「仕事を辞めたい」と多くの人が一度は考えたことがあるでしょう。
しかし実際は「本当に辞めてしまっていいのか」と悩み、思いとどまる場合が多いかもしれません。「仕事を辞めたい」と思ったとき、どう考えどう行動すれば、モヤモヤしたネガティブな気持ちから解放されるのでしょうか?
この記事では、「仕事を辞めたい」と思う理由と対処法、そして辞めたいと思ってもやらないほうがいいことなどについて、組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹さんに伺いました。

目次
「仕事を辞めたい」と思う7つの理由とは?
ビジネスパーソンが「仕事を辞めたい」と思う理由には、どのようなものがあるのでしょうか。まずは、実際に仕事を辞めた人の理由を見てみましょう。
厚生労働省の「令和5年雇用動向調査結果の概況」(※)内、「令和5年1年間の転職入職者が前職を辞めた理由(個人的理由)」の「その他」を除いた上位を見ると、男性は「職場の人間関係が好ましくなかった」9.1%、「給料等収入が少なかった」8.2%、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」8.1%、「仕事の内容に興味を持てなかった」7.4%の順となっています。
一方女性は、「職場の人間関係が好ましくなかった」13.0%、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」11.1%、「給料等収入が少なかった」7.1%、「能力・個性・資格を生かせなかった」5.4%となっています。
(※)出典:厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/gaikyou.pdf)
この調査結果を踏まえ、「仕事を辞めたい」と思う代表的な理由について紹介していきましょう。
人間関係が合わない
前述の調査で、最も多かったのがこの理由です。仕事での人間関係は、たとえ合わなくても避けようがないため、ストレスを溜め込んでしまう人が多いようです。
その結果、意見の相違やコミュニケーション不足などから仕事がうまく進められなくなったり、仕事そのものへのモチベーションが下がったりしてしまうケースもあるようです。
労働条件が悪い、忙しすぎる
業務量が多すぎる、残業が多く労働時間が長いなどの理由から仕事を辞めたいと考える人もいます。特に近年は、人手不足の深刻化から1人当たりの業務量が増えているところもあり、仕事のハードさに悩む人もいるようです。
プライベートの時間が減り、ワーク・ライフ・バランスが取れないことに不満を抱える人も少なくないようです。
給与が安い
勤務先の給与水準自体が低く、モチベーションを保てないというケースもあれば、成果を上げているのに正当な評価が得られず不満を覚えるケースもあるようです。
頑張ってステップアップしても給与が上がらない環境の中では、辞めたいと思ってしまうのも無理はないでしょう。
仕事の内容が合わない
仕事の内容にやりがいを感じられないことや、能力を発揮できず活躍できないことが理由で、辞めたいと思う人もいるようです。
そもそもやりたい仕事ではなかったのに配属された、頑張ってみたものの自分には向いていないと感じる、というケースもあるようです。
会社の将来性が不安
会社の業績が低迷している、新規事業がうまくいっていない、業界そのものが成長していないなどの理由で、会社の将来性に不安を感じ「辞めたい」と思う人もいます。
昇給しない、賞与が減った、早期退職希望者を募っているなど、足元の経営状況に不安を感じている人もいるようです。
会社の社風や文化に合わない
勤務先の社風や文化は、日々の仕事の進め方に大きな影響を及ぼします。例えば「成果主義が徹底されている」「年功序列で若手には発言権がない」「個人に裁量が与えられない」など、自分の志向や方針などと合わない環境では、なかなか力が発揮できず、やる気も削がれてしまうでしょう。
制度や福利厚生が整っていない
結婚・育児・介護など、ライフステージに変化が生じたものの、勤務先の制度が整っておらず、育児や介護などと仕事を両立できないと感じ、辞めたいと思う人もいます。
柔軟な働き方ができる環境に移ってイキイキ働きたいと考え、「今の仕事を辞めたい」と考えるケースは少なくないでしょう。
本気で「仕事を辞めたい」と思ったときに、まず考えたいこと
「仕事を辞めたい!」と本気で思っても、勢いで辞めてしまうのはお勧めできません。いったん立ち止まり、次のことについて考えてみましょう。冷静に現状と将来を考えることで、最良の選択ができるようになるでしょう。
辞めた後の生活を考えてみる
