まんぷく・安藤サクラ演じるヒロインに学ぶ、今すぐ現場で使える「最強マネジメント」の処方箋

NHKの連続テレビ小説『まんぷく』は、安藤サクラさん演じるヒロイン・福子が「最強のマネジメント能力を身につける」ことで話題となっています。劇中では、経営する会社のメンバーが「もう仕事をしたくありません」と反抗したり、長谷川博己さん演じる夫の萬平が進駐軍にとらえられて事業が続けられなくなるなど難題が続きます。

ビジネス現場でも、部下を持つことになれば似たような困難に直面することは多々あるはず。そういうとき、どう判断し、どう行動すればいいでしょうか。話題のキャンペーンや様々な企業の新規事業を数多く成功に導いている、The Breakthrough Company GO 代表取締役 三浦崇宏さんに、ドラマでの福子のマネジメント能力を5つ星で評価してもらったケーススタディを紹介します。

The Breakthrough Company GO 代表取締役 PR/Creative Director 三浦 崇宏さん

博報堂・TBWA\HAKUHODOを経て2017年独立。日本PR大賞、グッドデザイン賞、カンヌライオンズの各賞などを受賞。NTTdocomoやLINEの新規事業などをプロデュース。またペイミーやスマートドライブといったスタートアップのサポートも実施。最近では集英社の漫画『キングダム』をビジネス書として売るプロモーションや、アパレルブランド・クレストブリッジの新サービス“おでかけ試着”、メルカリ初の「新聞折り込みチラシ広告」も話題に。Twitter:@TAKAHIRO3IURA

【1】メンバーに「こんな仕事、やりたくありません!」と言われたら?

終戦後、暮らしていくために海の塩を使って、塩づくりをする萬平(長谷川博己)たち。しかし、一度にたくさん生産できず「まる1日かけてこれだけ?」「こんなんで、商売になるんですか?」と社員に疑われた福子は、あえて突き放すようなことを言います。【第36回より】

福子「どうしますか? みなさん、塩づくり、あきらめますか? もう、やりたくない人は大阪に帰ってもええわ! 今日までの給料はお支払いしますから」
社員1「俺はあきらめませんよ、あきらめるわけないやないですか。せっかくここまで頑張ってきたんやから!」(中略)
社員2「大阪に帰ったって、仕事なんかありゃせんわ!」
福子「そしたらみんな、がんばってくれるんですね!」

退路を自ら断たせて、覚悟をさせることも必要

【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★★★
福子さんはめちゃめちゃ残酷で、だからこそ優秀なマネージャーですね!
メンバーに退路がないことを確認させて、自分の口から「やります」と言わせています。これは経営者と社員の上下関係を固定化させてしまう、とてつもなく高度な政治的取り引き。凄腕の経営者やマネージャーの典型的なやり方です。

メンバーに退路がないことを確認させて、自分の口から「やります」と言わせています。これは経営者と社員の上下関係を固定化させてしまう、とてつもなく高度な政治的取り引き。凄腕の経営者やマネージャーの典型的なやり方です。

彼らは仕事を依頼するとき「やりたいか」と聞いてきます。このとき、「やってくれないか」とお願いしたら、依頼したマネージャーの方が、立場が下になってしまいます。だから彼らは社員が断りにくいとわかっていながら「やりたいか」と聞いてくる。すると、社員はいつしか「やらせてください」と自ら志願して、任務にあたることになってしまうのです。

これは一種の「政治」です。とても狡猾で残酷な、でも敏腕マネージャーなら必ずやる手法です。これを一瞬でやってのけた福子さんは、すばらしいマネージャーの資質があると思います。

【2】「自分の売り上げは、お客様のためになっているの?」と聞かれたら

できあがった塩を持って、社員を連れて近所のラーメン店に持っていく福子。すると、塩不足に悩んでいたラーメン店の夫婦は、「これで美味しいラーメンがつくれる!」と涙を流して喜びます。【第36回より】

福子「お塩づくりは大変だけど、こんな美味しいラーメンができて、こんなに喜んでくれる人がいるんよ。みなさんは、世の中の役に立つ仕事をしているの。そやから、がんばってお塩をつくってください。私も一生懸命みなさんのお世話をしますから」

エンドユーザーの喜ぶ姿を体感してもらい、仕事の意義を伝えよう

【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★★★
このマネジメント方法は「消費者便益の追体験による自分ごと化」といいます。チーム全体のモチベーションを高めるときに、とても有効です。塩づくりは福子さんたちが専売局に塩をおろし、ラーメン屋がそれを仕入れて、お客様に美味しいラーメンとして届ける、B to B to Cのビジネス。エンドユーザーの姿が見えにくいため、やりがいを見出すのが難しいのです。

こういうときは、社員みんなに現場を体験してもらうに限る。塩が消費される現場であるラーメン屋さんで、自分たちのつくった塩が美味しいラーメンに生まれ変わり、多くの人が喜んでいる姿を見せる。それによって、社員に「自分たちのやっていることはお客様の役に立っているんだ」ということを実感させるのです。

売り上げや順位のためにがんばれる猪突猛進型の人なら、「月末までにこの売り上げを達成するぞ!」とか「1位を目指すぞ!」と言えば動きます。しかし今の世の中、そういう人ばかりではありません。

会社という多様なメンバーが集まる組織には、「勝ち負けじゃないです」「私が数字を達成しても、お客様のためになるかわかりません」という人もいて当然。そういう人には、自社の商品やサービスを使っているエンドユーザーの姿を見せ、「あなたが売っているものによって、これだけ多くの人が幸せになっています。だからこんなふうに幸せになる人を増やしませんか」と説いてみましょう。これを「消費者便益の追体験による自分ごと化」といいます。

エンドユーザーの喜びを追体験させ、「自分たちの仕事はこれほど意義のあることなんだ」と実感してもらう。そしてモチベーションを上げる。すばらしいマネジメントスキルだと思います。

【3】市場の動向が変わって、商品が売れなくなったら?

