社内の「引越し」を制する者は、運用を制する『運用☆ちゃん』Incident 007

4月には、システム運用者やインフラエンジニアの価値が試される、あるイベントがあるという。そのイベントとはいったい何なのか!?


4月は組織改正などによる「引越し」が多い季節ですね


…というわけで、今回はお引越し特集よ。


オフィス移転やレイアウト変更。たしかに、期が変わる4月前後に多いイメージね。


4月の組織改正にあわせてお引越しってところも少なくないようね。


で、でも……お引越しって、総務部さんが引越し業者さんを手配して以上! じゃないの? 私たち、システム運用者の出番なんてあるのかしら?


(ピングっ!?)何寝ぼけたこと言っているの、遥子!
ネットワーク環境整えたり、ペーパーレス進めたり、新しいデバイス入れてみたり、セキュアな環境を構築したり、ITインフラの有識者がいないと回らない世界よ。率先して巻き込まれてほしいわね!


ひいいっ!ごめんなさい! で、具体的に何をしたらイイのかしら?


いい質問ね。システム運用者が意識したい、引越し業務14項目はこれよ!(リリッす!)

1. 体制構築
2. 全体スケジュール把握/策定
3. 図面の入手
4. 機器構成の確認
5. 回線の契約内容確認
6. 現地調査の計画
7. 現地調査の実施
8. 引越し前日/当日の段取り
9. IPアドレスの割り当て/DNSの確認
10. ユーザへの事前周知
11. リハーサル実施
12. 引越しと実施
13. 退去と廃棄
14. 振り返り


これまた、てんこ盛りですね!


でしょ。とても一部署でできる内容じゃないわ。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

1.体制構築


まずは体制作り。一連の引越しに必要な関係者を特定して、体制を組む。


どんな人たちがいればいいのかしら?


そうね。代表的な登場人物を挙げると…

●総務部門/ファシリティエンジニア
●業務部門
●情報システム部門/ITベンダ
●ビル管理会社(移転元/移転先両方)
●回線事業者
●引越し業者
●工事事業者(空調、電源設備など)

ってとこかしら。


たくさんの人を巻き込まないといけないのね!

総務部さんと引越し業者さんだけでイイなんて言って、ごめんなさい……。


引越し慣れしている会社だと、巻き込む人たちが既に決まっていて、ある意味登場人物が「パッケージ化」された状態になっているみたいね。
引越しを機に、これらの関係者と仲良くなっておくと後々のレイアウト変更や設備増強のときにも役立つわよ。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

2.全体スケジュール把握/策定


次に(あるいは1.と併行して)引越しの全体スケジュールやマイルストーンをおさえる、あるいは作る。


総務部さんがマスタースケジュールを引いていることが多そうね。


基本そうなんだけれど、どうしても総務部には気づきにくいIT視点や運用視点があるから、そこをITインフラのプロとして補うのよ!(ぱふぉちゅーん!)


どんな視点が必要なのかしら?


サーバルームを設置する場合など、セキュリティ面での配慮がなされているかとか、マシンに快適な空調環境が確保できるかとか、引越し当日の機器設置作業が考慮されているかとか、事前に現地調査させてもらえるかとか……挙げればキリがないわ!
とくに、現地調査の日程は絶対に確保して


は、はいっ!死守します!


そのほか、組織変更の概要、新オフィスに求めるものや解決したい課題(例:コミュニケーション活性。生産性向上)、床面積の変化、移転元オフィスの退去日、廃棄する機器や引越し資材の廃棄方法
なども確認しておきたいわね。


ふむふむ。


そもそも何かと繁忙の4月にお引越ししない/させないコントロールも大事だったりするんだけれどね。あ、IT視点、運用視点の主だったポイントは、これから(3.以降)解説するわね。

3.図面の入手


移転先のフロアのレイアウト図や配線図を手に入れるのよね。これがないとおハナシにならない!


待って、遥子! 移転「先」だけでは不十分。移転「元」、すなわち今いるオフィスの図面もおさえておきたいわ。


ああ、そうか! 移設をするのだから、今のオフィスの図面も確認しておかなければね。ううむ、引越しは奥が深い……。


移転先の床面積が狭くなるのであれば、ペーパーレスを提案したり、無線LANを導入したり、デスクトップ端末の仮想化を提案したりと、運用者やインフラエンジニアが付加価値ある提案をするチャンスでもあるわ!


