「怒られた」と「嫌われた」は別。上司・同僚を「気持ちよく」巻きこむコツとは? | 粟生万琴(エクサウィザーズ)

目標が高すぎて1人じゃ達成が難しい……
企業で働いていると、他部署のメンバーを巻き込む、上司に動いてもらう必要のあるプロジェクトにしばしば遭遇する。そんなとき、うまく立ち回れずに苦労した経験はないだろうか。

今回は「相手を気持ちよく巻き込む」ことに長けている粟生万琴(あおう まこと)さんに、人を巻き込むコツと「反発」との向き合い方をうかがった。

プロフィール

粟生 万琴(あおう まこと)

株式会社エクサウィザーズ 取締役/株式会社Job-Hub エグゼクティブ・フェロー
エンジニアとしてソフトウェア開発に従事した後、大手総合人材サービス会社にて社内ベンチャーを立ち上げ、Webアプリ開発に特化した事業を手掛ける。2012年 パソナテック初の女性執行役員に就任、新規事業、およびマーケティング責任者として、海外拠点タイ事業の立上げ(JV)、クラウドソーシングサービス(Job-Hub)の立上げ、産官学連携ベンチャー支援の責任者として従事。2016年 関西発AIベンチャー、株式会社エクサインテリジェンス(現 株式会社エクサウィザーズ)取締役就任。2018年6月 Job-Hub事業をパソナテックから分社後、株式会社Job-Hub エグゼクティブフェロー就任。

いつか自分で新しい事業を作りたい

粟生さんが大事にしていることは、非常にシンプルだ。それは「自分で決める」ということ。

祖父も父も事業家という家に生まれ、幼い頃から「好きなことをしていい」「人と違うことをしなさい」と育てられてきた粟生さん。パソナテックに入社したときから「いつか自分で事業を作りたい」とずっと考えていた。

粟生万琴さん(以下、粟生さん)「仕事は楽しかったけど、あくまで誰かが作った『人材ビジネス」という仕組みを売る仕事。マーケットを拡大するのが私の役割でした。
私が本当にしたかったのは、社会課題にフィットした新しい事業を作ること。誰かが決めたことではなく、自分で決めたことをしたいというのは、小さい頃からぶれないですね」

粟生さんは2006年、パソナグループ全体から15人ほど選抜される「ジュニアボード制度」に選ばれ、パソナグループの将来を見据えた事業企画や、社会課題にどんなソリューションを提供するかなどを1年にわたり考える機会を得た。

しかし2008年、リーマンショックが起こり、当時営業部長を務めていた名古屋エリアでは、一気に仕事がなくなった。このまま人材ビジネスで勝負するのは難しいと考えた粟生さんは、産休・育休から復帰した直後、「新規事業をしたい」と事業プランをプレゼンした。

経営企画でもマーケティングでもない、拠点の営業部長が新規事業の提案を会長と社長に直接プレゼンするのは異例のことだった。そして当時の社会課題にフィットした新規事業として、エンジニアが新たな技術を学ぶ場と、エンジニアが自社のサービス開発を通じ雇用創造ができるチームを作りたいと起案したのだ。

いかに「えこひいき」してもらうか

将来したいことを実現するため、粟生さんはまず社内で発言力をつけなければと奮闘する。Will(やりたいこと)・Can(できること)・Must(やらなければならないこと)」のフレームワークに当てはめると、MustとCanをしなければWillができないと考えたのだ。営業未経験から、どのように成果を上げていったのだろうか。

粟生さん「テレアポは2件かけてみて、早々に向いていないと思ったし(笑)、前職の知り合いを頼っても限界がある。見込み客を増やすには人を動かすしかないと思ったんです。パソナグループはどこの拠点も、各グループ会社の営業職が同じオフィスに入っています。だからパソナ本体の新卒メンバーに助けてもらおうと思いつきました」

新卒メンバーのミッションは、人材派遣でも紹介でもとにかく飛び込み営業をかけて案件を取ってくること。彼らの困っていることを聞いたところ「ITや製造業のオーダーが多いけど、用語が分からない」という答えが返ってきた。
そこで粟生さんはエンジニア出身の経歴を活かし、新卒メンバー向けにIT勉強会を実施。すると彼らがエンジニア系の引き合いを取ってきてくるようになった。粟生さんは彼らに同行することで、順調に自身の実績を伸ばしていったのだ。

