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「オフィスのあり方」をきっかけに社内炎上?自社の強みを再発見した全員参加の本社移転プロジェクト

サイボウズ株式会社
取り組みの概要
本社移転に際し、新オフィスのコンセプトを一から議論。物件選定、レイアウト検討や家具選定などのプロセスに全社員を巻き込んだ
取り組みを始めたきっかけ
事業拡大に伴う増員によって本社が手狭となり、多様な働き方を推進する新拠点作りに社員のアイデアを生かそうと考えたことから
取り組みを運用する秘訣
グループウェアの掲示板やリアルに実施した「移転カフェ」で情報共有し、自由に意見をぶつけ合いながら集約していったこと
よかったこと
社員が本社移転を「自分ごと化」して関わり、様々なアイデアを実現。議論を通じて、コンセプトの浸透にも繋がった。またオープンにコミュニケーションできる自社の強みを再発見できた

社内グループウェアの“炎上”を経て寄せられたアイデア

白熱する「オフィス検討委員会」

グループウェアの展開を通じてチームワークのあり方を提案し続けるサイボウズ。2015年に実施した本社移転は、さまざまな職種・年齢の社員で結成した「オフィス検討委員会」を中心にして、社員の多くを巻き込む一大プロジェクトとなった。白熱する意見のぶつかり合いは、ときに「社内炎上」とも言えるような状態になったという。

「本社」は本当に必要なのか?

2000年に開設した東京都文京区の旧本社オフィス。15年間にわたりサイボウズの事業発展を支え、増員に対応するための増床やフリーアドレス化などを試みてきたが、物理的な限界を迎えていた。

「多様なワークスタイルを推進してきたこともあり、当社には在宅などリモートで働く社員も一定数います。大きな拠点が本当に必要なのか? 小規模なサテライトオフィスを多数設ける方法も検討すべきではないのか? オフィス移転を考える前に、まず“オフィスとは何か”を議論することから始めました」

人事部マネジャーの松川隆さんは、オフィス検討委員会の発端についてそう振り返る。約20名の社員で議論を重ねた結果、「やはり同じ空気の中で仕事をしていたい」と考える“一つのオフィス派”が多数を占めた。特に若手社員からは「先輩から仕事を教わるために近い距離にいたい」という声が多く挙がったという。

オフィス移転のプロセスをすべてオープンにした結果……

オフィス検討委員会の始動は移転の前年、2014年だった。社内グループウェアを通じて、前述の議論の中味や移転候補地、候補物件やオフィス家具選定など一つひとつのプロセスをオープンにし、共有していった。プロジェクトの事務局として活動した人事部の前田眞季さんは、「想像以上の反響があり、戸惑うこともありました」と打ち明ける。

「公園のようなエントランスを作る」「社内にキッチンを設ける」などのアイデアに対して、「何を考えているのか分からない」「幼稚園じゃないんだから」といった手厳しい意見がどんどん書き込まれたのだ。同調する人、反論する人が次々と現れ、「社内炎上」のような状態になり、社長自らが沈静化に乗り出すこともあったという。

社内のラウンジに「移転カフェ」を設け、新たに導入するオフィスチェアやデスクの候補を展示して感想を聞くなど、リアルな場で意見を言える環境も作った。デスクワークが多いエンジニアを中心に、たくさんの声が寄せられた。

「大変ではありましたが、こうした“炎上”によって多くの社員がプロジェクトへ興味を持ってくれるようになりました。みんなが「自分ごと化」して本社移転を考え、さまざまなアイデアが集まったんです」

社員の意見をもとにできあがった新オフィス

たくさんの社員が「自分ごと化」して本社移転に関わった

業務効率化のための提案でオフィス設計が変わる

営業企画部に所属する入社5年目の田中佑布子さんは、自らの発案を新オフィスに反映させることに成功した一人だ。パートナー代理店向けのグループウェア講習会を年間60回ペースで運営する田中さんの悲願は、「講習用のPCを常設したセミナールーム」の設置。旧本社では講習会のたびに20台のPCを運び、配線していた。

「PC常設のセミナールームがあれば、大幅な業務効率化につながります。この提案をオフィス検討委員会に通してもらい、30台のPCを設けたセミナールームの設置が実現しました。壁やカーペットの色、プロジェクターの機種など、こまかな注文もたくさん聞いてもらいました」

オフィス検討委員会の活動は、リモートワークの社員にも注目されていた。入社10年目の高野寛子さんは、2人の子どもを育てながら在宅で導入相談窓口の仕事に対応する日々。「気になる移転先の場所は、グループウェアで逐一チェックしていました」と話す。

出社が月1回ペースの高野さんにとって、本社オフィスは社員間のコミュニケーションを図るための貴重な空間だ。移転後は執務スペースが広がり、以前は別々だった営業部門と開発部門がワンフロアに収まったため、部署間交流も気軽に行えるようになった。「これまで以上に出社日が楽しみになりました」と語る。

田中さんのアイディアがつまった「講習用のPCを常設したセミナールーム」

オープンに議論ができる風土を再確認

自然と多くの社員が関わり、意見を発信するようになっていった本社移転。松川さんは「“公明正大”という自社の行動指針を見つめ直す良い機会になりました」と振り返る。

会社を離れて居酒屋で仕事の愚痴をこぼすのではなく、みんなの前で意見を発信し、改善しよう。多様な働き方を認め、互いの自主性を重んじるからこそ、どんどん意見を言い合おう。そんな社風を言い表した「公明正大」という行動指針が、社内炎上というプロセスを経て具現化された。新オフィスのアイデアに対する、賛否が入り乱れたたくさんの意見は、まさに公明正大でオープンな議論の形だったのだろう。

移転初日の新オフィス稼働日、出社する社員の反応に一抹の不安を抱えていたオフィス検討委員会のメンバーが目にしたのは、公園のようなエントランスの出来栄えに歓声を上げ、社内キッチンを前に記念写真を撮影する仲間たちの姿だった。

移転初日に全社員で記念撮影

受賞者コメント

松川 隆 さん

オフィス移転の取り組みは、その後も発展し続けています。他社さまから当社のオフィスを見学したいという声を多くいただくようになりました。社員からも新たな要望がどんどん出され、日々オフィス全体のアップデートを続けています。次回はベスト・アクションにも選ばれるよう、また新たな取り組みを発信していきたいと思います。

審査員コメント

細野 真悟

近年、働きやすいオフィス作りをする企業は増えています。ただ、同社はリモートワークの方もいらっしゃって、そもそもオフィスが必要なのか、オフィスとは何かから議論が始まっているところがユニーク。そして、作ると決めたら徹底的に社員を巻き込んでいる点が素晴らしいです。リアルな場で意見を言える環境までも作る事例はあまり聞いたことがなく、新しさを感じました。今後、このオフィスが使用されることでどう進化していくか楽しみです。

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。

第2回(2015年度)の受賞取り組み