「義母と娘のブルース」で綾瀬はるか演じるキャリアウーマンのビジネス手法は、現場でどのくらい通用するの?

綾瀬はるか演じる“バリバリのキャリアウーマン”亜希子が、義娘とあたたかな絆を深めていく様子が話題のドラマ「義母と娘のブルース」。土下座をしたり、パート先でいきなりプレゼン資料を広げるなど、亜希子が繰り出すちょっとおかしなビジネス手法も見どころの一つ。でも果たして、亜希子の手法は実際のビジネス現場でも有効なのでしょうか?

大手広告代理店・博報堂時代に世界的な広告祭で数々の賞を受賞し、現在は様々な企業の新規事業や話題のプロモーションを成功に導いているThe Breakthrough Company GO代表取締役の三浦崇宏さんに、亜希子のビジネス手腕を5つ星で評価してもらいました。

The Breakthrough Company GO 代表取締役 PR/Creative Director 三浦 崇宏さん

博報堂・TBWA\HAKUHODOを経て2017年独立。日本PR大賞、グッドデザイン賞、カンヌライオンズの各賞などを受賞。H&M×安室奈美恵のコラボレーション企画やケンドリック・ラマーの黒塗り広告、NTT docomoのカーシェリングビジネス「dカーシェア」などをプロデュース。Twitter:@TAKAHIRO3IURA

【1】いじめを撃退した手法に学ぶビジネス相手との交渉術

亜希子は、結婚相手である宮本良一(竹野内豊)の娘みゆき(横溝菜帆)が学校でいじめられていることに気づきます。いじめをやめさせるために亜希子は、「いじめ相手の様子をよく観察しなさい、いじめグループのボスと直接交渉して「やめて」と伝えなさい」とアドバイスします。そして最後は「十中八九成功するから大丈夫、私が責任を持つ」と励まし、みゆきの背中を後押します。
【1話より】

ボスに直接交渉し、モチベーションの3段階を活用

ビジネス現場ではこう見る!【評価】★★★★☆

これ、めちゃくちゃいいですね! 敵、すなわちビジネスでいえば、商談相手を攻略するためにはその組織を観察して、キーマンを見抜くことが重要です。そしてキーマンの性格を行動ベースで把握する。亜希子さんはその上で「トップダウンの組織だから、ボスに対して直接交渉するべきだ」という戦略を取りました。セオリー通りのベストな選択だと思います。★4つです!

ここで秀逸なのは、亜希子さんのセリフが【モチベーションの3段階】を踏まえている点です。

1. 「ボスも、そんな顔していましたよ」……「相手も後悔しているはずだ」と成功の根拠を提示する
2. 「大丈夫です、十中八九この交渉は成功します」……モチベート
3. 「もしうまく行かなければ、責任は私が取ります」……失敗のリスクを軽減

根拠もなくやみくもに「お前ならできる!」というのは、単なるバカな応援です。まず成功の根拠を示し、その上でモチベートして、責任の所在は自分にあることを明らかにして安心させる。ここがきっちりできているのが、マネジャーとしてすばらしいと思います。

【2】腹芸&土下座って、今でも有効?

亜希子は苦心の末、みゆきに義母となることを了承してもらいます。喜びのあまり感謝を表すためにみゆきの学童保育で腹芸を披露してしまう亜希子。それに驚いたみゆきの怒りをしずめるため今度は土下座し、さらにみゆきを怒らせてしまいます。【1・2話より】

ビジネス現場ではこう見る!【評価】★★☆☆☆

これは全然ダメ! うちのメンバーがこういうことをしたら、僕は怒りますね。★1つとしたいところですが、亜希子さんの真剣さを評価して★2つとしましょう。

最近、【礼儀2.0】という考え方が提唱されはじめています。

【礼儀1.0】とは相手を偉い人だと扱い、気分良くさせること。ヒエラルキーが明確な社会では、上下関係を明らかにし、相手が重要な人物だということを示すために土下座や腹芸が有効でした。

しかし【礼儀2.0】の世界では、相手の時間を使わせないのが一番の礼儀。IT系スタートアップなどでは、【礼儀1.0】のやり方は嫌悪感につながり、「土下座させるなんて傲慢な人だ」ととらえられてしまいます。実は今、現実でもこのようなことがよく起きているんです。スタートアップに転職した元商社、元広告代理店の人が、大げさすぎるおわびや礼儀作法で気持ち悪がられているんです。

【礼儀2.0】の世界で生きているみゆきちゃんに、亜希子さんの【礼儀1.0】が伝わらないのは当然。でもドラマとしては、みゆきちゃんのことが見えていない亜希子さんのキャラクターを現す良いシーンだったと思います。

【3】PTAとのガチンコ対決に見る古い組織との戦い方

PTA役員とトラブルになり、PTA廃止案を提案した亜希子。その結果、たった一人で運動会を仕切らなければならなくなるはめに。当日はトラブルや無理な要望が相次ぎピンチに陥る亜希子でしたが、次第に他の保護者が協力してくれて、最後はPTA会長とも和解することになりました。【3話】

