アドテクは新しい技術の宝庫!?──ヨッピーさんがインターネット広告の未来、面白さを探る

インターネット広告市場は、年々拡大しているにもかかわらず、アドテクノロジー(アドテク)に携わるエンジニアは少ない。ファシリテーターにヨッピーさん、パネラーにヤフー井上真吾さんとLINE波形虎さんを迎え、インターネット広告とアドテクについて語っていただいた。その概要を再現レポートする。

1994年のバナー広告から始まったアドテク発展の歴史


今回インターネット広告とアドテクをテーマを選んだ理由は、「アドテクに携わっているエンジニアがすごく少ない」」っていう話を聞いたからなんですね。でもインターネットにおける広告の役割はビジネスにとってすごく大事なことだし、新しい技術もあれこれ入ってきてるじゃないですか。

エンジニアのみなさんって、技術は大好きですし、そもそもインターネット技術を引っ張っているGoogleもアドテクの会社だし、アドテクに関わっているエンジニアもたくさんいる。

そんな中でアドテクとはどんなものか、そこにはどんな技術があるのか。ヤフーの井上真吾さんとLINEの波形虎さんに聞いていきたいと思います。

今回のゲストパネラー紹介

ヤフー株式会社 井上 真吾さん
マーケティングソリューションズカンパニー ディスプレイ広告事業本部本部長。プレミアム広告、プログラマティック広告、プロモーション広告を含めたディスプレイ広告事業全体を統括。複数の関連会社取締役を兼任。2015年9月より一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアム理事。

LINE株式会社 波形 虎さん
Ads Platformプロダクトマネジメント室 室長。フリーエンジニアなどを経て2005年7月ヤフー株式会社入社。以来一貫して広告プラットフォームおよびB2B向けシステムの企画、設計、開発、運用に携わる。2016年7月、LINEに入社し、運用型広告配信プラットフォーム「LINE Ads Platform」などB2B向けプロダクトマネージメント、開発部門を統括。

広告のテクノロジーはいろいろ進化しているので、まずはインターネット広告がどう変遷してきたのかをLINE波形さんにご説明いただきます。


まず、1994年に登場したのがバナー広告です。当時は記事に関係のない広告も多く、バナーをクリックするとそのサイトに飛ぶというもの。美術館の広告のバナーを出したところ、6割ぐらいの人がクリックしたそうです。

バナー広告は今でもWebサイトでよく見かけると思いますが、Webサイトの上部や下部に常時表示、スマートフォンではオーバーレイで表示させるなどがあります。基本的にこれは表示回数やクリックした回数で広告主からお金をもらうというスタイルになっています。


一番早く始まったネット広告って、バナー広告なんですね。


1996年にはコマース広告が登場します。コマース広告では商品画像などをブログに貼ってもらい、それ経由で購入してくれると報酬がブロガーに支払われるというもの。いわゆるアフィリエイト広告のことですね。


1998年には検索連動広告が登場します。検索結果の上位に出るものに適合した広告を出すというもの。これはキーワードを広告主に購入してもらい、入札してもらうものです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

アドテクノロジーを提供する会社は爆発的に増えている


2010年に入って登場したのがソーシャル広告。例えばTwitterであれば、リツイートやフォロワーの「いいね」の数などを含めた指標を広告主に提供します。

また米国ではQuoraというQ&Aのサイトでも、今年から広告システムから始まるなど、さまざまなソーシャルメディアでソーシャル広告が立ち上がっています。


技術的な話題で数年前より台頭してきているのが、ダイナミック広告

eコマースの商品データの正規化などを行ってそのまま広告システムに流し込み、ユーザーがWebサイトに訪れた瞬間にその人の目的にマッチした商品に関連する商品の広告をダイナミックに表示するというもの。日本だとGoogle、Criteo、Facebookなどがこれらの広告技術を提供しています。


この辺になると、エンジニアリングがめちゃんこ複雑化してきてますね。


はい。自動化の流れが進んでいるのと、ユーザーに嫌われないようなレコメンデーションするという技術が求められています。


これまでの話にもあったように、広告の種類は増えていますが、広告の目的は昔からシンプルで変わっていません。広告主はできるだけ費用をかけず、できるだけ多くの見込み客に見てもらいたいと思っています。

一方媒体運営会社はできるだけ高く広告枠を売り、他のサイトより多くの枠に広告を出したいと思っています。広告主と媒体を繋いでいるのが、アドテクノロジーです。アドテクノロジーを提供している会社をマッピングすると、このカオスマップのようなカオス状態になります。

