会社員であれば、ベースアップ(それを略した「ベア」)という言葉を知っている、または聞いたことがある人は多いと思います。でも、それを正しく理解している人は少ないかもしれません。中には、ベースアップ=定期昇給のことと間違って解釈している人もいるようです。
ベースアップと定期昇給はまったくの別物です。たとえば、定期昇給の制度がある会社の場合(制度がない会社もありますが)、一般的には年齢が1歳、または勤続年数が1年上がるごとに基本給はアップします。基本給とは、残業手当などの手当てを除いた、いわば給料の土台の部分を意味します。
定期昇給制度がある会社は、年齢や勤続年数が上がるのに比例して、基本給も上がる右肩上がりの曲線=賃金カーブが維持されています。つまり、社員の基本給は、この賃金カーブを基準に決められているというわけです。
ちなみに、大手企業の定期昇給の平均昇給率は1.6~1.8%程度と言われています。これを具体的な金額に換算すると、例えば、基本給20万円でスタートすると、1年後には20万3,200円~20万3,600円にアップするという賃金カーブを描くことになります。
これが今も多くの会社で採用されている「年功序列」の制度です。この賃金カーブは、何も働く側にだけメリットがあるものではありません。雇用する側も人材確保ができ、企業内での教育の積み重ねによって生産性の向上が得られるというメリットがあるのです。
ベースアップと定期昇給の違い
ベースアップとは定期昇給と違って、賃金カーブに関係なく基本給がアップすることを指します。たとえば、「ベースアップ(ベア)1%」が会社で採用されたとします。そうすると、これまでは20歳の社員は一律で基本給20万円だったところが、同じ20歳で20万2000円(1%アップ)の給料をもらえることになります。もちろん、20歳に限らず、すべての年代の基本給が1%アップするということです。
つまり、ベースアップと定期昇給の違いを簡単にまとめると次のようになります。
ベースアップ:基本給の底上げ(賃金カーブによる昇給とは無関係)
定期昇給:年齢や勤続年数などの時間経過によって上がるもの
ベースアップをすると基本給が底上げされるので、働く側にとっては大喜びです。でも、雇う側からすると固定費の増加という負担増を招くことになるので、ベースアップを巡って、労働組合と会社側が交渉をする、いわゆる「春闘」が繰り広げられるわけです。
ベースアップは企業にとっては負担増
固定費が増加するベースアップを、企業が自ら積極的に受け入れているかというと、そうではないのが現実です。経済産業省から「利益が増加している企業は賃金改定を実施すべし」とプレッシャーをかけられているのが実態なのだとか。さらに、「利益が上がっているのに賃金改定をしない企業は、経済の好循環に非協力だ。経済産業省から何らかの対応があると思う」との趣旨の大臣の発言もあったことから、大手企業は受け入れざるをえない状況のようです。
経済の専門家の中には、ベースアップでやみくもに会社の負担(固定費)を増やすよりも、その分を人材確保に投資して、正社員を増やしたほうがいいと訴える人もいます。大企業の経営者からすると「それはわかっているけど、政府やマスメディアからのプレッシャーや、企業イメージの失墜が心配」というところなのかもしれませんね。