ビジネス現場ではこう見る!【評価】★★★☆☆

「クライアント」であるみゆきちゃんの生活環境を変えるべく奔走したのは評価できますが、PTAほどの大きな組織、しかも古い体質の組織を大変革するという大仕事を一人で抱え込んだのは悪手でした。はっきり言って、この時うまくいったのはただの「運」。今すぐPTAを廃止しなくても、次年度につなぐことだってできたはずなので、★3つです。

ビジネスシーンでは、古い価値観にとらわれた組織に新しいやり方を提案したり、頭のかたい役員や上司を動かさなければならない場面があります。その時、孤軍奮闘する亜希子さんのやり方はリスクが大きい。彼女は理想を追求するあまり、現場や本人に負荷がかかる戦い方をする傾向があります。できる人にかえってありがちなミスなんですよね。サポート体制を整え、本人も周りのアドバイスに耳を貸した方がいいですね。

【4】赤字経営のパン屋をどう立て直す?

亜希子は、17歳となり受験を控えたみゆき(上白石萌歌)に働く姿を見せるため、1日5000円しか売れないさびれたパン屋・ベーカリー麦田を立て直すことを決意。その施策を店主・麦田章(佐藤健)にぶつけます。

1. 「まずは1日5万円を稼ぎましょう」と損益分岐点を設定
2. 1日3回パンを焼き、焼き立ての匂いでお客さんを引き寄せる「焼き立てほいほい作戦」を決行
3. 旧知の下山和子(麻生祐未)に、サクラとして来店してほしいと依頼。下山にインフルエンサーとしての役割をお願いする


これはイシューの設定、アイテム開発、インフルエンサーのマッチング&電話力の観点からいってすばらしい!一つずつ解説していきましょう。

1. 損益分岐点を5万円に設定

ビジネス現場ではこう見る!【評価】★★★★☆
これはシンプルイシューを活用したマネジメント方法です。「1日5万円」というひとつの指標に絞った点がすばらしいですね。星4つに値します。

例えば営業職において、業績を上げるために追うべきは実は売上目標ではなく、「電話をかけた数」ということは往々にしてあります。いわゆるKPIの設定ですが、どんな仕事にも必ず、「その数字さえ達成すれば結果がついてくる」という指標があります。それを見抜くことが大切。「1日5万円稼ぐ」というシンプルイシューの達成をミッションとしたのは、プロジェクトマネジメントの手法としてとても良いと思います。

2. 焼き立てほいほい作戦

ビジネス現場ではこう見る!【評価】★★★☆☆
商品に「焼き立て」というニュースバリューを持たせ、プロモーショナルな商品を開発した点は評価できますが、★3つです。

今の時代にヒットする商品の条件とは、商品そのものにニュース価値が織り込まれていること。例えば、世界最軽量のエコカーとか、LINEが作った名刺管理アプリとかがそうです。商品とプロモーションを分けないこの手法は、ソーシャルメディアでもバズりやすい。亜希子さんのやり方はすごく正しいですね。とはいえ、パンを焼く回数を増やしすぎて、現場の麦田くんが疲弊しているので、その点をマイナスしました。

3.インフルエンサー作戦

ビジネス現場ではこう見る!【評価】★★★★★
これはインフルエンサーの適性を的確に見抜いたこと、高い「電話力」を発揮していること、この2つの合わせ技を繰り出しているので満点!

まず亜希子さんは、パンのコスパの良さをアピールするために、お金に敏感なインフルエンサーをきちんとアテンドしています。インフルエンサーを活用した商品PRはたくさん行われていますが、インフルエンサーの適性が見えていないことがほとんど。亜希子さんはそこをよく見極めていると思います。

「電話力」でインフルエンサーを直接口説いた点もすばらしい! 最近、電話は「相手の時間を奪う」と否定されがちですが、大事な時にしか電話しちゃいけないということは、「大事な時こそ、電話しろ!」ということ。これがLINEやメールではなく、電話で、肉声で真剣さや必死さを伝えたからこそ、インフルエンサーも本気になったわけです。

ビジネス現場ではこう見る!★★★★☆

厳密には★4つと★5つの間ですね。彼女は【礼儀1.0】から【礼儀2.0】の過渡期にある現代を象徴するビジネスパーソンだと思います。多少周りが見えていない部分はあるものの、提案力や突破力もあるし、プロジェクトや商談を成功に導く上で不可欠なある種の愛や狂気も持ち合わせている。優秀なキャリアウーマンだと思います。

<番組情報>

火曜ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS、火曜22:00~)

『精霊の守り人』『奥様は、取扱注意』などアクションを交えたハードな作品が続いた綾瀬はるか主演のホームドラマ。原作は桜沢鈴の4コマ漫画 『義母と娘のブルース』(ぶんか社刊)。金属系商社で33歳にして部長になったバリバリのキャリアウーマンが、娘を持つ男性と結婚し、家庭を持ち新しい生き方を模索する10年間を描く。出演は他に、竹野内豊、佐藤健、上白石萌歌、井之脇海、横溝菜帆、麻生祐未など。脚本は『仁-JIN-』『とんび』『おんな城主直虎』などを手がけ、朝ドラ『ごちそうさん』で向田邦子賞、橋田賞を受賞した今もっとも注目の作家、森下佳子。

WRITING:石川香苗子
新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。

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