落合陽一、メルカリ木村俊也、スクウェア・エニックス三宅陽一郎が、自動運転・AI・IoT・VRで拡がるエンジニアの未来を議論

ITエンジニアのための年収確約転職サービス「moffers(モファーズ)」は、「先端領域で拡がるエンジニアの未来」を2月に開催した。メルカリR4Dの木村俊也氏、筑波大の落合陽一氏、スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏、日産自動車の村松寿郎氏など、先端領域で気を吐く逸材たちが登壇し、エンジニアの未来を熱く語った。

企業で専門性を活かしきれていない人材を発掘する

従来のSIerやインターネット領域以外に、IoT、AI、データアナリスティクス、自動運転などの先端分野でもITエンジニアの活躍フィールドが拡大している。こうした先端領域にチャレンジするITエンジニアを支援するために開催イベントで、これらの先端領域でどんなエンジニアが求められているかが語られた。

まず登壇したのは、メルカリが昨年12月に開設した新たな研究開発組織「mercari R4D(メルカリアールフォーディー)」オフィサーの木村俊也氏。

R4Dは、従来の中央集権型の研究所ではなく、最初から他企業・研究機関とネットワークを意識したオープン・イノベーション型の研究所だ。

研究テーマは、「無線給電によるコンセントレス・オフィス」「類似画像検索のためのDeep Hashing Network」「ブロックチェーンを用いたトラストレスフレームワーク」「量子アニーリング技術のアート分野への応用」など多岐に及ぶ。

「メルカリ社内でも学生時代に最適化や量子力学を専攻していたエンジニアも少なくない。R4Dを開始して、仕事の幅を広げることで、彼らのこれまで持っていた専門性をさらに活かすことが可能となり、各々専門性を活かせる喜びを再認識している。

R4Dは将来的には、大規模なエンジニアリング組織に育てたいが、そのためには多様なバッググラウンドの研究者が必要になる。AI領域一つとってもさまざまな専門性が必要だ。先端領域にいながらその知識や経験を活かせないでいるエンジニアに活躍の場を提供したい」と、木村氏は語った。

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“知性体”としての車と人間が共存する世界

スクウェア・エニックスでAIリードを務める三宅陽一郎氏は「ゲームAI開発者が考える自動運転の未来」と題してスピーチした。

「ファイナルファンタジー14」のキャラクターがゲームマップの中を自在に動き回るデモを見せながら、三宅氏は「これからはAI自身がゲームの中で意識を持ち、世界を体験し成長していくようなゲームが生まれる」と語る。

「ゲームAIがコンテンツに合わせて変化していく。これは自動車技術の未来でも同じことがいえる。人が車に合わせるのでなく、むしろ車が人に合わせて進化していくのだ。特に自動運転が普及するためには、車に感覚や記憶や会話機能を持たせる必要がある。

例えば車自体が車体の大きさや旋回半径を考慮しながら、現実世界での行動を起こすなど、AIに人間に寄り添うような判断をさせることが重要だ。私はこのような“知性体”としての車と人間が共存する世界を構想している」

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エンジニアは現象とコンテキストを常に意識すべきだ

2人のスピーチを受けて登壇したのは、メディアアーティストで筑波大学ではデジタルネイチャー研究所を主宰する落合陽一氏だ。

落合氏はメディアアーティストとしての作品や、様々な分野の研究者との共同研究の成果を紹介しながら、「最近よく考えていること」として次のように述べた。

「技術開発を進める上では、鶏が先か、卵が先かという議論に止まるのではなく、走りながら技術をスケールさせ、社会の信頼を勝ちとっていく必要がある。

フェムト秒レーザーをやっている基礎研究者が量子コンピュータを開発しているように、基礎技術開発とアルゴリズム開発やアプリ開発は同時に進んでいく。そのようなスタイルが当たり前のようにできる研究組織=ラボが今求められている」

またAIなど先端領域における技術開発にあたっては、このように語った。

「エンジニアは今起こっている現象と、それがどのようなコンテキスト(文脈)の中にあるのかを常に意識する必要がある。

技術開発のレベルを一次元高めたつもりが、それによって課題が階乗倍に拡大することもあるので、コンテキストを間違えると、研究の方向性を見失うことになる。

自分たちの研究がコンテンツ的、工業的、数理的にそれぞれどういうレベルにあるのかも絶えず概念的に理解しておくべきだ」

先端領域で未来を創造する、エンジニアの新しい哲学とは何か

カンファンレンスの後半は、登壇した3人に、日産自動車でコネクティドカーの開発を進める村松寿郎氏が加わったパネルディスカッションが行われた。モデレーターはリクルートキャリア「リクナビNEXT」編集長の藤井薫氏が務めた。

