転職なき移住、ワーケーションなど、地方活性化に繋がる新しい働き方を推進──「地方創生テレワークアワード」表彰企業の取り組みを紹介

コロナ禍以降、ワークスタイルの幅が広がってきました。テレワークの定着により場所を問わず働けるようになった今、転職せずに地方へ移住したり、「ワーケーション(ワーク+バケーション)」を実践したりする人が増えています。
今回は新たな働き方を促進する「地方創生テレワーク」のさまざまな取り組みをご紹介します。自身にフィットする働き方やライフスタイルを発見するヒントにしてください。

地方創生テレワーク画像

取り組みを推進している企業・団体を「地方創生テレワークアワード」で表彰

「地方創生テレワーク」とは、地方の活性化・地方創生に貢献するテレワークを意味します。例えば、次のようなものが挙げられます。

  • 会社を辞めずに地方に移り住む「転職なき移住」
  • ワーケーションなどによる、地域との関係人口(多様な形で地域と関わる人)の増加
  • 首都圏企業による地方サテライトオフィスの設置

このように地方への人の流れを加速させ、地方の活性化に取り組む企業・団体を対象に、内閣府は「地方創生テレワークアワード」(地方創生担当大臣賞)を設置。毎年エントリーを募り、審査を経て受賞企業が決定されています。

2022年度の受賞企業・団体は5社。どのような取り組みを推進し、どのような成果を挙げているかをお伝えします。

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ITエンジニアを日本全国の企業に「在宅派遣」する仕組みを推進(CLINKS)

CLINKS株式会社(本社:東京都中央区)は、アプリ開発・Webシステム開発・IT技術者派遣を手がける企業です。ITエンジニアの人材不足が慢性化・深刻化する中、介護・育児などの事情で通勤が難しい元エンジニア・専業主婦、地方在住で仕事が少ないエンジニアなど、「在宅であれば業務可能な人材」に着目。2016年からテレワークの促進を開始しました。

2017年にはITエンジニアの在宅派遣サービス「テレスタ」をスタート。これは、地方在住の在宅専門のエンジニアを自社の正社員として採用し、クライアント企業に在宅派遣する仕組みです。

2018年には、それまでの経験者採用数の9倍となる1000名の経験者の応募があり、「在宅勤務」への興味やニーズの高さを実感したという声が寄せられています。現在、950名を超えるCLINKSの社員のうち161名が、日本全国・海外に在住してテレワークで仕事をしています。

もともとは地方在住のエンジニアを東京のクライアント企業に派遣することを想定していましたが、地方企業からも依頼が寄せられ、東京在住エンジニアを地方企業に在宅派遣するケースも生まれています。

同社ではテレワークを推進するため、さまざまな制度・施策を設けています。一例としては、以下が挙げられます。

  •  全ての社内会議・イベントをオンライン化
  •  在宅勤務者向けの家具・モニターの購入補助
  •  オンラインコミュニケーション手当の導入(※オンラインでの懇親会・飲み会などの社員間コミュニケーションに対し、費用の一部を会社が補助)
  •  勤務時間の選択制度の導入
在宅ワークをするにあたって会社に期待すること
※2020年4月7日から5月25日までの間、在宅ワークを実施したCLINKS社員488名に行ったアンケートより

季節の行事・新卒歓迎会・ヨガ教室・ゲーム大会など、多様なオンラインイベントを企画・開催。いろいろと試す中で「オンラインでもできる」「むしろオンラインのほうがいい」というものも見つかり、ノウハウを蓄積できているそうです。

同社では今後もテレワークを日本の働き方のスタンダードにしていくことを目指し、各種テレワークサービスの提供を推進していく方針を掲げています。

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新潟県長岡市からリモートワークで首都圏企業に勤務(USEN-NEXT HOLDINGS)

音楽配信をはじめとする店舗向け事業、通信事業などを行う株式会社USEN-NEXT HOLDINGS(本社:東京都品川区)は「地方に住む優秀な人材の獲得損失」を課題と捉えていました。