出典:Jp chaosmap 2014-2015 by Hiroshi Kondo

2010年度でもすでに多数の事業者が存在しているのに、2016年度はさらに増え、複雑化しています。

出典:Jp chaosmap 2014-2015 by Hiroshi Kondo

こういう状況の中で出てきた概念がアドエクスチェンジです。

アドエクスチェンジとは広告枠を「入札型のインプレッション課金」で取引する広告取引の仕組み。証券取引所と近しい仕組みです。広告主はDSP(デマンドサイドプラットフォーム)で、配信したいターゲットや予算、バナーなどの素材を一元管理し、自動的に広告配信を行います。

出典:アドテク勉強会@Shoho Kozawa

一方、媒体側の情報を一元管理するのはSSP(サプライサイドプラットフォーム)。DSPとSSP、アドエクスチェンジを連携させることで、「僕の広告枠を買ってください」という複数媒体と「その枠が欲しい」という複数の広告主がリアルタイムで取引を行う。この仕組みにはたくさん技術が使われているが、最も重要なのがリアルタイムビッティング(入札)という技術です。


ネット広告が誕生してから20年ぐらいでここまで進んできたということですね。


一般的にビッティングでよく使われるのが、一番入札価格の高い人が落札するファーストプライスオークション。ファーストプライスオークションの問題は、どんどん値段がつり上がってしまうこと。

そこで、インターネット広告に関してはセカンドプライスオークション方式を採用することが多くなった。セカンドプライスオークションはAさんが100円、Bさんが200円、Cさんが300円で入札した場合、Cさんが200円もしくは200円+1円で落札できるという仕組みです。


一番高い値段を付けた人が、2番目の人の値段で落札できるのはいいですね。


例えば自分は500円で入札したけど、2番目の人は100円ということもあります。そういうことを防げるということ。実はこの仕組みは複雑なので普通のオークションでは使われてこなかったんです。インターネットと広告のオークションが生まれたことで、この方法が使われるようになりました。


「グーグル ネット覇者の真実」という書籍に、Googleの検索連動型広告がセカンドプライスオークションを採用し、世間に広めたたキッカケが、書かれてますね。

Googleは検索連動型広告を2000年頃から作っています。当時、この分野で先行していたのがオーバーチュアの前身のGoTo.com(後にYahoo!に買収)でした。

Googleのカルチャーは「広告が嫌い」。当時Googleでグローバルオンラインセールス&オペレーションズで副社長として務めていたサンドバーグさん(現Facebook COO)は、広告を出す仕組みをもっと良くしたいと考えていた社内の仕組みを世間にわかりやすく伝えるために、前職の上司である財務長官に相談したところ、「セカンドプライスオークションだね」と言われたそうです。

それはアメリカ政府が債権を売るために使っているオークションと同一の方式でした。ここからインターネット広告はセカンドプライスオークションがスタンダードになりました。


そういえば、1990年代後半くらいに爆発的に大人気だった「侍魂」というテキストサイトがあって、そこの管理人の人に聞いたんですが、ある広告主から「うちの商品のバナーをここに貼ってほしい。1クリックにつき10円~15円をお支払いします」という話が来たので、「やったー!」って引き受けたら、読者が侍魂を応援したいという気持ちから、「やったー!」ってクリックしたんですって。

その結果、広告主は大変な金額を支払うことになったらしいんですけど、結局1カ月で広告料が払えなくなってバナー広告を打ち切ったっていう。

言われてみれば、昔はそういう、「バナーをクリックして応援!」みたいな文化ってネット上にあったじゃないですか。「1クリックお願いします!」とか。

今はああいうクリックでは、お金が入ってこない仕組みになっているんですかね?


最近はロジックで判定して、スパムクリックやスマホの誤タップは非課金にしていますね。


たまに「次へ」をタップしたつもりが、シュッって不意打ちみたいにあがってきたバナーをタップしちゃって、アプリのダウンロード画面が表示されることがありますけど、あれは収益が発生していないんですか?


広告における無効なトランザクションや、クリックを排除するサービスを専門に提供している会社もありますよ。


先のマップでいうと、ベリフィケーションにカテゴライズされているサービスがそうですね。


MOAT、Momentumなどがそうしたサービスを提供している会社です。

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インターネット広告の未来はどうなる?


