【東大卒・元マッキンゼー】芸人・石井てる美「大切なのは、流されず自分自身を信じること」

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 東大を卒業して世界最大の外資系コンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」に就職。そこでなぜか心機一転して会社を辞め、お笑い養成所に入学。お笑いの世界に足を踏み入れた異色の女性芸人・石井てる美さん。なぜ順風満帆のキャリアを捨て、お笑いの道に飛び込んだのでしょうか。また、受験勉強とコンサルティング会社で鍛えたその頭脳を、「お笑い」というフィールドでどのように活かしているのでしょうか。石井さんのこれまでの経歴と、これからの展望について聞いてみました。

お笑いの世界には、正しい答えがどこにもない!

――芸人になってから苦労したことは何ですか?

石井:まず、ネタが全然できなかったですね。私はもともとお笑いをそんなに見ていたわけじゃなくて…。学生の頃から、友達に冗談を言ったり、人前に出てふざけたり司会みたいなことをやったりするのが好きで、そこから芸人になりたいと思っただけなんです。

 だから、最初はネタの作り方も分からなかったし、自分がやりたいことを形にするにはどうすればいいかも見えていませんでした。でも、いま思うと、養成所にいる間はお笑いの世界の厳しさもよく分かっていなくて、あまり危機意識も持っていなかったかもしれないですね。

――昔から友達を笑わせたりするのは好きだったそうですが、そのやり方がプロの世界では通用しなかった、ということでしょうか。

石井:そうですね。私は、自分では昔から友達をガンガン笑わせていたと思っていたので、芸人になっても同じようにお客さんを笑わせられるはずだと思っていたんですよ。でも、いざ舞台に出てみたら全然ウケないし、これはまったく違うことなんだなって思いました。

 最近になってようやく、一周回って結局は同じことなのかも、とも思うようになってきました。友達を笑わせるときに言っているようなことを、大勢のお客さんの前でも言えるかどうか、っていうのがポイントなんですが、それって実は結構勇気が要ることなんです。自分のことを全く知らない大勢の人の前でも、いつもの素の自分をちゃんとさらけ出すことができれば、人を笑わせることができるのかもしれない、という気がしています。

――石井さんの学力を生かして、お笑いの世界をロジカルに攻略することはできないのでしょうか?

石井:いやあ、全然できないですね。大学受験の問題って、必ず答えがあるじゃないですか。東大の入試問題も、義務教育の教科書の範囲内で解けるという前提で作られているんです。過去の入試問題を調べて、問題の答えを見て、そこにどうやってたどりつくかを考えればいいだけなんですよ。

 でも、お笑いの世界では答えがありません。何を目指して、どの答えに向かって走っていけばいいか分からない。それがクリエイティブな世界っていうことなんでしょうね。学校の勉強では与えられたものをこなしていけばいいんですけど、お笑いでは何もないところから始めて、ゼロから1を作り出さないといけないんです。

 東大に一度入ると、「これに乗れば大丈夫」っていう人生のレールがたくさん敷かれていて、ある程度は食いっぱぐれない安定の人生が保証されている。そして、基本的にはそれを求める人が入る大学なんですよね。もちろん東大に入った人の中でも、何らかの分野で圧倒的な才能がある人なら、それを伸ばしていけばいいのかもしれません。

 おそらく私みたいな凡人は、せっかく東大に入れたんだから、そこに乗っかっていた方が安泰な人生を生きられたと思うんですよね。実力も才能もないのに、わざわざ丸腰で勝負しなきゃいけない世界に飛び込むのは無謀なことなんでしょう。けれども私は、せっかく生まれてきたのに、チャレンジしないで先が見える安定の人生を送るのが楽しいとは思えませんでした。リスクを承知で、この世界に飛び込んだんです。

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勤務中に笑いなんてもってのほか! 渾身のギャグもスルーされたマッキンゼー時代

――マッキンゼーで働いていたときの、職場の雰囲気はいかがでしたか。冗談で同僚を笑わせたりすることはあったのでしょうか?