それって、新しい技術にチャレンジするチャンス……ってことですか!?


そういうこと! そのためにも、現状のオフィスの課題が何なのかを知っておいたり、社外の勉強会に参加してオフィス移転のノウハウを聞いておくのもいいわね。

4.機器構成の確認


移転先に持っていく機器、廃棄する機器、新設する機器。すべてリストアップしておく必要があるわ。


機器って言ってもいろいろありそうね。


いろいろあるわよ。

●PCなどの端末
●プリンタや複合機
●電話
●各種サーバ
●ネットワーク機器(スイッチ、ゲートウェイ、スイッチ、ハブ、ロードバランサなど)
●IPアドレス(ネットワーク、ゲートウェイなど)
●DNS
●入退室管理機器
●監視カメラ
●電源設備

など。


なんか、目まいがしました……。


こういうときにあたふたしないためにも、ITIL(R)でいう構成管理が大事なのよ!(リリっす!)


なるほど!日々、きちんと構成情報を把握してアップデートしているかどうかで差がつくのね。

5.回線の契約内容の確認


外部のインターネット事業者を利用している場合、

●キャリアの特定
●回線速度(Mbps)の確認
●ネットワークアドレス、サブネットマスクなどの情報確認
●移転にともなう工事申請の方法とリードタイムの確認
●必要となる工事内容と日程の確認

これらを余裕を持って進めておきたいわね。

6.現地調査の計画
7.現地調査の実施


待っていました、現地調査!


絶対ハズしちゃいけないヤツですねっ!


フロアの間取りやレイアウトの確認も大事だけれど、ほかにも…

●配電盤、分電盤などの位置
●ネットワーク機器設置可能場所
●防火扉(周囲には物を置けないなどの物理規制あり)
●パーティションの設置可能箇所
●空調の位置や強さ
●窓の有無(サーバルームをおく場合、窓のない場所が望ましい)
●床板/天井板の開閉可能場所と配線作業可能箇所
●携帯電話の電波の受信状況
●当日の引越し作業の段取り

こういったポイントは押さえておきたい。
管理管轄外の共用区画に配電盤があって、そこから電気やネットワークを引いていてあとあとコントロール不能になって揉めるなんてケースもあるわ。


引越し業者さんにも立ち会ってもらったほうがよさそうな気がするな。


いい視点ね。引越し当日は、書類やオフィス什器などもフロアに溢れるから、きちんと段取りを決めておかないとパニックになる。
開封したダンボールが山積みで、ネットワーク敷設作業ができなかったり。
現地調査の段階で、引越し業者さんと一緒に物の搬入順序や置き場所を決めておくに越したことはないわ。

8.引越し前日/当日の段取り


現地調査が終わったら、引越し前日や当日の動きを設計して段取りする。
ユーザ(=オフィスの入居者)の動きも加味して、段取りしないと当日大変なことになるわ。


確かに、インフラの設定が終わっていないのに、社員がどかどか出社して段ボール開けはじめても困っちゃうカモ。


あと、引越し当日に良くあるのが
「入館できません!」
「電気が開通していなくて、作業ができません!」
「エレベータの扉が小さくて、サーバラックが載りません!」
とかね。


わ、笑えないです……。


現地調査の段階では、建築中でまだビルの入退館システムが稼動していなかったり、管理人さんが立ち会っていたり、ある意味イレギュラーな状態でフロアに入れてしまっているから気づきにくいのよね。


わかる。さらに、引越しって土日や早朝にやることも多いから、事前に入館申請しておかないとビルに入れなかったり……

●当日の入退館の段取り
●作業順序と動線の再確認
●当日の指揮命令系統、トラブル対応方法の確認

ぬかりなくね!

