大好きな場所で仕事したら、効率がアップする?──ダム好き「働き方」専門家が実践してみた

働き方改革が叫ばれ、多くの企業で残業時間の削減やワークライフバランスの推進などが進められているが、現場の生産性はなかなか上がらない…。
こんな現状を憂う「働き方」の専門家2人が「これからのより良い働き方」について、「大好きな場所」と口を揃える“ダム際”で大いに語った。

プロフィール

あまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん

業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『業務デザインの発想法』(技術評論社)、『ドラクエに学ぶ チームマネジメント』(シーアンドアール研究所)ほか多数。

コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 所長 / consulting & more 代表 若原 強さん

東京大学大学院修了後、SIer、経営コンサルファーム、ブランドコンサルファームを経て2011年コクヨ株式会社入社。社内マーケティング改革、アジアフラッグシップショールーム構築、オフィスレイアウト自動化システム構築等を経て2016年より現職。2017年よりコクヨとの複業で個人事業も立ち上げ、パラレルワーカー(複業家)として活動中。コクヨの現職では働き方・暮らし方の研究に従事、自身の個人事業ではマーケティングコンサルタントとして活動。TV・新聞・WEB・講演等での露出多数。

生産性を上げることは、自分の勝ちパターンを作ること


沢渡:若原さんとの出会いは昨年6月、「働き方」がテーマのフォーラムに出席した際の、登壇者控室でしたね。僕が自己紹介で「ダム巡りが趣味」と言ったら、「え、沢渡さんもですか!?」と食いついてきて(笑)。


若原「働き方」を専門とする者同士である上に「ダム好き」という共通項もあるなんて。おかげでイベントも盛り上がりましたよね。
ダムは大自然の中、ぱっと視界が開けて巨大な人工物が現れる…。ダムのこの「非日常感」がたまらない!


沢渡:わかります!!僕も以前、たまたま旅行中に参加したダム見学ツアーで、ダムの一番下から上を見上げたときに、自然の中にそびえる人間の知恵と技術の美しさに感動したのが、ダムにハマったきっかけです。
若原さんと出会ったときから、「いつかダムを絡めて働き方について語り合いたいな」と思い続けていたので、今日は実現できてうれしいです。


若原:…そうでした、今日はダムの話ではなく「働き方」の話でしたね(笑)。私も、昨今の「働き方改革」には思うところがありますので、いろいろざっくばらんに語り合いたいです。

【今回の対談場所】太田川ダム


▲静岡県周智郡森町にある重力式コンクリートダム。2002年着工、2009年完成と比較的新しく、休憩できるあずま屋や遠く浜松市街地まで見渡せる展望台など、ダム好きが集える設備が整っている。


沢渡:今、「働き方改革」という名のもとに、残業時間を何時間以内に削減するとか、有給休暇を何日間取得させるとか、強制的に「型」に当てはめようとしている企業が多いと感じます。

それも大事ではあるのですが、一方で現場ではかえって仕事に集中しにくくなったり、コミュニケーションがギスギスしたりするなどといったフラストレーションが噴出していて、働き方改革そのものに対する違和感も増していると感じます。


若原:おっしゃる通りです。逆に現場の生産性を下げてしまっていることも少なくない。


沢渡「生産性を上げること」とは、「自分の勝ちパターンを実践できる状態をいかに作るか」だと思っています。

従来の日本型の組織だと、9時には必ず全員が出社して、固定席でもくもくと仕事をして、12~13時という最も混む時間に混んだエレベータに乗り、混んだ社員食堂やレストランで休憩を取る…これが当たり前とされてきました。しかし、こういう働き方を続けてきた結果、ホワイトカラーを中心としたオフィスワーカーの生産性は、世界的に見てもきわめて低い由々しき状態。

もちろん、そのやり方が合っている、このままで十分成果を出せるという人もいるのでしょうが、生産性を高めるためには、一人ひとり、もしくは部署単位、職種単位で「我々はこういう働き方が最もアイディアが出せる、精度の高い仕事ができる」「この環境のほうが、ミスや手戻りが少ない」など、“それぞれの勝ちパターン”を見つけることが大切。そのためのトライアンドエラーを繰り返さないと、生産性の高い状態は作れません。


若原:沢渡さんの場合、「勝ちパターン」の一つが「ダム際で仕事をする」なんですよね?