同社が2021年1月に協定を結んだのが、新潟県長岡市です。長岡市では人口減少とともに優秀な学生が県外に就職するなど、人材不足の課題を抱えていました。

USEN-NEXT HOLDINGSと長岡市は2021年に協定を締結し、「NAGAOKA WORKER-多様な働き方のミライ-」プロジェクトを始動。長岡市で暮らしながら首都圏を含む県外企業(本社採用・同待遇)に完全リモートワークで勤務する「NAGAOKA WORKER」モデルを構築しました。リモートワークが可能な職種としては下記のようなものが挙げられます。

  • ITエンジニア職としてプログラミング業務
  • WebデザイナーとしてUI/UXなどのデザイン
  •  本社の管理系業務(経理・財務・人事・総務・法務・情報システムなど)
  •  インサイドセールス(電話・オンラインでの営業や顧客対応)

長岡で育ち、学び、長岡で働くことを希望する学生が、長岡にいながら大企業やグローバル企業で仕事をする機会を得られるよう、企業との交流を創出。この取り組みにより、地元への定着をはじめ、他県で働く社会人のU・I・Jターンも活性化しています。

さらに地域活性化を促進するため、2021年12月、この取り組みに賛同した民間企業と共同で「NAGAOKA WORKER協議会」も設立。35社の企業が賛同しています(2023年1月現在)。なお、USEN-NEXT HOLDINGSでは、2022年度に新卒7名・中途2名、2023年度に新卒6名(予定)の「NAGAOKA WORKER」を採用しています。

リモートワークスペースとして、コワーキングスペース「USEN SQUARE NAGAOKA」も設置。NAGAOKA WORKER協議会の加入企業も利用することができるため、「NAGAOKA WORKER」同士の交流の場としても活用されています。

コワーキングスペース「USEN SQUARE NAGAOKA」
▲コワーキングスペース「USEN SQUARE NAGAOKA」

上記2社、CLINKSとUSEN-NEXT HOLDINGSは「地方人材の採用・育成」の取り組みに対する成果が評価されました。次に紹介する2社、BizMowとイマクリエは、「地域課題の解決」への貢献が評価され、受賞した企業です。

熊本県八代市との共創により「テレワーカー養成講座」を運営(BizMow)

2008年に設立されたBizMow株式会社(本社:東京都世田谷区)は、企業に対し、オンラインでの事務・経理代行サービスを提供する企業です。従業員の妊娠をきっかけに、2010年よりテレワークを導入。オンライン面接による採用活動も、コロナ禍以前の2015年からスタートしています。現在は社員の9割以上が在宅勤務で、日本全国・海外在住の社員も活躍しています。

しかし、業務拡大に伴い、発送作業など物理的業務も増加。これを集約するにあたり、地方にいる優秀人材の獲得も狙い、地方へのサテライトオフィス設置に乗り出しました。2019年に熊本県八代市と立地協定を締結し、2020には同市にサテライトオフィスをオープン。しかし現地での人材採用に苦戦する状況でした。

一方、八代市では、職場環境や就労状況が整っていないことから、子育て世代や若年者が市外に流出。子育てフェーズにあって働きたくても働けない女性が安心して就業できる機会や環境の整備を課題としていました。

そこでBizMowと八代市の共創により、八代市在住者を対象にスタートしたのが、テレワーカー養成講座「レッツトライ!やっテレワーカー」です。

テレワーカー養成講座「レッツトライ!やっテレワーカー」
▲テレワーカー養成講座「レッツトライ!やっテレワーカー」

これは、テレワーク環境下で必要な知識、事務スキル、コミュニケーションスキル、ビジネスマインドを習得し、「テレワーカー」としてデビューすることを目標とするもの。 対面・オンラインの形式で、「実践」に焦点をあてた講座です。受講中に一定のレベルに達したら、仕事の受託の仕方を指導し、報酬を得るところまで伴走します。

初回講座終了後のアンケートでは、受講生の75%が「テレワークに対する考え方がプラスに変わった」と回答。テレワーへの挑戦への不安の払しょくにつながりました。2023年には、受講生の100%がテレワーカーとしてデビューを果たしています。

石川県羽咋市と連携し、テレワーク普及・女性の就労支援に注力(イマクリエ)

