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リクナビNEXTジャーナル

キャリア・ビジネスの情報満載【リクナビNEXTジャーナル】

全国の公務員は、もっと自ら動いて欲しい!塩尻市職員・山田崇の挑戦

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塩尻市のプロモーションのため、年間に100回近くの講演を行う長野県塩尻市職員の山田崇さん。
地元商店街の空き店舗を借り、さまざまなイベントを仕掛ける「空き家プロジェクト nanoda(ナノダ)」や、ソフトバンクやJTなど民間企業のメンバーと共に地方の先進課題について行政施策立案を行う「MICHIKARA(ミチカラ)」。彼を中心とした斬新かつユニークな取り組みは、全国から多くの注目を集めています。

山田さんが考える地方移住・UIターンへの課題や、地域創生についての意見をインタビューしました。

<プロフィール>
山田崇(やまだ たかし)
1975年塩尻市生まれ。千葉大学工学部応用化学科卒業。長野県塩尻市職員。空き家/空き店舗を活用した「空き家から始まる商店街の賑わい創出プロジェクトnanoda」を2012年より開始。2014年「地域に飛び出す公務員アウォード2013」大賞を受賞。「公務員っぽくない公務員」として注目を集めている。

始まりは、個人の時間と資金を費やした活動から

——山田さんが千葉大学を卒業後、地元・長野県塩尻市に戻って就職したのはなぜだったのですか?

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私の実家はレタス農家なのですが、一度地元を出たのは農家の手伝いをさせられるのが嫌だったから(笑)。ですが私が長男ということもあり「戻ってこい」と言われ、実は公務員試験も親の勧めでイヤイヤ受けたんです。当時、私自身は建築関連の仕事に就きたくて、設計事務所や住宅メーカーの内定も取れていました。でも結局、公務員試験に受かってしまい……。
父親から「一週間でいいから行ってみろ」と言われたのでいざ勤めてみたら、配属先が税務課の固定資産税係で、新築の家を見て評価するという仕事だったんです。年間で500~600件の家を見ることができたので「将来建築の仕事につくときにすごく役立つぞ!」と非常に興味が湧きました。市役所にこんな仕事があることも知りませんでしたし、先輩にも恵まれてすごく楽しかったというスタートでしたね。  

——そして、現在のシティプロモーション係に就任した経緯は?

その後、市町村が共同で広域消防を運営する消防局「松本広域連合」に出向しました。そこは消防のほか、介護や観光などを市にとらわれない広域で活動をしています。その環境下で、外から塩尻市を見たことが大きな転機でしたね。

また、これまで私自身が市民活動をしたことがないのに市民活動の支援をする点にも疑問を感じました。そこで私も勤務時間外に自分の時間とお金を使って、興味のある分野から地域活性の活動を始めたんです。

私、元ナンパ師としてTED×Sakuに登壇しているとおり「モテたい」という気持ちがあるんです(笑)。若い人にもっと集まってもらいたいし、彼らを応援したい。そこでキーワードになったのが「アート」でした。
例えば、長野県には美大がないので美術の勉強をしたい高校生は東京へ行ってしまいます。一方で、長野県には木曽平沢という漆器の産地があり、東京芸術大学の学生が漆を創作活動に使うために空き家を借りて、都心から3~4時間かけて通ってきます。でもその事実を、美大を目指す地元の高校生は知らない。 この行き違いを結びつけようと開催した「Shiojiring(シオジリング)」というアートのワークショップが最初の活動でした。

その後空き家を借りて始めた「nanoda」も、実は私のアート作品のひとつ。3ヶ月間、朝7時から夜8時まで目的を持たずにシャッターを開けて、空き家にいる様子をインスタレーション作品にすることが目的でした。そして私以外の若い人たちも空き家を利用するようになっていったんです。

その後、政策として「シティプロモーション係」という部署が塩尻市役所に作られ、私が適任ではないかということで配属されました。私が個人的に勤務時間外で始めたことが、結果的に自分の仕事になっていったんですよね。

「個人」としてまず実践し、「公務員」として仕組みを作る

——塩尻市が抱える主な課題とその解決策についてお伺いできますか?

主な課題というより、これからの地域は課題しかないんです。 

その解決方法として私は常に公務員と私個人、2つの視点で物事を見て考えるようにしています。一軒の空き家があり、そこの大家さんが困っている。私個人としてその人を助ける一方で、「どうやったら解決策を仕組み化できるか?」と公務員としての視点でも活動しています。

いま塩尻市の人口は、2005年頃から減少し続けています。
つまりパラダイムシフトが起きていて、現在の課題を解決する為に過去の手段をつかってはダメな時代に来ています。
現実問題として目の前に困っている人がいたら助けます。しかし同時に、これから迎える人口減少や暮らし方の変化なども視野に入れながら、私たちが「こうありたい未来」についても考えていく必要があると思います。

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例えば、塩尻市は現在「信州F-POWERプロジェクト」にて、長野県だけでなく征矢野建材株式会社、そして東京大学や信州大学と産学連携し、日本の林業やエネルギー問題をどう解決していくか、という課題に取り組んでいます。
一方で「MICHIKARA」では、行政だけではすぐに解決が難しい、雇用や子育てに関する問題について、民間企業と協力し2泊3日の短期間だからこそ集まれるメンバーとともに取り組んでいます。

難しいかもしれませんが、短期間と3年以上かかる中~長期間、両方の時間軸でものごとを考えて、それぞれ課題解決に取り組むべきだと考えています。自分も含めて多くの公務員には「隣の市がやっているから」とか「国に言われたから」ではなく、分からないながらに考えながら、個人として行動していく姿勢を求めていきたいですね。

——自ら考え行動するとき、公正平等さが求められる「行政」という立場の難しさもあると思います。山田さんがあくまで市役所職員として活動するのはなぜですか?

