転職して半年間、成果を出せずアルバイト降格…起業までに経験した“崖っぷち”とは?~ペライチ橋田一秀さん【20代の不格好経験】

今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいたりした経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、彼らの「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第30回:株式会社ペライチ代表取締役 橋田一秀さん

(オーマイグラス株式会社代表取締役 清川忠康さんよりご紹介)

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1983年東京都生まれ。東京理科大学工学部電気工学科卒業後、株式会社NTTデータに就職。1年半で退職し、株式会社うるるでほぼ未経験ながらエンジニアとして就職。4年3カ月の勤務後、株式会社ペライチを創業し、代表取締役に就任。


▲「ペライチ」は誰でも早く簡単に、1ページのホームページを作成できるWebサービス。基本的な機能は無料、必要に応じて有料のプランやオプションを追加することができる。わかりやすさ、使いやすさが個人事業主や中小企業を中心に支持され、現在、会員登録ユーザー数は約15万人に上る(2019年2月時点)。

先を決めずに大手企業を退職したものの、初めて手掛けた事業がすぐに頓挫

起業してもうすぐ丸5年。振り返れば、今に至るまでに何度も何度も“崖っぷち”を経験しました。渦中にいるときは本当に辛くて、逃げ出したくもなりましたが、歯を食いしばって向き合い、乗り越えてきたからこそ今の私があると、自信を持って言うことができます。今回はそのいくつかの“崖っぷち”について、振り返ってみたいと思います。

大学卒業後、就職したのは大手SIer。社会人としての基礎や、大企業ならではの組織構造やシステムなどは学べましたが、どうしても仕事にやりがいを見いだせず、1年半で退職しました。周りに起業したり、個人で事業を立ち上げたりして、自分の好きなことを仕事にしている友人が多く、彼らに触発されたのもありました。

でも、特にやりたいことがあったわけではなく、「何か自分で事業を興してみたい」というフワっとした思いしかありませんでした。そこで、当時住んでいたシェアハウスのメンバーに声を掛け、彼が持っている企業研修のスキルをもとにセミナーを行い、僕が企画と集客を行って、「収益化できたらこのセミナーを事業化しよう」と誘いました。

しかし、思うように人が集まらず赤字になってしまい、その費用負担を巡って揉める羽目に。僕は彼をビジネスパートナーとして捉えていたから、赤字分は当然折半だろうと思っていたのですが、彼は「依頼を受けて講師をしたまでで、費用負担どころか講師料を払うべきだ」と言ってきた。揉めに揉めた結果、僕が折れてもろもろを支払うことになり、シェアハウスを引き払うことになりました。

幸い都内に実家があるので、「また住まわせてください」と頭を下げ、暮れも押し迫った寒い日に引っ越し…「自分は何をやっているんだろう」と心底落ち込みました。会社を辞めて、まだ3カ月。辞めたことに後悔はないけれど、仲間とは袂を分かつことになり、お金もなく、やりたいことも見えなくて、とにかく不安でいっぱいでした。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

半年間1つもアウトプットを出せず、クビ宣告を受ける


そんなとき、手を差し伸べてくれたのが、知り合いのオーダースーツを手掛けている個人事業主。「会社化したいから手伝ってくれ」と言われ、半年ほど裏方作業やホームページの作成などを手伝ったのですが、ここでの経験がWebの道に進むきっかけになりました。

マンションの一室でやっているスモールビジネスなのですが、ホームページと社長のブログだけで十分集客できて、事業が回っているのです。社長がオーダースーツのこだわりなどを日々発信して、ちゃんとファンを増やしている。これってスゴイな、自分もWebを使って人を集めてみたいなと思うようになったのです。

そこで、Web制作に関われる会社を目指して転職活動。全くの未経験なので難航しましたが、友人が紹介してくれたWebサービス会社に入社することができました。

今は上場企業ですが、当時はまだ社員10人程度のベンチャー。先輩がべったりついて教えてくれるような環境にはなく、初心者向けの入門本を数冊与えられてひたすらそれを読み、テキストをこなす…という日々が続きました。