アジェンダの一つ目は、先端領域における未来を生み出すにあたって、「エンジニアの哲学はどうあるべきか」というもの。この手の会議で「哲学」という言葉が使われるのは珍しいが、これは、パネリストの一人三宅陽一郎氏の近著に『人工知能のための哲学塾』という本があり、それに触発されたからだった。

「すでに既存の技術蓄積や市場が存在するような一定の領域で、新製品を生み出すだけなら、哲学は求められない。もちろんそういう仕事は重要で、日本はそれが得意だ。

しかし、私は領域そのものを広げ、他人がやっていない領域を開拓することに興味があった。ディープラーニングをこつこつとやっていたときがそうだった。先端的な領域だからこそ、誰も評価する人がいない。下手をしたらそんなことをやっているのは私1人かもしれないという不安もあった。

成果が見える前に領域を広げるという仕事はパワーが必要だが、そこで成功すると将来にわたって大きな仕事になる。そうした土地自体を広げるような仕事をするためには、エンジニアには哲学が求められる」と三宅氏は語る。

それにすぐ反応したのが、木村俊也氏。

「新しい土地を生み出すためには、人材も体力もそして予算も必要だ。例えば、ディープラーニングも計算量が高いことや、内部がブラックボックス的で実用が難しいといわれた時代もあったが、それに根気よく取り組む研究者がいたから、世界が拡がった。

量子アニーリングもそうだろう。新しい学問、新しいプラットフォームを創る人が必要で、メルカリのR4Dもそれを目指している」

哲学(フィロソフィー)という言葉から、落合陽一氏は、「博士号=Doctor of Philosophy=Ph.D.」に連想を広げたようだ。

「Ph.D.を取得するということは、その領域で抜きんでて詳しい人ということだし、研究者やエンジニアとの会話の中でもこれが一つの物差しになる。

僕はまだ30歳で、服装はいつもこんな格好だけれど、Ph.D.で大学ではラボを持っていると話すと、世界の研究領域でトップ・オブ・トップにいる人も素直に話を聞いてくれる。

博士号でもなんでも、その人を判断できる一つの物差しを持つこと、それも哲学の一つといえるのではない」と提起する。 

アーティスティックなマインドを持つエンジニアたち

落合氏の作品やキャリアが体現しているように、これからの先端領域ではデザイン、ビジネス、テクノロジーが一体となって人々に価値を提供するようになる。こうした時代には「どんなエンジニアが求められるのか」。パネルは次のテーマに移った。

三宅氏は、「世の中の多様性に応じて、エンジニアもまた自分の中に多様性を持つのがいい。一つ特化した専門性があることは大前提だが、垂直の軸で別の専門性を持つと底辺も拡がる。

自分は今AIチームをまとめる立場にいるが、博士号を持つ研究者で、自分は企業の中でもその専門しかやらないと言われるとちょっと困る。その専門性を大切にしつつ、もう一つ別の軸があれば、逆に最初の専門性も活きるのにと思うことがよくある」と語る。

また三宅氏はデザインとテクノロジーの高度なレベルでの融合が求められる時代について、「一つの建物を建てる時にも、そこに善、美を尽くすといいう、宮大工、寺社建築のような世界が日本には昔からある。そういうDNAを私たちは受け継いでいるはず。それを日本から発信する技術の強みにしていきたい」とも語った。

エンジニアの多様性という観点では、R4Dという新しい研究組織を立ち上げたばかりの木村氏も強い関心を持っている。

その木村氏に、「落合さんのラボや会社ではどうやって人を集めているのですか」と問われた落合氏は、こう答えた。

「エンジニア像としては、アーティスティックなマインドが持っている人がいい。アートの話を5時間ぐらい語れる人。一方では、ビジネスデベロップメントが得意な人をCOOにすえるとか、私ができないところができている人の集まりを目指している。互いに通じ合える共通言語があって、専門性が違うというのが一番いい」

富を生み出す方程式が変わる。妄想をカタチにするのは誰だ

司会の藤井薫氏は3つめのアジェンダとして、

「過去の価値ではなく、未来への貢献・価値創造が評価される時代には、富を生み出す方程式自体が変化していくのではないか。

エンジニアもまた、画一化された仕事をこなすことで安定収入を得ていた時代から、アイデアや自身の能力・努力で仕事や収入に格差が生まれる時代に変化している。

こうした時代の変化に対応できるエンジニアの力、いわば妄想を現実化させる力とは何か」と問題を提起した。

落合氏は、「根本的には、大学の一般教養と呼ばれているもののなかに、理系的なものが含まれていない現状が問題。理系の学問は実学だと思っていて、ふつうの人は数式とか知らなくてもいいという風潮が日本にはまだある。