沢渡:その通りです(笑)。今、クライアントのうち数社が静岡県内にあって、たびたび仕事で静岡に来ているんです。ある日、昼過ぎまでクライアント先で会議があって、その帰りに「せっかくだからダムに寄ってみよう」と思って車を走らせたのですが、メール着信を知らせる着信音が鳴り止まない。

そこで、ダム際に車を止め、車中でメールを返信していたら、ものすごくはかどって…。そのまま、締め切りが迫っていた原稿も書き始めたら、あまりに集中しすぎて気づいたらとっぷり日が暮れていたんです。びっくりした(笑)。


若原:自分が好きで、リラックスできる環境にいると、ものすごく仕事に集中できますよね。


沢渡:それ以来、静岡のクライアント先に行く前か、帰る前にダムに寄り、駐車場に車を止めてリフレッシュしながら仕事をするというライフスタイルが確立されています。自称「ダム際ノマドワーカー」(笑)。
(後日談:ちなみにこの記事の校正原稿も、太田川ダム際で確認して編集者に返信しました)


若原:今の沢渡さんのお話からは、「これからの働き方」のポイントが2つ、見えてきますね。まず、働き方改革は画一的ではダメ、ということ。残業時間をこれだけ減らそう、働く場所をこう変えよう、在宅勤務をこれだけ増やそう…などと画一的に捉えるのではなく、企業側に従業員の「多様な働き方(ダイバーシティ)」を受け止め、認める度量が必要だと思います。

もう1つは、「働き方改革を、“働く時間の中”だけで考えない」ということ。プライベートの時間も含め、どのように“働く”を最適化できるか。そういう視点が重要だと感じます。


沢渡:同感です。僕は「ワークライフバランス」という言葉が、どうも腑に落ちないんです。無理に「ワーク」と「ライフ」の垣根を作り、無駄を生じさせている気がしてなりません。

若原さんがおっしゃるように、ワークとプライベートをわけずに捉え、個人が好きな環境の中で仕事をすることで、ワークとライフにシナジーが生まれる人もいると思っています。僕の場合、大好きなダムで仕事をすることが、最高の「ワークライフシナジー」。苦手な事務作業も、ダム際でやれば「まんざらでもない」くらいの気持ちでポジティブに取り組める。


若原:いいですね!ワークライフシナジーという言葉。僕がその「ワークライフシナジー」を初めて実感したのは、仕事と洗濯の融合でした(笑)。過去、一人暮らし時代に在宅ワークをしていて、さてそろそろ休憩しようかと思ったときに、「そういえば洗濯物が溜まっていたな」と思い出して、仕事の合間に洗濯して、干して、取り込んだりしていたら、勤務時間中にその日やるべき仕事も、気になっていた家事もすべて片付けられたんです。

そのとき、「残業時間を減らしてプライベートの時間を確保する」という考え方ではなく、「仕事とプライベート、両方のやるべきことを同時に片づけることで、新たな時間を生み出す」という考え方もあると気づきました。

家事だけでなく、趣味や好きなことでも同様。「大好きなダムを見に行きたいけれど、仕事が忙しくてなかなか時間が取れない」ならば、「ダムに行って仕事をすればいい」という考え方にシフトすれば、さまざまな可能性が広がり、自分の「勝ちパターン」も見つけやすくなると思いますね。


沢渡生産性を上げるポイントは、「わざわざ」を「ついでに」に変えること。家事が溜まっているから「わざわざ」早く帰るとか、「わざわざ」帰宅後に家事のために時間を割くのではなく、若原さんのようにリモートワークの合間に「ついでに」洗濯してしまえば負担を感じにくくなるし、時間創出にもつながる。ワークもライフも両方ハッピーになりますよ。


▲好きなダムに向かう途中の郵便局で「ついでに」郵便物を出す沢渡さん。苦手な事務仕事もポジティブな気持ちでこなせ、かつ忘れず「確実に」対応できるようになったという

ワーケーションが生産性を高め、地域活性化にもつながる


沢渡:最近、「ワーケーション」という言葉をよく耳にするようになりましたね。ワーケーションとは「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語で、旅行先などでリモートワークを行うことを指しています。


若原:自社で拠点を持ったり、総務省などが地方で進めている「サテライトオフィス」を借りるなどして、ワーケーションに取り組んでいる企業が少しずつ増えていますね。チームで一定期間離れた地域に行って、自然と触れ合いつつ働くというケースが多いようです。


沢渡:僕の知っているベンチャー企業では、ハワイで1週間のワーケーションを行って、皆で企画を練りがてら休憩時間に海で泳ぐなどしてリフレッシュしたそうです。私のクライアント(大手製造業)では毎年1回リゾート地のホテルに泊まって、その期の振り返りと次の期のアイデア出しなどの企画会議を行っていますが、有益な意見が活発に出ます。


