転職活動で事業アイディアを提案したが玉砕。「自分でやるしかない」と起業した~ミナカラ代表・喜納信也さん

今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいたりした経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、彼らの「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第32回:株式会社ミナカラ 代表取締役薬剤師 喜納信也さん

(株式会社Beer and Tech CEO 森田憲久さんよりご紹介)

前回の記事はこちら


1983年生まれ。2007年、北里大学薬学部卒業後、株式会社ワークスアプリケーションズに入社。コンサルティング部門マネージャー、コンタクトセンターの立ち上げ&マネジメントなどを務めるかたわら、都内調剤薬局薬剤師、漢方薬局薬剤師としても活動。2013年、グロービス経営大学院 経営研究科修了後に退職し、同年11月に株式会社ヘルスケアスタイルラボラトリー(現・株式会社ミナカラ)を設立。

<会社概要>
オンライン薬局事業を手掛ける株式会社ミナカラ。代表である喜納さんをはじめ薬剤師の資格を持つ社員が多数在籍し、「ヘルスケアをもっと身近で感動的に」という企業理念のもと、事業開発や商品企画などを手掛けている。患者にあった医薬品の選び方などの医療知識・コンテンツ、医薬品を薬剤師の管理のもとに提供。自社開発のプライベート・ブランド医薬品も多数展開しており、商品パッケージのQRコードを読み取ると、薬の詳しい情報が見られたり薬剤師に相談できたりする。

29歳で経験した「転職活動失敗」が、起業のきっかけに

当社はオンライン薬局事業を展開し、薬剤師が医薬品の正しい情報を提供するとともに、一般用医薬品(市販薬・OTC)を購入できるWebサイト「ミナカラ(minacolor)」を運営しています。また、プライベート・ブランドの医薬品の開発にも注力して、ユーザーの幅広いニーズに対応しています。

北里大学薬学部に進学し、薬剤師の資格を取ったものの、就職したのはソフトウェア会社であるワークスアプリケーションズ。約6年間、コンサルタントとして働き、マネジメントも経験した後、2013年に起業しました。

以前から漠然と、「コンシューマ向けヘルスケア事業を創りたい」という想いを持ってはいたものの、なかなかタイミングをつかめずにいた私が起業に踏み切れたのは29歳のとき。「初めての転職活動」に失敗したのがきっかけです。当時は相当なショックを受け、凹みもしましたが、あの失敗があったから今の私があると思っています。

 

就職で医療と離れたことで、逆に「自分にとって医療とは」を強く考えるように

そもそも、薬学部出身の私が畑違いにも見える就職先を選んだのは、大学時代は「薬剤師になるのか?自分が医療に関わるのはなぜか?」と将来の方向性にまだ迷っていたから。それよりも、アルバイト先だったITベンチャーの社風が面白くて、ベンチャー企業に興味を持つようになり、「社会人になったら早く成長したい」という意識が強くなったので、それを叶えてくれそうだと感じたワークスアプリケーションズを選びました。

当時のワークスアプリケーションズはまさに急成長中にあり、若手のうちから責任ある仕事をどんどん任されました。毎日が刺激的で楽しかったのですが、「一度は志した医療業界に関わらなくて本当にいいのだろうか」というわだかまりをいつもどこかに抱えていました。医療業界とは全く別の分野に進んだことで、かえって「自分にとって、医療とは?」という問いを常に持ち、その答えを追い求めて、医学部の受験にチャレンジしてみたり、業務終了後や休日に調剤薬局で働いてみたり…と、自分から医療業界に接点を持つようになりました。

その中で、「世の中にオンラインサービスはたくさんあるのに、医療分野においては一般の方が日常で健康に困ったときに使われるサービスがほとんどない」ということに気づきました。例えば、「料理を作りたいときはクックパッドを見る」というように、体調が悪いときに日常的に使える便利なサービスがない。漠然とですが、オンラインを使って、医療をもっと身近なものにできないか…と考えるように。それが、社会人5年目ぐらいのころでした。

 

事業アイディアはあるものの、起業は選ばず大学院→転職活動

そのとき、すぐ起業するという道もあったと思います。実際、当時の日記を読み返すと、事業アイディアと「起業したい」という思いが記されていました。

でも、ワークスアプリケーションズで実績を認められ、入社3年目にマネージャーに昇格。より大きなプロジェクトを動かすようになって仕事にますますのめり込み、マネージャーとしてもっと成長するには、経営者目線で事業を語れる必要があると感じていました。また一方で、漠然と考えていた起業についても「自分で会社を興すにはまだ力不足」という思いもありました。いずれにせよ経営についての知識習得は必要と考えて、働きながらグロービス大学院に通学。結果的に、「起業したい」という淡い思いは先送りになりました。

そして2年後、大学院を修了。この流れならば、普通は満を持して起業!となるところだと思いますが、その時の私は「転職」を選びました。起業にこだわっていたというよりも、ずっと心の中で温めていた「オンラインによるコンシューマ向け医療サービス」のアイディアを早く実現できるのはどこかと考えたら、大手の医療系企業に持ち込み新規事業として立ち上げたほうが、リソースも多いだろうし大きくサービスを提供できて効率的だろうと考えたのです。

