在宅勤務が快適で、もう会社には行きたくない!?コロナ後の新ワークスタイルと企業の選び方とは

新型コロナウイルス感染拡大防止策として、急拡大した在宅でのテレワーク。最初は戸惑いもあったものの、慣れてくると「快適」と感じ、「以前に戻りたくない」と感じた人は少なくないようだ。「満員電車に乗りたくない」「身支度や移動の時間は、もはやムダとしか思えない」「職場で人間関係に気を遣うのが面倒」といった声が多く聞こえてきている。

「もう会社に行きたくない」――これからもテレワークで仕事をしたいと感じている人たちは、これからどんな働き方を選んでいけばいいのか。希望する働き方のために転職するなら、どのような観点で企業を選んでいけばいいのか。三菱UFJリサーチ&コンサルティング執行役員の矢島洋子氏に、新たなワークスタイルと企業の選び方について語っていただいた。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
執行役員/東京本部 副本部長 矢島洋子氏

少子高齢化対策、男女共同参画の視点から、ダイバーシティ推進やワーク・ライフ・バランス、働き方改革関連の調査研究・コンサルティングを行っている。近年は、特に「短時間勤務等多様な働き方に対応した人事制度やキャリア形成支援のあり方」、「仕事と介護の両立支援」に着目した調査研究やコンサルティングを行っている。

緊急事態宣言下で、6割強の人が「働き方の変化」を経験

──新型コロナウイルスの影響で、働き方はどのように変わっているのでしょうか?

三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは、緊急事態宣言下における日本人の行動変容の実態と課題を把握するため、全国1万人を対象にインターネット調査を行いました。

その結果、就労者全体で「これまでと同じ働き方である」と回答したのは33.2%。元々、テレワーク等を実施していた人も数%いますが、6割強の人は働き方の変化を経験しています。今回のテーマである「テレワーク」に関していえば、「一部テレワーク勤務となった」は12%、「すべてテレワーク勤務となった」は9%と、全体の約2割の人が経験。企業規模別に見ると、100人未満の企業では10.7%であるのに対し、1000人以上の企業では36.9%と、大手企業ではテレワーク活用が進んだことが見てとれます。


出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査レポート「企業規模・業種・職種別にみる働き方の変化と課題」より抜粋
※調査対象/全国の20歳~69歳(学生を除く) 調査実施期間/2020年5月5日~5月6日
(調査対象とした「緊急事態宣言」期間は、全国が対象となった2020年4月17日~5月6日)

もともと、多くの企業、特に大手企業では、「テレワークをまったくしていない」ということはありません。10年以上前からトライアルで実施している、あるいは特別な事情を抱える一部の社員だけが使っている、といった状況でした。しかし今回、緊急対応として、これまでテレワークとは無縁だった部門・職種の人もテレワークを経験したというわけです。

もちろん、業種や職種によって、テレワークの利用度合いは異なります。しかし、テレワークを比較的利用しやすいとみられる業種・職種でも、環境や仕組みが整っておらず、スムーズに利用できない人も少なく労働者状況です。アンケートでは、「職場でしかできない仕事がある」との回答割合が高く、「テレワークをしてよいことになっているが、実際には出社しないと仕事ができない」との回答もありました。その背景には、通信環境が整備されていない、仕事に必要なツールや資料をオンラインで取り出せない、契約時の押印などを紙面上でしか行えない、マネジメントが機能しなくなるなどの状況があるとみられます。

ただし、この調査は2020年5月初旬時点のもの。緊急事態宣言解除から約3ヵ月が経ち、再び感染が拡大しています。企業は感染防止対策において長期戦を覚悟しなければならず、4月の段階ではテレワークへの対応が追い付かなった企業でも体制の整備を進めています。

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日本の課題だった「柔軟な働き方」の実現は加速する

──今後、人々の働き方はどう変わっていくと予測されますか?

コロナ発生前、テレワークを行っていなかった企業、テレワークに抵抗感を抱いていた人も、やむを得ない状況でテレワークを経験した結果、そのメリットと快適さに気付きました。いずれコロナが収束したとしても、テレワークの積極活用は進んでいくでしょう。

「人との接触を減らしたいので、会社に行きたくない」「テレワークで仕事をしたい」という声に応え、テレワークを常態化する企業もあると思われます。もともとコロナ以前から「働き方改革」は進められていましたし、テーマとして、「労働時間削減」と「柔軟な働き方」が課題となっていました。

これまでは「労働時間削減」にフォーカスされがちでしたが、これからは「柔軟な働き方」への関心度が高まるでしょう。ただし、「テレワークで生産性が上がった」という声も聞かれますが、それは「オフィスより自宅のほうが、生産性が上がる環境である」ことを意味しているわけでありません。そこを勘違いしてはいけませんね。

例えば、「午前中は顧客を訪問するが、会社には行かず直帰し、午後は自宅で仕事するほうが移動時間も少なく効率がいい」とか、育児中の方であれば「16時に一旦仕事に区切りをつけ、保育園へのお迎え・夕食・入浴を済ませた後で仕事をすれば、9時~18時のフルタイム勤務に近い労働時間働けて、子どもと過ごす時間も持てる」といったように、仕事上や個人の生活上のニーズに応じ、働く場所・時間を柔軟に組み合わせられることが、効率や生産性の高さにつながるのです。

