【ネット上にお笑いを!】「ボケて」開発で起こった衝撃的な事件とは?

2012年5月12日。よく「人生の転機」という言葉が口にされますが、僕にとっての転機は、この 5.12 だとしみじみと振り返ることができます。まぁ、世間一般的に使われるワードを、身に染みて感じることができるということは、自分もある程度、人生経験を積めたのかな……なんてことも思います。

そんな僕。ネット上では「ゆーすけべー」と言う名で活動している者です。普段はこれから話すように、Webの裏側の仕組みをつくることを生業としています。よろしくお願いします!

今回は、そんな「5.12」にまつわるお話をしてみましょう。

ネット上でお笑いを

大学時代からの親友である「鎌団子さん」とふたりで、2007年のクリスマスに 株式会社オモロキ を設立しました。もう8年近くも前の話ですね。

ちなみにもっと昔の話をすると、鎌団子とは大学の研究室が同じで、かつ、仲良し過ぎたにも関わらず、一緒にプロジェクトを組む機会もなく、ふたりとも大学を離れてしまいました。もともとモノづくりをする研究をしていたので、いつかはふたりで共に何かをつくり出したい、というモヤモヤとした欲がありました。ですので、オモロキを設立した目的のひとつには、その希望を叶えるためってのがあります。

さて、ふたり集まって何をつくろうか? これは「モヤっ」とした記憶なんですが……確か僕に臨時収入が入ったか何かで、焼肉をみんなに奢る機会がありました。そこにいた鎌団子が提案したアイデア。それが、これからつくっていく「写真で一言 ボケて」というWebサービス、もしくはモバイルアプリの原点になりました。

焼肉を食べている最中、鎌団子はいきなりノートパソコンを広げ、1枚だけのスライドを見せびらかし「こんなの出来たら面白いと思うんだよ」と確信めいた口調で説明してくれました。チョー要約するとこんな感じです。

> ネット上で集合知のお笑いをつくりあげたいんだ。テレビ番組で「写真と文章や単語を組み合わせてボケる」ってあるんだけど、これWebで出来ないかな?

なるほど! 確かにWebを使ってネット特有の笑いを生み出すプラットフォームっていうのは、いくつか草の根的なものはあれど、メジャーにはなっていない。しかも、写真とテキストの組み合わせで面白いコンテンツを生み出す、というフォーマット自体はシンプルで、つくりやすそうだ。

その後、我々は、当時借りていた横浜駅近くの六畳一間のアパートの部屋に通い、上記のアイデアを実現するWebサイトをつくります。

横浜のアパートと鎌団子

横浜のアパートと鎌団子

2ヶ月間ちょっと。だいたい出来たところを見計らって、試しに友達に使ってもらって完成です。そして2008年9月。最初の ボケて がリリースされます。

Webサービス鳴かず飛ばず

皆さんがパソコンやスマホで目にするいわゆる「ホームページ」の中でも、ユーザーに「サービス」を提供し続けているものを Webサービス と僕たちは呼んでいます。抽象的な表現で分かりにくいかもしれませんが、具体例として有名ドコロを挙げるなら、FacebookやTwitter、Instagram。国内だとクックパッドや楽天、食べログ、はてなの各種サービスなど。また、Webの技術を使っていると考えれば、LINEなんかのモバイルアプリも、Webサービスだと拡大解釈することができます。

このように普段僕らが使っているようなサービスの名前をピックアップすると、Webの世界は華々しい感がありますが、それは、真に世間に求められていて、かつ、うまい具合にシステム化できているからだと思います。そして……それだけではなく、サービスを使うユーザーがしっかりといることが大事です。

お笑いを生み出す枠組みを提供し、それを閲覧できるWebサービスとして出発した ボケて。その目指すところは、現状の普及している様子を見るとアリだったのではないかと省みることができますが、当時は肝心の ユーザー があまりにも少なかった。

公開直後は、プレスリリースが効果を発揮したこともあり、そこそこの注目を集めるも、その後のアクセスは微々たるもの。ボケて は、Webサービスの中でもユーザーがコンテンツを生み出す CGM(Consumer Generated Media)の部類に入るので、ユーザーが少ないとそもそも面白い情報を提供できない、という問題点がいきなり露呈してしまったのです。

