【20代の不格好経験】見切り発車で会社を立ち上げたが、仕事は来ず。食うや食わずの貧乏生活に~ピクシブ代表取締役社長 片桐孝憲さん

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今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいた経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、そんな「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第7回:ピクシブ株式会社代表取締役社長 片桐孝憲さん

株式会社nanapi代表取締役 古川健介さんよりご紹介)

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(プロフィール)
1982年静岡県生まれ。 2005年Webシステム開発会社を創業。2007年イラスト・コミュニケーションサービス「pixiv」をリリース。2013年からコスプレコミュニティサイト「Cure(キュア)」の開発・運営も手掛ける。2014年はアイドルグループ『虹のコンキスタドール』をスタート、10月には六本木ヒルズでのお絵描きイベント『pixiv祭』、11月にはWeb同人音楽イベント『APOLLO』を開催する。

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▲「お絵かきがもっと楽しくなる場所を作る」を目的に作られた「pixiv」。 イラスト・漫画・小説の投稿、評価、タグと呼ばれるキーワード付けやお気に入りの作品のブックマーク、コメント機能など、「作品を通したコミュニケーション」を重視している

■事業計画も立てずに起業。「会社を作れば儲かる」と本気で思っていた

 うーん、細かい失敗がありすぎて一つひとつを覚えていないという感じなのですが…。あえて一つ、大きな失敗を挙げるとすれば、「勢いだけで会社を作ったことが失敗」でしたね(笑)。
 現在は、「pixiv」が多くの支持を集め、海外にもユーザーが広がっています。今となっては結果オーライなのですが、立ち上げ当初は苦労の連続で、なぜ会社を作っちゃったんだろう?って思っていました。

 大学時代に出会ったインターネットにハマってしまって、2005年に大学を中退して仲間と3人で会社を作りました。気心の知れた仲間と一緒に、好きなインターネットで仕事ができれば、毎日が楽しいぞ!という、今となってはあまりに安易な理由で。
 会社設立前は、明るい未来しか考えていませんでした。起業したら新しい事業アイディアがどんどん生まれて、仕事がいっぱい来る。上手くいくに違いないと、本当に真剣に思っていたんです(笑)。社会を全く知らないのに、世の中の経営者よりも若い自分のほうが絶対にデキるって、根拠もなく信じ込んでいました。

 でも実際に起業してみたら、当然のことなのですが、仕事なんて全然来ない。アイディアだってそう簡単に浮かぶものじゃない。そもそも、ろくに事業計画すら立てていないのに、会社を作れば仕事が勝手に舞い込むなんて、妄想にもほどがありますよね。
 でも会社を作ってしまった以上、食べていかなきゃいけない。3人もいますから、そこそこ稼がないと生きていけない。だから、友人知人に頼みこんで、ホームページ製作などWeb系の小さな受託開発業務を集めて、日銭を稼いでいました。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

■日銭稼ぎに追われても、会社を大きくしたいという「欲」は忘れなかった

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 そのうち、少しずつ仕事が増えていきましたが、数をこなさないと会社が回らない。だから常に納期に追われていました。大事なクライアントから飲みに誘われても、別のクライアントの納期が迫っている。お店にパソコンを持ち込んで、カラオケで歌いながら仕事をしていたこともありました(笑)。

 当時は本当に、お金がありませんでしたね。当時からオフィスは千駄ヶ谷に構えていて、歩いてすぐのところに家賃5万円の1Kのアパートを借りて創業メンバーと住んでいました。山手線の内側にあるのにたったの5万円ですから、大体スペックは想像できますよね。冷暖房がないから夏は暑いし冬は極寒、一応お風呂が付いていたのですが水漏れのせいでボロボロで、入れませんでした。
 また、自社にサーバーを持っていたのですが、サーバールームなんて借りられないから、狭いオフィスの中に置いていました。だから、サーバーの発する熱があまりに暑すぎて、社員が外に逃げ出したりしていましたよ(笑)。ある日の夜、急にサーバーが止まったので慌ててオフィスに戻ると、創業時からオフィスで飼っていた犬がオシッコしていたのが原因だったとかね。もう毎日がドタバタですよ。

 サーバーの熱に耐えながら、受託業務を夜中までこなして、疲れ果てて家に帰り、布団に倒れ込む。こんな生活が2年ぐらい続きました。でも、布団に倒れ込んだ後にふと新しい企画が頭に浮かんだりして、ガバっと起きてまた会社に戻り、企画書をまとめたりしていましたね。不安は常にありましたが、会社を大きくしたいという「欲」は常に持っていました。

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■「pixiv」ができたことでブレていた方向性がようやく定まり、軌道に乗れた

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 会社を設立して1年ぐらい経った2006年頃、SNSやブログが流行り始めました。「こういうWebサービスなら自分たちにも作れそうだし、自社サービスを立ち上げれば収益の柱ができる」と考え、受託業務の合間を縫っていくつか手掛け始めたのですが、なかなかうまくいきませんでした。

 そんなときに、昔からの友人で、一緒に仕事もしていた上谷(現・ピクシブのリードエンジニア・上谷隆宏氏)が、「イラストレーターが集まって作品を紹介し、評価し合えるような、イラストに特化したSNSを作りたい」と言ってきたんです。彼の中ですでに構想はでき上がっていて、コンテンツもできているものの、運用するサーバーがないから貸してほしいという。そんなイラスト特化型のSNSなんて人が集まるはずがない、せいぜい100人ぐらいだろうと思いながらも承諾し、2007年9月から「pixiv」をスタートさせたところ、3日でユーザー数が2000人を超え、1週間で1万人を超えてしまったんです。驚きましたね。

「pixiv」がここまでの支持を集めたことももちろん嬉しかったのですが、一つの事業として「pixiv」という軸が一本通り、これから何をやっていけばいいのかという方向性が見えたのが何より嬉しかった。もう、日銭稼ぎに追われながら、これからの方向性に思い悩んで迷走することもない。この線で突っ走ってみようと思えたことに、喜びを感じましたね。そこから、会社はガラリと変わっていきました。

 それから7年が経ち、今に至るわけです。会社を作ったこと、事業計画も何もなかったことも結果オーライでしたが、同じように何も考えずに起業して成功するかどうかは運次第だと思います(笑)。
 起業して9年経ちましたが、今は「pixiv」の運営と人材採用、新規サービスの企画に打ち込むことができています。当時の苦労を忘れることなく、皆に支持されるWebサービスを提供し続けたいと思っています。

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※次回は、片桐さんのご紹介で、株式会社ユーザベース 代表取締役共同経営者の梅田優祐さんが登場します!

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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