若原:当研究所でもワーケーションにトライしたことがあるのですが、ものすごく生産性が上がりますよ。僕らは、鹿児島の錦江町という鹿児島湾に面した地にあるサテライトオフィスを利用したのですが、海は近いし食べものは美味しいし、最高でした。

チームで寝食を共にする中で、「今夜は黒毛和牛の食べ放題のお店に行くけど、人気店ですごく混むから、18時までには仕事を終わらせよう!」と伝えると、みんなおそろしく集中するんです(笑)。でも、普段過ごしている環境だとなかなかこうはいかない。非日常を楽しみたいからこそ仕事を頑張る、という生産性の上がり方は、ワーケーションならではだと感じました。



▲ダムといえば、ダムカレー。ランチは森町体験の里「アクティ森」に隣接する野鳥公園をイメージした旬の野菜と森町のブランド牛「森の姫牛」をトッピングした「太田川ダムカレー」をいただいた。


沢渡:ワーケーションって、地域活性にもつながりますよね。東京で働いていたら、東京にしかお金を落とせませんが、チームで地方に行くことで「企業のお金」を地方に落とすことができる。事業活動の一環として地方にお金を落とすというこの方法は、福利厚生よりもずっとサスティナブルで健全です。

企業にはぜひ、ワーケーションを本業活性化につながり地域経済も回せる、新しい形のCSR(企業の社会的責任)と捉えて、前向きに検討してほしいですね。


若原:地方都市にも、この流れをチャンスと捉えてほしいと思っています。特に、以前と比べて交通インフラが整備され、都心からアクセスしやすくなる地方都市はチャンス大。2023年に北陸新幹線の延伸が予定されている福井県などが好例です。

都心からのアクセスがよくなると、地方自治体はまず観光客の誘致に目を向けますが、地域活性のためには、都心のワーカーをアクセスの改善に便乗して、どう引き寄せるかという考え方も必要だと思いますね。


沢渡:その通り。観光客の誘致と、あとはIターン/Uターン転職で定住させることばかり考えているけれど、観光客と定住は他県との熾烈な競争になります。忙しい人ほど「わざわざ」遠くに観光する時間も作りにくい。だったら、会社のお金と時間を使って「ついでに」来てもらう仕掛けにしたほうがいい。

ワーケーションの誘致に力を入れ、大都市圏から定期的に来てくれてお金を落としてもらう状態をうまく構築できれば、この地域のファンを増やすことにもつながります。実際私も仕事で東京~静岡の行き来を重ねて、すっかり静岡ファンになりました。


若原:最近、地方での新しい働き方をサポートするサービスもいくつか立ち上がっていますね。地方企業では、都心の優秀な人に転職してきてほしいというニーズが少なからずありますが、都心から移住させるのはハードルが高い。そこで、都心の会社員に「副業」として地方企業の仕事を手伝ってもらうというマッチングサイトがあるんです。


沢渡:へぇ~!そんなサイトがあるんですね!面白いなあ。


若原:地方での一時的な拠点対策としては、「定額制で全国のシェアハウス住み放題」というサービスも出てきつつあります。移住はせず、定期的に地方と都心を行き来しながら働くという新しいワークスタイルを実現しやすくなっているんです。


沢渡:常識を捨てて、新しい働き方を体現していく。こういう「働き方改革」こそ、どんどんチャレンジしてほしいですね。「改革」なのだから!

その仕事は「オフィスでないとできない仕事」なのか?


若原:ワーケーションや、ダム際ノマドワークのようなワークライフシナジーは、どの職業でも実践できるはずなのですが、営業など対面で人と会わなければならないような職種、経理など企業の機密情報を扱うような職種ではなかなか導入が進んでいないようです。

IT系職種に比べると相対的にやりにくいところがあるのかもしれませんが、それより「先入観」によるところが大きいと思いますね。


沢渡:事務系職種なんて、やりやすくなっていると思いますよ。実際、一部の企業では、クラウドサービスを使って経理業務や調達業務を定型化するような動きが出ています、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)もそういう形で活用すればよい。

さらに、ビジネスチャットを使えば、離れていてもコミュニケーションが取りやすいし、問題が起きたときのアラートも上げやすいし、報・連・相が簡単だからマネジメントもしやすくなる。


若原:おっしゃる通り。本当に四六時中オフィスに張り付いていなければならない仕事は、ごく一部だと思いますね。



▲今回の対談場所となった太田川ダム際のあずまや。絶景を楽しみながら仕事ができると会話も弾んだ


沢渡:僕の場合、最近、車の中がどんどんオフィス化しています(笑)。ダム際だけでなく、移動の合間にすいているサービスエリアや道の駅などに、車を止めて原稿を書いたり事務作業をすることも多いですし、運転席でヘッドセットをつけて、クライアントとWeb会議をやることもあります。クライアントも「いまダム際ですか?ならば安心ですね」と言ってくれる(笑)。


