カヤック・ヌーラボなど、IT企業5社と自治体が徹底議論―地方でビジネスを展開する面白さとは?

2018年1月13日、「Glocal Creative Summit~なぜこのまちが面白い? 地方から世界基準へ~」が開催された。
地方への関心が高まり、IT・クリエイティブ事業で注目される自治体が増えつつある昨今、官民の連携はどのように行われているのか―3つのセッションを通じて探っていく。

ビジネスとして地方でやるメリットは?

福岡コミュニティ情報を発信する、移住応援サイト「福岡移住計画」が福岡市の事業「福岡クリエイティブキャンプ」の一環で1月13日に開催した「Glocal Creative Summit〜なぜこのまちが面白い? 地方から世界基準へ〜」。

第1セッションは「ビジネスとして地方でやるメリットと、東京ではなく世界を視野に入れた今後の展望」をテーマに、モデレーター「Forbes Japan」九法崇雄氏、面白法人カヤック・柳澤大輔氏、鎌倉市役所・比留間彰氏、ヌーラボ・橋本正徳氏、福岡市役所・山下龍二郎氏によるパネルディスカッションが行われた。

「Forbes Japan」編集次長兼Web編集長 九法崇雄氏

カヤックは鎌倉に、ヌーラボは福岡に本社を置きながら、日本国内だけにとどまらずサービス開発を行い、グローバルにビジネスを展開している。

カヤックは7社のグループ会社を持ち、約400人いる社員のほとんどがクリエイターという会社。面白コンテンツの制作や、海外にも展開しているゲーム事業などが主な事業内容だ。

「まずは、自分たちが面白がろう」をテーマに、サイコロを振って給料を決める制度や、4月1日は履歴書を詐称していいという「エイプリル採用」など、ユニークな制度が用意されている。

ヌーラボは「Backlog」「Cacoo」「Typetalk」など、何か新しいことを始めるときのワークフローをサポートするツールを展開する。国内は東京・京都・福岡、国外はニューヨーク・シンガポールと複数の拠点があり、台湾やアリゾナ、カリフォルニアでリモート勤務する社員もいる。

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カヤックはなぜ鎌倉を選んだのか?

カヤックの柳澤氏が、縁もゆかりもない鎌倉を選んだ理由は、「面白法人」というコピーを最初に作って、それに合う場所はどこかを突き詰めていった結果だと言う。


「起業家には、ベースに原体験がある人とない人がいます。ベンチャーキャピタルも必ず原体験を聞きます。原体験があると、トラブルがあっても乗り越えられるから。原体験がないタイプは、理念や哲学、ビジョンを最初に決めて、それを元に乗り越えていく。

僕がまさに後者のタイプなんです。鎌倉を選んだのは直感でしたが、後から考えてみると『面白く働く』ことを重視すると、職住近接が良さそうだという価値観や、世の中に面白いことを発信するなら知名度のある鎌倉がいいと思ったんです。

今、鳩サブレーを製造販売している豊島屋と組んで保育園を作っていますが、歴史ある企業と僕らのような新しい企業がコラボできるのは、鎌倉ならではだと考えています」

左から、面白法人カヤック 代表取締役CEO 柳澤大輔氏、鎌倉市役所 経営企画部長 比留間彰氏


「企業が鎌倉で事業展開するメリットは何ですか?」


「ビジネスのメリットだけで言えば、あまりないですね(笑)。地方の経済合理性は相対的に低いです。東京に集まっているほうが、採用や発信、利便性の面で有利です。実際、鎌倉で創業した会社も規模が大きくなると東京に移転してしまうケースが多い。

ビジネスのメリットだけで幸せになる時代ではなくなってきたから、他の面での幸せを含めたメリットは大きいですが、狭義のビジネスメリットだけで言うなら極めて少ないんじゃないかと」


「逆にデメリットはどんなところだと思いますか?」


「鎌倉市も働く場所を増やす試みを始めていますが、そもそもよそから企業を誘致しようという意識はまだ稀薄です。産業集積のスピード感は都市部に比べて、当然時間がかかる。そういうビジネス上のデメリットはありますね」


