外食業界、物流業界の「激務」イメージを打ち破り、サステナブルで幸福な職場作りに挑む――「GOOD ACTION アワード」受賞・株式会社minitts、株式会社日東物流

「働く個人が主人公となり、イキイキと働ける職場を創る」。2014年度から始まった「GOOD ACTION アワード」(※)は、そんな職場での取り組みに光を当てて応援する取り組みです。先ごろ、第8回目となる「GOOD ACTION」の受賞企業が発表されました。

今回は、受賞企業の株式会社minitts、株式会社日東物流の取り組み内容を詳しくご紹介します。

※「働く個人が主人公となり、イキイキと働ける職場を創る」。2014年度から始まった「GOOD ACTION アワード」は、そんな職場での取り組みに光を当てて応援する取り組みです。

「GOOD ACTION アワード」受賞者インタビュー記事一覧はこちら

株式会社minittsと株式会社日東物流
株式会社日東物流 菅原さん(左)株式会社minitts 中村さん(右)

業界イメージを崩し、従業員のやりがいや健康を追求する

株式会社minittsは、1日100食限定の国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋」を運営する外食企業、株式会社日東物流は冷凍・冷蔵輸送を手掛ける物流企業です。

外食業界、物流業界とも、一般的には「勤務時間が不規則で激務」というイメージがありますが、両社とも働く側の視点で「サステナブルで幸福な職場を生み出す」という思いのもと、新しい働き方を実現しています。

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従業員ファースト─株式会社minitts(佰食屋)の取り組み

株式会社minitts代表取締役
株式会社minitts 代表取締役/中村朱美さん

飲食店といえば「低賃金・長時間労働」のイメージが強く、「お客様がたくさん来店することが、従業員の喜びにはつながっていない」と感じていた株式会社minitts代表取締役の中村朱美さん。

組織の仕組み自体を変え、従業員のモチベーションと接客向上を同時に実現できないかと考え、1日100食限定のレストラン「佰食屋」をオープンしました。

1日100食に限定することで毎日18時退勤を実現、従業員モチベーションも向上

GA表彰式株式会社minitts
GOOD ACTION審査員・若新雄純氏と

「営業時間が決まっていると、従業員はその時間中ずっと頑張り続けなければなりません。毎日、今日はどれぐらいのお客様が来て、どれぐらい忙しくなるんだろう…と不安を抱え、お客様が少ないヒマな日のほうが得だと感じる。この構造を根底から変えたいと考え、時間ではなく人数(食数)の目標数値を明確に掲げた『佰食屋』をオープンしました」(中村さん)

「佰食屋」は、100食を売り切ったらそれで営業終了。

数値を明確に定め、店舗名にして対外的にも知らしめることで、「フードロスが限りなくゼロになる」「朝から仕込む量が決まるので見通しを持って働ける」「残業ゼロ・有給休暇完全消化の実現」など、さまざまなメリットが生まれています。

メニューは国産牛ステーキ丼を含めて3種類。

そう絞ることで、オペレーションルールがシンプルになり、従業員の生活環境や年代、能力に大きく関わることなく多様な人材が活躍できるようにもなりました。

そして何より、従業員のモチベーションに大きな影響を与えていると言います。

「たった一つの『100食で完売』というルールにより、完売に近づくにつれ従業員の気持ちが高まり、最後の1人のお客様まで笑顔で接客できるように。接客に関する教育や指導も、全く不要となりました」(中村さん)

別の外食企業から転職してきたあるスタッフはこう話します。

「前の会社は、仕事は楽しかったのですが体力的な限界が近づき、勤務時間が短い職場を探して佰食屋に転職しました。以前は12時間ほどでやっていた業務をぐっと短い時間でこなすことになるので忙しくはありますが、プライベートの時間はものすごく増えたし、それによって生活自体が劇的に変わりました」

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健全化への“投資”を惜しみなく─株式会社日東物流の取り組み

株式会社日東物流
株式会社日東物流 代表取締役/菅原拓也さん

物流業界では慢性的なドライバー不足と高齢化、長時間勤務の状態が問題視されています。千葉県で冷凍・冷蔵物流を手掛ける株式会社日東物流も、以前は同様の課題を抱えていました。

しかし、15年ほど前に自社で起こった事故を機に、同社代表取締役の菅原拓也さんは「本当の意味で働き方を変えていかないと、社員も会社も、社会も守れない」と痛感したと言います。

長時間労働が常態化しやすい業界で、敢えて売り上げを手放し社員の健康維持に尽力

GA表彰式株式会社日東物流
GOOD ACTION審査員・守島基博氏と

「エッセンシャルワーカー(社会基盤を支えるために必要不可欠な仕事に従事する労働者)としての社会的使命の重さとは裏腹に、さまざまな問題が山積している物流業界。業界と自社とに共通するキーワードは『健康』であり、従業員を守る事こそがこの社会を守り、物流業界の変革につながるのだと信じ、健康経営の実践とコンプライアンスの遵守に取り組むと決めました」(菅原さん)