コンタクトセンター、アウトソーシング事業を行う株式会社イマクリエ(本社:東京都港区)は、2011年の東日本大震災をきっかけにテレワークを導入。「テレワークで社会にイノベーションを起こす」をミッションに掲げ、2016年以降は完全テレワーク型の組織運営に転換しました。

近年は、労働人口減少などの課題を抱える地方自治体を支援するため、自社で培ったテレワークのノウハウを活かし、地域企業のテレワーク導入支援、地域住民がテレワーカーとして働くためのスキルアップ講座、企業誘致活動の支援などを行ってきました。

社内アンケートから見るイマクリエ社の地方創生テレワーク
▲社内アンケートから見るイマクリエ社の地方創生テレワーク

今回受賞した取り組みは、石川県羽咋市と連携して行った「女性向け未来のテレワーカー育成プログラム」。石川県羽咋市では、「就職を機に女性が市から転出していく」という人口減少の課題を抱えていました。

この課題を解決するため、イマクリエと羽咋市が連携。女性にとって魅力ある街づくりを行い、羽咋市在住の女性が自宅にいながら働ける環境の創出を図るというビジョンを掲げました。

「テレワークの普及」「女性の就労支援」を目的に、未来の女性テレワーカーを育成する総合プログラムとして生み出されたのが「羽咋モデル」。大きく3つのプログラムで構成されています。

1. 自分にあった働き方が見つかる『在宅ワーク入門セミナー&テレワーク経験者による座談会』
2. 在宅で働くスキルを身に付ける『テレワーク基礎セミナー』
3. 国家資格を持つキャリアコンサルタントの『キャリアサポート面談』

2022年末時点で、プログラム参加者数は約550名に達しています。今後はよりパワーアップさせた「羽咋モデル」のプログラムを全国展開し、2023年度中に1000名到達を目指しています。

羽咋市女性のテレワーク支援事業実施の結果
▲羽咋市女性のテレワーク支援事業実施の結果

「地方創生テレワークアワード」では、企業などの地方創生テレワークを促す取り組みも評価対象となります。「ワーケーション」の推進により受賞となったのが次の事例です。

地域資源を活かしたワーケーションプログラムを実施(妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会)

「グリーン・ツーリズム」とは、農山漁村に滞在して農業・漁業体験を楽しみ、地域の人々との交流を図る余暇活動を指します。

新潟県妙高市においては、一般社団法人 妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会が、地域資源を活かしてグリーン・ツーリズムを推進。都市部と地域、あるいは地域と地域の人々の交流を生み出す事業を手がけてきました。

例えば小中高の修学旅行をはじめとした教育体験・探求学習旅行者の受け入れ、体験プログラムのコーディネート、交流施設や滞在型市民農園などの運営です。

しかし少子高齢化が進む中、農家民宿の受け入れ先が高齢化し、教育体験旅行の受け入れが困難になると予測されます。さらにコロナ禍の影響で来訪者が激減。コロナ収束後の回復も予測できず、地域の衰退の加速が懸念事項に。そこで、新たな交流・関係人口創出を図るためのプログラムの開発が急務となりました。

こうして生まれたのが、テレワークやワーケーションにより新たな人の流れを生み出す施策です。日本能率協会マネジメントセンター、国際自然環境アウトドア専門学校、NPO法人しごとのみらいなどと協働。企業が人材育成・研修・合宿・チームビルビルディングで利用できるワーケーションプログラムを企画・実施しました。

都市部や地域企業と協働したワーケーションプログラム
▲都市部や地域企業と協働したワーケーションプログラム

また、滞在型市民農園「クラインガルテン妙高」を活用したワーケーション、在宅勤務による仕事と子育ての両立の大変さを軽減する「親子ワーケーション」なども推進しました。

これらのプログラムを通じて「社員の癒し」「社員の人材育成」「仕事の集中」「仕事の楽しさ」といった価値を提供しています。今後も、テレワークで多様な働き方・学び方が実践できる地域としての取り組みを進める方針です。

今回はアワードの受賞企業・団体をご紹介しましたが、全国各地で「地方創生テレワーク」への取り組みが進められています。今後も働く場所の制約が外れていくことで、働き方や生き方の選択肢が広がっていくでしょう。

取材・文:青木典子 編集:馬場美由紀
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