目先の利益しか見えない人に物事の「本質」は見抜けないーーマンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』の第10回目です。

『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい一言をピックアップして解説することによって、その深い意味を味わっていただけたら幸いです。

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©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「会社の利益・・・それはね、信用だよ」

(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第2巻 キャリア13より)

龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を排出することによって当校を救った救世主でした。

井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが・・・。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「信用がお金に変わる」までには時間がかかる

転職希望者・山口の担当を外されてしまった井野。しかし「自分の信じたことを貫こう」と決めた井野は、山口に宛ててメールを打ちます。「今いる会社は財務基盤がしっかりしていて、新規事業にも前向きに取り組んでいる。転職せずにそのまま残るべき」だと。

後日、海老沢から、山口が転職活動をやめたことを聞かされた井野。井野は海老沢に「自分が山口に、今の会社に残るようメールした」ことを打ち明けます。それを聞いても動じる様子を見せない海老沢。いぶかしむ井野に対して、海老沢は「中には『とにかく転職させれば、エージェントは儲かる』と思う人もいるかもしれない。でも、そういう会社は長続きしない」と言います。

「多くの人は、『信用はお金にならない』と思っている。でもそれは、信用がお金になるまで待てないだけだ。万一、信用に値がついた時には莫大な利益に変わる。だから一時的に転職者を増やすよりも、会社の信用を増やすことのほうが大事だ」と話すのでした。

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会社の存在理由とは、利益を得ることではない

この「会社の利益とは信用」という考え方こそ、時代を問わずに商売の根幹を成すものです。ところが実際にこれができている人というのは、驚くほど少ないのが現実です。

たいていの人は、「企業がビジネスを行なっているのは、利益を得るためだ」と考えています。しかしそれが真の目的ではありません。マネジメントの父と称されるP・F・ドラッカー氏は、「利益とは企業存続の条件である」と述べています。つまり事業を続けるための費用を賄うものが利益、ということです。

多くの販売員は、売り上げや利益を上げようとする余りに、会ったばかりの顧客にいきなり商品を売り込もうとしがちです。けれど、そのような飛び込みセールス的な手法で売るのは、かなりの技術を要します。

そもそも、人はよくわからないものに対してお金を払おうとはしません。ですから顧客に買ってもらうためには、先に「この人の言うことを聞いてみよう」という状態をつくることが必要です。そのための方法というのが「顧客の信用を得ること」なのです。

信用が積み重なれば、それだけライバルが少なくなる

元来、ビジネスとは「信用が先、利益は後」が基本です。実際、これはどんな企業でもやっていることです。一例を挙げると、「商品のデザインをよくする」「機能を充実させる」「CMを打って認知度を上げる」「アフターフォローをきちんと行う」といったことは、いずれも会社やブランドに対しての信用・価値を上げていく行為に他なりません。そうした努力の積み重ねによって、人々はためらわずにその商品・サービスを購入するようになります。

世間で無料オファーがまかり通っているのもそのためです。無料という形で敷居を下げて試していただくことによって、話を聞いてくれる人を増やしているのです。
無料だからと言って手を抜くようでは、その先は2度とないのが普通ですから、無料のほうがむしろハードルは高いと言っても過言ではありません。

もともと、自分の信用価値を上げる取り組みを行うことが仕事の本質です。ですから当然、この考え方は起業した人だけでなく、会社員の方にも当てはまります。会社員が信用を上げるべき相手とは、顧客以外で言うと上司になるでしょう。上司が自分のことを信用すればするほど、上司から信用されていない同僚との比較はされなくなります。つまり信用が高まることによって、それだけ「ライバルが少なくなる」のです。

真っ先に「上司の頭に思い浮かぶ」存在となる

もし、あなたが「良い仕事が欲しい」と思ったなら、上司が「この重要な仕事を誰に頼もう?」と思った時に、自分のことを思い浮かべてもらえるようにならなければいけません。それをチャンスと言うのであれば、チャンスとは運や偶然で回ってくるものではない、ということがお分かりいただけることと思います。

もし何らかのミスによって、チャンスと思って行動したことが災いして一時的に信用を失うことがあったとしても、また一からスタートするまでです。
「チャンスがない」と嘆いている人は、実は、「チャンスが巡ってくる環境をつくれていないだけ」ということが実際は少なくありません。

結局のところ、会社だろうと個人だろうと、「日々の信用を積み重ねた結果がチャンスとなって還ってくる」という巡り合わせであることに変わりはないのです。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』が12刷となっている。著作累計は35万部超。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

俣野成敏 公式サイト

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