”百獣の王”武井壮さんの仕事論「クオリティを上げたいだけではアマチュア。高い技術で周りを元気にするのが、プロ」

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大学生で陸上を始め、2年半で十種競技のチャンピオンに。
その後、ゴルフ留学、野球選手を経て、30歳の時、タレント活動を開始。
そこから9年、「百獣の王」として大ブレイクするまで、どんな葛藤があったのだろうか。

■頭で考えたイメージをそのまま体現できることがスポーツの基本

陸上を始めたのは、大学生の時です。中学では野球、高校ではボクシングをやっていました。スポーツは昔から得意だったんですが、いろんなスポーツをしていたのには理由があります。実は小学校のころ考え出した独自のトレーニング理論がありまして。それが正しいことを証明するために、さまざまなスポーツで1番になりたかったんです。

どのスポーツも短期間で上達しましたが、特に陸上では、2年半で十種競技の日本チャンピオンになることができました。

その理論とはどんなものかというと、「まず真っ先に習得すべきなのは、頭の中で考えたイメージを、そのまま体現できるようになること」というものです。それができずにいくら練習して上達しても、自分自身を操作する技術が向上したわけではなく、ただの反復練習の成果にすぎないんです。それだと、一つのスポーツを習得するのに長い年月を費やしてしまいます。

小学校のころ、ホームランを打ちたくてもなかなか打てなくて。どうして打てないのだろうと不思議に思っていた時、たまたま父親がビデオカメラを買ってきたんです。そこに映った自分のバッティングフォームを見たら、思っていた姿とは全然違っていた。当時憧れていた野球選手をイメージして打っていたのに、そこに映っている姿は全く違うものでした。それがスポーツがうまくいかない理由だと気づいたんです。そこからは、自分がイメージする通りに体を動かす練習を始めました。そうしたら、いろいろなスポーツが簡単に上達するようになりました。

自分がイメージする通りの動きができる人って、意外と少ないんですよ。例えば、目をつぶって、右手を地面と水平に上げてみてください。目を開けると、正確に水平には上がっていないと思います。じっとしている時に思った通りに身体を動かせなければ、イメージ通りのフォームでは投げられない。まず、自分の体を思ったように動かす練習を積むことが大事なんです。

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■日本チャンピオンになったのに、誰も注目してくれない

そうやって十種競技(二日間で十種の競技を行い、合計得点で競う陸上競技)で日本チャンピオンになれたわけですが、実はひどくがっかりしたんです。全く注目されなかったから。チャンピオンになったらスターになれる、人生が開けると思ったのに、街を歩いていても誰も自分に気づかない。だったら、テレビでたくさん放映されているゴルフだったらいいんじゃないか。そこで一番になったら自分の求めているものが手に入るんじゃないかと。それでゴルフに転向しました。

ゴルフ留学でアメリカにわたり、試合に出られるくらいにはなったんですが、やっているうちに太ってしまって。陸上とゴルフではカロリー消費量が違うんです。しかもアメリカにはハイカロリーフードがたくさんありますからね。それで減量のために山に走りに行ったんですが、そこで巨大な鹿と遭遇したんです。「襲われる!」と思ったら、腰が抜けてしまって。でも、そのまま鹿は走り去って、事なきを得たのですが、人生を揺るがす衝撃を受けましたね。陸上でチャンピオンになって、ゴルフもできるようになったけど、山の中で鹿に出会ったら何もできなかった。これではいかんと、急いで日本に帰りました。動物図鑑を買い込んで動物を調べまくり、まずは動物から身を守る能力を得るためのトレーニングを始めました。

野球を再び始めたのもそのためです。動物から身を守るのに一番有効な技術は、物を投げること。ならば野球だなと。台湾のプロ球団のコーチをやったり、茨城ゴールデンゴールズという球団で投手もして。陸上のトレーニングを再開して大型の草食獣から逃げる走力も磨きました。それによって現存するすべての動物と戦うためのシミュレーションができました。

それを始めたのが30歳のころ。実はそのころから、芸能界の仕事も少しずつ始めます。それは早くに亡くなった兄が俳優をしていて、いつかその意思を継ぎたいという思いがずっと心にあったからなんです。

39歳で『うもれびと』という番組で注目を集めてから2年半。
今ではテレビ、ラジオ、CMと、大変な人気者となった。
武井氏が、一番大切にしてきたこととは、なんだろうか。