「行政はデメリットに対し、どのような改善をしていますか?」


「鎌倉市は住宅地なので、法律の制限もあり中心地に企業を誘致する環境がそもそもありません。

創業時に小さなスペースであれば用意できますが、企業が大きくなってきたときに、どう対応するのかは課題ですね。これから開発予定の32ヘクタールの土地があるので、そこに新しい街を作ろうと考えています。

ただショッピングモールを誘致したり、住宅を建てたりということではなく、東京に通勤するというライフスタイルから脱却し、この地域にコミットしながら鎌倉で生活していけるようなライフスタイルや文化を発信していきたい。そこで新たなイノベーションを起していきたいと、検討しているところです。

企業誘致も含め、東京に対抗できるような『鎌倉文化圏』のような街を作っていきたいと思います」

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鎌倉を盛り上げるために取り組んでいること


「5年前に『カマコン』というものを立ち上げました。これは、地域活動をみんなで楽しくやりながら、自分の住む・働く地域を良くしたり、面白くしていこうという活動です。

月1回行う定例会で、地域活動をしている人・これからしたい人をゲストに活動内容を発表してもらい、それに対して参加者全員で真剣にブレーンストーミングをしています。

市長にもよく参加いただいていますが、みんなで一緒に作っていくことがとにかく楽しい。僕自身はこの活動を始めてから、今までの3倍位人生が楽しくなりましたね。こういった活動は東京より、住民同士や行政との距離が近い地方のほうがやりやすいと思うんです。

地方のデメリットは『しがらみ』が多いこと。鎌倉は比較的フラットで、革新的な風土があると思いますが、コミュニティが密な分、どうしても『しがらみ』はあります。

IT企業なんて特に胡散くさいですから、20年前に鎌倉に来たときは、壁もありました。でも、カマコンで立場や主義主張の違う人たちがブレストすると、関係性がフラットになるんです」


「事業として取り組もうとしていることがあれば教えてください」


「豊島屋さんとの保育所に加えて、今年4月には『まちの社員食堂』というプロジェクトが立ち上がります。市役所、商工会議所と地元の約20社が、共同で社員食堂を持ち、週替りで鎌倉市内のレストランが料理を提供するという仕組みです。

これによって、『話し合う・まとまる』土俵ができるので、地方が追いかけるべき『GDPに代わる指標は何か?』を一緒に考えていきたいと思っているんです。

資本主義的な豊かさを示すのがGDPですが、それだけを追いかけても幸せになれない中、何か新しい指標を見つけなければなりません。

例えば、GDPには表れない物々交換が地方では結構あります。スーパーでミカンを買うより、ミカン農家で自分の作ったゴボウと交換するほうが心の交流にもつながり、もしかしたらハッピーかもしれません。

物々交換を指標化して、それを伸ばしたら意外とハッピーになれるかもしれない可能性もありますよね。今までのビジネスと違う指標を掲げることで、幸せ度の高い地域は作れるのではないかと考えているんです」

福岡市は毎年1%ずつ人口が増えている


「福岡市は髙島市長主導でスタートアップの推進に取り組んでいますが、行政から見たメリットは何だと思いますか?」


「福岡市は人口約150万人の政令市です。日本全体で人口減少が進んでいる中、福岡市は今でも毎年約1万人ずつ人口が増え続けています。特に10〜20代の人が増えており、街としても成長過程にあります。

