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50代社員がより輝きを増す!たったひとりで500人と向き合ったベテラン社員の更なる活躍に向けた取り組み

NTTコミュニケーションズ株式会社
取り組みの概要
50代の一般社員を対象にキャリアデザイン研修と面談を実施し、モチベーション向上に取り組んだ
取り組みを始めたきっかけ
昇進の難易度が上がる中で、本来の力を発揮できないでいるかのように見える50代社員の真の実態把握とキャリア開発の必要性から
取り組みを運用する秘訣
専任担当者1名で500人への面談を実施(50代非管理職350人とその上長150人)。人事としてではなく、同僚として相手との関係性構築を重視し本音を引き出した。
よかったこと
研修と面談を経て50代社員のモチベーションが向上。新たな技術習得の勉強や、職場での後進育成に積極的に取り組むようになった。

たったひとりで向き合った「ベテラン社員活性化」のミッション

活躍する50代社員

意気盛んな若手と現場叩き上げのベテラン。小説やドラマの世界では名コンビとなり得ても、現実の社会ではなかなかそうはいかない。1999年のNTT分社化で誕生したNTTコミュニケーションズでは、モチベーションを失ってしまった(かのように見える)ベテラン社員の真の実態を把握することが課題となっていた。

時代の流れとともに上がっていく昇進へのハードル

同社は、国際通信やインターネットを展開する「次世代事業」を担う存在と位置づけられ、グループ内の精鋭が集う会社としてスタートした。それまではあらゆる学歴の社員を採用していたが、分社化以降は就職氷河期を迎え、社会全体が優秀な学生を選抜していく傾向となり、同社もまた例外ではなかった。現在の50代一般社員は、リーダー職任用に期待が膨らむ30代後半から40代のタイミングに優秀な若手との競争に直面し、昇進の難易度がどんどん上がっていく中で勤務を続けてきた。

「もともと凄く優秀であったのに不満を抱え、組織の中で存在感を発揮できずにくすぶっていた人たちも中には何人かいたんです。社員の高齢化が進む中で、この問題を放置することはできなくなっていました」

ヒューマンリソース部で人事・人材開発部門の担当課長を務める浅井公一さんは、取り組みの背景をそう打ち明ける。現在の同社の平均年齢は40代前半だが、10年後のシミュレーションでは50代以上が5割を占め、平均年齢も上がる計算になる。

浅井さん自身は高卒入社というキャリアで、長く労働組合での活動に力を入れ、持ち前の調整能力を発揮して活躍。その活動の中で多くの組合員の不満の声を聞いてきた。べテラン社員へのキャリア研修と面談の実施を決めた副社長から直々に「たった1人の専任担当者」に指名されたのは、2014年のことだった。

人事部門が避けざるを得なかった話題にもあえて切り込む

まずは取り組みの対象を絞ることから始めた。初年度の対象は、従業員満足度調査(ES調査)の結果が低かった中高年の非管理職のうち、ちょうど節目の年齢ということで50歳の社員190人が対象となった。

面談前にキャリアデザイン研修を実施。過去にとらわれて前に進めない50代社員をモデルとしたオリジナルドラマを上映し、自身のキャリアを棚卸ししてもらった。また年間十数回にわたって行うすべての研修に、人事部門の責任者であるヒューマンリソース部長が登壇し、50歳社員に対する期待を直接伝えた。

モチベーションが下がってきている社員との面談の場で浅井さんは「自分が高卒であること」「語学力が必要とされる部署に在籍しながら、英語がほとんど話せないこと」「主査(係長)のポジションを19年も経験し、50歳になってようやく課長に昇進できたこと」などを赤裸々に伝えながら進めていった。面談対象者の言葉にならない不満に対して、理解と共感を示す浅井さんの態度に、相手も徐々に心を開いてくれるようになったという。

