『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。
目次
『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「この状況は、前からいる人にとって異物混入です」
(『マネーの拳』第5巻 Round.44より)
地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。
その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。
「株式公開はもろ刃の剣」
直販スタイルで、Tシャツ専門店をオープンした花岡。さまざまな苦労の末に、事業は軌道に乗り始めます。3年後には、年商45億円企業へと成長。全国に32店舗を展開し、ハワイを皮切りに世界進出を計画中の他、ネット通販も好調です。創業時から苦楽を共にしてきたメンバーもみんな、それぞれ重要なポストを与えられ、花岡を支えています。
商売が上手くいき、すべてが順調な中で、「次はどの方向へ向かって行くべきか?」を思案する花岡。事業の出資者であり、ビジネスの師匠でもある塚原会長は、花岡に株式の公開を勧めます。会長は、株式公開のエキスパートとして、証券アドバイザーの牧を紹介。牧は花岡に、株式公開のメリットとデメリットを解説します。
株式を公開すれば、資金調達が容易になり、社会的信用度も増して、優秀な人材を集めやすくなります。その反面、会社が投機的取引や、敵対的買収の標的にされる可能性もあります。牧は注意点として、上場して会社が大きくなると、それまでの人間関係が崩壊する、と言います。「創業メンバーにとってみれば、新しい人間は自分たちの地位を脅かす存在になるから」だと話すのでした。
会社が成長すれば、いい人材も入ってくる
会社の創業期は、人材を選ぶ余裕がなかったり、採用のプロセスが雑だったり、というのは、わりとよくある話です。それが、会社にある程度の規模感が出てきて、名前も売れてくると、採用のノウハウも蓄積されて、ようやく会社としての体を成してきます。
このような経緯を経て、会社が成長してくれば、通常は初期のメンバーよりも質の高い新入社員が入ってくるようになります。いい人材が入ってくることは、ますます会社を発展させる原動力になるわけですが、先輩社員の中には、心穏やかではいられない人も出てきます。
創業期というのは、多くのことが未経験であり、たいていは各自が何役もこなさなければいけない状況に置かれます。実はこれがチャンスであり、「現場で実践しながら鍛える」というのが、ビジネスパーソンにとって、何よりの勉強になります。創業期の荒波に揉まれて経験を積んでおけば、後から優秀な社員が入ってこようと、恐れるに足りません。つまり、ここで力をつけておかなかった人が、後々、社内の抵抗勢力になりやすいのです。
©三田紀房/コルク
「いい人材を採用すれば、会社を変えてくれる」の勘違い
会社にとって、有能な人材が不可欠とはいえ、優秀な人さえ採用すれば、すべてが上手くいく、と保証されているわけではありません。以前、私がまだサラリーマンだったころの話です。あるとき、会社が年収600万円を出して新卒採用を行ったことがありました。大卒新人の相場からいえば、倍程度の提示です。
会社側としては、「これだけのお金をかけるのだから、このエリートたちが会社を変えてくれるに違いない」という過度な期待がありました。確かに、新人たちはポテンシャルが高い人材ばかりだったのでしょうが、既存の社員たちからの妬みを買い、誰も仕事をまともに教えてくれなかったようです。結局、1人残らず辞めてしまいました。本来であれば、社内にいる人たちがリードしなければいけないのに、何の変革も起こせなかったのです。中途採用なら少しは違った形になったのかもしれませんが…。
著名な経営学者であるP・F・ドラッカー博士は、著書『創造する経営者』の中でこのように述べています。「(ヘッドハンティングや企業買収など)時間をお金で買うことは、その後、意識的な自力による努力のフォローがない限り、成功しない」と。会社を変えたければ、通常は“下からではなく、上から”が鉄則でしょう。「社風は上から下にしか吹かない」のですから。
自分1人では会社を変えることは難しい。では、できることとは何か
会社という組織には、これまでの歴史やステークホルダーなどが複雑に関係しているため、残念ながら、自分1人で変革しようとしても限度があるでしょう。とはいえ、どこにいても必ずできることはあります。それは、「自分の能力を磨く」ことです。
「自分がどうなりたいのか?」に焦点を合わせて行動することで、世の中の浮き沈みに流されることもなくなるのではないでしょうか。
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俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン(→)』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?(→)』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」(→)』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。
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