「フラグを立てる」感覚を持つとビジネスはもっと楽しくなる|サイバーエージェント副社長 日高裕介さん

f:id:kensukesuzuki:20171026191044j:plain

さまざまなシーンで活躍しているビジネスパーソンや著名人に、ファミコンにまつわる思い出から今につながる仕事の哲学や人生観についてうかがっていく本連載「思い出のファミコン – The Human Side –」。

今回ご登場いただくのは、サイバーエージェント取締役副社長の日高裕介さん。『グランブルーファンタジー』、『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』などの代表タイトルをはじめ、同社の好調な業績をけん引するゲーム事業の統括であり、創業時から藤田晋社長とともにサイバーエージェントの成長を導いてきた経営者でもある。そんな日高さんが「ファミコンで培ったゲームの原体験が、ビジネスの現場にも脈々と生きている」と語ってくれた――(聞き手:深田洋介)

日高裕介さん
1974年宮崎県生まれ。慶應義塾大学卒業後、株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア)に入社。同期入社だった藤田晋氏とともに1998年に株式会社サイバーエージェントを設立。創業時より同社グループのさまざまな事業責任者を歴任し、2009年からはゲーム事業を立ち上げ、サイバーエージェントの主力事業のひとつに押し上げる。2010年より取締役副社長に就任。著書に『組織の毒薬 サイバーエージェント副社長の社員にあてたコラム』(幻冬舎)

子どもの頃の「神聖なもの」にまさか将来自分が関わるとは!

――ゲーム事業統括なだけに、やはり子どもの頃からファミコンもやりこんだのでしょうか?

f:id:kensukesuzuki:20171026191222j:plain

ファミコンが発売された1983年からかなり遊んでいました。その年のクリスマスプレゼントに買ってもらったのを覚えています。『マリオブラザーズ』『アイスクライマー』あたりの二人同時プレーのゲームはお気に入りでしたね。でも結局は、協力プレーじゃなくて友だちとお互い殺し合いプレーになっていましたけど(笑)。いろんな友だちの家に出入りし、貸し借りして、本当にたくさんのゲームで遊びました。
5歳上の兄とは、任天堂の『ベースボール』『サッカー』でもよく対戦していましたが、とくに『ファミスタ』はやりこみました。通算50勝をめざして、兄との対戦を重ねていたのですが、通算成績が49勝49敗になり、最後の1勝が自分のものになりそう……!というときに、リセットボタンを押されて、最大の兄弟ケンカになったことは今でもよく覚えています。

――子どもの頃、将来はゲームに関わる仕事をしたいというのはありましたか?

いや、それはまったくなかったですね。ユーザーとして純粋に楽しむものとしか思っていなかったので、不思議なものです。当時からゲームが「すごいもの」「神聖なもの」という気持ちは今に至るまでずっとありますね。

現在のスマホゲームの方が性能的に優れているところはありますけど、ファミコンは子どもの頃に自分が一番ハマったコンテンツですし、ゲームを作る人たちに対するリスペクトもすごくあります。

サイバーエージェントでゲーム事業を立ち上げた当初は、自分でもクイズゲームなどを作っていました。今は、スマホゲームがどんどん高度化して、ユーザーが求めるものがコンシューマーゲーム並みになってきていますので、制作が得意な人や好きな人たちにどんどん任せています。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

ゲームの「面白さ」を理屈にせずとも共感できる

――子どものときのゲーム体験が、現在のお仕事につながっていると感じることはありますか?

f:id:kensukesuzuki:20171026191459j:plain

ゲームというものを原体験として身近に触れてきたので、客観的に捉えなくていいなという感じはありますね。あまりロジカルに捉えなくて済むというか。ユーザーの実体験として、ゲームを構成する要素であるキャラクターとかストーリーとか、今だったらサブカル的なものとかいろんなものが必要になる側面がありますが、そういうものを抜きにして、ゲームというものを言語化せずに「面白いものだ」という感覚があるのは、役に立っていると思います。

ファミコンでひととおりいろんなジャンルのゲームをやってきたので、理屈としてではなく、ゲームという娯楽としての面白さ、基礎リテラシーみたいなものが身についたことは良かったですね。ゲーム事業を統括する立場として、各担当者と「このゲームの面白味は何か?」といった感覚的な話をする上での意思疎通や共通理解をスムーズにすることに、役立っていると思います。

――ゲーム事業とは別に、一般的なビジネスの面ではいかがでしょうか。

私は攻略本に頼ってゲームをするのが嫌いなタイプで、自分で試行錯誤したり、みんなでわいわい話しながら進めるのが好きでした。今はスマホゲームでもウィキペディアや攻略サイトを見ながら遊ぶのが当たり前になってきていると言われるのですが、それも時代かなと思いますね。

ビジネスの現場でも、たとえば目標を設定してそこに向かうまでに、いろいろ試行錯誤したり、人にアドバイスを求めたり、ということは大いにあると思います。そこにはマニュアルや攻略本なんてない。そういう習慣づけみたいなものは、ゲームを自分の力でクリアしてきたことで身についたビジネススキルのひとつかもしれません。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

フラグを立ててクリアする過程はゲームもビジネスも同じ

――ビジネスもゲームと同じ感覚で捉える、ということですね。

f:id:kensukesuzuki:20171026191748j:plain

「ゲームに見立てる」という感覚は、自分が営業をやっていた時にすごく役立ちましたね。営業している時は、お客さんが商品を買ってくれるまでに、どんなハードルがあって、どのフラグを立てたら「商談成立」というゴールに向かってストーリーが前進するだろう……とか、そういうのを一つ一つ解決していくプロセスが楽しめるようになるんですよね。

「この担当者は、短期決戦を挑むより、じっくり様子をうかがった方がよい系のキャラっぽいな……」とか「この人の上には、さらにラスボスがいて……」みたいな。
そんなふうに、営業というものを「順序立てて物事をクリアしていく」というクエスト系ゲームとして捉えることができたおかげで、だいぶ楽になったんですよ。

――“ゲームは身を助く”といったところでしょうか?

じつはもともと営業がすごく苦手で……。最初に入社した会社では営業成績が芳しくなくて、落ちこぼれみたいになっていました。当時なぜ営業が苦手だったかというと、人にものを「売り込む」作業がすごく悪いことのように思えて苦手だったからなんですね。「自分は営業ができない」と悩んでいるビジネスパーソンはたいていそうだと思うんです。商品を適切なパフォーマンスで適切な価格で買ってもらう、という商売の根本が腹落ちしていなかったんですね。

あと、今となっては笑い話ですが、かつてEC事業を担当していたときにFF(=ファイナルファンタジー)にハマってプレイしていたら、次の日に寝坊して、半休しちゃったんですよ。それを聞きつけた社長が、「日高は本当にゲームが好きなんだなあ……」と呆れた一方、印象に強く残ったらしく。今や「ゲーム事業に活かせてほんと良かったよ(笑)」と言われています。ほんとうにここまでいろいろな意味でゲーム経験がキャリアに役立っていますね(笑)。

f:id:kensukesuzuki:20171027123725j:plain

取材・文:深田洋介
1975年生まれ、編集者。2003年に開設した投稿型サイト『思い出のファミコン』は、1600本を超える思い出コラムが寄せられる。2012年には同サイトを元にした書籍『ファミコンの思い出』(ナナロク社)を刊行。
http://famicom.memorial/

PC_goodpoint_banner2

Pagetop