福岡で創業を目指す人も多いですし、東京に本社のある企業が福岡で拠点を作る際、優秀な人材を採用したいというニーズも増えてきているのはメリットだと思います。

アジアとの近さを意識している企業もが多いと感じます。ソウルまでは1時間弱、東京より近いですし、上海までも東京に行くのと同じくらいの距離感です。

将来的に海外展開を視野に入れているのであれば、地理的な近さは大きなメリットになりますね」

左から、株式会社ヌーラボ 代表取締役 橋本正徳氏、福岡市役所 経済観光文化局 企業誘致課係長 山下龍二郎氏

福岡を「人種のるつぼ」のような街にしたい


「僕は福岡を、いろんな人種・宗教の人がいる『人種のるつぼ』のような街にしていきたいと思っています。なぜなら、僕がそういうところに住みたいから」


「福岡市はある程度の規模の都市ですが、鎌倉市と一緒で産学官の垣根がすごく低いのが特徴です。

福岡市の特徴を一言で言うなら『コンパクト』。いろんな思いを持っている人が、それぞれの思いをぶつけ合って、いい街にしていこうという雰囲気があります」


「福岡を『人種のるつぼのような街』にするために、どんな活動をしていますか?」


「2011年から『明星和楽』というイベントをやっています。『テクノロジーとクリエイティブの祭典』という副題で、映像制作している人やテクノロジーに携わっている人、音楽をやっている人たちが集まって、ハチャメチャに自己表現を見せていくというものです。

海外メディアにも取材してもらうようにしているので、国内だけでなくアメリカや台湾のメディアにも『明星和楽』の記事が上がります。そうすると『福岡ってすごいところらしいね』と思われ、福岡に来てもらえるような好循環ができればいいなと思っているんです。

観光で来てもらうのもいいんですが、できれば移住してほしい。そのために、福岡市が『スタートアップビザ』というものを作ってくれました。海外の人であれば、スタートアップビザを簡単に取得でき、そのビザで6ヶ月間滞在できます。その間に資本金を貯めていけば、そのまま継続して福岡にいられる制度です」

数年後、どんなエコシステムがあれば地方は盛り上がっていけるのか

セッション後の質疑応答では、「数年後に必要になるエコシステムは何か?」という質問が投げかけられた。


「僕はコミュニティだと思います。だからカマコンを作ったんです。カマコンは毎月やっていますが、毎回3割くらいは初めての参加者。東京から見に来る人も多く、コミュニティに入って地元の人たちと仲良くなり、移住してくるというパターンも結構あります。

地域の人たちがつながる場があることで、そこから事業も生まれるし、行政・民間・企業がまとまることもできるので、まず場作りをするのが重要なのではと思っています」


「僕もコミュニティだと思います。付け加えるとするなら『才能がある人の』コミュニティ。才能がある人の中に普通の人が入ると、その普通の人の才能も伸びていくという実験結果があるらしく、それを盲信しています(笑)。

福岡市では、そういうコミュニティができつつあります。特にインターネット業界の人たちは、働くロケーションに縛られない人も多い。彼らは才能がたくさん集まっているところに移動するらしいんです。だから今、市内の大名というエリアには、かなりの才能が集積しています」

いま地方のクリエイティブ業界に必要なこととは?

第2セッションのテーマは「今後さらなる飛躍をするために課題となっていること、いま地方のクリエイティブ業界に必要なこととは」。

地方都市でビジネス展開している以下3社と、それぞれの自治体職員の方々とのディスカッションが行われた。モデレーターはPR Tableの菅原弘暁氏。

株式会社PR Table 取締役/共同創業者 菅原弘暁氏

Gear8は、札幌市とバンコクに法人があり、福岡・タイのチェンマイ・台北にサテライトオフィスを持つWebディレクションチーム。Web制作を中心に、アジア展開する際のマーケティング支援や、インバウンド関連の案件を手がけ、タイ語で北海道のことを毎日発信するオウンドメディアも運営している。

バンコクでイベントを開催し、タイ人むけのプロモーション対策を検討しているメーカーのメーカーのメーカーのテストマーケティングを支援したり、一緒に国際旅行博にてブースを出すなどのPRも行っている。

左から、株式会社Gear8 山田瑞希氏、札幌市役所 経済観光局IT・クリエイティブ産業担当課 高橋宗太郎氏

仙台市で開催されたIT系イベントでブランディングを担当したこともあるラナエクストラクティブの太田氏は、実は昨年12月末で代表を退任・退職している。

現在は仙台と東京を拠点に、雑誌『Pen』で「日本酒男子のルール」という連載を持つだけでなく、複数の大学で講師を努めたり、ソニーミュージックと一緒に子ども向けのコンピューター内蔵のボールを開発したりするなど、その活動は多岐にわたる。

