映画「リトル・ミス・サンシャイン」に学ぶ、負け犬人生からの反撃方法

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(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

たった一本の映画が人生を変えてしまうことがあります。そんな「運命の映画」には、必ず「刺さるセリフ」があるものです。

映像、音楽、衣装など、総合芸術と呼ばれる映画にはたくさんの見どころがあります。中でも私たちの胸を強く打つのが、登場人物たちが語るセリフ。悩んだとき、落ち込んだとき、人生に足踏みしてるとき。たった一本の映画の、たった一言が、その後の自分を大きく揺さぶることがあるのです。そんな「運命的な映画のセリフ」を、筆者の独断と偏見でお届けするこのコーナー

今回ご紹介するセリフは、フォルクスワーゲンの黄色いワゴンが印象的なハートウォーミング・コメディ「リトル・ミス・サンシャイン」(2006年)から。美少女コンテストの会場にワゴンで向かう道程で、それぞれに問題を抱えるワケあり家族が大切なものを取り戻していくロードムービーです。

私は何かにつまずき、こころがくじけそうになったとき、かならず本作のラストシーンを思い出します。人によってはお腹を抱えて笑い、人によっては涙で前が見えなくなる、ひとたび観たら忘れられない人生讃歌。本作を観たくなる心境は、どうにもならない悩みを抱えて海を見に行きたくなる気持ちと同じです。そして劇中のあるセリフに、あすを生きる勇気をもらうのです。

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人生はうまくいかない

7歳の少女オリーブは美少女コンテスト「リトル・ミス・サンシャイン」でクイーンになることを夢見る小太りの眼鏡っ子。後日開催されるコンテスト本大会への出場が叶うも、家族は一筋縄ではいかない問題を抱えていました。独自に編み出した自己啓発プログラムの売り込みに必死で、気持ちも財布も余裕のない父。哲学者ニーチェに傾倒し、まったく口を聞かなくなってしまった兄。傷心で自殺未遂を起こしたばかりの、文学者の伯父。戦い、傷つき、あきらめた、うまくいかない人生を体現するワケありな人たちです。

しかし飛び上がって喜ぶオリーブの夢をせめて後押ししようと、家族総出で1,000km以上離れた会場へ、今にも壊れそうなおんぼろワゴンで向かうことになります(飛行機のチケット代を払える余裕なし)。道中、ワゴンのエンジンがかからなくなり、手押しでしかスタートできなくなったり、まぬけなクラクションが鳴り止まなくなったりと、まるで車体のくたびれぶりが破綻しかけの家族の現状を表しているかのよう(最終的にドアも外れます)。それでもタイヤは止まらず、目的地に向かって健気に走り続けます。すべてはオリーブの悲願のために。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

自分自身に負けるな

会場までの道すがら、モーテルで一泊することになった夜。それまで元気いっぱいだったはずのオリーブは、彼女の最大の理解者であり、コンテストを勝ち抜く「ワザ」を伝授してくれたコーチでもあるお爺ちゃんを前に、不安の涙を流します。わたしなんかがコンテストに出ていいのかな。出てもうまくいかないんじゃないかな。家族は応援してくれるけど、期待を裏切ることにならないかな。小さなからだに色んな思いが去来して、こころが押しつぶされそうになったのです。

しかしお爺ちゃんは、オリーブのくじけそうなこころを抱きしめて、やさしく、つよく諭してくれました。

「負け犬っていうのは、負けるのが怖くて挑戦しないやつらのことだ」

がんばれ。お前はやれる。一等賞になれる。自分に負けるな。自分を信じろ。お爺ちゃんがオリーブにかけた励ましの言葉は、それぞれに事情の異なる家族全員に向けられたものでもありました。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

本当の勝負とはなにか

わたしたちの人生はコンテストの連続なのかもしれません。少しでも自分をよく見せようと無理を重ねる不毛な努力と、勝利をめざして意地を張り合うライバルたち。そしてそれを審査する赤の他人。価値基準が自分の「外」にあることで、自分を見失いやすい状況を招いてしまっています。

しかし真の勝負とは、自分の「内」にあるのではないでしょうか。戦うべき相手は、このまま歩みを止めたくなる怠惰な自分。挑戦をあきらめようとする、勇気をふりしぼれない自分。誰に何と言われようと、信じた道を恐れずに歩むことを選んだ人はみな、その時点で負け犬などではありません。色やかたちは違えども、メダルを首から提げてくれるのは他ならぬ自分だけなのです。

オリーブはお爺ちゃんの言葉通り、チャレンジを続けました。最後はちょっとチャレンジングでした。家族を運ぶしあわせの黄色いワゴンの行く末を、ぜひ最後まで見守ってみてください。

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『リトル・ミス・サンシャイン』

ブルーレイ発売中
¥1,905+税
発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

※今回、取り上げたセリフは当該シーンの字幕を元にしています。原文の解釈や表現できる文字数の違いから、吹き替え版とは若干異なります。

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文:松岡厚志
1978年生まれ、ライター。デザイン会社ハイモジモジ代表。ヨットハーバーや廃墟になったプールなど、場所にこだわった映画の野外上映会を主催していた経験あり。日がな一日映画を観られた生活に戻りたい、育児中の父。
イラスト:Mazzo Kattusi

編集:鈴木健介

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