手榴弾を持っていたと疑われ、進駐軍にとらわれた萬平たち。ようやく釈放されたものの、悪い噂がたち、つくった塩を買い取ってもらえなくなります。そこで福子は「思い切って塩づくりをやめよう」と提案します。【第61回より】

メンバーのためを思うなら、勇気をもって撤退しよう

【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★☆☆
ビジネスにおいて “損切り力”が重要な場面は多々あります。この事業はダメだとなったら、今までうまくいってきたことは一切関係ありません。すぐに損切りをして、次のビジネスにいきましょう。

法改正やテクノロジーの進歩によって社会のルールが変わってしまうことは、今の時代のビジネスにはつきものです。そういうときは、素早く損切りして、時代に合ったビジネスへと転換させるべきです。

やるべきだと決断した仕事はどこまでもやる、それは大前提だし、大切なことです。だけど、それ以上に重要なことは、やらない仕事を徹底してやらないこと。それを判断できないマネージャーは優秀とは言えません。

「今回はこの方針でいくと決めたから、他のことはやらなくていい」と、部下の仕事を減らせる上司が良い上司。いくつかの可能性を探りたいとかいって、仕事を増やす上司はダメ上司です。「やらなくていい」ことが決まれば、メンバーはやることがシンプルになって集中できるし、結果的に良いアウトプットに繋がります。それが「選択と集中」です。勇気を持って、前向きに捨てていきましょう。

【4】メンバーから「異動は嫌だ」と言われたら?

東京進出することになった萬平たちの会社ですが、そのときリーダー格の神部(瀬戸康史)が東京に行きたくないとしぶります。福子はそれを諭します。【第63回より】

福子「ごめんね。神部さんが落ち込むのも仕方ないと思うの。せやけどね、(中略)それまでに神部さんが大した仕事を任せられるようになって、タカちゃん(神部の婚約者)を養えるお給料をもらえるようにならないといけないやない? 赤ちゃんができたら、もっとしっかりしないといけないのよ」

厳しい指示を出しても、納得してもらえる信頼関係を築く

【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★★★
彼女がやっているのは、最強のマネージャーが必ずやる「天使と悪魔のマネジメント」です。天使のような大きな愛情でメンバーを包みこみながら、悪魔のように残酷な指示を突きつけ、やり通す。すごく本質的なマネジメントの手法です。

社員は「婚約者と一緒にいたいです!」と自分のエモーション(感情)に関する話をしているのに対し、福子は「給料を上げないと養っていけないでしょ」と数字(給与・業績)の話をしています。

マネジメントの本質とは、無限の愛情を持って、残酷な指示をするということです。組織の論理と、社員の利益はいつも一致するわけではありません。そこをどうやりくりするかが、まさにマネジメント。今回福子さんは組織の利益のために、個人の意に反した動きを指示しなければなりませんでした。そのために大きな愛情を示しつつ、「お金」という社員の急所になるような論点を見つけて、結果的に妥協案なしで指示を完全に受け入れさせました。

メンバーがついてくるかどうかは「厳しいけど、自分のことを考えてくれてるんだよな」と思ってもらえるかどうかにかかっています。優しいだけでは社員も組織も成長しないし、組織の論理だけでは人はついてきません。メンバーをとことん愛した上で、残酷な意思決定をしなければならない時もあるのです。

ヒロイン福子は「ナチュラルボーン・マネージャー」

【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★★☆
福子はまさに天使のような愛情をもって、悪魔のように残酷な要求をしています。誰かに教わることなくそれができている彼女は、「ナチュラルボーン・マネージャー」。★4.5点をつけたいですね。

給与を下げる、評価をつける、異動を命じる……いざ上司という立場になったら部下に対して残酷なことを言わなければならないシーンが必ずあります。

だからこそ、まずはメンバーには圧倒的な愛情を注いでほしいと思います。「あなたが言うならやるしかない」と思ってもらえるような信頼関係をつくることが実はいちばん大切なんです。

<番組情報>

NHK連続テレビ小説『まんぷく』

NHK連続テレビ小説「インスタントラーメン」を生み出した日清食品の創業者、安藤百福・仁子夫婦をモデルにしたフィクション作品。脚本は福田靖氏によるオリジナル。安藤サクラさんのはつらつさ、長谷川博己さんの表情や演技の豊かさ、松坂慶子さんの生命力あふれるたくましさにも注目が集まる。出演は、安藤サクラ 長谷川博己 内田有紀 松下奈緒 要潤 大谷亮平 / 桐谷健太 松坂慶子 ほか。
<総合>月~土:午前8時~8時15分/午後0時45分~1時、(再)<BSプレミアム>月~土:午前7時30分~7時45分/午後11時30分~11時45分、(再)土:午前9時30分~11時[1週間分]

WRITING:石川香苗子
新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。

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