しかし、初めての転職活動は、あっけなく玉砕に終わりました。考えてみれば、どの企業もBtoBメイン。既存事業で即戦力を求めているのに、BtoCのアイディアを持ち込んだところで興味を持ってもらうのは難しいもの。ましてや、思い返せばまだまだ事業アイディアとして詰めが甘く、稚拙な部分も多かった。先方としては「面接の場で何を言っているんだ?」という印象だったことでしょう。

今となっては「落ちて当然」なのですが、当時はもちろん転職活動も初めてで、アイディアだけでなく自分自身をも否定されたような気持ちになり、しばらく落ち込みました。そしてその後、悔しい気持ちがふつふつと湧いてきて、「なにくそ!」と自分にスイッチが入りました。絶対にコンシューマ向けの医療サービスは必要。そしてオンラインならばきっと新しい世界が創れるはず。医療×インターネットは自分だからできる分野。このアイデアを他者に認めてもらえないならば、自分でやるしかない。落ち込んでいる場合じゃないぞ、今が決断しどきだ!と腹をくくることができたのです。

こうして、やりがいのあった仕事を辞め、2013年に起業。自分や事業の未来を信じてくださる仲間や投資家にも出会うことができました。

この経験を経て、「決める力」は、ビジネスパーソンにとって必要不可欠なスキルだ…と実感しています。ビジネスにおいて、よく「後ろの扉を閉めないと、前の扉は開かない」と言いますが、その通り。決断すれば応援してくれる人が必ず現れ、前に進む力が得られるのだ…と確信しています。

 

オンラインサービスで、医療をもっと身近なものにしたい

もちろん、起業後もさまざまな壁にぶつかり、何度となく失敗を経験しました。時には事業の見直しや大きな事業転換を決断しなければならない場面もありました。

でも、「一般の方々の医療体験を向上させたい、医療をもっと身近なものにしたい」との想いで突き進んできました。

体調が悪くても、仕事が忙しくて病院や薬局に行く暇がない…という人は少なくありません。例えばそんな状況にある人に、オンライン上で症状に合った医薬品を速やかに提供することができたら、毎日をもっと楽に、気持ちよく安心して過ごしてもらえるのではないか。そう思っています。

私たちの生活は、ネットの進化によって格段に便利になりました。私たちの時代は、中学生のころはまだネットが普及しておらず、大学時代にオンラインサービスを活用するようになりましたが、初めてGoogleマップを使ったときは「こんなに便利なものがあるとは!」と感動させられました。そんなオンラインサービスで得られる「感動」を、医療の分野でも実現したいと思っています。

中期的な目標は、オンライン薬局のさらなる普及拡大。体調を崩したときに、「ミナカラがあったな」と思い出し、安心してもらえるような、そんなサービスに成長させたいと考えています。

そのために、まずは当社の強みである「薬剤師によるサポート」をさらに強化する計画です。「今飲んでいる薬との飲み合わせを考えて購入したい」「できるだけ今の症状に合ったものを買いたい」「店頭では相談しにくいけれど、自分に合った薬がほしい」などのニーズは強く、「薬剤師に相談できるオンライン薬局」の可能性は大。さらに自社開発のプライベート・ブランドのラインナップも拡充し、幅広いニーズに応えていきたいと思っています。

 

大舞台でバッターボックスに立つためには、まずは何か成果を上げること

これまでの経験を通してぜひ皆さんに伝えたいのは、「環境が人を育てる」ということ。ビジネスパーソンとして成長したいならば、バッターボックスに多く立たせてくれる環境、より難易度の高いチャレンジをさせてくれる環境を選ぶべきだと思います。

私にとって、ワークスアプリケーションズがまさにそうでした。何度も重要な場面でバッターボックスに立たせてもらい、自らが意思を持って決断し、自らがフルコミットして成果を出すまでやりきる、というビジネスパーソンとして必要な力を養うことができました。これは仕事の場面だけでなく、自分のキャリアを切り拓く際にも役立つ力だと実感しています。

ただ、企業からすれば、従業員全員をまんべんなく打席に立たせるわけにはいきません。打って得点を挙げてくれそうな人を選抜する必要があります。その「選抜メンバー」に入るための努力は必要。まずは何か一つ、どんな分野でもいいから、成果を上げること。今抱えている仕事の中で、「得意だ」と思えるものに注力する姿勢が重要です。

バッターボックスに立つ経験をすれば、その経験が必ず大きな力になります。視座もぐんと上がるでしょう。そして、周りから寄せられる期待がさらに自分を成長させ、いつかは大舞台を任されるようになるものです。「今の仕事は、自分に合っていない」「やりがいが湧かないのは、環境のせいだ」と他責にする前に、まずは自分からチャンスをつかみに行ってほしいと思います。

 

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

Pagetop