最近のボケより

最近のボケより

ボケて を気に入っていただいたユーザーは少数ながらでもいて、日々投稿していただいたおかげで、鎌団子と僕のふたりはそれなりに満足してたのですが、世の中的には目立たない。ビジネス的にも、収入を得る方法がまったく思いつかない。ってか、そもそも会員数が少ないからだよね……。

鳴かず飛ばず という言葉がありますが、まさにそんな感じで、僕らは ボケて を最低限の運用のみで「放置」していくことになります。幸いなことに、アクセスが少ない限りは、唯一のランニングコストであるサーバー代は安くすみますから。

5.12 ―― 突然の「事故」が起きた日

リリースから4年弱。オモロキのふたりにはそれぞれ別々の仕事があったため、ボケて の開発が落ち着くとともに、お互い出会う機会が少なくなっていました。

僕は、最低限な ボケて のサービス保守をしつつ、別件のシステム開発や執筆などを行なう日々を過ごしていました。そんなある日。後に鎌団子と「事故」と名付けることになる出来事に遭遇します。

2012年5月12日。iPhoneへメールがやたらたくさん飛んできました。いわゆる「サーバーアラート」というものでした。第三者システムが特定のサーバーを監視していて、Webが閲覧できないなど異常が起こったら逐一連絡してくれる仕組みです。どうやら ボケて の監視システムからアラートが来ているようです。

以前もプログラムの不具合である「バグ」や、システムの設定ミスなどが原因でアラートを受け取ったことは当然ありました。その度に罪悪感を感じつつ、サーバーの状態などをチェックし、問題点を把握。解決策をつくっては対応する。というのが通常の流れです。

なので、今回もまずは現状として ボケて のWebサイトがつながりにくいことを確認した後「何か俺悪いことしてたかな〜」とシステムに異常はないか? を反射的に探りました。

いつもの調子だとここで、自分が犯したミスを発見し、直していくことが可能なのですが「あれ?」どうも問題は「内側」には無いようだ……ってWebのアクセスのログをふとみたら……「どんだけ人来てるの!!

これまでの ボケて のアクセスから比較すると、瞬間的には10倍以上のトラフィックがWebになだれ込んでいました。

当時のWebアクセス解析の様子

当時のWebアクセス解析の様子

そう、アラートの原因は、システムの内側ではなくて 外側、つまりアクセス過多によるマシンへの負荷の増大にあったのです。

これが「事故」です。これまでアクセスが少ないことを嘆いていた僕らにとっては「嬉しい悲鳴」と形容することもできますが、あまりにも不意だったため、悪い意味ではなく「事故」と呼んでいるのです。

さて、この大量のアクセスは発生したのか? どうやら調べていくと、人気サイトである「NAVERまとめ」や「とある2ちゃんまとめ」サイトで ボケて のボケが「ほぼ同時期に」まとめられているじゃないか!

それを見た人たちが「こんなサイトあるんだー」と訪問してくれている模様です。しかも、そのアクセスは一過性のものではなく、その後も落ち込まずに相対的に高いレベルをキープしていました。

この現象は以下のように分析できます。

  • ボケて は、当初から2012年5月11日までユーザー数は絶対的に少なかった。
  • しかし、コアなユーザーさんがついてくれていた。

ボケて で生まれる「ボケ」には、正直つまらないものもあれば、ものすごく面白いものまで存在する可能性があります。少ないアクセスとはいえ、4年弱続けることで、

  • コアユーザーを中心とした人たちのボケが蓄積され、中には爆笑モノが潜んでいた。
  • それをまとめサイトの方が見つけてきてくれて、今で言う「キュレーション」として表現してくれた。
  • 現在 ボケて に投稿されているボケの数は3,000万件を超えているが、2012年当時でも 200万件 程度のボケは揃っていた。
  • それだけの量から気に入ったボケをピックアップしたら、それは面白いものになる可能性は高い!

事実、5月12日に確認したまとめサイトは多くのトラフィックを集め、結果 ボケて が注目されるキッカケになったのです。

事故はチャンス

急増し、止まらないアクセスにより、システムは過負荷になり、Webの表示などが遅い状況が続きます。僕にはそれを解決するという使命がありました。このようなケースだとソフトウェアを改良する、もしくは、サーバーの台数を増やすかスペックをあげる、といったところが解決策になります。

が、しかし……当時の ボケて のシステムは、諸々の事情でそれらの方法が無理な状態でした。手詰まり……そこで「えいやっ」と、同じ動作をする仕組みを一から新しくつくり直すことを決めました。

