なぜ、私たちは「半沢直樹」でスッキリするのか?──新時代のオープン型リーダーシップを徹底分析

前シリーズに続き、国民的大人気を博すドラマ『半沢直樹』。苦境に立たされながらも最終的には「倍返し」する痛快さに、毎週スッキリしている人も多いのではないでしょうか。前半では出向先の東京セントラル証券の社員たちを、後半はライバル銀行のキーマンを掌握する半沢直樹のリーダースキルについて、組織活性の達人・沢渡あまねさんに解説していただきました。

半沢直樹

あまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん

沢渡あまねさん業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書『職場の問題地図』『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』『職場の科学 日本マイクロソフト働き方改革推進チーム×業務改善士が読み解く「成果が上がる働き方」()』『はじめてのkintone~現場のための業務ハック入門()』など多数。

半沢直樹は新時代の「共感型リーダー」

このドラマには、古いリーダーシップと新しいリーダーシップの両方が登場します。政府が設置した私設の再生検討チーム「タスクフォース」は、トップダウン型の古いマネジメントタイプ。この手の統制型リーダーシップは、プライドや意地を守ることが目的になりがちです。

一方、半沢直樹(堺雅人)は組織を横断して様々な年齢・属性・会社の人たちとコラボレーションし、ビジョンや仕事に対する姿勢に共感する味方を増やす。新しい時代のビジョン型、そしてオープン型リーダーシップです。

従来型の古いリーダーシップでは、数少ないトップの言葉の意図を察することや、その言いなりになることが求められ、メンバーは積極的に意見や本音を言い合うことができません。

これに反して、半沢直樹は目指す方向や立場が異なる多様なメンバーの話を聞き、手を変え、品を変えて言語化し、同じ景色が見えるよう方向を示します。諦めず伝わるまで語りかける「言語化力」と、メンバーの意見に耳を傾ける「傾聴力」、そして「共感力」の3つを持っています。ここから、新しい時代に求められるリーダーシップのあり方を垣間見ることができます。

なぜオープン型リーダーシップが求められるかというと、時代や市場環境の変化が激しく、一つの仕事を成し遂げるためには、社内のメンバーだけで仕事が完結しないからです。多様なスキルを持った人たちとコラボレーションしなければ、社会の変化に対応したビジネスを生み出すことができなくなってきました。

その時一緒に働くのは、働く環境もキャリアも価値観も全く違う、他の職種の人や他社の人たち、あるいはフリーランスの人たちであることも考えられます。所属会社や立場が異なるメンバーと協働して仕事をするとき、リーダーがそれぞれの事情を無視して自分の都合を押し付け、押さえつけるマネジメントをすれば、活発な意見が出なくなり、メンバーは動いてくれなくなります。

これからの時代のオープン型リーダーシップに重要な行動として、以下が挙げられます。

【オープン型リーダーシップに求められる5つのマネジメント・9つの行動 】
5つのマネジメント・9つの行動
(出典:書籍『マネージャーの問題地図』(沢渡あまね著/技術評論社 (⇒)P.14をもとに作成)

特に半沢は、以下の3点に優れています。

【1】ビジョンニング──そのチームが目指す方向や、少し先の未来を示し、メンバーに方向づけができること。その組織“らしさ”を語る力
【2】育成──メンバーと組織の成長に投資できる。メンバーに足りていること、不足していることを可視化し、補うことができる
【3】モチベート──メンバーがチームや自分の目標達成に向けてチャレンジしようと思う意欲を醸成する

8,568通り、あなたはどのタイプ?

ビジョンニングで周りの心を動かし、行動を変える

上記に挙げた中でも、最も長けているのが「①ビジョンニング」です。帝国航空の巨額の債権を放棄するよう政府に詰め寄られたとき、半沢は社内外のメンバーに銀行員としてのあるべき姿や、なすべきことを様々な言葉で伝えて「債権を放棄すべきではない」と周りを説得します。

【半沢のビジョンニング①】500億円の債権放棄を決定する役員会を説得するシーン

半沢直樹半沢「私は銀行員として当然のことを主張しているに過ぎません。借りた金は返す、この常識がまかり通らなければ、金融業そのものが崩壊してしまいます。(中略)帝国航空に必要なのは、債権放棄ではありません! 10年後、20年後を見据え、自分たちの力で利益を出す、そんなまっとうな、当たり前の仕組みです!」

半沢は最後に「私が申し上げたことは、すべて頭取が最初に仰ったことです」とダメ押しし、自分の主張は会社の方針であることを印象づけました。

この半沢のビジョンニングを受け、宿敵・大和田(香川照之)ですら、「債権放棄を拒否する」と考え方を変え、「私は中野渡頭取の意向を実現するまでだ」と半沢とチームを組むことに決めました。つまり、半沢は、バンカーとしてのあり方や、銀行トップである頭取の求めるビジョンやゴールを見せて、大和田の心を変えたのです。

もちろん大和田も、強い言葉を使い、策をめぐらしながら多くの人を動かしてきた優秀なマネージャーです。しかし半沢との決定的な違いは、社内に向けた内向きなビジョンニングをしていたということ。