次の仕事を決めずに辞めれば、当然ながら収入が不安定になります。転職するにしても、今の給与水準を維持できるのか考えてみることは大切です。勢いで辞めてしまった結果、今の生活費が確保できなくなったりローンの支払いが滞ったりして、後悔する可能性も考えられます。
また、仕事を辞めれば仕事での人脈や職場の人間関係も変わります。もし良好な人間関係が築けているのであれば、それらを手放していいのかどうかも考える必要があるでしょう。
辞めなければ解決しない問題か考えてみる
仕事を辞めたい理由に向き合い、辞めないと解決できない問題なのかを考えてみましょう。例えば、業務量が多すぎるのであれば、上司に調整できないか相談してみる、苦手な人がいるならば、チャットやメールをフル活用しできるだけ直接的なコミュニケーションを取らないようにする、ワーク・ライフ・バランスが取れないのであれば、人事部門に利用できる制度がないか相談してみる、など。今抱えている不満や不安が、少なからず解消できる可能性があるならば、打てる手をまず打ってみましょう。
じっくり考えた結果、このまま居続けても解決できない問題だと判断したら退職に踏み切りましょう。
キャリアの目標を今一度考えてみる
仕事を辞めたいと思うときは、キャリアの目標を見失ってしまっているケースが少なくありません。今一度、自身の目標を考えてみれば、よりよい対処法が選択できるでしょう。
もし、目標が見えない、やりたいこともわからない…という場合は、診断ツールなどを活用するのもいいでしょう。自身の強みや持ち味などを把握することで、将来の目標が立てやすくなります。
次の項目では、仕事を辞めたいと思ったときにどう対処すればいいのか、具体的な方法をご紹介します。
「仕事を辞めたい」と思ったときの対処法【1】今の会社でできることを探す、現状を変える
まずは、今の会社に勤務しながら現状を変える方法をご紹介します。
上司に報連相して現状を共有する
仕事が多すぎる、頑張っているのに評価されないという場合、上司がメンバー一人ひとりの業務量や頑張りを把握し切れていない可能性も考えられます。自ら積極的に報連相を行って、現状を訴えましょう。仕事の一部をほかのメンバーに割り振るなどして適切な業務量に変えてもらえたり、努力や頑張りが適切に評価されたり、より重要な業務に抜擢されたりするかもしれません。
人間関係に原因がある場合も、上司に相談することで現状を変えられる可能性があります。どうしても合わない理由をフラットかつ冷静に伝え、このままでは成果を上げにくいことを伝えれば、チーム変更など合わない人との接点を少なくしてもらえるかもしれません。
強みを活かして成果を挙げる
給与が安い、頑張っているのに評価されないなどの場合は、自分の強みを活かせる仕事に注力することで、今より成果が挙げられる可能性があり、給与アップにつながるかもしれません。
業務にプラスになる資格の勉強をする、社内の研修などに参加してスキルアップを目指す、社内の人事やキャリアコンサルタント、上司などに相談して目標設定をやり直したり、キャリアパスを相談したりするのも有効です。
「意味づけ力」を発揮して仕事のモチベーションを上げる
仕事が合わずに辞めたいという人は多いと思いますが、仕事ができる人は、たとえ意に沿わない仕事でも自分のやりがいやキャリアビジョンとの接点を見つけ、「自分がやる意味」を見つけて前向きに取り組み、成果を挙げています。辞めてしまう前に、一度この「意味づけ」を行ってみると、現状を変えられるかもしれません。
例えば、仕事の中で面白いと感じられるものを抽出し、その業務に特に注力してやりがいを高めるとか、どうせやるならば楽しもう、学びを得ようと視点を切り替える、などの方法が考えられます。
イキイキ楽しそうに働いている同僚に、何が仕事のモチベーションになっているのかヒアリングして、参考にしてみるのもいいでしょう。その人の姿勢に刺激を受け、やる気が高められるかもしれません。
異動願いを出したり社内プロジェクトに手を挙げてみたりする
人間関係が合わない、仕事内容や環境が合わないという場合、自ら行動して「社内での居場所」を変えるという方法もあります。
例えば、気になっていた別部署に異動願いを出す、社内公募のプロジェクトに手を挙げてみる、など。後者の場合、たとえ兼務であっても、新たな役割を担うことで視野も人脈も広がり、これまでの不満や不安が薄れることが期待できます。
「仕事を辞めたい」と思ったときの対処法【2】新しい環境で新たな道を探す、今の会社を出て行動する
続いて、社外で行動することで現状を変える方法をご紹介します。
副業に挑戦して社外の活動を増やす
今の会社に勤務しながら、社外活動を増やすという方法です。給与が安い、会社の将来が不安などといった理由の場合、自身の強みを活かせそうな副業を始めることで、収入をある程度増やすことができるでしょう。強みをさらに磨くことができ、将来への備えにもつながりそうです。
