「見えない苦労が多い、それが“都市土木”の特徴なんです」技術の粋を結集し、外環完成に挑む――外環道(千葉区間)開通の裏側に迫る<第2回>

6月2日、東京外郭環状道路(通称「外環道」)の千葉区間(三郷南IC~高谷JCT)が開通した。このプロジェクトに費やされた時間は約50年、総費用は約1兆5000億円にものぼる。この国家的ビッグプロジェクトに関わった人たちに次々と立ちはだかる壁をいかにして乗り越えたのか、知られざる秘話を語っていただく当連載。第2回の今回は「様々な問題をはらむエリアでいかにして難易度の高い工事を成功させたのか」に迫る。そこには現代日本土木技術の粋が注ぎ込まれていた。

▲6月2日に開催された開通式の様子

見えない部分の苦労が多い「都市土木」

幾多の困難を乗り越え、用地取得はひとまずめどがついた(詳しくは第1回記事をご覧ください)。しかしすぐに着工できたわけではない。「住宅密集地の中を走る一般道を多くのダンプが走ると危険」という地域要望から、工事用車両専用の仮設の道路を新たに作らざるをえなくなった。

「仮設の道路を事業地内に設けましたので、当然、その仮設道路の下にも本体構造物を作らねばなりません。工事している場所と仮設道路が現場の中で混在し、工事の進み具合によって、日々それらの位置関係が変わっていく、という状況が数年続くことになりました。しかも、工事には建設業者も数十社入り、あちこちで工事をしていましたので、工事間の連絡、調整をしなければならないし、工程管理のコミュニケーションを密に取らないとうまくいかない。工程管理が非常に難しくて、膨大なエネルギー費やしました」(国土交通省 関東地方整備局 首都国道事務所 所長の甲斐一洋氏)

さらに地中には上下水道管、ガス管、光ケーブルなどが埋まっているため、おいそれと掘ることはできなかった。そのため10社以上の事業者と協議して、一時的に移設したり防護する計画を決めた。その数、実に約2000箇所。協議に要した時間は計り知れない。

「工事開始までにものすごく時間がかかりました。こういう見えない部分の苦労が多いのが都市部の土木工事、“都市土木”の特徴なんです」(東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)関東支社 千葉工事事務所 所長の木曽伸一氏)

▲市街地一般道へ工事用車両を極力通さないよう道路用地内に専用の道路を構築

現代日本の土木技術の粋を結集

ようやく実際に着工にこぎつけた後も、市街地のど真ん中に高速道路と国道を新設するというプロジェクトには様々な困難が伴った。それらを克服するため、外環道千葉区間は現代日本の最先端の土木技術が惜しみなく投入されることになった。中でも周辺地域に配慮したのが騒音問題と景観問題、日照問題などの環境問題。そのため、高速道路は当初、高架構造で計画されていたが、半地下構造とし、さらに環境施設帯の設置などの構造変更を行った。

▲掘割部を正面からみたイメージ図。高速道路を地下に建設。中央に換気のための開口部を設け、その両端を国道298号を整備。国道本線と民地との間には、幅約17.5mの環境施設帯といわれる騒音等の緩衝帯が設けられた。環境施設帯には、遮音壁、植樹帯、側道、自転車道、歩道が配置され、その地下には上下水道や電線共同溝などのライフラインが収容される

「市街地の真ん中に60m幅の高速道を造るというのはまずありえません。最初にこの計画を聞いた時びっくりしました。換気をするために、高速道路の中央寄りの壁面と天井部にはスリット(すき間)を設けたのですが、約10km延長でのスリット構造は全国初です。景観と生活環境の問題は最初から最後までずっとついて回りましたが、できることは全部やろうという気概で臨み、実際に全部やりきったという自負もあります」(木曽氏)

国道は高速道路の真上に作ることになった。この構造は全国的に見ても珍しい。

「ゆえに、設計段階で非常に苦労しました。工夫した点は、なるべく用地を小さくするために上部を走る国道を限界まで内側に寄せたこと。これ以上寄せると、高速道路の換気ができなくなるというギリギリまで寄せました」(甲斐氏)