一方、半沢が行ったのは、社外へ向けた外向きのビジョンニング。銀行が世の中に発揮すべき価値を、熱くわかりやすく、論理的に伝えたことで、賛同者が増えました

もう一つ、半沢のビジョンニングがよくわかる象徴的なシーンがあります。債権放棄を主張する開発投資銀行の谷川(西田尚美)に対して、「あなたはどう思うのですか?」と個人の思いを引き出そうとしたり、バンカーだった谷川の父親のあり方を肯定したりして、「バンカーとして、社会に対して何をなすべきか」というビジョンを見せています

【半沢のビジョンニング②】開発投資銀行の谷川を説得するシーン

半沢直樹半沢「あなたご自身はどうお考えなのですか?あなたが白水銀行をスカイホープに紹介してくださったのは、我々と同じ意見だからじゃないんですか、谷川さん。(中略)貸すも親切、貸さぬも親切。口にするのは簡単ですが、相手を心から信頼していないとできない決断です。あなたのお父様は、強く大きなバンカーだった。私はそう思います」

その結果、谷川は本音を心を動かされ「バンカーとしての使命を果たしたい」と、自社内や他の銀行に債権放棄を拒否するよう説得に回りました。

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プロとしての模範的な姿勢を見せ、育成する

半沢はプロとしての姿勢を見せることで、若手の育成も行っています。セントラル証券時代に半沢の部下だった森山(賀来賢人)は、バンカーとしての半沢の姿勢からプロフェッショナルとしての生き方を学び、成長していきます

政府系タスクフォースの陰謀により、スカイホープ航空への融資が頓挫したときも、森山は自ら新たな融資先をリストアップして自発的に説得に回るという行動を行いました。一方、開発投資銀行の谷川も、決して諦めない半沢の姿勢からバンカーとしてのあり方を学びます。

【半沢の育成】半沢から学んだバンカーとしての姿勢を貫き、成長していく森山の交渉シーン

半沢直樹森山「人の暮らしを豊かにする、そのお手伝いをするのが金融業の使命のはず。私は最後まで、自分の仕事をまっとうしてみせます。そのこと、私は半沢次長から教わりました」
谷川「私も、銀行員としてどうあるべきか、半沢さんから教わりました」

半沢の姿勢や、繰り返し伝えてきたことが森山や谷川に伝播し、2人の姿勢を大きく変えることになりました。

メンバーの成長を認め、感謝のことばをかけてモチベート

これからの時代、様々な背景や事情を持つ関係者と仕事をするときは、関わる人すべてを味方につける必要があります。その点半沢は、森山の成長に気づき、感謝を示してモチベートすることで、求心力を発揮しています。

【半沢のモチベート】怪我をした森山の病室を訪ねる半沢

半沢「一人で出資先を探していたのか。それだけじゃない、帝国航空のために余剰人員の受け入れ先まで探してくれていたんだな」
森山「スカイホープにも、いつか帝国航空に負けないくらいの大企業に成長してもらいたい。そう思うようになったのは、次長に鍛えてもらったおかげです。ビジネスは、感謝と恩返し、でしょ?」
半沢「恩返しは俺の方だ。ありがとう、森山。おかげで腹がくくれた」

トップダウンで上から「いいからやれ」「できないのはお前がおかしい」と、詰め寄ったり、叱責したりしてはメンバーのモチベーションを下げるだけです。半沢は部下を認め、感謝しているという気持ちをはっきり言語化して伝えることで、部下から強い信頼を得ています

言葉を尽くして景色を変える、傾聴して意見を引き出す

最終的に半沢たち銀行集団は、政府系タスクフォースの意向に背きました。ここで興味深いのは、銀行集団も、政府系タスクフォースも、組織や業種の壁を超えた多様なメンバーで構成された極めて現代的なチームであるという点は同じだということです。

政府系タスクフォースは政治家、弁護士、官僚などで構成され、銀行集団もそれぞれ違う企業に属し、違う事情を抱えています。しかし政府系タスクフォースは、古い統制型リーダーシップで、上から押さえつけたり、脅したり、マウンティングをすることでメンバーの反発を招きました。

白井大臣が銀行側のメンバーに放った「お前たちはネジだ」という言葉が、そのリーダーシップの誤りを象徴しています。メンバーのモチベーションを下げた結果、銀行集団は全員半沢側に寝返りました。

逆に、半沢はオープン型リーダーシップでメンバーを説得し、共感を呼んで一人ずつ味方を増やしていきました。これからの時代に重要なのは、強制力ではなく共感力。そして言葉を尽くして周囲の心と行動を突き動かす力です。

そうした新時代のリーダーシップが、抑圧された統制型リーダーシップのもとで歯がゆい思いをしている視聴者を、スッキリさせているのではないでしょうか。
(沢渡もスッキリしました)

最後に、沢渡から物申させてください。

「メンバーや部下をマウンティングし、モチベーションを下げる経営者やリーダーは失格です」

<番組情報>

日曜劇場『半沢直樹』()<TBS系列>日曜午後9時~

半沢直樹前作の最終回では視聴率42.2%を叩き出した大人気ドラマ。半沢直樹は出向先でも次々に発生するトラブルを乗り越え、理不尽な要求を突き付ける相手に「倍返し」する。スタートアップ投資、エンジニアとの共闘、巨大航空会社の再建などの痛快ストーリーが展開される。出演者:堺雅人、上戸彩、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、筒井道隆、江口のりこ、西田尚美、石黒賢、宮野真守、浅野和之、木場克己、段田安則、柄本明、北大路欣也、香川照之、他

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WRITING:石川香苗子
新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。テレビやドラマに関する取材記事・コラムを多数執筆。
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