少しの工夫で仕事が数倍はかどるワケ「オフィスから働き方改革」――三井デザインテック株式会社

職場の照明は、蛍光灯のような白色ですか? 温かみのある黄色ですか? 実は今アメリカで、住宅に近い温かみのある雰囲気のオフィスが増えているそうです。リラックス効果のある空間のほうが、効率よく仕事ができるとか。でも最先端のオフィスにするために、会社中の照明を取り換えるのは難しいですよね。そこで今回は、オフィスインテリアのプロに今日からできるオフィス改善術を聞きました。大がかりな計画や高額な予算は必要ありません。ちょっとした工夫をするだけで、いつものオフィスがリラックス空間に変わりますよ。

プロフィール

石田 泰夫

三井デザインテック株式会社 デザインマネジメント部 デザインサポートチーム チームマネージャー。一級建築施工管理技士。大学卒業後、大手総合建設会社で施工管理に従事。現会社に転職し、営業職やマンションインテリア業務を経験したのち現在はオフィス改革をはじめ、様々な内装設計を担当。社内のオフィス改革を進めるPJメンバーとして、先進的な職場環境を創り上げている。

デスクを快適空間に変える方法は?

毎日長時間過ごすオフィス。できるだけ居心地の良い空間で効率よく仕事をしたいですよね。でも、毎日慌ただしく仕事をしていると机の上はぐちゃぐちゃ、資料もたまりがち。あちこちで電話が鳴って集中できず、仕事はたまる一方。人手を増やしたくても、オフィスが狭くて机を用意するスペースがない。

こうなってしまうと、狭い会社でも我慢して忙しく働き、目の前の仕事をこなすしかない……と諦めてしまいそうですが、実はオフィスを少し変えるだけで、誰でも問題を解決することができるんです。

アドバイスをくれたのは、オフィスのデザイン・内装設計を長年手掛けてきた三井デザインテック デザインマネジメント部の石田泰夫さん。石田さんによると、オフィス改革をする場合におすすめの手順は、次の通りだそうです。

(1)今のオフィスの現状を把握し、改革の目的を明確にする

(2)個人が持ち物を減らし身軽になることでフットワークを軽くする

(一人当たり段ボール2箱程度が目安)

(3)共有することで無駄をなくし、床面積や仕事を効率化する

実際に三井デザインテックでは、一部の部署でフリーアドレス制を導入するため、各個人の荷物と会社の備品を整理し、大幅に物を減らしたそうです。その結果、オフィスは居心地のよい空間になり、最終的には残業時間の少ない快適な職場になったとのこと。

とはいえ、段ボール2箱分まで荷物を減らすのは難しいもの。実際はどのように荷物を減らしたのでしょうか?

8,568通り、あなたはどのタイプ?

オフィス改革 プロが勧める3つの実例集

【オフィス改革1 荷物を減らす】

社員一人ひとりが荷物を減らすうえで大きく3点のポイントがあるそうです。

(1)断舎利:半年間見なかった書類はその後ほぼ見ることはありません。1年後に見返す書類は5%と言われています。思い切って断舎利してみましょう。

(2)データ化:それでも捨てられないものはデータ化して保存しましょう。サーバーやクラウドを使うときにフォルダの整理の仕方を社内で共通化しておくと便利です。

(3)共有:時々使うホッチキスやハサミなどは、収納場所を決め、共有しましょう。三井デザインテックでは個人が持っている文房具や各部署の事務備品を整理することで収納が6割も削減されました。

「収納するスペースがあればあるだけ、人は荷物を増やしてしまいがちです。しかし会社のスペースは有限です。そこで当社では一人当たりの収納スペースを減らして、業務を効率化するスペースにしたり、コミュニケーションを促進したりするスペースにあてました。人を詰め込むために縮小していくと社員は疲弊してストレスを抱えます。個々人の荷物を減らすことは、経費削減や業績向上だけでなく社員の意識改革にもつながります。今はオフィスを経費ではなく投資としてとらえる時代です」(石田さん)

さらに、段ボール2個分の荷物が入るロッカーを社員に割り当てたところ、「これ以上、物が増えないように」と考え工夫する社員が増え、自然に会社全体の物が減り始めたそうです。

 

【オフィス改革2 打合せがしやすい机の奥行きは「90センチ」】

続いて用意したのはオフィス家具。奥行き90センチの打合せテーブルをつなげて長さ6メートルを超えるようなビッグテーブルを導入。

「人間工学的に『話しやすい距離は90センチ』と言われています。大人数でも少人数の打合せでもフレキシブルに使えるこのビッグテーブルは好評で、もう1セット追加したほどです。(石田さん)