左から、株式会社ラナエクストラクティブ 太田伸志氏、仙台市役所 経済局産業政策部 白岩靖史氏

プラスディー(Plus D Inc.)の「D」はDESIGNのD。物事すべてに付加価値を付けていくことで、より良くしていくというコンセプトを掲げている。

主な事業ドメインは3つ。1つはデジタル広告を中心とした広告制作・マーケティング支援。2つ目は映画・TVドラマやMV、CMなど映像コンテンツの企画制作。3つ目は全国に埋もれている優れた名産品に付加価値を与えるヒットメイキング事業だ。

(中央)株式会社プラスディー 本田晋一郎氏、(右)日南市役所 日南市マーケティング専門官 田鹿倫基氏

日南市は「とりあえずやる」、スピード感のある自治体


「日南市にサテライトオフィスを開所して1年、手応えはいかがですか?」


「先ほど柳澤さんが、スピード感が遅いのが地方の課題とおっしゃっていましたが、日南市の場合は『とりあえずやる』というスタンスなので、スピード感は速いです。

成功を求める前に、とりあえずやる。成功するのは簡単なことではないので、どう修正していくかを考えようという姿勢を行政全体が持っているのは、非常にすごいことだと思います。アクションが早く、実行力が高いというところは期待以上でした」


「いつ頃からそういうスタンスになったんですか?」


「キッカケは5年前の市長選挙です。当時33歳の今の市長が当選したのが、大きなターニングポイントだったなと思います。

『若い市長だから変わったんだ』とよく言われますが、それは半分しか当たっていません。日南を変える市長を選んだのは市民です。つまり、日南市民が変革を求めたからなんです。

市長選挙には当時の現職市長と、県議会議員選挙でトップ当選した、地元では権威のある2人も出馬していました。地元では実績のない県庁職員の若手を市民が選ぶということは、日南が変わることを求められていたんだと思いますし、この民意こそが日南市の動きがスピーディになった一番の要因だと思います」


「プラスディーはなぜ日南市を選んだんですか?」


「非常にアクションが早く、実行力の高い行政だという点が大きいですね。弊社の主要事業の1つである地域の名産品を世に広く広めていこうとする際、事業の肝になるのは地域と密着している方々です。

1つは自治体、あとは銀行・地銀・信金。彼らは地域企業に非常に密着しているので、地域に入り込んだ活動をしていくためには頼らざるを得ません。地元の人たちに紹介してもらうことに対し、比較的アクション可能な自治体だったというのが、まさに選んだ理由です」

IT企業の集積地、札幌市が人材を呼び戻す


「札幌市でビジネスを拡大していくにあたっての課題はありますか?」


「札幌市内にはIT系の企業が数多くありますが、100人規模の会社と20人以下の小さい会社と、二極化しているのが現状です。それによって、小規模の会社に人材育成できる余力がないことが課題です」


「札幌市は全国でも有数のIT企業の集積地ですが、意外にも学生たちは札幌市内の企業をよく知らない人が多んです。結果として東京圏や知名度のある大企業に目が向いている傾向があり、優秀な人材が札幌から流出してしまうことが課題となっています。

でも実際には、札幌にも面白い企業や高度な技術力をもった企業がたくさんあります。そこでそういう企業を首都圏の皆さんに知ってもらい、札幌へのUターン・Iターンを考えるきっかけにしてもらいたいと、昨年11月に、『みんなの札幌移住計画』というイベントを開催しました。

今回3回目の開催となりましたが、前回のイベントをきっかけに、北海道出身の人はもちろん、旅行で訪れるなどして札幌を好きになり、実際に移住してきた人もいます」


「弊社は約7割が北海道内のクライアントとの仕事です。残り3割は道外ですが、東京だけでなく他の地域やタイの案件もあります。

東京のクライアントとの仕事がなくても事業継続できる企業は、弊社以外にもあると思います。しかし、そのことがあまり伝わっておらず、特に若手や移住して札幌で仕事をしたいと考えるクリエイターは、どうしても『今より収入が下がってしまうのでは』『仕事はあるんだろうか』と考えて、結局人材不足につながってしまっているのかなと感じています」