大前提として、従業員の健康維持にかける費用を「コスト」ではなく「投資」と認識。

その投資費用を少しでも多く捻出するために、取引先との条件交渉に果敢に取り組み、単価向上や不採算ルートの見直し、無駄な業務の削減を実現。売り上げを減らしながらも経常利益を大幅に高めることに成功しました。

この労働時間の圧縮と作業の効率化により、ドライバーの拘束時間も縮小させることに。ドライバーが無理なく働き、健康も維持できる体制を整えました。

そして、確保した予算で全従業員への健康診断受診の徹底、さまざまな検査における費用の全額負担、定期的なストレスチェックの実施などの健康支援施策を実行。

コンプライアンスと健康経営がリンクして回り始めたことで、従業員が自発的に健康を重視するようになったといいます。

現場で働く社員からは、次のような声が上がっています。

「昔は1日15時間以上働き、5~6時間家に戻ってまた出勤…なんてこともありましたが、徐々に勤務時間が少なくなり、今では家にいる時間が増えました

「入社して20年近くになりますが、入社当時より勤務時間は大幅に削減されたにも関わらず、収入は上がりました」

代表取締役の菅原さんはこう話します。

「この10年間、小さなことからコツコツやり続けて今があります。当時はゴールなど見えないし、今手掛けている改善の効果も見えない状態でしたが、3年ぐらいやり続けてみると『少しずつ変わってきたな』という実感がありました。成果をすぐに求めず、くじけず長期スパンで取り組み続ければ、必ず成果につながると実感しています。当社の取り組みにより、業界全体のイメージが変わり、一人でも多くの人に『物流業界で働くのもいいな』と思ってもらえたら嬉しいですね」

売り上げ追求の姿勢から脱却し、サステナブルな職場づくりを実現

両者に共通しているのは、「従業員を大切にしたい」という強い思い。

株式会社minittsは「1日100食限定」と明確に定めることで自社の売り上げの上限を決め、株式会社日東物流は不採算ルートの見直しなどで「売り上げを下げて利益を残す」。

いずれも経営者としては難しい決断を行い、従業員がモチベーション高く幸せに働き続けるサステナブルな職場づくりを実現しました。

今回の受賞について、株式会社minittsの中村さん、株式会社日東物流の菅原さんは次のように語ってくれました。

「私たちは仕事をするために生まれてきたんじゃない、人生を豊かにするために仕事をするんだ――こんな思いを持って、飲食業界で働き方改革を推進してきて10年目になります。

10年目のタイミングで今回の賞が受賞できたのは、私たちにとって希望にもなりました。

われわれの業界のみならず、世の中のいろいろな業界から『働き方改革っていいよね、人生も豊かになるよね』と言ってもらえるような、そんな会社を目指してこれからも時代に合わせて変わっていきたいと思います」(中村さん)

「私たちは、エッセンシャルワーカーとして頑張ってくれているドライバーはもちろん、地域社会にも誠実でありたいと思っています。

健康経営とコンプライアンスに長年かけて取り組んできましたが、この取り組みを評価していただけて感謝しています。アワードを通じて、物流業界の現状を多くの人に知ってもらえたことも嬉しいですね。

まだまだネガティブなイメージ多い業界ですが、少しでもポジティブに変えるべく頑張っていきたいと思います」(菅原さん)

2021年度 GOOD ACTION審査員よりコメント

企業というのは、社会からさまざまな経営資源を取り入れ、それをできるだけ効率的に使うことで、社会に価値を提供する生き物である。だが、数多くの経営資源のなかで、「人」は特殊な資源である。ココロを持つ経営資源なのだ。

人をサステナブルな経営資源として活用するためには、ココロの面をないがしろにはできない。

本記事に登場する2つの企業は、それに気づき、経営のあり方を大きく変えている。

minittsは、1日100食に限定することで、働く人の仕事へのエンゲージメントを上げ、結果として提供される高品質のサービスにより、顧客も喜ばせ、利益率もあげる。

日東物流は、取引先に働きかけ、常態化していた長時間労働を根底から改革し、従業員のココロと身体を健康にすることで、収益を増加させ、さらにそれを働く人に還元する。

その意味で、この2つの事例は、働く人の幸せと会社の利益の二兎を追っている。特殊な条件などもあるが、両者とも、企業のあり方そのものを再構築したイノベーター企業である。新しいタイプの「両利きの経営」とも言えよう。

審査員プロフィール

守島基博先生守島 基博 氏 (もりしま もとひろ)

学習院大学 経済学部経営学科 教授/一橋大学 名誉教授
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86年米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程でPh.D.を取得後、サイモン・フレーザー大学(カナダ)経営学部Assistant Professor。慶應義塾大学総合政策学部助教授、同大大学院経営管理研究科助教授・教授、一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年より現職。厚生労働省労働政策審議会委員、中央労働委員会公益委員、経済産業省産業構造審議会臨時委員などを兼任。2020年より一橋大学名誉教授。

著書に『人材マネジメント入門』、『人材の複雑方程式』『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発(近刊)』(全て日本経済新聞出版本部)などがある。

リクナビNEXT主催「GOOD ACTION」公式サイト

ライター:伊藤理子 写真:狐塚勇介
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