ビジネス会話が噛み合わない…そんな時の解決法とは? ――ほぼ日CFO 篠田真貴子さんのコミュニケーション論

話があちこちに飛んで、相手の言いたいことが分からない。上司が自分の仕事の状況を理解してくれない――日々コミュニケーションを取る上で、相手と上手く噛み合わずイライラしたり、凹んでしまったりすることはないだろうか。

今回話を伺った「ほぼ日」の篠田真貴子さんは、相手に対して常にフラットに向き合っていように見える。普段どのように相手を理解し、コミュニケーションを取っているのか、秘訣を教えていただいた。

プロフィール

篠田真貴子

株式会社ほぼ日 取締役CFO。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行(長銀/現 新生銀行)に入社。米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。帰国後、マッキンゼ―・アンド・カンパニー、ノバルティスファーマ、ネスレを経て、2008年に旧 東京糸井重里事務所に入社。2009年より現職。CFOとして同社の上場に寄与。現在は、経営管理の他、IRや海外プロモーションも手がける。

そもそも話が「分かりにくく」なる理由とは?

篠田さんと話していると、話の全体像を把握するのがとても早いことに驚く。講演時の質疑応答で、質問者の話があちこちに飛んでも「つまり質問はこういうことですね?」とパッと相手の意図を汲み取っているように見える。分かりにくい話をどのように整理すればいいのか、コツを聞いてみた。

篠田さん「質疑応答の場の例でいうと、あれこれ言いたくなる背景や構造があるんだろうなと思って聞いています。
質問者から出てくる言葉自体も当然聞いていますが『この人は普段何を見て、いま何を感じているからこの話をしているんだろう?』と分析しながら聞いているんです」

表面的に見えているものの奥に全体像があるというイメージは、10代の頃から持っていたという。その要因の1つが、小学校に上がる前から4年生まで、親の仕事の関係でカリフォルニアに住んでいたこと。子どもの頃から、複数の価値観を同時に受け取る場所で育った経験は大きいという。

「あの人の言っていることは訳が分からない!」と感情的になるのではなく、「訳の分からない人の発言の背景を理解できるようになったら、私はもっとカッコよくなる」と思っていたと篠田さんは笑う。幼い頃から、何となくそういう自分でありたいという憧れがあったのだという。

篠田さん「根っこにあるのは『サバイバル術』。いま思えば、子どもなりに自分を取り巻く小さな社会と折り合っていくためには、目に見えない相手の背景を想像・理解することが重要だったんでしょうね。
その精神構造が根っこにあった上に、大人になってからビジネススクールに留学したり、マッキンゼーで問題を構造化する技術を教わった経験が乗っているようなイメージです」

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相手の話の「分布図」を確認する

では、実際に話の全体像を理解するためには、どのように考えればいいのだろうか。

篠田さんは「分布図」をイメージするのがオススメだと教えてくれた。
分布図とは、データで表現したいことを、ひと目で理解しやすくするためグラフのひとつだ。例えば「自分は背が低い」と言う人がいたとして、相手はどんな分布図を頭の中に描いて話しているのかを考える。

身長の分布図は、性別や人種によって当然異なる。アメリカ人男性の「背が低い」は170cmだとしても、日本では平均値。
相手の言う「身長」は、どのような分布になっていて、日本人の話をしているのか、人類の話をしているのか――と考えていくと「全体の中で、ココの話をしていますね」と相手に確認もできる。

よくあるのが「私、背が低いんだよね」と言われたとき、「そんなことないよ」と言ってしまうケース。相手は家族・親戚中が高身長で、その中で低いと感じているが、自分から見ると平均的な身長だと感じるなど、実は違う分布図を思い浮かべている可能性が高い。


篠田さん「会話が噛み合わない原因の多くは、お互いの思い描いている前提のズレ。噛み合っていないなと思ったら、相手の持っている分布図や全体像を確認してもいいと思うんです」

自分が暗黙知として持っている優先順位も、言葉にしないと伝わらない。会話で出てくるアウトプットは全体のほんの一部。いきなり全体像を把握するのは難しいので、噛み合わないまま会話するくらいなら聞いてしまったほうが早い。

