「すべての悩みは対人関係にあり」と言ったのは、2015年に大ブームになった「アドラー心理学」のアルフレッド・アドラー。ビジネスマンにとって、対人関係の悩みで多いのは上司との人間関係なのではないでしょうか。大嫌いな人が直属の上司だったら、毎日の出社が憂鬱でたまらなくなりますよね。「どうしたら“嫌い”という感情を変えられるのか」「別の部署に異動できないか、それとも転職するか」「いや、せっかく入った会社なのに、嫌いな上司のせいで辞めてたまるか」などと堂々巡りの悩みに陥っている人もいるのでは。では、そんな時はどう対処すればいいのでしょうか?
部下のミスは部下 自分のミスも部下のミス
何もしていないのに「態度が気に入らない」という理由で怒られることはあまりありません。怒られるのは、仕事でミスをした時、それも同じミスを繰り返した時でしょう。ただでさえミスをして落ち込んでいるところに、みんながいる前で上司から大声で叱責されてしまうと、部下のプライドは傷つけられ、「嫌い」「苦手」という感情が湧き上がってくるのです。
また、自分がミスしたわけでなくても、上司自身がミスをした時に知らん顔でやり過ごそうとされたり、自分に責任を負わされたりしたら…。誠実でない上司の姿を見てしまった時には、たとえ上司とはいえどうしても負の感情を持ってしまいます。けれど、上司に対して反抗的な態度を取ったり、ミスを指摘したりなどすることは、立場が部下である以上、圧倒的に不利です。逆に、怒られている時に委縮して何も答えなかった場合に、「黙ってたらわからんだろ!」とさらに怒られてしまうことも。
では、このような時はどう対処するのがいいのでしょうか?
尊敬できない、嫌いな上司に対して感情的になってはいけません。つとめて冷静さを保ち、こちらが一歩引いて「大人の対応」を心掛けましょう。具体的には、「同じミスをしてしまいまして、大変申し訳ありませんでした。二度とこのようなことがないよう十分に反省し、気を引き締めて仕事に取り組みます」と口頭で伝えたり、再発防止策をレポートにして上司に提出するのがオススメです。
その上で「今後とも引き続きご指導をよろしくお願いいたします」と上司を立てるのがポイントです。自分を慕ってくれる部下を悪く思う上司はいません。自分を立ててくれる上に頼ってくる部下に対して、それまでとは態度がガラリと変わることがあります。これは嫌いな上司に服従することでも取り入ることでもありません。上司を巧みにコントロールするというテクニックなのです。
なお「直属の上司が嫌いな時は、その上司よりさらに立場が上の人に相談するのがいい」というアドバイスも目にしますが、その相談内容が直属の上司の耳に入った場合はより関係が悪化する可能性があります。自分を飛び越えて相談されるということは、「部下に頼りにされていない」と直属の上司の評価に影響してしまうからです。もしさらに立場が上の人に相談して解決したい場合は、上司の耳に入らないように細心の注意が必要です。
リスクを冒して上司よりも上の人に相談するよりは、むしろ同僚や先輩に相談するのがいいでしょう。「あの上司とうまくいかないのですが、どうしたらいいでしょうか?」と聞いてみたら、「あの人はこう言われるのは好きだけど、こうされるのは嫌いだから、そこに気をつけて、先回りして対処したほうがいいよ」などとアドバイスをくれるのでは。上司を怒らせる危険性を考慮すると、同僚や先輩に相談したほうがベターです。
「そんなこと言った?」指示したことすら忘れる
会社員は、上司の指示には基本的にはすべて従わなければなりません。迅速で的確な指示を出してくれる上司には「あの人は優秀だ」と頼もしさを感じます。逆に、指示があいまいだったり、抽象的で何を言っているのかわからなかったり、言っていることがコロコロ変わる上司の下につくと、部下は疲弊することになります。
けれど、そこで「あれ!? この前おっしゃってたことと違いますよね?」などと反論してしまうと「状況が変わったんだから仕方ないだろ!」「ごちゃごちゃ言ってないで指示された通りにやれ!」など上司を苛立たせてしまいます。
このような上司への対策は、あまり難しいことではありません。
ではどうすればいいのでしょうか。実は「上司の言ったことをメモを取りながら聞く」という基本的なことを行うのです。さらにその時は上司と自分だけでなく、同僚など第三者と一緒に聞くようにすると、上司も「そんなこと言ったっけ?」とトボケられなくなります。その上で、上司の指示を「議事録」のようなドキュメントに残しておいて、「先ほどのお話をまとめました。このような方向で進めますので、お手すきの時にご確認ください」とメールや書類にして上司に提出することがオススメです。上司も言質を取られないようスルーしてくる可能性がありますが、それでも記録を残しておくことは後々役に立ちます。その発言を聞いていた関係者と時系列がわかるように記録を残しておくと、なお良いでしょう。
飲みの席は無礼講?上司だけが楽しい飲み会
嫌いな上司と酒席を共にするのは憂鬱なものです。酔った勢いで説教されたり、ビジネスマンの心得を説かれたり、他の社員の悪口を聞かされたり、若い頃の自慢話を聞かされたり…せっかくの食事も美味しくいただけなくなってしまいます。
そういう時に時計ばかり見ながらウンザリ顔をしていると、翌日からの関係性に影響してくるので、酒席とはいえ油断はできません。
そんな上司にはどう対処すればいいでしょうか?
ポイントはここでも「深くうなずきながらメモを取る」ことです。「なるほど~。それはすごいですね!」「よくそんなすごい結果を出せましたね!」「それは役に立ちます!ぜひ参考にさせてください!」ということを、わざとらしくない程度に言えば、上司の気分はとても良くなります。
「そんな太鼓持ちみたいなことをしたくない」というスタンスを取ることは簡単です。しかし、これは接待の時だけでなく、クライアントとのコミュニケーションの際にも役立ちます。その練習と割り切ってみてはどうでしょうか。
また、「無礼講」というのは基本的に信用してはいけません。無礼講で許せるのは、お酌をしない程度です。過度に気安い話し方をしたり、日ごろ気になっている上司の言動を指摘したり、ルックスのことをからかうような言動を取ってしまうと、翌日から厳しい態度を取られてしまう可能性も。無礼講だからといって調子に乗らないようにしましょう。
嫌いな上司にこそ「大人の対応力」でコントロールを
嫌われる上司の特徴として、共通する点があるとすれば「自分に甘く他人に厳しい」ことです。人間的に尊敬できない言動を取る上司だからこそ、こちらは「大人の対応」を取ることが大切です。引くところは引き、立てるところは立てることによって上司をコントロールしましょう。また、自分だけでは解決できないことは、できるだけ周囲の協力を得られるようにしましょう。そのように対応を積み重ねることによって、嫌いな上司とも適度な距離感で仕事を進められるようになるのではないでしょうか。