周りを気にせず、自分軸で生きる考え方・他人軸とのバランスの取り方とは?

近年、「ダイバーシティ(多様性)」を実現すべく、個々人の生き方・考え方が尊重されるようになってきました。そうした中、自分自身の「軸」とは何かがわからず、迷う人もいるのでしょうか。「自分軸」「他人軸」とはどういうものか、自分軸を持つことのメリット・デメリット、自分軸の見つけ方について、若手ビジネスパーソンの育成にも詳しい人事・採用コンサルタント曽和利光さんにアドバイスをいただきました。

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自分軸とは?他人軸で考えることとの違い

「自分軸」「他人軸」という言葉に明確な定義はなく、どのように捉えるかは個々人によります。多くの場合、「自分軸」とは、自分の中にある物事の判断基準や価値基準を指します。

もう少し広げるなら、ものの見方や考え方、フレームワーク(枠組み)といったものの総称と言えるでしょう。

一方、「他人軸」とは、自分以外の誰かの判断基準や考え方です。コモンセンス(常識・良識)やマジョリティ(多数派)をはじめ、「上司」「同僚」「お客様」など特定の他者の立場や目線に立った価値観や考え方を意味します。

他人軸で考えるということは、「相手の立場を思いやる」とも言えますし、「相手の評価を気にする」とも言えるわけです。

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自分軸を持つことのメリットとは

自分軸を持っておくと、どのようなメリットがあるのでしょうか。大きく2つのポイントに注目してみましょう。

他者からの信頼を得られる

自分の軸を持っていないと、何かを判断するにあたってその時々の状況や感情などに左右され、言動に一貫性がなくなります。一貫性がないと、何が起こるか。「他者から信頼されなくなる」ことが考えられます。

人を信頼する要素の一つに「予測可能性」があります。つまり、「この人なら、こんな場面でこんな行動を取ってくれるだろう」といった予測ができれば、安心して依頼したり仕事を任せたりすることができるでしょう。

一方、一貫性がない人は言うことがコロコロ変わり、行動を予測できません。すると「任せておけない」となってしまいます。仕事を振られなくなって活躍の機会を失ったり、上司から細かな指示や進捗管理をされて窮屈さを感じたりするかもしれません。

その点、自分軸を持って行動していれば他者から見ても言動に一貫性があり、信頼されやすくなるでしょう。信頼を得れば重要な仕事も任され、協業もスムーズに運びます。

仕事を効率的に進められる

ケンブリッジ大学のバーバラ・サハキアン教授の研究によると、人間は1日に最大で3万5000回もの決断をしているのだそうです。これには日常生活の細かな動作も含まれますが、仕事中にもさまざまな判断を繰り返しています。

何かを判断する場面で、その都度ゼロベースで考えていると時間がかかってしまい、非効率となり、「仕事が遅い人」になってしまいます。一方、「自分はこのような場面ではこんな行動を取る、これを優先する」といった軸を持っていれば、それに基づく判断をスピーディに下しながら仕事を進めていくことができるでしょう。

思考や判断を行うためのエネルギーである「認知資源」を効率的に使うことができ、生産性アップに繋がるのです。

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自分軸を持つことのデメリットとは

自分軸を持つことは大切ですが、軸へのこだわりが強すぎると、デメリットを招くことがあります。特に、「転職」といった重要な場面で、自分軸を持つデメリット面がマイナス影響を及ぼす可能性があります。注意すべき2つのポイントをお伝えします。

理想と現実のミスマッチを起こしやすい

自分軸が強すぎると、他人軸を受け入れたり認めたりするキャパシティが小さくなることがあります。自分軸を肯定・正当化するために、他者を否定するのはよくあることです。

「こんな考え方もあるし、あんな考え方もあるが、やはり自分はこうだ」とバランスを取れればいいのですが、自分軸に偏ると視野が狭くなってしまいます。

これが転職活動で出てしまうと、失敗を招く可能性があります。転職したいと考えるのは、多くの場合、「上司が嫌だ」「仕事がつまらない」といったネガティブ要因がきっかけとなるものです。

現状を否定すると同時に隣の芝生が青く見えて、それを「自分軸」として捉え、「自分はこんな仕事がしたい」「こんな環境で働きたい」と、一直線にそこへ向かってしまいがちになるのです。

ところが、実際に転職してみると、良いと思っていた軸が「そうでもなかった」と気付くことも少なくありません。再び転職を繰り返してしまうことにもなりかねません。転職活動に臨む際、自分軸を定めることは大切ですが、疑ってみることも重要です。

選択肢や可能性を狭めてしまう

転職先企業を選ぶ際、自分軸を持って判断することは大切です。しかし、それ以外の選択肢に目を向けなくなってしまうこともあります。転職においては、自分軸から外れた場所に、自分が本当にやりたいと思う仕事や強みを発揮できる仕事があるかもしれません。

自分軸と照らし合わせて「一目ぼれ」した企業に行く道もありますが、せっかく訪れた転機ですから、さまざまな可能性を探ってみるといいでしょう。

自分軸を見つけて、自分らしく働くには?

