「スタジオジブリ」で誰よりも仕事をしている宮崎監督をずっと見てきた…アニメ映画監督【高坂希太郎】――「仕事こそが人を作る」

累計300万部の人気児童文学シリーズ『若おかみは小学生!』(講談社青い鳥文庫)が、アニメ映画になる。監督を務めるのは、『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』『風立ちぬ』などスタジオジブリ作品の作画監督や『AKIRA』の原画、『MASTERキートン』のキャラクターデザインなど、数多くの名作の制作に関わったアニメーターの高坂希太郎さん。

交通事故で両親を亡くした小学6年生の女の子が、祖母が女将を務める温泉旅館「春の屋」の若女将として奮闘する姿を描く。宮崎駿監督の一番弟子と呼ばれた高坂さんの初の長編映画監督作品。映画について、仕事について、高坂監督に聞く。

物語が意外に古風だった、という意外

――スタジオジブリ作品などを手がけてこられた高坂さんと『若おかみは小学生!』との組み合わせは、意外に感じる人も多いのではないかと思います。今回は、どんなきっかけで『若おかみは小学生!』に関わることになったのでしょうか。

高坂:最初はテレビアニメシリーズの企画を立ち上げるので、イメージキャラクターを描いてほしい、と頼まれたんです。ただ、テレビシリーズの企画がなかなか形にならなくて。そうこうしているうちに、いっそアニメ映画をつくろう、という話になったらしく、監督を、となりました。

原作の題名と女児向けのイラストを含めて、自分ができるのか、という不安があったのは正直なところです。触れたことがなかった世界でしたので、戸惑いましたよね。ただ、頼んできたのが友達でしたので、断るのはかわいそうだな、と(笑)。

――それから原作をお読みになられたわけですね。

高坂:原作を読まないことには、キャラクターの雰囲気がつかめませんので。たくさんの子どもたちに支持されてきたわけですから、原作の全体感をつかんだ上で、そのイメージが壊れないものを、と考えました。

意外だったのは、物語がとてもオーソドックスだったことです。いろんなファクターがバランスよく見事にひとつの話にまとめあげられているんですが、内容そのものはいたってストレートな展開というか、いい意味で古風なんです。こういうものが、一回り、二回りして、若い人に受け入れられているのか、と驚きました。

――ただ、キャラクターを含めて、子ども向け、といった感じにはまったく見えないですし、そうはなっていないです。

高坂:もちろん原作を読んできた子どもや、かつて子どもで読者だった大人もターゲットにしていますが、映画ですから間口を広げないといけない。それは意識しましたね。

有名な旅館について書かれた本などを、たくさん読んだ

 ©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

――温泉旅館、というのがまた特殊な舞台です。

高坂:有名な旅館について書かれた本などを、たくさん読みましたね。旅館仕事のやりがいが見出された記述があったりすると、それをヒントにしたり。僕は何も知りませんので(笑)。和の作法なんて、まるっきりわかりません。映画でも、畳の上の歩き方やふすまの開け方が出てきます。

『風立ちぬ』を手伝ったとき、着物を普段着で着る時代の話でしたから、そのときにちゃんと勉強しておかないといけなかったんですが、してなかったんです(笑)。

だいたいアニメーターなんて、家の中に籠もって絵を描いてばかりいるのがほとんどですから。絵を描くときくらいは、学ばないといけない。そうでないと、表現の幅は広がらない。

――ジブリアニメのような空想の世界はどうするんですか。

高坂:いや、現実を見なくていいから空想の世界に行ってしまうんですよ(笑)。

――映画では、映像の美しさもとても印象的でした。四季折々の自然、動物たち、季節の風物詩……。

高坂:それは美術監督が頑張ってくれたからですね。ジブリでも一緒に仕事をしていました。もともとの原作の挿絵のキャラターがカラフルな色遣いになっていますので、ちょっと強めに色を使いました。

原作の令丈さんがモデルした場所があり、そこにはロケハンにも行きました。机上ではイメージできないものも、現地に行くことでアイディアが生まれたりしますね。

今回、主人公とライバルが大げんかをするシーンがあるんですが、そのヒントはロケハンに行った温泉で聞いた女将の話だったんです。年配の大女将は表には出ない、という話だったんですが、そこからイメージを膨らませました。

何がいいか、何が悪いか、なんて最後までわからない

――映画づくりで難しかったこと、というのは、どんなことですか。

高坂:すべてにおいて、ですね(笑)。「かわいらしさ」というものに、これまでちゃんと向き合って表現してこなかったですから。「かわいい」ということを第一義に考えて、「これでかわいくなるか」ということを常に頭に置いて作りました。

今はなんでも「かわいい」という時代ですけど、ツボがあるじゃないですか。これがよくわからないわけです(笑)。女の子らしい仕草とか、服の着こなしとか、女性スタッフもたくさんいてくれたので、いろいろ相談に乗ってもらいましたね。

――こんなことを感じてほしい、というのは、どんなところでしょうか。

高坂:旅館って、仕事としても特殊ですよね。自分の感情の手当ばかりに一生懸命になると、生業として成り立たない。そこは興味を持ちました。自分のことよりも人のことに尽くすことで、得られない力が得られる。これが面白く描けたらいいな、と。