そして、ここでも大きな壁にぶつかりました。HTMLやCSSは難なくこなせたのですが、PHPのプログラミングに入ったとたんにわからなくなり、半年間の試用期間中に1つもアウトプットを出せなかったのです。半年間、ただずっと勉強してお給料をもらっていただけ。試用期間が終わる直前、CTOに呼び出されたときは、「いよいよクビだ…」と覚悟しました。

近くの焼肉屋に連れて行かれ、食事をしながら今後の話をされたのですが、その時に言われたことは一生忘れられないと思います。

「はっしーは、“普通”なんだよね。ベンチャーで求めている人材は“普通”ではなく、“デキる人”。はっしーは今の会社の成長に全く追いついていない。このままでは置いておくことができないよ」――ショックでしたね。SIer退職後のいざこざよりも、何倍も大きな挫折感を味わいました。

でも、せっかくWebの世界に片足を突っ込んだからには、ここであきらめるわけにはいかない。「給料タダでもいいからこのまま働かせてほしいけれど、どうしても難しいならば別の会社を探してでもこの道を進みたい」と伝えたところ、アルバイトとして置いてもらえることに。半年間、何の価値も生み出せなかったのにまだ雇ってくれることに感謝するとともに、「これが最後のチャンス、もう後がない。やるしかない!」と腹をくくりました。

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「無茶な案件」を一人でやり切ったことで、エンジニアとして一皮むける

そこから、何とかアウトプットを出すべく休み返上で勉強しましたが、転機になったのは、ある難易度の高い案件をほぼ一人で請け負ったこと。

当時、勤務先の会社は自社サービスしか手掛けていませんでしたが、付き合いでどうしても受けざるを得なかった外部案件が発生、社内で手が空いているのが“戦力外”の僕だけだったのです。

その案件は、クライアントのサーバールームに、カスタマイズしたサーバーごと納品するというもの。ネットで調べたり本を読んだりして情報収集しつつ、秋葉原のサーバー屋に行って予算に合うサーバーを探すところから始まり、セットアップしてOSをインストールして、プログラミングして…と一からすべて独学で行い、何とか納期に間に合わせることができました。

知識がほぼないところから、一つひとつ調べながら進めなければならなかったため、寝る暇も惜しいほどの忙しさ。何度も逃げ出したくなりました。しかし、この経験を通じて「必死になるって、こういうことか。今までさんざん大変だ、辛い、しんどいと言ってきたけれど、全然必死じゃなかった」「“本気で”必死になれば、壁は越えることができるんだ」と気づくことができました。

そして、この経験を境に、自分自身で「エンジニアとして一皮むけた」ことを実感しました。

エンジニアに必要なのは、足りない知識を自ら習得し、さらに上を目指し続ける「自走スキル」。タフな案件を乗り越えたことで、エンジニアとしてやっていく自信と、もっと上を目指したい、もっと知識を習得したいという意欲が湧くのを感じたのです。

毎日のように勉強会やイベントに顔を出すようになり、仕事だけでなく趣味でWebサービスを作ってみるようになり、コンテストやハッカソンに参加するようになり…と外向きの活動が増加。それに伴い、起業家や起業を目指す友人が増え、「自分で事業を興してみたい」という思いが再燃し、事業アイディアを書き溜めるようになりました。

IT知識がない個人でも、簡単にホームページを作れるように

これは「エンジニアあるある」だと思いますが、エンジニアになってしばらく経つと、友人知人から「ホームページを作って」「うちのサイトについて意見がほしい」などの相談が頻繁に舞い込むようになります。