市役所職員としてのメリットがふたつあります。
ひとつは、そうそうクビにならないこと。「失敗しても左遷されるだけ」と思って、新しいことにどんどん挑戦できます。
でも、すでに問題を抱えている商店街の方々は、もう失敗できない状況かもしれません。そこで代わりに私たちが「nanoda」で問題解決の方法を少しずつトライしたり、「MICHIKARA」で民間企業のスピード感とリソースを活用して解決策を模索したりすることができます。

ふたつめは、「市役所の職員だから」という与信です。
地域の皆さんも、私に対して「山田さんはちょっと変わっているけど、公務員だし」という信頼を持って接してくださいます。 空き家を活用した「nanoda」は、大家さんは空き家で困っているけれど、変な人には貸したくないというジレンマもあるんです。そこで「山田くんが間に入って保証してくれるなら良いよ」と、貸してくださっているという経緯もありました。
地方の良い面であり悪い面でもあると思いますが、民間企業が同じことをやろうと思っても難しかったと思います。突然やってきて「無料で空き家を掃除しますよ」というと怪しいですし、なにより結果的にお金にならないと民間企業は撤退せざるをえない。私たち市の職員はたとえ解決できなくても、その人たちに寄り添わなくてはいけないんです。

「若者を応援する大人」をもっと増やしたい!

——ここ数年で地方移住・UIターンを検討する方が増えていますが、誘致する地方同士での競争が激しくなっているのではないでしょうか?

確かに地方間競争という言葉がありますが、私たちがすべきは奪い合いではないと思います。

私は「好きなまちで自分らしく暮らす」という「京都移住計画」のコンセプトにとても共感して、その派生版として任意団体である「信州移住計画」を作りました。人それぞれ求めるものが違って当たり前。その人らしく暮らせる地域は必ずあるはずなので、それを応援したいですね。
最終的に住む場所は一箇所ですが、長野県には魅力的なものや人がたくさんあるという情報を広く発信して長野県のファンが増えれば、もしかすると塩尻市に来てくれる人も増えるかもしれない。あくまで選択権は個人にあり、その上で情報を適切に届けてあげたほうが良いと思っています。

私たちがすべきは、この地域でできることを正確に伝える手段を磨くこと。減ってきた人口を地域同士で奪い合うのではなく、互いに連携してその土地のファンを増やしていくべきだと思います。

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取材当日、まちの課題をみんなで考えるワークショップ「塩尻未来会議2016」が開かれていました。市内外から多くの参加者が集まり、意見を交わしました。

 

——山田さんの今後のビジョンを教えてください。

私が60歳になって定年退職した時に、明治大学政治経済学部の牛山久仁彦先生のような存在になりたいんです。私を変えた牛山先生のように、誰かにとってのメンターになりたい。

私が空き家を借りる活動をしたのが35歳のとき。それまでは本当に平凡な公務員だったんです。そんな私が変わったきっかけのひとつに、長野県諏訪市出身で、職員研修にお呼びした牛山先生との出会いがあります。
わたしは牛山先生の講義での「地方分権一括で条文がひとつ追加になって、自治体はたくさんのことができるになったよ」という言葉がとても印象に残っています。「地方自治体は”自主的かつ総合的に”地域における行政を広く担う」という内容の地方自治法第1条第2項が新たに追加されたと。要は、国から言われたことをただやっていれば良いという時代ではなくなったということです。

地方の課題は日々多様化・複雑化しています。塩尻市にあるそれぞれの地区が抱える問題、もっといえばそこに住む一人ひとりの問題はみんな違います。それを私たちが自治体として自主的に、総合的に解決しなくてはいけない。

地方公務員って、優秀だと思います。私もちゃんと大学を出ていて、真面目に親の言うことを聞いて、地元に帰ってきたし(笑)。みなさん真面目だからこそドラスティックな解決が難しいのですが、22歳で就職して12年間どっぷり行政のルールに浸ってきた私でも変われたんです。

地方創生における課題の根本として「地域に若者が減った」と言われますが、若者に対して「君たちが将来高齢者を支えるんだぞ」というだけではダメ。若者を応援する大人をもっと増やすべき、というのが、私の考える地方創生の仮説です。そこでまずは私があらゆることに挑戦してみて「ここまでやってもクビにならない公務員・日本代表」になりたいですね。

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<WRITING:伊藤七ゑ  PHOTO:鈴木健介>