また、会話が噛み合わないままでも「最低限、お互いに合意できる目標」を探すこともポイントだ。
仕事であれば、「上司と部下が上手く噛み合っていないとしても、自分たちの所属組織の目標に貢献したい気持ちは、互いに合意できるはず」と篠田さんは言う。

共通のテーマ・課題を見つけることで、「私たち(上司と部下)vs.共通のテーマ・課題」」という構造になれば、少なくとも自分は「共にこの課題に向かっていくんだ」と思えるようになる。
そうすれば、上司の言うことも受け入れやすくなるし、一歩引いて「上司が言っている全体像はコレか!」と気づくこともできるようになる。

転職はステップアップ / キャリアアップ
というより「チューニング」

これまで紹介してきた話の全体像を把握するスキルは、普段のコミュニケーションはもちろん、異動や転職などで新しい環境に移ったときに活きてくる。

例えば、自分はAが正解だと思っているのに、新しい環境ではBが正しいとされた場合、人の感情としてムッとしてしまうこともあるだろう。

篠田さん「感情としてはそうなんだけど、その職場に入った以上、『Bがいい』と言うからには、彼らなりの理由があるはず。なぜBがいいと言っているのか、ちゃんと解像度を上げて理解する必要があるんです。そうすると、彼らからは自分の主張がどう見えているのか、少しずつ想像できるようにもなります」

自分は新しく入ってきた側でマイノリティ。それを分かった上で、まずは新しい環境のルールを知ったほうがいい、と篠田さん。

そんな篠田さんも、1社目を辞めて留学をしていた時代には、自身のキャリアに迷いがあったという。そんな自身を振り返りながら「20代の間はキャリアに迷っても全然不思議じゃない」と語ってくれた。

アメリカでは転職が当たり前なので、若手向けのキャリア指南書の多くには「1つ目の仕事は、何も分からず入るので合わなくて当然」と書かれている。
篠田さんにとっても、転職はステップアップ、キャリアアップというより、「チューニング」に近いという。

篠田さん「1社目を辞めた後、もっと合わない職場に転職してしまうリスクも当然あります。その合わない経験をして初めて『前の職場のこういうところが良かった』と気づく。それでもいいんです」

最初に就職した会社で定年まで働く人もいる。もちろん、それはその人にとって幸せなことだが、誰にとっても正しいとは限らない、と篠田さん。
複数の職場を経験し、そこでのコミュニケーションの取り方やルールを把握するときも、全体像を把握するスキルは役に立つはずだ。

どんな会社に転職するにしても、一歩踏み出そうとするのは、少なくとも自分と仕事の関係性を理解し、自分はどんな職場が合っているのかを知るためのデータを集める動きと捉えて、まずはそこから始めればいい。

もちろん目の前の仕事に真摯に取り組まなければ、意味のあるデータはにはならない。
真剣に就職・転職活動をし、真剣に新しい職場のミッションに打ち込んで「ダメだった」となれば、当然落ち込む。でも、キャリア全体から見れば、その経験にはちゃんと意味があるはずだ。
「『どうなんだろうな』と迷いながら、その問題に向き合わずダラダラ続けるより、よほど建設的ではないでしょうか」と篠田さんは語る。

転職する・しない以前に、仕事とは周囲の期待に最低限応える、あるいはダメな部分があってもどこかには期待を超えるところもあって、初めて信頼されるもの。
たとえ合わないと思っても、真摯に取り組み、少なくとも誠実に周りの期待に応えようとすることに対して、手を抜いてはダメだ。

そこで周りが期待する成果を出せるかどうかは、運も相性もあるし難しい。成果が出なかったことを正面から受け止めるのはしんどいし、受け止めるのに何年もかかってしまうケースもある。

篠田さん「でも、少なくとも全力を尽くしたのか、手を抜いたのかは自分で分かるはず。
手を抜かなかった経験が、10年後の自分を助ける可能性はあるけど、たとえすごい成果が出ても、手を抜いたことが10年後の自分を助けることはありえません」

目の前の仕事に全力を尽くすためにも、まずは相手と自分の「分布図」をイメージし、話の全体像を把握するところから始めよう。

文・筒井智子 写真・小澤亮
編集:鈴木健介

 

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