で、今までこうやって発展してきたインターネット広告ですが、今後どうなっていくんですかね。


広告は企業のマーケティング活動の一つですが、たくさんの人に届けられてなんぼという要素があります。従って、新しい技術を取り入れることが多い。今説明したインターネット広告以外にもさまざまな手法が登場してきています。

まずはBotやO2O。左はLINEの例ですが、チャットボットを使って、株価をお知らせしています。真ん中は渋谷109の例。LINEアカウントを使って、お店に入ったときに、このアカウントに問いかけるとお店を探すことができるというものですね。

そのBotやアプリは、LINEで公開しているチャットボットのAPIを利用していただいています。


これが広告になるということかぁ。


広告というよりレコメンドに近いイメージですね。興味のない情報が届いたら、ユーザーは不快に思ってしまうでしょう。だけど、コーラを買いたいと思っていた人に、コーラが安いという情報が届くと嬉しい。Botサービスによって、そういった世界観が実現できると思います。

「以前にスーパーでコーラを買った」という情報をBotが把握して、「コーラを買う」とユーザーが入力すると、「こんな情報がある」と回答が来るというようなインタラクティブな仕組みで、広告としては新しいものになります。


これはマーケティングの入り口で、企業が普段の我々の先鞭をするポイントになり始めたという例ですね。

次はBeacon(ビーコン)の活用で、KIRINとの協業の例を紹介します。KIRINの自動販売機にLINEの画面をかざすことで、ビーコン機能(LINE Beacon)と連動させ、購入時にLINE Payで支払えるようにしたり、付与されるドリンクポイントを15個集めると1本もらえるというポイントプログラムも実施しています。

また日本コカ・コーラも、自動販売機を活用し、自社アプリを活用したキャンペーンを実施しています。同社でも今後、Beaconを活用していくと思われます。


インターネット広告は「このメディアのこの広告枠が欲しい」いう『枠』から、「ヨッピーさんだから出したい」というように『人』に変わり、今はコンテキストを理解して広告を出すという方法に変わっています。そのサイトにどういう目的できたのか、どういう心持ちで来たのかを把握し、有用な広告を出すことにチャレンジしています。

デジタルの良いところはデータを活用できること。この人は今何をしようとしているのか、それと同じ行動をした人のパターンから次の行動を予測する。これまでは自販機の前に立つだけだったのが、キャンペーンに応募するなどもできるようになり、ユーザーの気持ちがわかるようになっています。


データを取られることに拒否感のある人も多いと思いますけど。


絶対嫌だという人と、仕方ないが気持ち悪いと思っている人、どういうふうに使われているか知りたい人、いい情報が欲しいのでバンバン使ってほしいという人などがいると思います。


僕はバンバン拾ってくれって思ってるんですよね。「個人情報とかどうでもいいわ!」って思ってるので……。その代わりいいタイミングで良い情報が欲しい。究極なことですが、僕のGPSログがどこかのデータサーバに送られて、松屋でごはん食べていたら「また松屋ですか?ちょっとカロリー取り過ぎじゃないですか?」と注意してくれると便利だなと思う。


IBMでは常に5年後の技術的な予測をしています。その予測で過去に面白かったものが、5年後に迷惑メールが価値あるお知らせになるというもの。データを取得し、パーソナライズされた情報を推薦するという未来があると予言していました。

そんな未来の実現のために私たちは、ユーザーにとって良い広告を良いタイミングで出すことにこだわって取り組んでいます。


実際、個人情報をとられることで何か怖いことってあるんですかね?僕は政府が一度特区とか作って実験してみればいいんじゃないかなって思うんですけど。


たとえば、Googleは世界規模でそういった実験しています。例えばGoogleマップをよく使っている人はご存知だと思いますが、自宅や職場の場所がGoogleに特定されている。

最近はGoogleマップでメニューボタンを押すと、タイムラインという機能が出てきて、自分の行動履歴を見ることができます。例えば夜飲んでいるときに「あと15分で出ないと終電間に合わない」と教えてくれるサービスがあると、便利だなと思います。


そう!僕はまさにそういうのあるといいなって思ってますね!個人のデータはあげるから、そのかわりにスマホの中に優秀な秘書が入ってくれるぐらいになるといいなと。


私たちが目指しているのはその世界観です。


話が少しそれましたが、次はARの採用例を紹介しますね。コカ・コーラが2015年に実施した「SHAZAM」という音楽認識アプリと連動したキャンペーン。

SHAZAMを立ち上げ、会場や看板でコカ・コーラを注いでいる音を認識させて、注ぎ終わるとクーポンが出てくるというもの。ARでコーラを注ぐことをスマホ上で実現し、コーラを飲みたい気持ちを刺激します。

映画「エイリアン」のプロモーションでVRを活用した例も登場しています。パラサイトとした人間の体内からエイリアンの目線で出てくることが体感できるというものです。


最近の市場調査によると、市場規模予測は、VRよりARが伸びると言われているそうです。もちろん、VR/ARともに市場を盛り上げていくためのトライはしていきます。


AIやビッグデータなども注目の技術なんですね。


重要なのはデータです。データがないとユーザーに優しく、広告主にとっても良いという広告が生まれない。この点は昔から変わっていません。ユーザーへの直接接点のある広告は、ユーザーが関心のあるARやVRという新しい技術を使いながら、裏側では地道にデータを使って悪いものは排除し、より良いものを推薦するのが基本となります。