現時点で「自分軸がない」という方は、次の方法を試してみてください。また、自分軸を持っている方であっても、視野を狭めないようにバランスを取るためには、自分軸を「横に置いておき」、フラットな状態で新たな自分軸に出合う可能性を探ってみるといいでしょう。

オープンマインドで、さまざまなことにチャレンジする

自分の方向性を決め付けず、オープンマインドで、さまざまなことにチャレンジしてみましょう。食わず嫌いをせず、目の前にやってきた仕事に片っぱしから取り組み、やり切ってみるのです。

チャレンジの数を多くこなす中で、「これがやりたい」「自分に向いている」というものに出合い、自然と軸が生まれてくる可能性があります。最初は乗り気がしない仕事でも、やってみると面白さに気付くこともあるでしょう。

変化が激しい今の時代、オープンマインドなスタンスを持つことで変化に柔軟に対応しやすくなり、結果、キャリア構築に繋がっていきます。

無意識でやっていることを意識化する

自分では気付いていないだけで、実はすでに軸を持っていることもあります。空気のような存在になっているため認識できておらず、「あなたの軸は何?」と聞かれても出てこないのです。そうした「無意識に大切にしている軸」を見逃さないようにしましょう。

では、無意識のものをいかにして意識するか。転職情報サイトでたくさんの求人を閲覧してみるのも一つの方法です。

さまざまな職種や働き方、働く環境や風土などを見る中で、素直な心で「これはいい」「これはよくない」などと振り分けていきます。「いい」に振り分けられたものを集め、共通点を考えてみると、「軸」が見えてくる可能性があります。

また、「他者からのフィードバックを受ける」のも有効です。自分に対して遠慮なくものを言ってくれるような関係を築いている先輩・同僚・友人などと対話し、「自分はどんな人間だと思うか?」と聞いてみてはいかがでしょうか。第三者の視点から、自分では気付かなかった行動特性などを発見できるかもしれません。

転職先候補が挙がっているなら、それについて意見を求めてもいいでしょう。「あなたらしいね」「あなたに合っていると思えない」などの反応から、気付けることもあります。反対を受けたとき意思が揺らぐかどうかによって、自分軸の強さや覚悟のほどを確認できることもあるでしょう。

このように、ときどき第三者の視点から自分軸を見つめ直し、更新していくことをおすすめします。そして、第三者から率直な意見をもらうためには、普段からネガティブなフィードバックに対しても反発せず、素直な心で受け入れる姿勢を持っておきたいものです。

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流されてみることが、「自分軸」の発見に繋がることもある

自分軸を持って仕事に取り組んだり、キャリアプランを立てたりすることは、昨今重要視されている「キャリア自律」にも繋がります。つまり、キャリアを自分で考えてコントロールしていけるようになります。

自分軸を持って自律することは、他人の言うことを聞かずに我が道を行くということではありません。他人の指示に従っていたとしても、納得してその道を歩んでいるかどうかが重要です。

上司や会社から命じられた役割、あるいは異動や転勤であっても、自分で意味付けをして乗ってみる、流れに身を投じてみることで、新たな発見も生まれるものです。

10年後・20年後の自分が今を振り返ったとき、おそらく「視野が狭かったな」と思うのではないでしょうか。ですから、自分軸を持ちながら、他人軸でも物事を見てみることをお勧めします。

自己満足や自己正当化で終わらず、他人軸も取り入れながら自分軸を柔軟にアップデートしていってはいかがでしょうか。

株式会社人材研究所・代表取締役社長 曽和利光氏

人材研究所・曽和利光さんのプロフィール画像1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)、『人材の適切な見極めと獲得を成功させる採用面接100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)など著書多数。最新刊『定着と離職のマネジメント』(ソシム)も話題に。

取材・文:青木典子 編集:馬場美由紀
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