創業事業を1年でピボット…その失敗体験からメンバーの発案を理詰めで潰していた~Beer and Tech森田憲久さん【20代の不格好経験】

今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいたりした経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、彼らの「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第31回:株式会社Beer and Tech CEO 森田憲久さん

(株式会社ペライチ代表取締役 橋田一秀さんよりご紹介)

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1981年生まれ。明治大学商学部卒業後、設立数年のインターネット広告代理店に入社し約10年間勤務。途中、グロービス経営大学院に入学し、営業統括として、会社の成長を牽引。大学院を卒業しMBA取得を機に退職、2014年8月に飲食店予約サービス「スマート予約」をリリースし、株式会社Beer and Techを創業。しかし事業が伸び悩み15年9月に撤退。再度事業アイディアを練り直し、15年12月末に植物ECサイト「HitoHana(ひとはな)」をリリース。
観葉植物、胡蝶蘭の通販サイト「HitoHana」(ひとはな)


▲「HitoHana」は生花や観葉植物などのECサイト。花のアレンジや観葉植物と鉢の組み合わせなどにより、1万5000点以上もの商品を展開している。実際に届ける商品の現物画像を発送前に確認できるほか、購入者による口コミも掲載、「安心して植物を購入できる情報が揃っている」と評判を集めている。

 

皆で話し合って決めた新規事業。しかし半年もの間、試行錯誤の日々が続く

当社は2014年8月に創業。現在、観葉植物や花のECサイト「HitoHana」を運営しています。

2015年10月までは、創業事業である飲食店予約サービスを手掛けていました。日時や人数、ジャンルなど予約条件を入力すると、たった10分でその条件に沿った3店舗を紹介し、その中から希望の1店を選べば予約完了する、というもの。事業としての成立しやすよりも自分が1ユーザーとして純粋にほしいと思ったことから発案したサービスで、リリース当初は話題を集めたものの、さまざまな課題に直面し1年強でクローズすることになったのです。

しかし、すでに会社は回っているし社員も抱えているから、すぐに新しい事業を考えなければなりません。そこで、皆でアイディアを出し合い、わずか1カ月で「植物のECサイト」という今の事業コンセプトを決めてピポッドしました。

ただ、今でこそたくさんのユーザーにご利用いただいていますが、始めの半年間はなかなか軌道に乗らず、創業以来苦楽を共にしたメンバーとの関係性も悪化し…とても辛い日々が続きました。今回はその時のことを振り返り、紹介したいと思います。

 

もう失敗したくないと思いからメンバーの発案を論理で詰め、潰してしまう

短期間で決めたとはいえ、「シンプルな流通構造を持った植物のECサイト」という事業テーマには長期では必ずうまくいくと自信を持っていました。

当時、魚や肉、野菜といった一次産業の流通を短く、シンプルにする動きが高まっていて、いくつかのベンチャーが事業に乗り出し、ベンチャーキャピタルから資金を集めていました。

詳しく調べてみると、花など植物だけは未だ、一次産業の中でも一番市場を経由して流通する割合が大きく、流通期間が長いことがわかりました。時代の流れを考えれば、花の流通も必ず短くシンプルになるだろうし、EC化率も上昇を続けることを考えると事業として成立させられると考えたのです。また、インテリア雑誌におしゃれな植物を活かしたコーディネートがたくさん掲載されていたのに、都内の有名花屋を回ってみても、欲しいものが全然置いていない。もっと簡単におしゃれな植物が買いたいというユーザーの声が、売り手や作り手に届いていないに違いないと考え、この事業を始めました。

ただ、始めに手掛けたのは、胡蝶蘭。私の実家が胡蝶蘭農家であり、生産者とのコネクションが築きやすかったのが一番の理由で、軌道に乗ったら観葉植物や花束やアレンジメントに拡大していこうという考えでした。そして「ギフトの定番ではあるもののカッコ悪い」という胡蝶蘭の印象を変えたいという思いもありました。胡蝶蘭にもさまざまな品種があり、生産者オリジナルの胡蝶蘭もある。そういうものを産直でコストを減らして提供すれば、印象も変わるはずだと思ったのです。

