日銀、マッキンゼー、ソニー…華麗なるキャリアは失敗と偶然の連続――変革屋 佐々木裕子

「管理職は大変そうだから、出世したくない」「やりたいことはあるけど、怖くて一歩踏み出せない」――そんな思いを抱える人が増えてきた昨今、「失敗をたくさんしてきたから、今の自分がある」という人がいる。株式会社チェンジウェーブの代表、佐々木裕子さんだ。
彼女がどのように失敗を乗り越え、糧にしてきたのか。チャンスをつかみ、主体的にキャリアを形成するには、どうすればいいのか、じっくり話を伺った。

【佐々木裕子さん】
株式会社チェンジウェーブ/株式会社リクシス 代表取締役社長 CEO。
東京大学法学部卒、日本銀行を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニー(以下、マッキンゼー)入社。シカゴオフィス勤務の後、同社アソシエイトパートナー。約9年間、金融、小売、通信、公的機関など数多くの企業の経営変革プロジェクトに従事。
マッキンゼー退職後、企業の「変革」デザイナーとしての活動を開始。
2009年にチェンジウェーブを創立し、変革実現のサポートや変革リーダー育成など、個人や組織、社会変革を担いつつ、複数大手企業のダイバーシティ推進委員会の有識者委員にも就任。2016年、介護に関するコンサルティング業務などを行なうリクシスを設立。

失敗から学び続けて、今の自分がある

一見、華麗な経歴をもつ佐々木さんだが、「失敗だらけだったから、今がある」という。

大小さまざまな失敗をしてきた中で、特に記憶に残っているのがマッキンゼーでマネージャーとして部下を育成していた頃のこと。

部下がいまいち成果を上げられずにいたのを、プロジェクトの最後にフィードバックしたところ怒られたのだ。

佐々木さん「その部下から『プロジェクトが終わってから言われても、何もできない』と言われ、ごもっともだと思いました。この経験によって、人に対してどんな順番で、どう伝えていくか? ということは大事なんだと分かるようになりました」

結局、その部下との関係は修復できないまま現在に至る。佐々木さんにできるのは「同じ失敗を繰り返さないようにすること」だけ。
このエピソードと同様、さまざまな失敗から学び続けて、今があると佐々木さんは考えている。

最近は管理職になりたくないという人も増えているが、佐々木さんは「リーダー経験は買ってでもすべき。やらせてもらえること自体、素晴らしいこと」という。

佐々木さんが初めてプロジェクトマネージャーを任された案件は、クライアントは日本企業だが、市場は中国圏。クライアントは日本語しか話せず、部下は中国・香港・日本人という難易度の高いプロジェクトだった。

初めてのマネジメントだったため、すぐに自分が部下のタスクを決める必要があることも分からず、「何がやりたい?」と迷いながら部下に聞いてしまう佐々木さん。
部下からは「マネージャーが初めてなのは分かるけど……」と言いたげな空気が出ており、「そうか、私が一人ひとりのタスクを最終判断しなければいけないんだ」と気づく――そうやってトライ&エラーを繰り返しながらでなければ、得られないスキルと経験がある。

佐々木さん「私は比較的若い時期にマネジメント経験を積む機会をいただいたので、本当にいろんな失敗をしてきました。いっぱい傷を負いながら、『コレはやっちゃいけないんだな』『こういう風に立ち回っていくのか』と、少しずつ学んでいった感じ。頭で考えても仕方なくて、とにかくやってみるしかないんです」

何事もやり始めてみなければ、面白さや醍醐味、奥深さは分からない。自分にとって「なぜそれをやるのか」を大切にしつつ、まずはやってみるしかない。やってみてから続けるかどうかを決めればいい、というのが佐々木さんの持論だ。

キャリアは偶然の積み重ね。
信頼する人からのアドバイスは、まずやってみる

今後のキャリアに悩む若手ビジネスパーソンは多い。佐々木さんはどのような考えにもとづいてキャリアを積んで来たのか伺ったところ、意外にも「偶然の積み重ねで今がある」と言われた。