若原:車内はセキュリティ万全ですものね(笑)。


沢渡:そうなんです。カフェなど不特定多数の人がいる空間だと、PCをのぞき込まれるなど「ショルダーハッキング」のリスクがありますが、車だとそれがない。会話の内容も聞かれないので、完全にセキュアなプライベート空間なんです。


若原:僕も車を「働く場所」として活用することがありますよ。原稿やレポートを書かなければならないけど、なかなか進まない…なんていう切羽詰まったとき、PCだけ持って車に乗り込み、高速を走らせるんです。そして、サービスエリアで車を止めて仕事をする。

疲れたら、また車を走らせしばらくドライブして、次のサービスエリアに入って続きをやる。ドライブが好きなので、移動時間がリフレッシュになって、すごく効率が上がるんですよ。サービスエリア内のフードコートがもっとワークプレイス化していけばいいのにな(笑)。


沢渡:わかります!まさにワークライフシナジー!
ダム際で働くのが好きだというと、「ダムまで移動する時間が無駄ではないか」と言われることがあるのですが、僕も運転が好きなのでまったく苦にならないどころかリフレッシュになります。

それに、運転中はスマホやPCが見られないので、考えることに集中できて、いいデジタルデトックスになる。さらにいえば、オーディオブックなど「耳で読書を楽しむ」ツールも出てきているので、ビジネス書などをダウンロードして流しておけば、移動中が学びの時間にもなる。「学び方改革」!


若原:移動時間は削減対象として捉えられがちですが、このように「活用できる移動」もある。自動運転車の普及なども見据えると、さらに可能性は広がりそうです。もちろん、朝のラッシュ時の通勤など、ネガティブな移動は削減できたほうがいいですが、「活用できる移動」とはわけて議論したほうが、より良い働き方につながると思います。


▲沢渡さんの車には、「ダムを巡ってます」のステッカーが(笑)

「好きと働く場所」を組み合わせて、勝ちパターンを考える


若原:読者の方の中には、「ダム」の話が出たあたりで「なぜ、ダム?」と違和感を感じた人もいるかもしれませんが(笑)、適宜「ダム」という言葉を自分たちの好きなものに当てはめ、より生産性が上がる場所の選び方と、それに紐づく時間の使い方を考えてもらうとわかりやすいと思います。


沢渡:ダムもオススメですけれどね(笑)。


若原:僕、サウナも好きなのですが、横浜にコワーキングスペースとサウナが一緒になっているところがあるんですよ。


沢渡:え、そんなところあるんですか!


若原:サウナ好きにはたまらないですよ。館内着でリラックスしながら仕事ができて、疲れたらサウナで汗を流せる。同じ館内にあるのに、全然違う世界に行けるからすごくリセットできて、まるで朝目覚めたてのような爽やかな気持ちで仕事に取り組めるんです。こんなふうに、「働く」と「自分の好きなもの」を組み合わせてもらえれば。
(※後日談:ちなみにこの対談の後、若原氏は、サウナ好きの中では有名な静岡市内の聖地的サウナに向かったそうです)


沢渡:個人が好きな場所でリモートワークすることがまだ認められていない企業であれば、まずはチームでワーケーションにチャレンジしてみるといいでしょうね。会社に働きかけなくても、チーム単位であれば比較的簡単に実現できるのでは?まずは会議を、オフィス以外の場所でやってみるとか。

これで実績が上がれば、個人のリモートワーク、ワーケーションも議論に上がり、近い将来に実現できるかもしれません。こういうやり方もあり得る、こういう環境のほうがもっと仕事がはかどるのではないか、逆にこの業務はオフィスのほうが効率的…などの議論が進めば、オフィスで働く意義も今よりバージョンアップすると思います。


若原:ビジネスパーソンには、自分の「時間の使い方」をもっと意識してほしいですね。毎日同じオフィスに出社して、9時から17時まで働いて…それがひたすら毎日続くと、「これが当たり前、これが日常だから」と日々の時間の使い方について思考が停止してしまいがちです。

でも、もっと効率的に働くにはどうすればいいか、「働く」における自分の勝ちパターンは何かということを、仕事の枠内だけで考えるのではなく、生活や趣味とも積極的に掛け合わせていくことを意識すれば、今まで思いつかなかった時間のやりくりが浮かんだり、より有意義な毎日が過ごせるようになりますよ。

取材・文:伊藤理子 撮影:馬場美由紀

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