「私自身同じような境遇だから、悩みはよく分かります。それに同じ50歳でも状況はさまざま。たとえば経済的な面で言えば『住宅ローンがあと20年残っている』『独身でこれといって趣味もなかったので、貯金がたっぷりある』など。そういった本音を話し合うことで、個々の現状に応じた目標設定ができるようになったんです」

たったひとりで500人と向き合った浅井さん

優秀なベテラン社員が、さらに最前線で輝くとき

「自分のために働く」「私にはまだ15年もある」

研修と面談を経て、対象者には心の変容が起きていった。

第一営業本部に所属する平山直木さんは、50代になり「ぼんやりと仕事を辞める時期のことを考えていて……」と面談前の気持ちを打ち明ける。年功序列の時代に入社し、「セールスプロモーションのプランニングのプロになりたい」という思いで、主に営業企画畑を歩んできた。研修ではそんなこれまでのキャリアを紙に落とし、少しずつ当時のことを思い出していった。

「浅井さんとは、みんなが“モーレツ”に働き、日比谷の本社ビルが不夜城だった頃の話題で盛り上がりました。今回の研修と面談で『残された時間は、自分のために仕事の総仕上げをしよう』という前向きな気持ちをセットしてもらいました。今後は今まで培ったノウハウを若手に伝授していくことも含めて、仕事の総仕上げをしていきます」

ソリューションサービス部に所属するエンジニアの小宮山寛さんも、研修と面談を通じて変わった。「最初は『まだまだ働けよ』と鞭を打たれるだけだと思っていたんですが」と笑う。

研修のドラマでは経験のない部署へ異動し、モチベーションを失っていく主人公を見た。どんどん新しい技術が登場する中で、戦う気持ちを無くしてしまっては、いつ自分もあの主人公のようになるか分からない。「私にはまだ15年も時間があるんだということを再認識させられました」と語る。

「面談では社内の年齢構成比の話題で盛り上がり、『まだまだ我々が頑張らなきゃ』という話をしました。今後もエンジニアとして勉強を続け、激変していくICTビジネス市場の最前線で戦っていきます」

研修と面談を受けた平山さんと小宮山さん

79パーセントの社員に「前向きな変化」

浅井さんが1年間に面談をした350人の中で、約半数がTOEICの勉強を始めた。新技術分野の案件に自ら手を挙げたり、専門性を生かして若手向けの勉強会を開いたりする50代社員も各職場で増えた。

50代社員の部下を持つ上司を対象にしたアンケートでは、研修・面談を経て部下に変化があったと答えた人の割合が79パーセントに上っている。ベテラン社員が前向きに動き続けることは、若手のモチベーション向上にもつながっているという。もともと優秀だった人たちが、最前線で以前を凌ぐ輝きを放っているのだ。

「私自身、『この取り組みは自分にしか成し得ないんだ』という強い気持ちを持って1年間続け、その間にキャリアカウンセラーの資格も取りました。組織のために今後も一人ひとり向き合い続けていきます」と浅井さんは結んだ。

受賞者コメント

浅井 公一 さん

ベテラン社員のキャリア開発に向け、500人と面談・研修を続けてきました。目新しい取り組みではないと思いますが、ただ面談を行うだけではなく、ベテラン社員がさらに活躍できるよう「情熱を持って」施策をやりきったことが受賞できた理由ではないかと考えています。

審査員コメント

守島 基博

500人という膨大な面談・研修対象人数に対して、担当者の浅井さんはたった1人で向き合い、やり遂げています。まずはこの情熱を高く評価しました。また企業の人事担当者にとって「大きな視点での制度設計」はもちろん大切ですが、「社員一人ひとりへ、どこまできめ細やかなフォローができるか」も忘れてはならない視点。年功序列や終身雇用の時代を超えて、これからは一人ひとりの自己実現をサポートしていくことが人事の重要なミッションです。人事という仕事の、根本的なあり方を見せていただいた取り組みだと思います。

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。

第2回(2015年度)の受賞取り組み