佐々木さん「学生時代、世の中のことを知りたくて、さまざまなアルバイトを経験しましたが、分かったのは『そんな簡単に世の中のことは分からない』ということだけ。
自分は世間を知らない。だから、信頼している人のアドバイスは、素直にやってみることにしているんです」

実際、マッキンゼーに転職したのも、信頼している友人から「コンサルに向いていると思う」と言われたからだ。
某大手コンサル会社にいる友人から誘われ、比較検討のためマッキンゼーにも応募した。

佐々木さん「前職(日本銀行)時代、コンサル業界のことは何も知らなかったのですが、誘ってくれた友人のことはとても信頼していました。その彼が面白い、向いているというなら、面接を受けてみようと思ったんです」

両社から内定を得て、最終的にマッキンゼーを選んだのは「圧迫面接だったから」という佐々木さん。
最初に受けたコンサル会社は歓迎モードだったのに対し、マッキンゼーでは「はっきり言って、採用するかギリギリのボーダーラインだ」と言われたのだという。

しかし、提示された採用職種は、マッキンゼーのほうが上のポジションだった。
当時のマッキンゼーの規定では、4年以上のビジネス実務経験がある、またはMBA取得者は「アソシエイト」。それ以下は「ビジネスアナリスト」のポジションで採用される。佐々木さんには「アソシエイト」で採用する旨が伝えられた。

もう片方のコンサル会社はアナリストクラスでの採用オファーだった。圧迫面接だったマッキンゼーのほうが評価が高かったのだ。

佐々木さん「あれだけ圧迫面接しておいて、上のクラスで採用してくれるというのは、ある意味リスクをとってくださったのだと思いましたし、だからこそマッキンゼーのほうが入ったら甘くないだろうなと感じました。自分はコンサル業界のことはほとんどど知らない世間知らずだったので、やるなら甘くない環境のほうがいいと思い、マッキンゼーを選んだんです」

相性が合わないと感じる人にも、
誠実に向き合うことで関係性は変わる

マッキンゼーに約9年間在籍した後、「変革屋」になることを決め、ソニーの変革室に転職した佐々木さんは、2年間で15個ほどのプロジェクトに携わった。
近い将来、「変革屋」として独立しようと考えており、実績を作りたいと考えていたが「失敗のほうが多かった」と佐々木さんは振り返る。

独立した後も引き続きソニーのプロジェクトに携わっていたが、2社目のクライアントはマッキンゼー時代に関わったプロジェクト責任者との偶然の再会がキッカケだった。

佐々木さん「当時のプロジェクトは本当に難しい案件で、未熟な私はクライアントの期待に応える成果を出せずにいました。しばらくして私はプロジェクトから外れたんです。“ダメなマネージャー”の烙印を押されたんだなと思いました。
だから彼とは二度と一緒に仕事することはないだろうなと思っていました。でも、たまたま参加した食事会で数年後に再会。名刺交換することに。私が独立した後、その名刺がご縁になって彼から仕事のオファーをいただいたので、本当にビックリしました」

二度と会うことはないだろうと思っていた相手だったが、佐々木さんはオファーを断らず、全力で相手のリクエストに応えた。共に全力でプロジェクトに向き合う中で、強い信頼関係が生まれたように感じたという。その企業は今もチェンジウェーブのメインクライアントになっている。

佐々木さん「別に私が仕掛けているわけではなく、本当に偶然の積み重ね。ただ、チャンスが来たときに、絶対につかめるよう準備はしておいたほうがいいと思います。
たとえ『この人、苦手だな』と思っていても、仕事で何らかの誘いがあれば行ってみる。行ったら相手のリクエストに全力で応える。それが結果的に良い仕事につながるかもしれませんから」

チャンスに気づいていない人はどうすればいいか? と聞いてみたところ、「本当にやりたかったら、気づくと思います。気づかないってことは、本当はやりたくないのでは」という答えが返ってきた。

チャンス自体はたくさんある。目の前に来たチャンスをつかむかどうかは自分次第だ。
チャンスが来たら、自分の中の「なぜやるか?」を考えた上で、まずは失敗を恐れず全力でやってみる――それこそが、偶然を活かし、主体的にキャリアを形成する大きな足がかりになる。

文・筒井智子 写真・まるいくにお

編集:鈴木健介

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