フーリエ変換とかフォトンとかいう言葉を日常会話に差し挟んでも、文系の人はついて来れない。これを一般常識のようにしないと、日本のエンジニア力の底上げにならない」と指摘する。

村松氏は、「妄想はエンジニアの特権であり、妄想から想像へ、さらに想像をカタチにすることはエンジニアにしかできない」とし、妄想がカタチになった例として、いま多くの自動車に搭載されているアラウンドビューモニターの開発事例を挙げた。

「車を上から俯瞰した360度画像が見られたらいいのにと妄想した技術者がいた。妄想はアイデアに進化したが、最初の実験は3階建ての建物の上からカメラで撮影し、その画像情報を無線で車に伝えるというものだった。

しかしこれでは常にビルの上にカメラをすえていないといけない。そこで、車載カメラを使って同じ画像を出すにはどうしたらいいか、みんなで知恵を絞り始めた。この議論は視点変換という画期的な技術を生んだが、2001年のモーターショーでデモしたときは、車には8台のカメラと8つのCPUを搭載していた。

そこから先がエンジニアリングで、8個を4個に、さらに1個でも可能にしていった。こうした一連の流れがあって、初めて妄想は技術になり、社会に実装されていく」

三宅氏は、これからのエンジニアに求められる方程式について、“ダブルスタンダード”という言葉を使ってこう語った。

「まず自身の哲学に基づいたビジョンを持つ深くことが欠かせない。もちろん会社で仕事をする限りは、ある程度流されるのは仕方がないが、流されつつも自分がやりたいことを持ち続けるダブルスタンダードがこれからは重要になる。

会社の仕事はしつつ、企業の力を最大限活用しながら、自分のやりたい研究開発を進める。この両軸が重なれば幸せだが、時には会社の外で実現する手段を見つけることも必要になる。

かつてインターネットがないときはゲーム開発者は開発室に閉じこもりがちだったが、今はネットのコミュニティがあり、他企業の人とも自由に交流ができるから、これを活かさない手はない。1人のエンジニアの中のダブル軸はときどき融合したり、離れたりしながら、その人の力を拡張していくはずだ」

ダブル軸どころか、いくつあるかわからないほど多様な軸の関心を持つ落合氏だが、最近はイノシシ駆除のための超音波技術の開発を依頼されているという。

「このときはイノシシ狩りの現場に行ってマタギの人から話を聞きましたよ。単なる職場ツアーではわからないことも、現場に行って首を突っ込み、友だちを作るといろんなことがわかるようになる。技術が求められている現場で妄想することは、エンジニアにとってなにより大切なこと」と言う。

さらに「現場に行かなければ、自分たちの技術の何がフィットするかはわからない。そのためにはエンジニアは技術の間口を広げておくことが欠かせない。A、B、C……とたくさんのプランを示すと、現場の人も直感的にわかる。

その意味では要件定義を最初から一個に絞ってしまうのは、妄想する力を弱くするという意味でも避けたいところだ」と指摘した。

イベントの最後に会場から質問があった。「いま黎明期の技術でみなさんが注目しているものは何ですか」。パネリスト、それぞれの答えを紹介しておこう。

三宅氏:ブロックチェーンのお金以外の使い方と、ストーリージェネレーション。ゲームのストーリーをAIが作る。

木村氏:IoTとコネクティッドホーム

村松氏:5G世代にどんなコネクティッドカーのサービスを実現するか

落合氏:網膜投影などに使えるホログラフィーの技術。この分野は一度死んだものとされ、技術者が全然いないんですが、だからこそいま面白いんですよ。

イベント会場はVR体験ブースが大盛況

今回VR Tech Tokyo 諸星一行氏がコーディネイトしたVR体験ブース。休憩時間と講演終了後はどのブースも体験待ちの行列ができるほどの大盛況!



体験ブース出展企業

●DVERSE Inc. (ディヴァースインク)
⇒ 世界約100ヶ国で活用されているビジネス向けVRソフトウェア「SYMMETRY」を開発・提供

株式会社リビングスタイル
⇒ PCやモバイル端末向けにインテリアの3Dシミュレーターを提供。今回は実際に販売されている家具をVR空間内に配置し、部屋をコーディネートできる家具配置シミュレーターを展示。

株式会社ホロラボ
⇒ xRに特化した研究型企業としてコミュニティ活動やビジネス利用普及に取り組む。今回は「MR脊椎・関節手術トレーニングシステム」を展示。

株式会社アルファコード
⇒ VR/MR/AR技術を活かしたソリューションビジネスや、ゲーム、スマートフォン向けサービスを開発・提供。今回は360°VR/MR CMS「VRider DIRECT」をデモ展示。

また、当日来場者には特製アイシングクッキーをプレゼント!こちらも大盛況となった。

執筆:広重隆樹 撮影:刑部友康

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

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