ある日、妻の友人が整体院を開業するにあたり「ホームページを作ったから見てほしい」と言われたのですが、それがあまりにイケていない。お店を訪問し、施術を受けがてらどうやって作ったのか、どんなツールを使ったのか詳しく話を聞いてみると、使っているホームページ作成ツールに問題があるのでは?と気づきました。

ホームページ制作ツールの需要は伸びていて、海外のツールもたくさん入ってきていますが、一つひとつ見てみると、どれも機能が多すぎて個人には使いこなすことができず、結果「イケていないホームページ」になってしまっている。もっとシンプルなUIで、簡単に作れるホームページ制作サービスがあれば、喜んでもらえるのでは?とひらめきました。

そもそも、その時の流れとして、副業やボランティア、趣味など、個人が組織の中ではなく「組織外」で活躍する時代がすぐそこに来ていると考えていました。組織を出て自分で事業を興したいと考える人も、増えているとも感じていました。ホームページを作って自身の事業や活動を告知したい、広く販促を行いたいという個人のニーズは今後も増えるはず。この確信から、「誰でも簡単にホームページが作れるサービス」を事業化することを決意、複雑なものではなく、まずは1ページのホームページを作ろうというコンセプトから、「ペライチ」という名でサービスを始めました。

現在、ユーザー数は約15万人になりました。ユーザーの大半は、中小企業・個人事業主。年齢層が幅広いのも特徴です。

例えば、「ネットリテラシーほぼゼロ、ガラケー持ち」の60代女性が、ペライチを使って作り帯工房のホームページを作って告知したところ、オープン初日に受講申し込みが入った…など、たくさんの方にご活用いただき、喜んでいただいています。

ホームページは作るだけでなく、どう認知してもらうか、SEOはどうするかなど、人の手でサポートする場面も必要になります。そこで、「ペライチ認定サポーター制度」を設け、全国にいる約300名のサポーターが各地のユーザーをフォローしたり、セミナーを開催したりしています。これにより、全国隅々までサポートが行き渡るようになりました。

すでに大勢の方にご活用いただいているペライチですが、ニーズは全国にあり、まだまだ白地はたくさんあります。サポーターと連携を取りながら一人ひとりにサービスを届け、有効に活用いただきたいと思っています。

人生を変えたければ、いろいろな人に会い、さまざまな意見を得ること

起業してからも、さまざまな“崖っぷち”をいくつも経験しました。ここでは紹介できなかった“ヤバい崖っぷち”もありました。

ただ、一度「崖っぷちを必死になって乗り越える」経験をすると、もう怖いものがなくなります。成長した!という実感も得ることができます。

だから、若い人にはぜひ、崖っぷちを怖がらず、さまざまなことに挑んでほしいと思っています。そして、もし崖っぷちに追い込まれたら、それを本気で乗り越える覚悟を持って臨んでほしい。若いうちのほうが、乗り越えるための体力も気力もあるし、結婚などのライフステージを経験する前のほうが動きやすいはず。乗り越えることができたら、見える景色がガラッと変わるはずです。

「まだ崖っぷちには追い込まれていないけれど、現状を打破したい、人生を変えたい」と思っているならば、いろいろな人に会うことをお勧めします。思いもよらない人に、ハッとするような有益なアドバイスをもらえることがあるからです。

迷っていたころの僕もそうでしたが、今も時間が許す限り、できるだけいろいろなジャンルの人に会うようにしています。経営の話は、経営者にしかわからないから、経営者仲間とランチ会を催すなどしていろいろな意見をもらうようにしていますし、横のつながりを広げるための飲み会も自ら企画し、様々な情報をインプットしています。

もやもやしているぐらいなら、気になる人に会いに行ったり、直感的に「よさそう」と思えた勉強会やイベント、セミナーに参加したりと、行動してみましょう。きっと視野が広がったり、気づきを得られたりするはず。

勤務先や仕事はすぐに変えられなくても、「会う人」は誰でもすぐに変えられます。そんなところから、人生は変わっていくのだと思いますよ。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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