しかし…胡蝶蘭の産直サービスとして「HitoHana」をリリースしたものの、私たちが着手する10年前にすでに胡蝶蘭のECは他社によって行われてられており、EC市場が伸びているとはいえ、成長できるタイミングではありませんでした。
そして当時のビジネスモデルは、注文が入ったら提携する胡蝶蘭農家に連絡し、農家から産直で送ってもらう、というもの。コストを抑え、手軽な価格で提供できるというメリットはあるものの、「やろうと思えば誰でもできるビジネスモデル」であり、差別化が図りにくい状況でした。

加えて、サービスがスタートした後は、受注処理やユーザーからの問い合わせ対応、そして「請求書払いへの対応」「郵便番号を入力したら住所が出るようにする」など他社サイトでは当たり前にできているだろう機能の実装に追われてしまいました。

自分たちの人生をかけてスタートアップ企業で頑張っているのに、今手がけているのは他社もやっているようなサービスであり、他社と同じ機能をひたすら実装する日々…仕事の意義、そして自身の存在意義を見いだせず、メンバーのモチベーションがどんどん落ちていくのがわかりました。

それでも始めのころは「何とか現状を打破したい」という思いから、みんないろいろなアイディアを出してくれました。しかし前回、事業としての成立のしやすさよりも、純粋に自分がほしいと思うサービスを立ち上げ失敗した経験から、今度は想いだけではなく「事業経済性や競争優位といった視点が欠落していてはダメだ」という意識が強くなりすぎて、一つひとつのアイディアをシビアに詰めてしまい、どれも実行されませんでした。せっかくアイディアを出しても一向に採用されないことで、メンバーの不満が募り、さらに社内の雰囲気は悪くなってしまいました。

 

現状を変えるため花屋を回り知見を増やしたことで、新たな気づきを得る

そんなある日、役員の一人から声を掛けられました。
「会社にこもっていても仕方ないから、とりあえず外に出てみませんか?人気の花屋や、流行っているホームセンターなどに行ってみて、まずは知見を増やしましょう」

私自身、何か現状を変えるきっかけがほしかったので、そこから毎週土日に、その役員とインターン生の3人で都内近郊の花屋、ホームセンターを回り、リサーチすることに。結果的にこれが大きな転機になりました。

2カ月ほどたったある日、都心にある有名な花屋を訪れたときのこと。花や観葉植物であふれたとてもおしゃれな店内は、来店客でぎゅうぎゅう。当時、すでに胡蝶蘭だけでなく観葉植物も扱い始めていたので、「うちが扱っているものと一体何が違うのだろう?」とじっくり商品を見てみると…なんと、同じ取引先の観葉植物ばかり。「もしかして、かっこいいと感じるのは植物を入れている鉢のせいなのでは?」と考えました。

店内のやり取りに耳をすませると、混んでいる店内でお客さんが「すみません、この鉢のもう少し小さいサイズはないですか?」と申し訳なさそうに聞いている。でも店員さんからは「メーカーに問い合わせて取り寄せられるか聞いてみないとわからない」との答え。このやり取りを聞いて、ピンときました。

店内のスペースには限りがあり、置ける商品数も、得られる情報量にも限界がある。でもネットならば、もっと多くの商品を扱うことができる。植物とおしゃれな鉢を組み合わせてバリエーションを広げれば、ユーザーが本当にほしいものを提供することができるのではないか、と思いついたのです。

会社に戻り、このアイディアをメンバーにぶつけたところ、反応はさんざんなものでした。
というのも、当時の主力である胡蝶蘭は主に企業向けギフトとして利用されることが多く、「できるだけシンプルで無難なものを」というニーズが強い商品。「そもそも、植物の流通構造を短くシンプルにするというコンセプトからスタートしたのに、なぜ植物と鉢の組み合わせで複雑にするんですか?」「ユーザーアンケートの結果も“シンプルで無難”なのに、その逆を行ってどうするんですか?」…メンバーの意見もごもっともでした。

ただ、人って面白いもので、半年もの間モチベーションが上がらない環境が続くと、「どんな方法でもいいから現状を変えたい」と思うんですね。さんざんダメ出しされましたが最終的には「うまくいくとは思えないけれど、そんなに社長がやりたいならやってみたらいいじゃないですか」ということになったのです。

