「子ども目線」より「ママ目線」!インスタ映えするホテルデザイン考案者の意外な仕事術

子どもを持つ多くの女性が憧れる「子育て経験をいかしたキャリア形成」。しかし実際は仕事と育児に追われ、理想通りにいかない自分に毎日イライラ。できないことばかりが目について、疲れがたまる一方という人も多いのではないでしょうか。たまにはママに優しいホテルでリラックスしたいですよね。

今回は、そんな悩みを解決する情報をお届けします。ゲストは、空間デザイナーの山野奈緒さん。2児の母である彼女がデザインしたホテルのキッズルームは、子育てママの支持を得て大人気に!ハードな毎日を過ごす山野さんはどのように仕事と子育てを両立しているのでしょうか。『女子のための「手に職」仕事図鑑』(仮)の著者 華井由利奈がまとめてお伝えします。

【プロフィール(写真左)】

山野奈緒

三井デザインテック株式会社 デザインディレクター。一級建築士。日本建築学会会員。大学卒業後、大手ゼネコンで施工管理と意匠建築を担当。30歳を前に転職し現在に至る。社内ではホテル・住宅を中心に多数の空間デザインを考案している。また、デザイン調査研究機関「フェミラボ」のリーダーも務めている。

【プロフィール(写真右)】

華井由利奈

コピーライター。大学卒業後、印刷会社に就職。デザイン業務を1年間担当した後、コピーライターとしてトヨタ系企業など100社以上の多様な企業の取材を行う。2016年に独立。現在は広告業界や、ビジネス全般、教育関連、生活情報など幅広い分野で執筆・講演している。今までに取材した人数は約700人。

子育てママから大反響!いま注目のキッズルームとは?

「Royal Hotel 那須」サファリキッズルーム

華井:栃木県那須高原にあるリゾートホテル「ロイヤルホテル那須」のキッズルームが、いま、子育て中の女性の間で大きな話題になっています。山野さんはそのデザインを担当されたそうですね。なぜこれほどまでに人気を集めているのでしょうか?

山野:“ママが楽に過ごせる場所”を追求したことが一番の理由だと思います。室内には子どもが自分から遊んでくれるような仕掛けや、フォトジェニックな装飾、リラックスできる寸法にこだわった家具などが用意されているんですよ。

例えば、乳幼児を連れたファミリーにおすすめの「フォレストベビールーム」には、おままごとをして遊べる子ども用のキッチンが備え付けられています。それが見える位置に広々としたソファがあり、ママやパパは子どもを見守りながらくつろぐことができます。さらにキッチンの後ろには気球の装飾があり、遊んでいる姿を撮影するだけでインスタ映えする写真に仕上がるんですよ。

「Royal Hotel 那須」フォレストベビールーム

そのほかにも、壁に動物が描かれた「サファリキッズルーム」や、三世代で楽しめる「ファミリースイートルーム」があります。これらの部屋は全て4階にあり、廊下には親子で遊べるクイズボードがあったり、エレベーターホールには子ども用のジープが置いてあったりするんですよ。一般的なホテルでは「子どもの声が響いて周りの部屋に迷惑をかけてしまうかもしれない……」と心配になってしまうママも、これなら安心して子どもを遊ばせられますよね。

「Royal Hotel 那須」エレベーターホール

華井:壁や天井など、いたるところに草木や動物が描かれていて、那須らしい雰囲気ですね。

山野:はい、そうなんです。那須で遊んだ記憶と合わせて楽しい思い出になるように、自然豊かな「那須のサファリリゾート」をコンセプトに据えて考案しました。今では毎日のように、キッズルームの写真がインスタグラムにアップされているんですよ。

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「ホテルらしさ」に「住宅らしさ」をプラスした意外な理由

華井:「ロイヤルホテル那須」のキッズルームには、今までにない仕掛けが数多く施されているんですね。どうやってそのような部屋を思いついたんですか?