▲住宅密集地のため掘割スリット構造という半地下構造を採用。構造を支える柱は重さ約40t。2.5m間隔で約1050本もの柱。延長約10km。掘り起こした土は東京ドーム約4.4杯分。使用した鉄骨の重さはスカイツリー約6.4本分。

高速道路を地下に造る過程においては大きな困難が伴った。

現場で一番悩まされたのは地下水です。1m掘ると地下水が溢れ出てくるんです。そこで地下水対策として、工事延長約10kmにわたり掘削する場所の両端に、地下約40mの深さの水止めの壁“連壁”を作りました。まずそれをやらないと本体の掘削ができないので大変でしたね。掘るたびに水が出てくるのですが、作業を止めるわけにはいかない。地盤も柔かいので、連壁が倒れてこないように、鋼製のつっかえ棒をして支えます。そのジャングルジムのように組まれている鋼材を避けながら、連壁と連壁の間を少しずつ掘り進めました。掘り切った後にコンクリートの型枠を組んで並べて行きました」(木曽氏)

市川市を長年悩ませ続けてきた問題も解決

外環千葉区間では特に市川市が土地取得から難航したが、問題は他にもあった。市川市は元々海を埋め立てて造られたエリア。下水インフラも住宅が密集しているため、整備が遅れた。ゆえに、大雨が降るとすぐに下水があふれて道路が冠水したり住宅が浸水したりといった内水被害が多発していた。この長年に渡って市川市民を苦しめてきた浸水被害の問題を解決するため、外環千葉区間建設を機に新たな方策が取られた。

「外環の外側に新たに造る環境施設帯の地下に大きな下水の幹線を埋設することで、雨水を集めて外環沿いに流し、江戸川の近くのポンプ場に排出できるようにしたのです。これは街の浸水被害を軽減するために、市川市役所と協力して行いました。ですので、外環千葉区間が完成すると市川の浸水被害も減るという効果も期待できるんです」(甲斐氏)

しかし、この工事中にも水はけの問題が大きな壁となった。現場で工事を担当した施工会社の1つ、工建設工事部主任の齊田岳史氏は、「掘削し始めた頃に大きな台風が来て、下水から溢れ出た大量の水が掘った穴の中に全部流入してしまったことがありました。その水をポンプで吸い出すのに一週間くらいかかりました。自然との格闘も苦労したことの1つですね」と語る。

 

▲京葉道路から外環道の高速道路部に向かう500mのトンネルは直径約13mのシールドマシンで約260日かけて構築。「一番の問題は地層が複雑だったこと。地層の上が粘性土の場合、シールドマシンを動かすと土が柔らかくなって水と一緒に下に回ってくるんですね。そのままにしておくと最後にはシールドマシンが浮力で持ち上がってしまうんです。それを防ぐために常に微妙な操作で常にシールドマシンの位置がずれないように制御しなきゃいけない。これが一番大変だった点です。それを行うのはシールドマシン専門のオペレーター。彼らの職人としての経験と勘に頼るしかない。ちょっとずれてるなと思ったら先を読みながら微妙に調整するんです。これも匠の技でしたね」(木曽氏)

通常の工事費の約3倍…京成本線の地下交差

外環道千葉区間は環状道路であるがゆえに、いくつもの鉄道や道路が交差する。その数、鉄道だけで実に7本。外環道路はその下に作らなければならない。この交差部分の工事が困難を極めた。中でも最難関で最も時間がかかったのが京成本線の地下に高速道路と国道298号を通す工事だった。

「もし国道を地上に走らせて、京成本線との交差に踏切を作ると大渋滞してしまうので、それはありえません。京成本線の上を越すか下を抜くか、つまり立体交差にするしかない。先ほども話した通り、住民の方々の意向で高架構造は選択できないので、国道を高速道路とともに地下に押し込むことにしました。この工事がとにかく大変でした。工事で電車は止められないし、函体の牽引時は電車が走行していない夜間限定で行う必要があり、さらに軌道への影響を抑えるため、軌道の変位をミリ単位で計測しながら工事をしなければなりません。万が一、少しのズレでもあったら大事故に繋がりますから、かなり神経を使いました」(甲斐氏)