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■いくら能力が高くても、人を喜ばせられなければ価値はない

いま一番大切にしていることは、「僕を見てくださる人がどれだけ喜んでくれるか」ですね。昔は、「自分の能力」と答えていたと思います。どうしたら一番になれるのか、そればっかり考えて練習を積んでいましたから。でも、それでは誰も僕を見て喜んではくれなかった。

30歳で芸能界の仕事を始めるようになって学んだことは、「どれだけ能力があっても、人が喜んでくれなきゃ、お仕事はいただけない」ということ。たくさん見てくれる人がいて、その人たちが楽しんでくれないと、価値は生まれないんです。いくらオリンピックに出たって、それだけでは世間は覚えてくれない。感動したり泣いたり笑ったりしなきゃ、またその人を見てみたいと思ってはもらえないんです。プロである以上、人が喜んでくれることが価値なんですよ。いくら技術が高くっても、見ている人たちが楽しんで笑顔になってくれなきゃ、価値がないんです。

今みたいな気持ちでやっていたら、十種競技でもスターになれていたかもしれないと思います。昔は、自分が注目されないのは、マイナーなスポーツをやっていたからだと思っていたけど、実はそうじゃない。自分自身が人を楽しませる力がなかったからなんです。

自分がどうなりたいか、ではなく、どうしたら人が喜んでくれるのか、こんな風に意識が変わった途端、発言が変わっていきました。表情も変わったし、人への態度も変わりました。行動すべてが変わったんです。そうしたら自然と応援してくださる方が増えていきました。

■自分のことを考えているうちは、自分の欲しいものは手に入らない

自分のことを考えているうちは、欲しいものは手に入らなかったのに、人の気持ちを考えるようになって、自分の欲しいものが手に入るようになった。これには驚きましたね。

昔は「ありがたい」とか、そんなことは考えもしなかった。自分はこれだけ頑張ったんだから、結果が出るのは当然だと。でも、そんな自分本位な考えでは誰にも喜んでもらえない、と気づかされまして。そのへんがプロになったターニングポイントかもしれません。自分のクオリティを上げたいとだけ考えているうちは、アマチュアだと思います。技術を磨くのはプロとして当たり前の作業。その技術を持って、多くの人を幸せにするのが、プロの仕事だと思います。

今でも毎日トレーニングをしたり、暇さえあればいろんな勉強をしていますが、それは自分のためだけじゃないんですよ。見ている人を喜ばせたいとか、もっと楽しませたいとか、そういう気持ちからきているんです。

僕は毎日、成長したい。昨日の僕より、今日の僕のほうが成長できているか、それを意識して過ごしています。でもそれはやっぱり、自分の役割を果たすために、自分自身と見てくださる方々に毎日「プラス1」をプレゼントしたいと思っているからなんですよ。毎日、「自分史上最高の自分」でいることが、僕の目標です。

たけい・そう●1973年、東京都生まれ。小学校時代からスポーツ理論に目覚め、中学では野球、高校ではボクシングに挑戦。神戸学院大学法学部に進学後、陸上競技を始め、十種競技を専門種目とし、わずか2年半でグランプリシリーズ優勝。十種競技・100メートル走の記録は今も日本最高記録。その後、中央学院大学に進学するも、卒業と同時に陸上を辞め、アメリカにゴルフ留学。帰国後は台湾プロ野球リーグのコーチやプロ野球選手やプロゴルファーなどの個人トレーナーを務める。30歳のころから芸能活動も始め、2012年に出演した『うもれびと』に出演し、以後、バラエティ番組で活躍する。

●information
レギュラー冠番組「武井壮しらべ ~誰もやらなきゃオレがやる!!~」
世の中の人々の「興味はあるけど自分で調べるのはちょっとイヤだなぁ」という事を代わりに百獣の王・武井壮がやってみる人気の検証番組。幻の有名人「新宿タイガー」の素顔を追ったり、韓国でほうれい線にヒアルロン酸を注入するというプチ整形をしてみたり、韓国のカジノで自腹100万円を使って本当に儲かるのかを検証してみたり、体当たりの調査が話題になっている。TOKYO MXで毎週金曜23:30~放映中。
■twitterアカウント @sosotakei

※リクナビNEXT 2014年8月20日「プロ論」記事より転載

EDIT/WRITING:高嶋ちほ子 PHOTO:栗原克己

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