粟生さんは、人が気持ちよく巻き込まれたくなるような関係性を築くのが上手い。
これは小学生の頃から「いかに”えこひいき”してもらうか」を考えてきたのが大きいと語る。大事なのは「タイミング」と「縁」、そして「一言で印象づける」ことだ。

”えこひいき”には、もしかしたら「ずるい」というイメージがあるかもしれない。
しかし粟生さんは「良い意味で”えこひいき”されれば、自分の意思(Will)を貫きやすい」と考えているのだという。

部下からは「粟生さんは新しいプロジェクトを手がけるときに『君にこういうメリットがある。でも難しい課題だから頑張ろう』と説明してくれる。メンバー各自の価値観に応じて、そのプロジェクトの意味を伝えてから仕事を振ってくれる」という声が上がる。

一方的に「これをやるぞ!」と引っ張るのではなく、理由と自分にとってのメリットを伝える。だから多少の無茶振りでも部下は動くのだ。
これは管理職に限らず、上司や顧客に動いてもらいたい若手層にも応用できる方法のはずだ。

怒られた=否定ではなく、興味がある証

パソナテック初の女性役員であり、新規事業をバリバリ推進する彼女は、周りから全く妬まれてこなかったわけではない。

特に同世代の男性マネージャーや部長からは、陰でいろいろ言われ、「打倒!粟生チーム!」とライバル視されることもあった。後輩の女性社員からは「粟生さんみたいになれ、と上から言われるのがプレッシャーで嫌だ」と言われたこともある。

そんな粟生さんも上司・先輩からよく怒られていた。「パソナグループの営業」としては個性的なファッションを好んでしていたため、しばしば注意されていたのだ。でも彼女は決して凹まず、「すみません、ありがとうございます。と言いながら、社内ではジャケットを羽織って乗り切っていました」と笑う。

普通に考えると、陰口を言われたり怒られたりすると、リカバリーを試みるか、あるいは凹んで相手と距離を置きがちになるのではないだろうか。粟生さんはそのどちらにも当てはまらない。

粟生さん「顧客や市場から嫌われる・非難をいただくのはショックだし、何とかリカバリーしようと思うけど、社内の人にいろいろ言われることはあまり気になりません。
小さい頃から先生や親にもよく怒られるキャラでしたが、怒られる = 相手が興味を持ってくれている、つまり愛されていることだと私は思っているんです(笑)。だから怒られた直後でも、それはそれとして、気にせず相手とのコミュニケーションを続けていました」

怒られた = 否定されたと考えるのではなく、愛されていると捉えるのは新鮮な解釈ではないだろうか。話しかける際も、怒られたことに対して何か言うのではなく、全然別の話題を振る。怒りの感情と、相手の人格を切り離して考えているのだ。

怒られたときは相手に対して萎縮してしまいがちだが、相手は良かれと思って怒ってくれた可能性は高い。最初は勇気がいるが、怒ってくれた上司や先輩に自分から話しかけてみることで、一歩踏み込んだ関係性が築けるかもしれない。

ソフト・シフトチェンジから始めよう

粟生さんは「自分が譲れない価値観」をとことん考えることも大事だと語ってくれた。企業に勤めていると、日々の仕事に追われ、自分のしたいことや価値観について深く考える機会も時間もほとんどないという人が多いだろう。

粟生さん「1人で情報収集し、考え、自分のしたいことをアウトプットするのは大事ですが、ハードルが高い作業だと感じる人もいるはず。それならセミナーへの参加やメンターとの対話など、考える機会を与えてくれる場に足を運ぶのがオススメです」

また、したいことが見つかっても、いきなり0→1作業に専念するのではなく「ソフト・シフトチェンジ」することも大切。粟生さん自身、新規事業を立ち上げる際もいきなり異動するのではなく、当初は営業部長として成果をあげながら新規事業を兼務し、その実績を原資にして新規事業部を立ち上げていった。

自分がしたいと決めたことで成功するためには、二足のわらじでスタートし、徐々に環境を整えながら、割合を変えて最終的にシフトするのがオススメだという。

「社内研修で出したアイデアを試してみたいから、時間外で有志でやってみてもいいですか?」という提案にNOという会社は少ないはず。
「そのときも相手に理由を伝え、メリットを感じてもらうことがポイントですよ!」

―粟生さんは人懐っこい笑顔で、そう教えてくれた。

文:筒井智子 撮影:五十嵐鉱太郎 編集:鈴木健介

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