新しい技術を使ってマーケティングをしたいという広告主はたくさんいます。これはヤフーの場合ですが、バナーやテキストは、広告ストックが膨大にあり、毎秒30万ぐらいのリクエストがあります。ユーザーがページを開いてから最も効果の高い広告を約0.2秒で表示します。それをいかに速く出していくのかという技術も追求していかねばならない。

例えば、訴求したい商品とは関係なく、クリックを促そうと思って露出を高い女性の画像を使っている広告などは、広告審査で落とさないといけない。こういった審査の仮定では人の目を使う一方、AIのテクノロジーも活用しています。例えば、○パーセント以上の過度な肌の露出のある広告クリエイティブや、特定のキーワードが使われている広告は振り分けするというようなところに、AIはどんどん活用されています。

広告はなぜ嫌われる?


最後のテーマは、なぜ広告は嫌われるのか。会場でも広告が好きじゃないという人が圧倒的に多いみたいで!


私も広告はクリックしないし、オーバーレイは嫌いですね。


現状だとまっとうな広告とまっとうでない広告との棲み分けがないですよね。明らかに釣り、明らかにステマ、という広告もある。

誤クリック狙いみたいな変な広告もまだまだたくさんあるし。そういう負の部分が目立って十把一絡げに広告は悪と思われているところもあるのでは。


広告をクリックさせると掲載先のメディアに収益が入る。楽して収益を得ようと考えているメディアは、そうしたユーザーインタフェースにしていることが多い。品質の高くない商品を買わせようとするケースもある。そのような不誠実な側面も見られ、広告が嫌われる要因のひとつとなっているのではないかと思います。


Webサイトにおけるステマ問題は、以前に比べればだいぶ解消されてきつつあるようなような気がしていて、僕も広告の企画をやる事が多いのであからさまに広告が嫌われると困るなぁという気持ちがある一方、広告を嫌っている人たちが多いおかげで、自浄作用が働くっていう部分はある気がするんですよね。


これまで広告のネガティブな面も言及されてきましたが、広告にはさまざまな目的があります。まず、マーケティング施策におけるファネルという概念。商品を知ってもらい(認知)、興味・関心をもってもらい、比較・検討し、最終的には購入へと到るというものです。第一段階である認知のフェーズでは広告がないと経済が成り立たないと思っています。


井上さんが言う通り、広告は大事なものだし、使い方によっては武器になるけど、最終的には商品そのもの力がないと話にならないですよね……。僕は広告も大事だけど商品も大事ということで、いくらステマや悪い広告で商品を売りつけようと思っても、商品そのものに魅力がなければ最終的には淘汰されていくものだと信じてます。


私もその組み合わせだと思います。あまり美味しくないレストランがいくら宣伝しても、一度は訪れたとしても二度と行かないというように。でもやはり美味しいだけでもダメで、マーケティングゼロだとやっていけない。

美味しさを追求する一方で、ちゃんとマーケティングしていく。こういうことで良い広告のスパイラルが生まれると考えています。悪意のある広告主やユーザーインタフェースはシャットダウンするよう、審査を非常に強力にするよう注力しています。Google Chromeではこういう形の広告はNGですという取り組みはしている。


技術で解決できると。


サードパーティーが提供する広告の技術はビジネス的な要素も多いので、すごい技術があるわけではありません。でも、GoogleやFacebookなどの企業は違います。

例えばGoogleではかつて、広告の入稿のデータベースにMySQLを使っていましたが、課題があったので、大規模分散リレーショナルベースDB(F1)、さらに広告用のDWH(Mesa)を構築。それを論文で発表しています。

これらはオープンソースにはならないと思いますが、ここにはものすごい広告技術が入っています。このように広告はビジネスが絡むので、外には出ない技術がたくさんあります。

しかも広告のシステムはレガシーのままではビジネスが衰退してしまうので、新しい挑戦をしていかざるを得ない。しかしこれらの技術のコアとなるのはデータ。それを取得すること。インターネットであればデータが取れるので、適切でない広告はだんだん淘汰されていくと思います。

不快な広告は出さないというのが私たちの目指すところ。メディア側も広告主側もそれを目指しています。


なるほど。広告技術は面白いですね。アドテクのエンジニアはとにかく足りないそうなので、ぜひ、興味のある人はチャレンジを!

※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。

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