41歳の新入社員! 元メジャーリーガー石井一久が吉本興業に入社を決めたワケ

 プロ野球で目覚ましい活躍を見せ、メジャーリーグという野球界の最高峰をも極めた石井一久さん。現役引退後はまさかの「吉本興業に契約社員として入社する」という異例のセカンドキャリアを選択しました。40歳を過ぎてから「サラリーマンデビュー」した石井さんの会社員としての働きぶりや、今後のキャリアプランなどを伺いました。

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どんなスポーツ選手でもセカンドキャリアを築ける場を整えたい

――現在は吉本興業の契約社員として働いてらっしゃいますが、会社員としての仕事はいかがですか?

石井:あんまり会社員っぽくないんですよね。デスクワークするわけでもないし。野球に関する仕事の合間に吉本の仕事をしている感じです。

――どういったお仕事をされているんですか?

石井:スポーツマネジメント部門で、スポーツ選手のマネジメントなどを行っています。お笑いがメインの吉本興業が、どれだけ「スポーツ」という新たな分野に入りこめるか、お手伝いをしている感じです。社内の会議に出て、企画に対するアドバイスなんかも行いますね。

 あとは、地方のスポーツ部門の方々にご挨拶しに行くこともあります。社員が細かい話をしてくれるので、本当は僕が行かなくてもいいんですけど、僕が行ったほうが話が早い場合もあるし、「吉本のスポーツ部門が地方でいろいろなことをやろうとしている」と認知してもらうことが大事だと思うので。それを推し進めることで、野球に携わる方のセカンドキャリアにも活きてくると思っています。

――「セカンドキャリア」という言葉が出てきましたが、石井さんが吉本興業を選んだのには、なにか理由はあるのでしょうか?

石井:国内のマネジメント会社に所属していても、セカンドキャリアの選択肢ってそんなにないんですよね。メディアに出るくらいで。結果的にマネジメント会社もスポーツ選手もお互いに「あんまりやることがないね」ってなってしまう。それならスポーツ選手に対して、もっと地域の活性化に役立つような仕事を提供していきたいな、と。それが吉本興業のスポーツマネジメント部署の人間として働くことで実現できるかな、と思ったんです。

――吉本のスポーツ部門に所属することで身をもってセカンドキャリアの選択肢を示しつつ、さらにほかのスポーツ選手のセカンドキャリアの選択肢も作ろうとしているんですね。

石井:そうですね。マネジメント会社に所属することが、どれだけスポーツ選手にとって良いことなのかは正直不明だと思っています。マネジメント会社がスポーツ選手をちゃんと活かせているかというと、その点は海外には及びません。サッカーでも野球でも、海外だとメディアへの露出も多いですし、CMだってそう。いろいろと活躍の場が広がりますが、国内でプレーしている人というのはそこまで需要がないんですよ。

 言葉が適切かはわかりませんが、現役を引退するのって「肩書きがひとつ落ちる」ということだと思うんです。たとえば僕だったら「元メジャーリーガー」と言われますし、日本のプロ野球選手だったら「元プロ野球選手」ですよね。ひとつ肩書きが落ちることで、活動できる範囲が狭まっている可能性がある。だったら、そういう部分を補っていくのが吉本興業だし、スポーツマネジメントだと思っています。

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向上心は必ず削がれるもの。削がれても折れない芯をもつことが大事

――今まで日米のプロ野球界で、様々な一流選手と交流があったと思うのですが、引退されてから出会った方の中で「この人はすごい」と思った人はいますか?

石井:引退してからは同じ業種の人と…というか、もともと同じ業種の人と遊ぶのはあまり好きではなかったんですよね。なぜかというと、みんな常に野球のことしか考えてないんですよ。もちろん僕も野球のことをたくさん考えていますけど、そういう人と一緒にいてもつまらないじゃないですか。現役時代はご飯を食べている時に野球の話になったらめんどくさいというか、「また野球の話か」って思っていたんですよ。仕事を離れたら仕事の話をしたくないんですよね。

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――お仕事とプライベートを完全に切り離しているんですね。

石井:プライベートだったら、経営者の方とかこれから経営をしようとしている方とか、そういう前に向かって進んでいく人がすごく好きです。向上心があるじゃないですか。「どういう風に考えて前に進もうとしているのか」とか、「目の前のことをどうやって打破していくんだろう」とか、すごく気になります。

――経営者の方で、なにか印象的なエピソードはありますか?

石井:スピードが早いなと思いますね。実行に移したり、判断を下したりするのがすごく早くて、トップの判断力はすごいなあ、と思います。

 あとは、立ち止まらないところですかね。そういう人たちはビジネスチャンスがあったら必ず前のめりになって食い込んでいくし、だけどそれと同時にちゃんとリスクヘッジもしている。そういう前のめり感が良いな、と。

――熱量を持って仕事に取り組んでいるけれど、冷静な部分もあると。実際にそういった熱意を殺さずに仕事をしていくにはどうすればいいと思いますか?

石井:生意気なことは言えないですが、やっぱり保守的にならないことだと思いますね。仕事で新しいことに取り組もうとしても、ハンコをもらわないといけなかったり、せっかく事業計画書を作っても「何だこれは」と言われたり。いろんなことがあるだろうけど、自分が「ここを絶対に良くしていくんだ」という熱意を持つことが1番大事で。目の前の事業のGOサインをもらうことが目標じゃなくて、常にその先を見据えて行動することが大事だと思いますね。

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――そういった目標に向かって諦めずに邁進していくマインドは、ご自身の現役時代にも活きていましたか?