東北全域を対象にしたアクセラレーションプログラムを実施


「仙台市には約400社のIT系企業があります。東日本大震災でいろいろなことが壊れてしまった一方、国内外から『この地域なら、何か新しいことができるのでは』と起業を希望する人たちがたくさん集まってきています。

仙台市として大事にしているのが、「東北全域」での視点。東北全域でこれから何かやりたいという人や起業家、新規事業をやりたいという中小企業です。

そこで仙台市は今、仙台市の予算で東北全域と東京で、仙台市と一緒に事業をやりたいという人たちを集め、アクセラレーションプログラムを展開しています。仙台市の予算で、東北全域からアイデアや知恵、志、想いを持った人を集め、仙台でプログラムを実施します。

なぜこんなことをやっているかというと、宮城県には毎年約12,000人の学生が来るんです。そのうちの8割は東北6県から。そして、その半分以上は定着しないで県外に出て行ってしまいます。東北6県で、毎年若い人の人口がどんどん減っているのです。

このため、仙台市としては、東北6県の人口流出を食い止めるという役割をこれまで以上に果たしていかなければならないと考えています。

東北には様々な課題がたくさんありますが、それは裏を返せばそれらの課題解決につながるものであれば、スケールさせるかどうかに関わらず、自分たちの想いを事業にすることができるということでもあります。

民間も行政も、地域や社会が抱える目の前の課題を一つずつ、楽しく解決していこうという雰囲気になってきています」

魅力的な人を見出す・呼び込むために、何をすればいいのか?


「どこの地方に行っても、やはり人材問題で悩んでいる自治体が多いように感じます。外から人が来ないのもあるし、内側でも人が育たないというのもありますが、一番よく耳にするのが『ロールモデルがいない』ということ。街のことを語ってくれる、メッセージを出せるビジネスパーソンがいないから、若者が憧れてくれないという点は確かにあるのかもしれません。

そういう人を見出す、もしくは外から呼び込むために、何をすればいいと思いますか?」


「北海道全体の話になるかもしれませんが、企業のブランド力をどうやって伝えていくかが課題です。『北海道の会社ってこんなに面白いんだ!』ということをどうやって伝えるか。

それには、一度北海道から出ることが必要だと思っています。一見逆説的ですが、外から北海道を見る。一度離れてみると新しい魅力が見えてくるはずです。

札幌市内の同業者が人材を新しく確保していくためには、自分の会社と地域のブランド力を上げるために、敢えて一旦外から見るというのが重要なのかなと私は考えています」


「僕は15年前に上京しましたが、教えている学生たちには『県外に出るな』と最近は伝えています。

東京の大学に進学すると、みんな流行りのファッションを身に着けてオシャレだし、iPhoneで同じサイトを見ていたりします。

一方、僕が非常勤講師を務めている仙台の大学で学生に、iPhoneで何を検索しているのか聞くと『宮沢賢治の廃版になった本です』と言うんですね。そこには東京にはない個性があると思うんです。

もし、彼が上京して、東京の他の誰かと同じように、流行りのファッションに身を包んで、オシャレなカフェでコーヒーを飲みながら『あー仙台ね。たまに帰るよ』と言うようになったら嫌だなと思っているんです」


「行政としても、東京などの域外に出た人たちが戻ってきたいと思ってもらえるようなネタを、きちんと発信すべきだと思います。仙台市や東北には、すごく面白いんだけど、実現するにはあと少しなんだよな、と言われるようなネタや、人間の心を揺さぶるようなネタがたくさんありますから。そういうことを上手く伝える努力が必要だと考えています」

鎌倉・福岡・札幌・仙台・日南が実施している人材誘致プロジェクト

第3セッションは「現在IT企業・人材誘致のために行っているプロジェクトと暮らしとビジネスメリットについて」をテーマに、これまで登壇した鎌倉市・福岡市・札幌市・仙台市・日南市の自治体代表によるパネルディスカッションが行われた。

各自治体の主な取り組みは以下の通り。

鎌倉市:情報通信事業者向けのビジネスサポートも充実!