今度はひとりでモクモクと作業し、およそ2ヶ月で多くのアクセスに耐えることができ、かつ、今後の拡張にも対応できるような新しい ボケて が完成しました。

時を同じくして、一方の鎌団子は僕と共通の友人であるオッサムと話し合い、他の開発会社などと協力してiPhoneやAndroid向けの モバイルアプリ をつくる方針を立てます。モバイルアプリは昔から取り組みたかったけど、リソースの問題で見送っていました。

しかし、今やアクセスが増えそれなりに注目される存在になっています。広告やPRに知見のあるオッサムを中心にマネタイズを試み、アプリ開発が得意な会社と組んで一緒に ボケて を育てていくこととなったのです。

ボケてiPhoneアプリ

ボケてiPhoneアプリ

2012年7月。裏側のシステムを一新した ボケて を公開。これまでの反省とその間に蓄積されたテクニックを活かしたものだったので、急増したアクセスにも耐えうることができました。

そして10月。いよいよ ボケて のiPhoneアプリをリリース。12月にはAndroid版も登場します。あまりにも不意に起こったアクシデントは、システムの大々的な見直しにつながり、やりたかったモバイルアプリをつくるキッカケにもなりました。

モバイルとの親和性の高い ボケて は、その後アクセスやユーザー数を伸ばし、執筆時現在、モバイルアプリにしてトータル 450万ダウンロード を達成しています。

永遠の未完成

とはいえ、僕らには、やりたいことがまだまだたくさんあります。

今年7月から台湾版をリリースしましたが、このような海外展開の強化。数多くあるボケを発掘しまとめるための仕組みづくり。未だ実現できてない通知やタイムラインといった細かい機能。企業とのコラボの促進。蓄積されたユーザーの嗜好を分析して活用すること。その他諸々……今思いつく限りをピックアップしてもキリがありません。

7年前に横浜のアパートでつくりだした ボケて は、それだけ年月が経ってステークホルダーが増えども、未だ未完成であります。

ボケてに携わるメンバー達

ボケてに携わるメンバー達

未完成であることは、別段悪い意味ではなく、僕はむしろ良いことだと思っています。

やりたいことをすべて実装して「完成した」と関係者が感じてしまうと、やることが限られてきます。できることは、データを見て、それを改善することが中心になってくるでしょう。

ボケて は、そもそもWeb上で「お笑い」を実現するという今まで存在しなかったことに対して、仮説を立て、実際にシステムを公開することで検証してきました。こうした新しい試みは、データを良くしていく作業とはまったく違う、創造的な作業です。

今は、その ボケて という題材を使って、創造性を忘れないまま、やりたいことをどんどん出して、試していくことが大事だと思っています。

逆説的に言えば、やりたいことが尽きたら、我々の想像性は(ボケて に限って言えば)失われたことになります。それではなんだか寂しいですね。となれば「Webサービスは永遠に未完成であるべき」かもしれません。

そろそろこの記事をまとめましょう。

5.12の「事故」から学べることは多々ありますが、あえてまとめてしまうなら、この3つになります。

  1. 自分たちのアイデアを信じること
  2. 時間をかけることを惜しまないこと
  3. 人のつながりを大切にすること

もし、そのアイデアを確信できるならば、という前置きがありますが、自らのアイデアやコンセプトを信じて、時間をかけることが我々にとっては大事でした。それにより、僕らが考えていてたことはどのように受け入れられるのか? を確認することができた、もしくは検証する土壌をつくることになりました。

また、本エントリーには登場していない方も含め、多くの人々に支えられて、5.12までの4年間を運営でき、それからの開発をしていくことが可能となってます。ありがたや、ありがたや。

この恩と創造性を忘れずに、僕らはこれからも、ボケて を大切に育てていこうと思います。

著者:和田裕介 (わだ・ゆうすけ id:kamawada)

ゆーすけべー

1981年生。(株)ワディット代表取締役。Webアプリケーションエンジニア。過去に未踏ユース準スーパークリエータ認定、SIGGRAPH Emerging Technologies採択プロジェクトのリーダーという経歴を持つ。プログラミングやWeb技術のイベントであるYAPC::Asia Tokyoでは50個以上のプレゼンがある中、2年連続でベストトーク賞を受賞。(株)オモロキではCTOを務め、お笑いWebサービス「ボケて」の裏側を支えるバックエンドを開発。ボケては第18回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選ばれている。Blog: ゆーすけべー日記

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