山野:さまざまなファミリー向けのホテルを拝見しましたが、そのほとんどが子ども目線で考えられたものでした。子どもが楽しく過ごせても、ママはなかなかリラックスできない環境だったんです。

そこで今回は、私がリーダーを務める社内のデザイン調査研究機関でデータを収集。子どもを持つママが旅行中に抱く悩みや、ホテルへの要望を集めました。

しっかりとターゲットのニーズを捉え、企画・コンセプト立案を行ってから 、デザイン・設計を行いました。さらに、ホテル・住宅の両方の分野を得意としているので、ホテルという概念にプラスして、住宅の要素を取り入れたんです。まさに非日常と日常のバランスです。

例えば三世代でくつろげる「ファミリースイートルーム」には、部屋の奥に大型のソファが設置されています。一般的なホテルでは小型のソファが置かれていることもありますが、それでは三世代が並んでくつろぐことはできません。そこで、あえて住宅で使用するような幅広で奥行きのあるソファを導入し、子どもが遊ぶ室内のトンネルが見える位置に設置しました。

私自身、男女それぞれ1人ずつ子どもがいるので、その経験もいかしています。親が手伝わなくても子どもが夢中になって遊ぶものは何か、子どもの誕生日にどんな装飾があると嬉しいのか、母親目線で考えて具体的な提案にまとめました。

そして出来上がったのが、家の延長として使えて、家族間コミュニケーションが活発になるキッズルームです。非日常の楽しさとアットホームでリラックスできるの双方が充たしている部屋はリピート率も高く、ホテル選びのキーマンであるママたちに支持されています。

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あえて完璧を目指さない!子育て術

華井:山野さんのように、子育ての経験をいかして働くことを理想とする育児中の女性も多いと思います。しかし仕事と子育てを両立するなかで、どちらかを負担に感じたり、悩んだりすることはないのでしょうか?

山野:確かに、仕事と育児を効率よく両立するのは大変です。全てを完璧に成し遂げることはできないので、自分なりに押さえるべきポイントを決めて、それをなんとか守るだけで精一杯。

例えば子育ては「環境づくり」に注力しています。ママ友同士で協力して習い事に通わせ、子どもたちが自分から前向きに取り組める環境をセッティングするんです。私が昼間いない前提で、子どもが楽しく努力できる環境にできたらと思って。この子育て方法が合っているかどうかは、子どもが大人になってみないとわからないですけどね。

こうしてポイントを押さえるだけでも大変ですが、育児と子育てに共通していることもあるんですよ。子どもは私が働いている姿を見て刺激を受けていますし、職場で後輩を指導するときに子育て中の成功体験を思い出すこともある。だから1+1=2で2倍大変というわけではなく、足してみたら1.5倍くらいになった感覚です。

華井:なるほど。どちらも前向きに取り組むことで、相乗効果を生み出しているんですね。どうすれば、山野さんのようなプラス思考になれるでしょうか?

山野:私の場合、もともと完璧主義ではなく、何事に対しても深く考えない性格だったのがよかったのかもしれません。「今日は学校の宿題を見てあげられなかったな」とか「最近子どもがなにをやっているのかわからない」と反省する日もありますよ。でも、どう頑張っても働くママが全てを完璧にこなすことはできないじゃないですか。だから深く悩まず、プロの手を借りたり、ママ友に助けてもらったりしています。

特に子育ては、「これでいいのかどうかよくわからないけど、私がいいと思ってやっているから良し!」っていうことにしています。

働く理由は人それぞれでいい

華井:あえて完璧を目指さないというのも、子育て中の女性にとっては大切な考え方なのかもしれませんね。現在の職場はとても働きやすそうですが、いつからこのような働き方を目指し始めたのですか?

山野:以前は、大手のゼネコンで働いていました。現場での施工管理や意匠設計などを担当し、今とは全く違う男社会で仕事をしていたんです。でも30歳を前に転職しました。不満があったわけではなく、社風も合っていたんですよ。ただ当時、その会社には子育てをしながら働いている女性が一人もいなくて。自分が働き続ける姿がどうしても思い描けなかったんです。

20代の頃から「私はこれから結婚・出産して、子育てをしながら働く」と決めていたので、それを実行に移すために、女性が働きやすい職場を探して転職しました。彼氏もいないのに(笑)

でもその結果、忙しいながらも子育てと仕事を両立できている今があります。毎日ハードで疲れがたまってくると「なんで働き続けているんだろう」って考えることもありますよ。もっと家族のそばにいられて、もっと収入の高い仕事は他にもあると思います。専業主婦になって、夫の収入でやりくりをするという道もある。それでもこの仕事を続けているのは、やっぱりやりがいで選んでいるからだと思うんです。

私より上の世代は、男性のようにパワフルな女性でなければ働き続けることはできませんでしたが、今は違います。社会全体に女性を応援する雰囲気がありますよね。だから悲観せず、自分が「いい」と思ったことをやっていく。そうすればいつか道は拓けると、私は信じています。

 

取材・文:華井由利奈  PHOTO:刑部友康

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