石井:一度、仕事が終わった後のディナー中に私が冗談を言ったら、男性の上司に「石井さん、プロフェッショナルとしての自覚を持ってください」ってピシッと言われたことがありました。それで新人だった私はすごく萎縮しちゃいました。たまたまそのときにその方がちょっとピリピリしていただけで、全員が全員そういうタイプっていうわけじゃないですけどね。

 ただ、「コンサルの人にしか通じないジョーク」みたいなのはあるかもしれません。あるとき、先輩の男の人が女の人の顔の好みについて話していて、「顔全体は○○だけど、鼻は△△な人がいいなあ」って言うので、「先輩、それミーシーじゃないですよ」と返したら、すごくウケてましたね。たぶん意味が分からない人が多いと思うんですけど、コンサル用語に「ミーシー(MECE=重複なく、漏れなく)」という言葉があって、それを使ったら笑ってもらえました。

 あと、ワークショップでチーム分けをするために、「社員を3つのグループに分けるので、順番に1、2、3と1人ずつ言っていってください」という指示が出たときがありました。ちょうどその時期に、世界のナベアツさんの「3がつく数字と3の倍数でアホになる」というネタが流行っていて。私だけそのネタを真似して、小声で「3!」ってアホっぽく言っていたら、誰も何もツッコんでくれなくて、ただただスルーされたことがありましたね(笑)。本当に皆さん真面目に働いているので、私の経験上では、勤務時間中にギャグを言うとかふざけるとか、そういうことができる雰囲気はなかったです。

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売れている人はみんな「周りに流されず、自分自身を信じている」人

――最近のお仕事の調子はいかがですか?

石井:今年に入ってようやく、初めてテレビでネタをやることができたんです。これは目標の1つだったので嬉しかったですね。次の目標は「自分が心からやっていて楽しいと思えるネタでテレビに出る」ということです。今まで作ったネタの中で、個人的にいちばん好きなのは「短足時代」というネタ。韓国のアイドル「少女時代」のパロディーキャラで、私が「短足時代」というアイドルを名乗って、短い足をさらけ出して踊る、っていうだけのネタなんですけど(笑)。

――これまでに、石井さんの身のまわりにいた芸人仲間が、ほぼ無名の状態から一気に売れていく過程も何度か見てきていると思いますが、そういう人たちの特徴って何かありますか?

石井:同じ事務所のあばれる君さんもやしろ優さんも、のちに売れている方って、昔から周りの目を気にしていないというか、ただ自分の信じることを最初からずっと続けてきた方なんですよね。若手の頃って、いろいろな噂話とか他人の評判とか意見が耳に入ってきて、どうしても振り回されがちになるんです。でもそういう声に流されて、周りを気にしてばかりの人はだいたい続かなくて、途中で辞めていってしまうことが多いんです。

 やしろ優さんは昔から全然そういうことを気にされていない感じがしました。自分が面白いと思うことをただ素直に表現していて、それを心から楽しんでいるように見えるんです。今のように世に出る前から、「いつか売れたときのために、今はこういうライブをやっているんだよね」とか、そういうことをサラッと言っていて。そうやって、自分の心が求めていることと実際にやっていることのチャンネルがかっちり合っている人が、何かのきっかけで売れていくものなんでしょうね。

 私自身、学生の時から「目標達成至上主義」みたいなものが身についてしまっていて。なかなかプロセスを楽しむことができなかったんですが、やっぱり「魂が喜ぶことを素直にやる」というか、猛烈な思いみたいなものが、笑いに繋がっていくのかなって、最近実感しています。

――石井さんの今の目標を教えてください。

石井:まずはもっともっと面白いネタを作ること。あとは、最近講演会に呼んでいただくことがあって、私の経験が少しでもだれかの役に立つのなら、と積極的にお受けしていて、そういう機会をもっと増やせたらと思います。そして2018年の平昌(ピョンチャン)冬季五輪でレポーターをすること! フィギュアスケートが昔から大好きなので、何とかそれを実現させたいですね。

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 東大卒、マッキンゼー出身という肩書きだけを見ると、エリート街道を突き進むバリバリのキャリア女性を想像してしまうかもしれませんが、実際の石井さんはそのイメージとは正反対。未知の世界で不器用にもがきながらも必死に知恵を絞り、次々に新しい課題に挑んでいく姿が印象的でした。前向きに仕事に取り組むその姿勢は、職種は違っても働く人すべてにとって参考になるのではないでしょうか。

石井てる美さん/プロフィール

1983年、東京都出身。東京大学工学部卒業、同大学院修了。2008年、経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパン入社。お笑い芸人になることを志し、2009年夏に退社。同年10月、芸能事務所ワタナベエンターテインメントのお笑い芸人養成所ワタナベコメディスクールに11期生として入学。現在、ワタナベエンターテインメント所属のお笑い芸人として活動中。TOEIC 990点、英検1級。著書に『私がマッキンゼーを辞めた理由―自分の人生を切り拓く決断力―』(角川書店)

WRITING:ラリー遠田+プレスラボ PHOTO:安井信介

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