▲京成本線交差部の工事で、京成本線への影響を最小限に抑えるため採用された“R&C(ルーフ&カルバート)工法”。京成本線との平面交差を避けるため、高速は地下2階、国道は地下1階の構造を採用。鋼製のフレームをボルトで連結させた後コンクリートを充填。京成本線を支えながら高さ18.4m、幅43.8mの道路本体を構築した(写真上/2016.10.24時点での工事の模様、下/完成時)

鉄道も通常運行し、国道も多くの車が走るという状況下で、かつ現場が住宅街なので騒音は出せないし、工事車両も入れられないし、掘ると地下水が出てくる。このような何重苦もある状況の中で、複雑な形の構造物を組み上げなければならないという困難な現場だったのだ。これだけの難工事だけに、手間暇だけではなく、費用もかかった。通常の高架構造よりも最低でも約3倍の工事費を要したという。

タイムリミットギリギリ…冷や汗ものだった京葉ジャンクションの架橋工事

外環道と京葉道路を結ぶ京葉ジャンクションも困難を極めた現場の1つだ。京葉道路の上に橋を造って国道298号を通し、地下を高速道路とそのさらに下にランプが通る構造になっている。国道を通す橋を架けるため、京葉道路を一時通行止めにしなければならないが、交通量の多い京葉道路を日中、長時間止めるわけにはいかない。そのために21時から明朝5時までという限られた時間で高架工事を完遂させなければならなかった。

「まずタイムリミットが決まっていることがとても大きなプレッシャーでした。もし朝5時に間に合わなければ大渋滞を引き起こし、大問題になりますからね。工事自体もとても難易度の高いものでした。高架工事は2017年2月12日に外回り、19日に内回りと2回。全長約70m、全重約700トン、車700台分の橋を台車で持ち上げて架けるという工事だったのですが、事前準備で2時間くらいかかりました。工事が動き出してからは順調に進んだのですが、最後に両側の橋を合わせるのに時間がかかったんです」(木曽氏)

▲市川市京葉道路・国道298号交差部の工事の模様。外環道の国道298号部は京葉道路の上空を通過。交通量約11万台の京葉道路を通行止めにして、重さ約700t、長さ約70mの国道橋を2本架設。約1100本のボルトが国道橋の重さを支えている。作業人数は2日間で約350人、作業時間は約7時間30分

最後に両側から運んできた橋と橋をボルトで締めるのだが、70mもの長さの橋の小さな穴を寸分の狂いもなく合わせるのは至難の業。しかも地面も平らではなく、高速道路の凸凹がある場所。わずかでもズレれば接合できない。そもそも鉄は我々一般人が想像する以上に柔らかい。70mもの長さ、700トンもの重さがあるとすぐに変形してしまう。

鉄って設計室の中の計算ではピタリと合うといっても、現場ではやってみなければわからない。やはり最後はなかなか合わずにハラハラしましたが、タイムリミットギリギリで無事接合できて、ほっとしました。現場の技術者たちの匠の技ですね」(木曽氏)

「私も現場で見てたのですが、途中で作業が止まり、朝5時の開放に間に合わないんじゃないかという場面があって。温厚な木曽さんがすごい真剣な顔になってましたし、NEXCO東日本の職員が木曽さんの周りに集まって話をしていたのを見て私もドキドキしていました。でも最後は見事に時間内にピタッと納めた。まさに神業、職人技ですね。感動しました。工事の準備に1年以上かけますが、実際の工事はぶつけ本番の一発勝負。橋梁架設は確実にやらないと橋が落ちる事態にもなりかねないし、タイムリミットに間に合わなければ大渋滞を引き起こして社会に大変なご迷惑をおかけしてしまうから責任重大。そのシビアさは高速道路をやってる人じゃないとわからない。そんな大きなプレッシャーがかかる中でもきっちり仕上げた木曽さんたちはすごいですよ」(甲斐氏)

 

次回はこの国家的プロジェクトに身命を賭して立ち向かった男たちの熱い思いに迫ります。乞うご期待!

文・写真:山下久猛 写真・図版:国交省、NEXCO東日本

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