しかも、主人公は自分で選んだわけではない。苦労しながら、受け入れていく。そこで違和感が生まれないよう、原作ではうまく表現されていました。

仕事って、自分で選ばなくちゃいけないとか、やりがいがないといけないとか、楽しくないといけないとか、いろいろ今はあるじゃないですか。でも、それは「エンゲージリングは給与の3倍」みたいな呪文のようなものだと思うんですよ。そんなことにとらわれてはいけない。

それこそ映画では、主人公が成長して、両親の死を乗り越えていきますが、「人感万事塞翁が馬」だと思うわけです。禍福はあざなえる縄の如し。何がいいか、何が悪いか、なんてことは最後までわからない。

その意味で、旅館業は興味深いわけです。自分よりまず先に、お客さんにいかに喜んでもらえるかを考える。そこにはやっぱり、成長があると思うわけです。

――そもそも監督はなぜ、アニメの世界に入ったのですか。

高坂:僕が10代の多感な時期は、巨匠と言われる人たちがTVアニメシリーズを作っていたんです。高畑勲さんの『アルプスの少女ハイジ』、宮崎駿さんの『未来少年コナン』、松本零士さんの『宇宙戦艦ヤマト』、富野由悠季さんの『機動戦士ガンダム』……。たたみかけるように面白いアニメーションがあって。

僕自身、絵を描くのが好きで、いろいろ真似て書いていたら友達から「うまいね」なんて言われてその気になって、その道に行くしかないと思う込むわけです。それで高校の途中から下請け会社の門を叩いて、休みの日にアルバイトをさせてもらっていたんです。それでそのまま。何も考えていなかったですね。

――それからフリーになられて、スタジオジブリの仕事もするようになって。後に宮崎駿さんから評価されることになるわけですが、若い頃はどんな意識で仕事をしていましたか。

高坂:宮崎さんの絵は好きでしたから、好きだった絵がいかに生まれるか、描かれるか、つぶさに見てましたよね。一挙手一投足、見逃すまい、と思っていました。どんなことを言い、どういう考えがあの絵に反映されているか。意識して見ていました。

でも、当時のわたしの生活態度は、とても褒められたものではなかったですけど(笑)いい加減で、ちゃらんぽらんで。あまりに度が過ぎて、宮崎さんから一度、追い出されたことがありました。1986年、『天空の城ラピュタ』の原画を作っているときです。

ただ、この作品もそうですが、仕事が人を作る、とよく言いますね。ある程度、仕事を任されるようになったら、責任を感じるようになって態度も改まるんです(笑)。どこまでできているかはわかりませんが(笑)。

――やっぱり宮崎駿監督は、仕事が厳しいんですか。

高坂:厳しいですね。厳しいです。僕の場合は、長年の付き合いがあるので「いつもの感じでやっといて」で済むところがありますが、新人にとっては普段あまり細かく説明しない宮崎さんとのやりとりは、分かり難いと思います。擬音での説明も多い。ドゥワワー、とか、ゴォーとか、ビュッとなって、グォー、とか聞いているうちに、聞いている新人の眉間のシワがどんどん深くなっていくわけです(笑)。できないですよね、当然。

でも、妥協はしない。バイタリティありますね。自分との戦いに勝つ力があるんです。怠ける自分にムチ打つ。僕も監督をやってわかったのは、宮崎さんはよくやってたな、です。作業がつらくなると、ホントはこうしたほうがいいけど、まあいいか、と妥協したくなるんです。それをどれだけ抑えられるか。宮崎さんは「吐きそうだ」と言って描いていましたけど、その気持ちが今回すごくよくわかりました。僕も吐きそうでした(笑)。

ある程度のことは受け入れること。「流れ」は大事

――どうしてそこまで、仕事に頑張れるのでしょうか。

高坂:やっぱり見てくれる人のことを考えたら、力が出るんですよ。喜んでもらえると思ったら、踏ん張れる。不思議と頑張れる。そういう経験は、この業界に入ってから、よく感じましたね。

――どうすれば、いい仕事ができますか。

高坂:普段からいろんなものを見て、表現したい物のストックを溜めておく事ですかね。ちょっとした人の仕草とか。自然の美しさとか。そういうものをちゃんと見ておくと、やはり説得力を持って表現することができるし、楽しい。

あと、クオリティには、こだわりを持つことでしょうね。今回も、スタッフの尽力のおかげが大きい。無理を言いましたから。ただ、そのためにも監督が動かないといけない。宮崎さんと一緒に仕事をして、文句は言えないなぁ、と思ったのは、宮崎さんが誰よりも仕事をしていたからです。一番仕事をしているんです。若い人は、時間が来ると帰りますけど、宮崎さんは帰らない。ずっと仕事をしている。誰よりも仕事をしている人に、文句なんて言えないですよ。

今回は、YouTubeなどで早めに出来上がった絵を出して反応を見ました。いい反応が来たりするとうれしいですよね。スタッフ共々ずいぶん励みになりました。

手間暇惜しまず描いたら、やっぱり評価されるんです。だから、あきらめたように、みんな納得して手間暇かけてやっていましたね(笑)。やっぱり描いてナンボ、なんだと。

あとは、流れを大事にすることです。今回も、最初は監督を引き受けるのに不安がありましたが、タイミングも良かったし、流れかな、と思って受けたんです。でも、振り返って思うのは、やって良かったということ。

自分がこうしたい、こんなことやりたい、と思っていても、思い通りになんかならない。でも、ある程度のことは受け入れること。流れって、大事だと思います。

文:上阪 徹  写真:鈴木慶子
編集:丸山香奈枝

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若おかみは小学生!9月21日(金)全国ロードショー
©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 

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