることができるからです」と力説します。

好景気のときは売り手市場で、人気ランキングが高い企業に多くの希望者が集まります。成長過程にある企業は、知名度などの点で採用が思うようにいかない場合も少なくありません。「そうした伸び盛りの企業が、他の企業が採用を控えるような景気の後退(=不況)期にこそ、採用ができるようになります。

例えば、90年代前半の平成不況の際には、コンビニチェーンがスーパーバイザーを募集していましたし、医療・医薬業界はMRなどを積極採用しました。これらの業界の、その後の成長ぶりは、言うまでもありません。また、1998~99年のアジア通貨危機のときには、今やプロ野球球団を持つようなIT企業やe-コマースが、まだ当時はそこまで大きな企業ではなかったものの、こぞって優秀な人材を猛烈に採用していました。
不況時に、将来有望な企業が優秀な人材を採用していくことで、不景気が終わるころになると、ぐんぐん業績を伸ばしていった例は数多くあります。不況時に積極採用をする企業の中には、将来大きな成長の可能性を秘めている企業があるのです」。

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好況時は、第一志望を狙えるチャンスだが…

では、反対に好況時の転職には、どんな特徴があるのでしょう。
好景気では採用も活発になるため、いわゆる「売り手市場」になります。
「第一志望の企業や憧れの企業にも採用されやすくなります。大学卒業から3年以内の離職率は、おおむね27~35%の間で行ったり来たりしていますが、一般的に離職率は景気と逆相関と言われています。定着率は好景気のときに悪くなって、不景気のときに良くなる。好景気のときは人気企業の中途採用も活発になるため、そういった企業をねらいやすくなるからです」

ただし、逆の視点から、注意も必要だといいます。

「憧れの企業に採用されやすいからこそ、そうしたところに入社した場合、待遇や仕事に不満があっても、企業規模やネームバリューを落としたくない心理が働き、辞めにくいということにもなりかねません。その結果、仕事に面白さや興味を感じられなくても、多少ブラック的な企業風土があろうとも、それに甘んじてしまっていることもあり得ます。特に新卒で入社した場合に、その傾向が強いかもしれません。」

「ケースバイケースですが、まさに鶏口牛後(大きな集団や組織の末端にいるより、小さくてもよいから長となって重んじられるほうがよいという意)の場合もあるでしょう。好不況に関わらず、自分がしたい仕事、自分の力を発揮できる場を求めることが一番ではないでしょうか」。

ともあれ、景気にかかわらず、今の日本で若手の人手不足はどの企業にとっても深刻な課題です。特に若手で意欲のある人材を中途採用したい企業は、少なくありません。転職を考えているなら、海老原さんのアドバイスを、企業選びの参考にしてみてはどうでしょう。

EDIT:中城邦子 撮影:平山諭
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