地方創生の総合戦略において、「働く街、鎌倉」「住みたい、住み続けたい街」という2つの目標を持ち、企業誘致のための税制優遇などの制度を策定。また、IT企業が事業所を作る際、リフォーム助成する制度を作った。

情報通信業を営む企業に、オフィス開設に関するリフォーム経費・賃料を補助

福岡市:支援制度も充実。Iターン希望者が7割を超える

Forbes JAPANの「イノベーティブシティBEST1」を獲得。立地企業の過半数以上がIT系・クリエイティブ系の会社なので、福岡市内でも転職できる土壌がある。

また、クリエイティブ人材の福岡市内の企業への転職・移住をする際に支援する「福岡クリエイティブキャンプ」という取り組みも実施。

当初はUターン希望者が多かったが、直近1〜2年はIターン希望者が7割を超えるようになってきている。2014年4月から2017年12月までに、毎年約20名のクリエイティブ人材が福岡に移住している。

誘致企業数260社中、知識創造型産業が55%を占める

札幌市:札幌を実証実験・社会実装の聖地に

SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)の日本版が、札幌でも「NO MAPS」というイベントを開催した。

2016年のプレ開催を経て、昨年から本開催された。ビジネスカンファレンスやエキシビジョン、イベント、ミートアップ、実証実験をテーマにしたビジネスコンベンションで、中でも札幌では実証実験に力を入れている。

こうした取り組みを通じて、札幌のビジネス拠点としてのブランド力を高め、企業や人を呼び込む。

札幌を「新しい価値・文化・社会の姿」を提案する技術やサービスの社会的な実証実験の場にする取り組みを行っている

仙台市:海外や民間企業との連携で様々なチャレンジができる環境を構築

東日本大震災以降は復興に注力してきたが、これから様々なエコシステムづくりに本格的に取り組むタイミング。第2セッションでも例に挙げた「日本初の広域アクセラレータープログラム」を実施している他、「地方都市最大のスタートアップイベント」と銘打ったイベントも開催している。

海外や民間企業との連携も積極的に展開し、2003年に発足した「仙台・フィンランド健康福祉センタープロジェクト」では、これまで取り組んできた健康福祉分野の研究開発やビジネスマッチング、事業創造のノウハウを活かして、介護分野×ITの取り組んでいる。

さらに、国内外の大手通信事業者と次世代通信技術を活用したまちづくりや産業活性化に関する連携も進めているという。こうした取組みを通じて、仙台・東北で新たなチャレンジをしたいと考える企業や人材を積極的に呼び込んでいる。

NTTドコモと連携し、ICTを活用したまちづくりの取り組み

日南市:IT企業に特化した企業誘致、認可保育園の用意も

2年前からIT企業に特化した企業誘致を始め、現在約12社を誘致。人材の採用においても、誘致前に市役所側でどんな人を採用したいのか、人数やスキルアップ基準もしっかりヒアリングし、予め採用者の要件定義から採用プランの設計も一緒にしている。

募集の際も、同じ職種を同タイミングで募集しないよう調整をして、採用競合にならないよう工夫している。結果、人口動態にも変化が現れ、社会増減において転出者が減り、転入者が増えるという結果に結びついた。

認可保育園に落ちた人に日南の保育園を準備

懇親会は主催者の乾杯から始まり、各自治体の名産品を囲み、参加者・自治体との積極的な交流が行われた。

今回イベントを主催した「福岡移住計画」は今後も企業や自治体と連携したイベントを開催していくとのこと。地方移住や地方創生に興味がある人は、ぜひ参加してみてはいかがだろう。

取材・執筆:筒井智子

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

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