すぐに鉢のメーカー数社に連絡を取り、取引を始めることに成功。サイト上でバリュエーションの多さをアピールするため、観葉植物と鉢を用意して一つひとつの組み合わせを丸3日間かけて撮影しました。細かくスケジュールを組んで臨んだつもりでしたが、組合せの数が多すぎて早朝から深夜までぶっ通しでの撮影に。誰ひとり休む暇がなくて「プロジェクトマネジメントがなっていない!」と、さらにメンバーを怒らせたりもしましたが、ようやくリリースにこぎつけることができました。

そして…サイトリリース後、なんとわずか1、2時間の間に、高額の組み合わせがバババッと一気に売れたのです。現金ですが「これはいける!」と社内の雰囲気が一気に明るくなりました。「アイテムを拡充すればもっと集客できるし、配送拠点作れば、配送コストがさらに落とせるし、組み合わせ次第でギフトとしてもイケますね!」なんて声も上がり、五里霧中だったのが嘘のように事業の方向性が決定。半年間の冷え切った関係もわずか数時間で一気に解消されました(笑)。

 

正しい意思決定には、持っている情報量の多さが重要だと気づく


そして現在は、胡蝶蘭、観葉植物に加え、生花にも事業領域を広げ、1万5000点以上の組み合わせを提供しています。

ユーザー数も増えたことから、自社で在庫を持ち、フローリストを抱え、配送も手掛けています。注文は全国から集まっていて、「地方だからなかなか希望のグリーンが買えなかったけれど、『HitoHana』でようやくほしいものに出会えた」との声をいただき、とても嬉しく思っています。法人のお客様からも「贈り先によって、胡蝶蘭と観葉植物やスタンド花等を様々な商品を使い分けることができる」と好評をいただき、企業向けギフトニーズも拡大しています。

これらの経験から学んだのは、「意思決定の良し悪しは、思考力よりも情報量で決まる」ということ。

植物のEC事業にピポッドした当初、まだ手持ちの札(=情報)が少ないにもかかわらず理屈ばかりを重視してしまい、一向に前に進めないでいました。役員に促されるまま、愚直に花屋やホームセンターを回り手札を集めたからこそ、判断材料が増え、「この道で行く!」と決断することができたのです。社内に閉じこもり、売れ筋や顧客アンケートの結果だけを見て考えていたら、今も同じ場所にとどまっていたか、もしかしたらまた事業を畳む羽目に陥っていたかもしれません。

今ではメンバー全員に、積極的に新しいチャレンジをするよう推奨し、それをバックアップしています。チャレンジで得た情報を持ち帰ってもらうことが会社としての「手札」を増やすことにつながり、次のビジネスアイディアにもつながる。これこそが会社としてのバリューを生み出すための最良の方法だと確信しています。

 

少しずつでも行動し情報を集めれば、現状を変えるきっかけがつかめる

私は、2014年にこの会社を立ち上げるまで、約10年間会社勤めをしていました。創業まもないネットベンチャーに入社し、営業として昼夜なく働きながら、会社が大きくなる過程を肌で感じてきました。営業統括マネージャーとして会社の成長に寄与できているという実感もありました。

ただ、起業後の4年間のほうが圧倒的に考え、試行錯誤する量が増えたと感じています。

会社員時代は、アイディアが頭に浮かんでも「会社や事業の方向性とはズレているから」と深掘りして検討することすらしなかったり、「これをやったら会社的にきっとNGだから」と確認もせずに空気を読んでやらなかったり。今思えば、「手札」を増やす努力が圧倒的に足りなかったと思います。

可能な範囲でも行動してみて思考を巡らせ、1枚ずつでも手札を集めることができていれば、また違ったアクションができ、会社にとっていい決断ができたかもしれません。自分でも気づかないうちに、「会社の枠の中で最適化される人生を、自ら選んでいたのだ」と今さらながら思います。

もしも現状に何か不満を抱えていたり、自身の枠を超えられていないと感じたりしているならば、まずは少しでも行動範囲を広げて手札を集め、それをめくってみることをお勧めしたいですね。

まずは動いて情報を集めないと、そしてその情報をもとに検討してみないと、思考は停止したまま。現状は何も変わりません。少しずつであっても手札を増やし、それを思い切ってめくってみれば、見えてくる景色は必ず変わる。私のこれまでの経験からも、そう思います。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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