石井:そうですね、やるからにはそれなりに極めたいというのはありました。でもスポーツ選手や、今の僕なんかは「自分が努力する」ことで成り立ちますから。会社に属している方にはいろいろなしがらみがあって、うまくいかないこともある。そうすると向上心が削がれることもあると思うんですよ。自分の意思に反してストップさせられたり、何か理不尽なこと言われたり。それでも芯がなくならない、削がれても持ち直す向上心を持つことがすごく大事かなと思いますね。

――向上心を持つということは、自分がやっていることに自信を持ち、自身の考えを信じるということなのでしょうか?

石井:信じたほうが良いと思いますね。信じたほうが良いけど、自分の考えが必ずしも正しいとは限らない。ひょっとして間違っている可能性もある。だから、やっぱりいろんな人と出会うことはすごく大事だと思います。

 野球はシンプルなので、誰にも出会わなくても練習内容が自分に合っていれば、それ以上のパフォーマンスは出せないっていうくらいまでスキルアップできるんですよ。でも、セカンドキャリアを歩むにつれて、いろんな考え方を持っている人に出会って、自分の出した答えが違っていたと気づくことも増えました。だから、自分とは立場も考えも違う人、たとえば会社の中でも別部署の人とか、意見を聞けるコミュニティが多ければ多いほど、成長につながると思いますね。

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苦労しなかった現役時代より、苦労が多い今の仕事が楽しい

――現役時代、そして今の会社員としての仕事、野球解説者として話すことがメインの仕事を経験してみて、ご自身に一番向いているのはどのお仕事だと思いますか?

石井:向いている仕事ですか? うーん…わからないですけど、今はすごく楽しいですね。うまくいかないこともいっぱいあるし。野球はある程度うまくいっちゃうので、今みたいにうまくいかないことのほうが楽しいですね。向上心が持てるので。

――逆に言うとプロ野球選手の時はそんなに苦労はされなかったということですか?

石井:そうですね、野球はまあまあ上手だったので(笑)。向上心という意味では、今よりも現役時代のほうがあんまりなかったかもしれないですね。野球はある程度練習をしっかりやればうまくいっちゃうから。今の仕事のほうが「うまくいかない可能性が高いからがんばろう」とか、「もうちょっと自分ががんばれば」と思うことは多いですね。

――具体的に「うまくいかない」とは、どんなことでしょうか?

石井:スポーツマネジメントでいえば、セカンドキャリアをしっかり組み立てられる仕組みをもっと良いものにしたいな、と。僕自身まだ野球をやめて2年目なので、もう少し手本になるようなセカンドキャリアを組み立てられれば、自信をもって「吉本でやりましょう」という話もできるので。アスリートの人たちがきちんと安心して吉本を選んでくれるような信頼関係を築けるようになりたいですね。

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 僕なんて特別だと思うんですよ。あんまり自分をいいように言うわけじゃないですけど、冷静に考えて、野球を引退してこういう活動をしている人ってあんまりいないですから。だから僕を基準にするんじゃなくて、メジャーに行っていない方や、頻繁にメディアに取り上げられることのなかった方が、ちゃんとセカンドキャリアを積めるような場所を提供できたらなと思います。

 その一方で、個人的なことを言えば、こういうインタビューやスポーツ番組に出していただいてますので、しっかり話術も極めていければなあ、と思います。

――ご自身の今後のキャリアプランで目指しているものはなんですか?

石井:やっぱりスポーツマネジメントにもう少し力を入れていきたいなと思います。申し訳ないんですけど、今は自分のことも高めたいしスポーツマネジメントもやりたいし、っていう半分半分の所にいて。もちろんどっちも真剣にやっているけれど、正直どっちつかずになっちゃう部分もあるので、二つともちゃんと両立した柱として建てていきたいですね。

――では最後に、キャリアで悩む方へのアドバイスをいただけますか?

石井:アドバイスなんてないですよ、僕なんてまだ新米社会人ですから。ひとつ言えるとしたら、さっきも言いましたけど、会社に勤めていると、向上心っていうのは絶対に削がれていくんですよ。そのときにその向上心を強く持って、削がれても削がれても、ちゃんとまた自分で肉付けしていける人が上に登っていける人だと思うので、自分を信じてどんどん進んで行ってもらいたいなあ、と思います。

――本日はありがとうございました。

歴戦を乗りこえてきた石井さんですが、そんな現役時代よりも今のほうが苦労が多く、またそれが楽しいのだとも。決して慢心などではなく、「現役時代もセカンドキャリアもうまくいっている自分は、特別で見本にはならない」と冷静に分析し、吉本興業のスポーツマネジメント部門担当者として奔走している姿が印象的でした。みなさんもなにか壁にぶつかったときは、石井さんの「削がれても削がれても向上心をなくしてはいけない」という言葉を思い出してみてはいかがでしょうか。

石井一久さん
1973年、千葉県出身。東京学館浦安高校から1991年ドラフト1位でヤクルトスワローズに入団。以来10年間、先発として活躍、5度のリーグ優勝と4度の日本一に貢献した。02年、MLBロサンゼルス・ドジャースに入団。05年、ニューヨーク・メッツに移籍。06年、5年ぶりに日本球界に復帰し、古巣のスワローズでプレーした。08年、埼玉西武ライオンズに移籍。11年8月には史上最速で通算2000奪三振を達成するなど、球界を代表するベテラン左腕に成長した。13年、現役を引退。野球解説者として活躍している。
12月にはアンバサダーとして関わる「よしもとFAカップ」を開催。

WRITING:木村衣里/プレスラボ PHOTO:安井信介

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