もしくは、副業で興味を持っていた業務を新たに体験することで、自身の引き出しを増やし、キャリアの選択肢を広げることもできるでしょう。
不満を解消できる企業を探して転職する
勤務先の給与水準自体が低い、社風がどうしても合わずストレス、業績低迷が続いていて不安、人事制度が整っていないなど、自身が努力してもどうにもならない理由の場合は、転職を検討した方がいいかもしれません。改めて「仕事を辞めたい理由」に向き合い、それを解消できる企業を探しましょう。
例えば、給与水準が低いことが不満であれば、給与水準が高い業界や企業を選ぶ、頑張った分給与に反映する成果主義の会社を選ぶ、などの方法が考えられます。
独立・起業を検討する
裁量権がなく自由に仕事ができない、意見が言いづらくアイディアを活かせないなどの不満があるならば、独立・起業も一つの方法ではあります。すべてが自分の責任になる苦労はあるでしょうが、やりたいことが明確にあり、それを実行するための強みやスキルもあるならば、検討してみてもいいかもしれません。
「仕事を辞めたい」と思ってもやらないほうがいいこと
本気で仕事を辞めたい!と思っても、やらないほうがいいことをご紹介します。ついやってしまう人が少なくありませんが、自身のキャリアにあまりプラスにならないでしょう。
仕事の手を抜く
頑張っても給与が上がらない、仕事内容が合わないなどの場合、つい仕事の手を抜きがちになるかもしれませんが、自分の首を絞めるだけ。周囲との関係性が悪化したり、評価がダウンするなどして、今の会社にますます居づらくなったりする可能性があります。
同じ理由で、会社をさぼるのもやめましょう。仕事の手を抜いている、さぼっているという罪悪感から自己肯定感が下がってしまい、仕事だけでなく日々の生活にもマイナスの影響を及ぼしてしまうかもしれません。
「辞めたい」という気持ちにフタをする
「仕事を辞めたい」と思ってしまうことに後ろめたさを覚え、気持ちにフタをして我慢してしまう人も見受けられます。しかし、現状の問題を先送りにしているだけであり、何の解決にもなりません。例えば、合わない仕事に不満を持ったまま我慢して仕事を続けていても、当然パフォーマンスは上がらず、ますますストレスを溜め込んでしまうことになります。
自分の気持ちをだましながら働き続けることで、心身に不調をきたしてしまう恐れもあります。
次が決まらないまま衝動的に辞める
仕事を辞めたい!という感情の赴くまま、何の準備もしないうちに衝動的に辞めるのは避けたほうがいいでしょう。次の道が決まらぬまま辞めてしまうと、ブランク期間が生じてしまい、転職活動において企業から懸念を抱かれてしまう可能性があります。ブランク期間が長引くと、経済的な不安を抱えてしまい、「早く次を決めなければ」との焦りから意に沿わない転職をしてしまうケースもあります。
衝動的な退職は「円満退職」とはいえません。現在、優秀な退職者を再び採用する「アルムナイ採用」が増えつつありますが、将来的に「今の会社に戻りたい」と思っても、受け入れてもらいにくいかもしれません。
家族やパートナーがいる場合は特に、焦って転職を決めてしまうケースが見受けられます。現職で培った社内外の人脈・友人も減ってしまうかもしれません。
本当に「仕事を辞める」と決めたら…その後やるべきこと
「仕事を辞めたい」という気持ちにじっくり向き合った結果、「辞める」という選択をすることに決めたら、実際に退職するまでにやっておきたいことがあります。
まず、退職を申し出る前に、今後のキャリアを考えておくことは重要です。自分は何がやりたいのか、何を実現したいのか、明確にしておきましょう。そのためにも、自己分析をして自己理解を深めておくことは大切。より自分の志向に合った道が選択しやすくなります。転職活動で必要となる志望動機や転職理由も、不満起因のネガティブなものではなく、前向きな内容にすることができるでしょう。
そして、転職活動を始める際には、あらかじめ大まかなスケジュールを立てて臨めばスムーズです。現職にいながら転職活動するのであれば、平日の夜や土日を転職活動に充てることになります。業務量などを考慮しながら、いつまでに自己分析をして志望業界や企業群を決め、いつまでに求人を探して応募し、いつまでに転職先を決めるか、おおよそでいいので見当をつけておくことをおすすめ。日常の仕事に追われて、ずるずる転職が先延ばしになる…という事態をある程度防ぐことができるでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros
代表コンサルタント粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。