それにより、何年も前から課題として掲げられている「多様な人材の活躍(ダイバーシティ)を可能とする経営」が可能となります。働き方の柔軟性を高めるためにも、テレワークの導入は有効な手段の一つです。今後も各社で体制整備が進んでいくでしょう。本社のオフィス面積を縮小して、サテライトオフィスを複数設ける企業も増えはじめています。

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「働きやすさ」だけでなく「働きがい」にも注目

──今後は必ずしも「会社に行かなくてもいい」ワークスタイルが多様化していくと予測できるわけですね。今回の経験で在宅勤務のメリットを強く感じた人をはじめ、転職を図る際には「テレワークができる会社」を一つの選択基準とする人が増えそうです。
では、テレワークという働き方を積極的に選んでいく場合、どんなことに気を付ければいいでしょうか。

「働きやすさ」だけでなく、同時に「働きがい」があるかをしっかり見極めることが大切です。そのために、まず注目すべきが「人事評価制度」です。

テレワークを導入して、柔軟な働き方ができるようにするということは、それに対応する人事評価制度の整備が欠かせません。働く時間も場所もバラバラ、働いている姿がリアルに見えない中で、いかに公正に評価をするか。企業は人事評価制度を見直し、従業員が納得できるものに変えていく必要があります。

テレワークに適応するのは、「成果主義」の評価制度です。中でも、「ジョブ型」と呼ばれる人事制度の導入を検討する企業が増えています。これは、担当職務に必要な能力を定義した「ジョブディスクリプション」を示して、労働時間ではなく成果で評価を行う制度です。加えて、「人材育成」をはじめ、長期的視点での組織への貢献を評価対象とする企業であれば、個人の成長と企業の成長が同時に機能していくでしょう。

自分では、「テレワークで生産性高く働いている」と認識していても、会社から納得できる評価を得られなければ、不満を抱えてしまうことになると思います。テレワーク制度と同時に、それに対応する人事評価制度があるかどうかが重要なポイントです。

テレワーク環境でも、短期的な成果や評価だけでなく、中長期的な自身の成長を意識することが必要ですし、成果に対して正当な評価がなされれば、その次には「適切な目標」が与えられます。それが、自分の成長につながります。テレワークによって、自分にとって快適な環境で働けるだけでなく、「ちゃんと成長していけるかどうか」を見極めてください。

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テレワーク中心でも、「コミュニケーション」は減らさない

──テレワーク中に気を付けるべきことはありますか。

「在宅勤務なら、上司や同僚との面倒なコミュニケーションがなくて楽」「人間関係のストレスから解放された」――そう感じて「もう会社に行きたくない」「行く必要はない」と考える人も多いのではないでしょうか。実は私自身、1人で引きこもって仕事をするのが好きなタイプなので、その気持ちはよくわかります。

しかし、よい仕事をするためには、他者と協働することは避けられません。大切な場面でコミュニケーションをとれなくては、仕事を円滑に進めることができなかったり、業務に支障をきたしたりします。自分の仕事だけでなくチームのパフォーマンスを向上することも大切です。

ですから、コミュニケーションへの「耐性」を失わないようにしてください。テレワーク中でも、メールやチャット、WEB会議などで、意識的にコミュニケーションを多くとるようにすることをお勧めします。テレワーク中心の生活になることで、コミュニケーション不足となり、インプットが減ることも防がなければなりません。

オフィスにいれば、ちょっとした疑問でも、近くにいる上司や先輩にすぐに聞けたり、相談できたりします。テレワークの環境だと、そうした疑問を解決しないままになってしまうこともあるのではないでしょうか。

転職を図る場合、企業を選ぶ際にも、協働や育成のための「コミュニケーション」できる環境が整っているかどうかも、注目したいポイントです。

面接では、「テレワークできますか?」だけでなく、「テレワーク下では、皆さん、どのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか?」「テレワークでもチームで円滑に業務を遂行するために、どんな工夫をされていますか?」などとたずねてみるといいでしょう。

離れていても「心理的安全性」を得られるかどうかにも注目

そもそも、「上司と顔を合わせたくない」という理由でテレワークを望む人の場合、会社のマネジメントに問題があるケースも多いと思います。信頼関係を築けていないということですから。

Google社がチームのパフォーマンス向上のために「心理的安全性を高める必要がある」ことを発見し、公表したことで、注目する企業も増えてきました。「心理的安全性」とは、メンバー一人ひとりが不安や恐れを感じることなく、安心して自分の意見を発信できたり、自分の判断で行動できたりする状態を指します。

柔軟な働き方をいち早く導入した外資系企業では、テレワークが多くなる中で、対面でのミーティングの重要性、上司と部下の1on1の重要性などがクローズアップされるようになりました。
テレワークを続けていけば、「会社に行きたくない」「職場の人間関係がツラい」という悩みが減る反面、孤独感から不安に陥ることもあるでしょう。心理的安全性を得られるようなマネジメント方針・体制であるかどうかも、企業選びの視点の一つとして持っておくこともお勧めします。

INTERVIEW&WRITING:青木典子 EDIT:馬場美由紀
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