居酒屋で噂をされることは、成功に近づいているシグナル?ーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。

『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「サラリーマンの僕から見ると、ああいう人って憧れなんです」

(『マネーの拳』第5巻 Round.36より)

地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。

その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。

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「立場上はライバルでも、心の中では応援している」

渋谷にTシャツ専門店をオープンさせた花岡。しかしライバル・井川がオープンしたイタリアンカジュアルショップに押されて売り上が伸びません。拡大路線を進む花岡は、新宿駅ビルへの出店を決めるも、開店資金が足りずに行き詰まってしまいます。やむなく従業員給与の4割削減を打ち出し、何とか営業を続けるものの、花岡のやり方に不満を抱いていた幹部の日高(ひだか)と衝突することに。

日高は、元自衛官。もともと社会からドロップアウトしてホームレスになっていたところを花岡に見出された、という経緯があります(詳しくは“リスク”を過度に恐れる人に、明日はない!ーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言参照)。ところが花岡と仲違いした日高は、ついに会社を去ってしまいます。

日高が街をぶらついていると、ライバル会社の社員・高野が声を掛けてきます。一緒に居酒屋に入る2人。高野は日高が会社を辞めたと聞き、「花岡社長から離れるのはもったいない」とつぶやきます。いぶかしむ日高に向かって、高野は「私はライバル会社の人間だが、本心では花岡社長のような気持ちのいい商売をしたいと思っている」と答えるのでした。

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作者の実体験がストーリーのベースになっている

今回は「花岡社長が身内だけでなく、アンチの中にもファンを増やしていた」というエピソードです。『マネーの拳』では度々、飲み会の席で従業員が噂話に花を咲かせるシーンが描かれています。例えば花岡が最初に工場を買い取った当初は「縫製の素人がやってきた」というので、従業員からかなり槍玉に挙げられていました。

それが回数を重ねるに従い、居酒屋で話題になる花岡への評価が変わっていきます。読者は読み進めていくうちに、花岡と従業員との関係性も変化していることを、自然と理解できるようになっているわけです。この辺の描写は、さすがストーリーテラーである三田紀房先生ならではの演出と言えるのではないでしょうか。

少し三田先生のお話をしますと、大学卒業後に一度就職されますが、経営が傾いた実家の洋品店を立て直すために退職しています。『マネーの拳』での迫真の描写の数々は、現実の経営に苦労された先生の実体験を反映したものです。今回の「居酒屋で従業員同士が噂をし合う」場面も、おそらく三田先生がサラリーマン時代に、実際に見聞きしたものなのでしょう。

アンチとファンは同時に増える

さて。今回の物語のキモになっているのが、「居酒屋で噂を立てられることは、成功に近づいているシグナル」だということです。通常、ファンとアンチは同時に増えます。「良いことだけ」「悪いことだけ」ということはありえません。悪口の大半は嫉妬ですから、悪口を含めて話題にもならない人が「成功への階段を上っている」とは考え難い、というわけです。

自分の事例で恐縮ですが、私はサラリーマン時代に社内ベンチャーに応募し、アウトレット店をオープンさせました。当時、会社は在庫処分のための小売部門を持っておらず、売れ残った商品の処分について場当たり的な手法が散見されました。私の事業は、それを解決する可能性を秘めていたにも関わらず、社内には「アウトレット店なんか出せば、定価の商品が売れなくなる」と反対する人がたくさんいました。

そのため、アウトレット事業を始めた当初は、あからさまな嫌がらせに遭ったこともあります。しかし事業が軌道に乗るにつれて、そうしたことも減っていき、代わりに増えたのが協力者でした。それはつまり、周りが「あいつは“勝ち馬”だから関わっておいたほうがいい」と判断した、ということです。

©三田紀房/コルク

孤立しているように見えても、実際もそうとは限らない

組織に固定されているビジネスパーソンは、派閥ができた際に「どちらに着くか」を自分で選ぶことはできない場合が多いでしょう。よって、心と行動が一致しないことは多々あります。万一、社内で自分の味方がいないような事態になったとしても、あなたの行動が会社のためになっているのであれば、本当は心の中で応援している人がたくさんいる、ということを忘れないでください。

「相手は本心から敵対しているとは限らない」ということがわかれば、他人からの批判も、少しは心穏やかにやり過ごすことができるのではないでしょうか。

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俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン()』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?()』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」()』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。

俣野成敏 公式サイト(

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