9.IPアドレスの割り当て/DNSの確認


新旧のIPアドレスの割り当て。うまくやらないと、IPが競合して(あるいは競合が発覚して)トラブルになるわ。


これも、日々の構成管理をきちんとやっていればスムーズにいきそうね。


これを機に、DHCP(※)にしてしまう手もありよね。

※DHCP:Dynamic Host Configuration Protocolの略。IPアドレスを、サーバが自動で割り当てる仕組み

10.業務規制の計画と事前周知


そして、ユーザ対応も引越しの成否の鍵!
旧オフィスの退去日(最終出社日)と、新オフィスの入居日(最初の出社日)、それぞれユーザにとって欲しい行動を計画して案内する。


最終日だと、いつまでに段ボールに荷詰めして、業務を何時までに終了して、何時までに退館して……みたいな?


それそれ! そして、新オフィス出社初日の入退館方法、規制事項(例:エレベータ使うな)、空になった段ボールのおき場所、などなど。


システムの利用規制をする場合は、きちんとヘルプデスクさんにも伝えておかなくちゃね。

11.リハーサル実施
12.引越し実施

準備万端!いざ、引越しGo!


待った! あせる気持ちはわかる。でもね、できればリハーサルをやっておきたいな。


ええ、そこまでやりますか!?


うん、よくあるのが、いざサーバやネットワーク機器を現行のオフィスから移動させようとした時に…。

「ネットワークケーブルが見事なスパゲティ状。どこからどう手をつけたものか…」
「そういえば、サーバを落としたことがない。うまく再起動できるか不安……」


なるほど!現行の環境に問題が見つかることもあるのね。


そうよ。だから、今のうちに手順書作ったり、机上であってもリハーサルしておいたほうがいいわ。

13.退去と廃棄
14:振り返りの実施


引越しが終わったら、旧オフィスに忘れ物や落し物がないか確認する。新旧オフィスで出たゴミや不要物を廃棄する。忘れずにね。


旧オフィスの原状回復義務がある場合は、完了工事を見届けるのも大事よね。


そうそう、ことわざにもあるじゃない。「立つ妖精、跡を濁さず」ってね。


(ううん。なんかチョット違うような……)


そして、引越しが終わったら振り返り会をやる!
良かった点、反省点を洗い出して、組織のノウハウに変えるのだ(リリっす!)。


まだまだ成長の余地がある、遥子と運用☆ちゃん。
次回、システム運用者としてさらなる高みを目指します!

—第8話(Incident 008)につづく

登場人物紹介

運用☆ちゃん

妖精。ある日、遥子のもとにやってきた。システム運用業務の認知の低さ、運用者のモチベーションの低さを嘆き、空から舞い降りた。彼女の使命は、運用のプレゼンス向上、価値向上、そして運用者の誇りの醸成。好きな言葉は「ありがとう」。好物は、かき氷ブルーハワイ(嫌なことがあるとやけ食いする)。
見た目も言動も幼い感じだが、実は65535歳らしい。

海野 遥子(うんの ようこ)23歳

大手製造業 日景(ひかげ)エレクトロニクスの情報システム子会社に勤める2年目社員で、認証基盤システムの運用担当。クラスの端っこで目立たないような女子。今日もサーバルームで、システム監視したりパッチ当てたりと目立たぬ日々を送る。好物はいわた茶。

※この漫画はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

『運用☆ちゃん』連載はこちら

湊川あい

マンガ:湊川あい(みなとがわ あい)
フリーランスのWebデザイナー・マンガ家・イラストレーター。マンガと図解で、技術をわかりやすく伝えることが好き。
主な著書 わかばちゃんと学ぶ Webサイト制作の基本わかばちゃんと学ぶ Git使い方入門わかばちゃんと学ぶ Googleアナリティクス〈アクセス解析・Webマーケティング入門〉
Twitter: @llminatoll

沢渡あまね

シナリオ:沢渡 あまね(さわたり あまね)
IT運用エバンジェリスト。業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。ITサービスマネジメント/プロジェクトマネジメントのノウハウを応用した、企業の働き方改革・業務プロセス改善・インターナルコミュニケーション改善の講演・コンサルティング・執筆活動を行っている。
主な著書:『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』、『職場の問題かるた』『働き方の問題地図』『職場の問題地図』『仕事の問題地図』、『チームの生産性をあげる。』、『話し下手のための雑談力
Webサイト「あまねキャリア工房」 / Twitter / Facebook

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