「結果にコミットする」「本件をコミットできますか?」といったように、「コミット」という言葉はビジネスシーンでよく耳にするようになりました。
ただし、このようなカタカナの言葉は、本来の英語と同じ意味で使われるケースもありますが、和製英語として独自の用法が発達していくケースも少なくありません。
この記事では、ビジネス用語としてよく使われる「コミット」という言葉について、その本来の使い方や、和製英語としての使われ方について見ていきます。

「コミット」の英語での本来の意味
英語では動詞形がcommitであり、名詞形がcommitmentです。
和英辞書でcommitを調べると「委ねる、約束する、専心する、(罪を)犯す」といった日本語訳が出てきますが、これだけでは、どのような使い方をすればいいのかよくわからないでしょう。
語源を見てみますと、接頭辞com-には「強調」、-mit-には「送る(send)」という意味合いがあります。そのため、ちょっと抽象度の高い表現になりますが、本来は「送り込む」ような動作を表していると言えます。
また、「強調」する接頭辞がついていることから、それによる「影響が大きい」ことや、場合によっては「運命が変わるような重大な影響がある」ことが匂わされるのです。
正しい使い方として、一例を挙げてみます。
(彼はひどい間違いを犯した)
このように、英語でのcommitは、「実施する」という意味合いを持たせて「(間違いや罪を)犯す」と述べる場合に用います。「commit a crime」というフレーズもよく使われますね。
単なる間違いに対しては「make a mistake」という表現が一般的によく使われますが、commitを使うことで重大というニュアンスが出るのです。
また、IT用語となりますが、「(処理を)確定する」という意味でも使われます。影響を生むような/重大な命令をコンピュータに送るわけですね。
(処理を確定させようとしましたがエラーが出ました)
そのほか、commitは、目的語として「人」を取るケースも非常に多く見られます。
(彼は牢屋に送られた)
上記は「委ねる、引き渡す」という意味合いですが、まさに「(人を)送り込む」という、-mit-の要素が感じられる表現ですね。
自分自身を送り込むことで、「捧げる」というニュアンスにもなります。多くの場合、前置詞toの後に「自分の送り先(捧げ先)」を置いて表現します。
(彼は自分の研究に専念した)
上記は、そこに「専念する」という意味になります。
また、捧げる先が「人」であれば、その人に「尽くす」ことになります。
(彼は妻に尽くした)
別の使い方としてちょっと抽象度を上げると、「自分を何かに捧げる」ことは「自分の態度や立場を明らかにする」という意味にもなります。
(彼はまだ決意を表明していない)
また、例えば「時間」を捧げることもできます。
(私はこのプロジェクトにもっと時間を捧げる必要があります)
ちなみに、名詞形のcommitmentは、日本語には訳しづらいのですが、
・専念する/行動の自由が制限されるような「約束」や「契約」
・引き受ける/専念するなどと「誓う」ことやその「言質(げんち)」
といったものによく使われます。
さて、私は英語を教える人間ですので、せっかくなのでcommitという言葉もきちんと理解していただきたいと思い、英語解説にかなり熱くなってしまいました。和製英語としての「コミット」の話も進めましょう。
和製英語での「コミット」の意味と使い方
日本語における「コミット(する)」という言葉は、
「責任をもって取り組む/関わる」
というニュアンスがとても強いと言えます。
使い方の例をいくつか挙げておきましょう。
目標にコミットする
この場合には、その目標を達成するために責任をもって取り組むことを表します。単に「目標を目指す」のとは言葉の重みが違いますね。
結果にコミットする
結果を出すことに対してきちんと責任を持つ、ということですね。よく似たフレーズで「結果を約束する」という表現もありますが、コミットという言葉を使うことで、「責任をもって関わっていく」というニュアンスが強くなると言えるでしょう。
プロジェクトにコミットする
そのプロジェクトに対して、ただ「参加する」というのではなく、「責任感をもって積極的に関わる」ことを表します。
コミットできますか?
単に「引き受けますか?」という話ではなく、「責任をもって関わることを約束できますか?」ということ。
コミットが足りない/もっとコミットしてください
関わってはいるものの、例えば責任感が感じられなかったり、片手間に行なってしまっていたりするような場合に言われることの多い表現です。
例えば上司が部下に対して、もし「責任感が足りない」「もっと責任感を持って」などと言ってしまうと、あり方に対する批判/否定のようになってしまい、相手を傷つけてしまうかもしれません。
それに対して「コミット」という言葉を使うことで、関わりという行動面に対する割合が強い発言となるため、角が立ちづらくなると言えるのではないでしょうか。
フルコミット(する)
そのことに「専念する」「フルタイムで関わる」など、全力を投入するような、より深い関わりを意味します。
「全力で頑張る」という表現だと頑張って努力をするだけに聞こえますが、コミットという言葉が含まれることで、言われた側も安心感を得やすい表現だと言えるでしょう。
コミット力
責任をもって取り組み、きちんと結果を出す力のこと。似た言葉で「責任感」がありますが、それはあくまでも「責任を果たそうとする気持ちが強い」という心理面を表すと言えます。
「コミット力」はそれに加えて、実際に「深く関わること」や「実際に結果を出すこと」も含むと言えるでしょう。「コミット力がある」というのはビジネスパーソンに対する、とても良い評価/ほめ言葉です。
最後に
ビジネス用語として「コミット」という言葉は本当によく使われるようになりました。
私は個人的には、和製英語の多用/濫用をあまり快くは思っておりませんが、今回この記事を書くためにいろいろと調べたり分析したりすることで、コミットという言葉の便利さを改めて感じる結果となりました。
だからこそ言葉としてもよく使われるわけですが、皆さんがビジネスパーソンとしてより一層コミット力を高め、ビジネスの本来の目的である他者貢献、社会貢献に対するコミットを深めていかれることを願っています。
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イングリッシュ・ドクター。
西澤ロイ著書『英語学習のつまずき50の処方箋』表紙英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。
英語が上達しない原因である「英語病」を“治療”する専門家。ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)、『英語学習のつまずき50の処方箋』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)ほか、著書は累計17万部を突破。英会話教材「脳トレ英会話」が好評を博している。
★「イングリッシュ・ドクター」HP(⇒)