特に打合せテーブルは人気が高く、空いていると社員が集まりすぐに埋まってしまうそう。取材中も熱い議論が交わされていました。執務用のデスクと打合せ用でサイズの違う机を用意したことで、業務内容に合わせて働く場所をセレクトできるようになり、業務がスムーズに進んでいるようです。

 

オフィス改革3 集中力を上げるミュージックプレーヤーの使用OK! 音楽の力で集中力アップ

さらに意識改革を進めるため、三井デザインテックが踏み切ったのは個人単位での音楽プレーヤーの使用。

「恥ずかしながら私自身、当初は使用に反対でした。でも実際に使ってみるととても便利。小さな音で曲を流すと集中力があがり、さらに音を流していなくてもイヤホンをしていれば『今は集中しているから話しかけるのは後にしてほしい』と周囲にさりげなく伝えることができます。常にポケットにイヤホンを入れていつでも使えるようにしておくほど愛用するようになりましたよ。歌詞のないインストゥルメンタルがお勧めです。」(石田さん)

さらに三井デザインテックでは社内に午前と午後で異なるBGMを流し、社員の作業効率を上げているそう。他の話声をかき消すサウンドマスキング効果もあります。

「満員電車の通勤で疲れた体を癒すため、午前中は川のせせらぎや爽やかな鳥の鳴き声の音を流しています。その反対に午後はジャズなどリズムのある曲を流し、『あと数時間頑張ろう』と音楽で社員のモチベーションを上げています」(石田さん)

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観葉植物は天井に! オフィスに最適なグリーンの置き方

また三井デザインテックでは、職業能力開発総合大学校 橋本幸博教授と共同研究を行い、オフィスに最適な観葉植物の置き方を導き出したそう。日本建築学会で研究の成果を発表したデザインディレクターの山野奈緒さんによると、最も効果が高かったのは天井に本物の観葉植物を置いたときだったとのことです。

「7つのブースを用意し、パソコンの前面・天井面・側面に本物と造花の観葉植物を置き、何も設置しなかったブースと比較しました。橋本教授とともに調査結果をまとめたところ、閉鎖的なブースの場合、視界の上に少し見えるように本物の観葉植物を置いたときに最も良い心理的効果が得られることがわかりました」(山野さん)

「おそらく大きな木の下にいるような状況がリラックス効果を生んでいるのでは?」(石田)

さらに研究では、「集中できる」と「コミュニケーションがとれる」の両方が満たされて初めて作業効率が上がることが判明。三井デザインテックでは、集中できる個人用ブースに加え、先に紹介した奥行き90センチの打合せテーブル、広い執務デスク、集中ブースなどを用意し、住宅のようにインテリアとしても自然を取り込みつつ、細かく部署分けをせず、解放感のあるスペースで社員が自由に席を選べる仕組みを採用しているそうです。

このようなオフィスが実現できたのも、お二人を始めとする社員の皆さんが、住宅やオフィス、ホテル・医療・福祉などあらゆる生活・事業に必要なインフィル(デザイン・内装・設計・間取り)の創造を長年手掛けてきたからだそう。現在山野さんは、住宅の意匠設計を中心に、母親目線で考えられたファミリー向けホテル案件なども手掛けています。

(参考:「子ども目線」より「ママ目線」!インスタ映えするホテルデザイン考案者の意外な仕事術

また石田さんも、以前は住宅の意匠設計に携わっていたとのこと。海外の先進的なオフィスは発想やアイデアを大事にします。そういうものはほどよいリラックスから生まれます。良いアイデアを生みだすためのリラックスできる家のような空間づくりの経験がクロスオーバーされた結果です。そしてオフィス改革は生産性の向上につながり、残業時間の削減にも発展したとか。

「オフィス改革をして、残業時間の削減は『しれっと帰る』ことができるかどうかがポイントだと感じました。個人の荷物を減らし、フリーアドレス制で社員が仕事をするようになった結果、社員一人ひとりがリラックスして自分のペースで仕事を進めるようになり、『まだ周りの人が残っているから帰りづらい』という雰囲気がなくなりました」(石田さん)

オフィス改革はダイバーシティにもつながり、プライベートで子育てや介護をしている社員の充実度を上げることにもつながっているようです。予算がなくても、会社全体を変えることができなくても、自分の持ち物を減らすだけでデスクをリラックスできる空間に変えることは可能です。日本中のオフィスで改革が進めば、日本人の働き方も大きく変わるかもしれませんね。

 

取材・文:華井由利奈  PHOTO:刑部友康

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