【連載・“最高の授業”を世界の果てに 1】“ドラゴン桜”を五大陸で実現した現役早大生

落ちこぼれの高校生が、東京大学合格を目指す人気漫画『ドラゴン桜』。有能な予備校講師の授業を、DVDを通じて全国で受講できる『東進ハイスクール』。この2つの教育モデルをヒントに、途上国の農村部で、国内随一のカリスマ教師によるDVD授業を展開。2010年に足立区の落ちこぼれだった19歳の若者が、自らの感動体験をもとにバングラディッシュで始めた“最貧国ドラゴン桜e-Educationプロジェクト”は、いまや世界五大陸に広がっています。
“距離やお金といった壁を壊し、全ての若者が可能性に挑戦できる世界を作る”―そんな野望に燃えながら、こうと決めたら即断速攻で、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士にも会いに行く。その行動力とエネルギーの源は一体どこからきているのでしょうか? 東大、京大、ユニクロ、DELLがこぞって出資する今注目のe-Education代表、税所篤快氏(早稲田大学7年生・24歳)に聞いてみました。

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――e-Educationのミッション“挑戦できる世界をつくる”ことは本当に可能ですか?
貧富の格差があったとしても、教育のチャンスというか、スタートラインはある程度平等であるべきだというのは信念としてあります。どこまでいけるかは、やってみないと分かりませんが。ひとつだけ言えるのは、明らかにビジョンに近づいてきているということ。僕と共同代表の三輪開人とマヒンと、そのほか数名しかいなかった仲間が、今では20人くらいまで増え、さまざまな国でチャレンジが広がっています。

――学生起業にはもともと興味があった?
偶然その時にニーズがあったからやっただけで、学生起業を意識したわけではありません。

――3年半続けてみて、改めて実感していることは?
“社会課題をビジネスの力を使って、ドライブしていく”というソーシャルビジネスのコンセプトは大好き。でも、普通のビジネスでも難しいのに、貧困層を巻き込んでやっていくのは本当に難易度が高いと実感しています。ビジネスに非常に精通したひとがやって、なんとかマネジメントできるかできないかのことだと。経験の浅い20代がやるにはとてもチャレンジングです。

――“ソーシャル”と“ビジネス”の垣根をどこで見極める?
パレスチナのガザ地区のような、経済封鎖されているところだと、やはりビジネスは難しい。最底辺の人たちに対しては、国連などの国際機関がしっかりとギブアンドギブベースの援助をしないといけません。ただ、もう少し先へ進んだ時に、ギブアンドギブのままだと依存体質になってしまうので、そこでビジネスの手法を取り入れられたら良いと思います。

――世界の教育問題で共通していることは?
学びたい生徒に対して、優秀な教員のリソースが足りないことです。教師という職業自体、どこの国でも給与が低いため、人気がなく、なりたい人が少ない。尊敬される職業ではないというのが一番の問題です。日本の待遇は世界的に見てもかなり恵まれています。新興国の先生たちの給料は、日本だと15、16万円くらい。どうしたって良い人材が集まらないですよね。中には志の高い方もいますが、職がないから仕方なく続けている方も少なくありません。そういう先生たちは給与の良い職があると、そちらに移ってしまうんです。

――言葉が通じなくても「すごい!」と思うカリスマ教師の共通点は?
その場の空気感で、生徒たちがその先生を好きかどうかを見ます。生徒たちの表情やまなざし、リアクション。先生の声の張りやリズム。あとは、よく生徒を見ているかどうか。逆に人気のない先生の授業は、エネルギーがありません。教科書の丸読みや丸写しだけの授業はやはりパワーを感じませんね。普通の授業をして普通にやり過ごす先生が大多数だから、そうでない先生は目立つし、人気が出るのでしょう。

――カリスマ教師とはアポなしでも会えます?
アポは取ろうとしますが、取れない時は直接行っちゃいます(笑)。会いたい人がいると、どうにかして会いに行きます。すると、出会えてしまうんです。最近、僕らはそんな奇跡的な出会いを遊戯王カードにちなんで「神ドロー」と呼んでいます。実際、そういう先生たちの授業は神がかっていますから。

――諸外国で身の危険を感じたことは?
僕は足立区出身なので、「アイツ、狙っているな」という、からまれそうな視線にはとても敏感。からまれる前に視界から消えて、方向転換するという技を足立区の中学校で自然と培いました。中学の時は生徒会長だったので、いじめがあると立場上、入らなければならないんです。生徒会長としてメンツを保ちながら、どう不良たちと関係性を保っていくか…。ずいぶんと鍛えられました。

僕、剣道部だったんですよ。剣道には竹刀で相手の注意を逸らしてから、最後に面を取る技があります。僕が不良相手にやるのは、逸らすところまでで、最後の面打ちはしません。手を大きく広げて、ヒーローちっくにかっこよく止める…なんてことはなく、「そういえばさぁ」とさりげなく話しかけて、漫画の話で気を逸らす。だから仕返しもされない(笑)。

高校や大学と違って、小中学校って、いろんな生徒がいるじゃないですか。中学のなかにダイバシティがある。そこでどうバランスよく付き合い、コミュニケーションするか。人間関係は体で学んだところが大きいです。

※「リクナビNEXT+1cafe」2014年1月13日記事より掲載。年齢・役職等は取材当時のもの。

※現在のe-Educationの代表は三輪 開人さん。

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取材・文:山葵夕子
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