うまくいっていないなら、“コーラ作戦”。ため込んでないで、一気に自分を出せばいい【青山学院大学 陸上競技部 原晋監督の仕事論】

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まずは目標をはっきり示す。ぶれずに行動すれば、賛同者が現れる

2015年正月。伝統の箱根駅伝で、青山学院大学が初の総合優勝を果たしたことは大きなニュースとなった。
就任から11年、弱小チームを日本一へ育て上げた原監督に聞く

強いチームを作るコツ? リーダーが「信念」と「目標」をはっきり伝えることです。わがままだと思われてもいい。突拍子もないことを言って唖然とされても構わない。大事なことは、“一度発信したらブレないこと”です。強い信念があれば、賛同してくれる人は必ず現れます。

もちろん最初からうまくいくわけではないですよ。私が就任する前の青学の陸上部は、専用のグラウンドはおろか、宿舎もなかった。普通のアパートを借りて、宿舎代わりに選手を住まわせていたんです。寮母も管理人もおらず、選手の食事はほとんど外食。門限もなくみんな好き勝手に暮らしていました。

そこに、陸上部出身とはいえ、中国電力の営業マンとして働いていた私が一から改革をするわけですから、一筋縄ではいきません。練習は毎朝6時から、門限は夜10時、夜更かし、パチンコ禁止、規則正しい生活をしろ、なんていきなり言われて、選手もずいぶん戸惑ったと思います。青学OBの中には私の悪口を選手に吹き込む人もいましてね。これにはずいぶん困りました。

でも、中国電力を退職し、退路を断った私に残された道は、箱根駅伝に出場することしかない。新設してもらった合宿所に妻と2人で住み込み、選手たちと1年間生活をともにしながら、私の覚悟と信念を選手たちにどのように伝えたらいいのか、ずいぶん考えました。出した結論は、「われわれの目標をはっきり示すこと」です。青学陸上部は何を目指しているのか。そして、その目標を果たすためには何が必要なのか。寮でどんな生活を送らなくてはならないのか。

目標をはっきり示すために必要なことを明文化し、合宿所の壁に張り出しました。そして、一人一人の選手と面談。個別の目標を一緒に考えました。そして「目標達成シート」を作成したんです。

管理者の役目は選手の言葉を大事にして守ってやること

目標を決めてはっきり示したら、後はそこにたどり着く方法を考えて、一つひとつ実践していけばいい。目標は一つでも、方法は百万通りある。どの方法を取ってもいい。ただ大事なのは、「自分に合った方法」を「自分で選択させる」ことなんです。

例えば、山に登るとします。険しい道でも最短コースを選ぶ人もいれば、距離は長くても傾斜の緩い回り道を好む人もいるでしょう。ヘリコプターで一気に頂上まで行こうとする人もいるかもしれない。どの道で行くかはその人の好みだから、本人に選ばせたらいい。自分で決めさせることが大事なんです。それがやる気につながっていきます。

管理者がすることは、管理することではない。選手が発した言葉、思い、考えを大切にして守ってやることです。いつも現場にいて、選手に寄り添ってやればいい。数字だけ見ていても選手のことはわかりません。いつも現場にいて、選手に寄り添うことでわかることが多いんです。

例えば朝食の時間。私はいつも入り口に立って選手を見守っています。「調子がいいか」「何かに悩んでいないか」「やる気は落ちてないか」。何を思っているのかは、そばにいると伝わってきます。指導者は観察でも監視でもなく、“感じる”ことが大事なんですよ。

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大成する選手は、“自分の言葉”を持っている

中国電力陸上部出身の原監督。足の故障もあり、5年で退部した後、一念発起し、トップ営業として活躍する。青学から監督にスカウトされたのも、この時の好成績があったからだ。
なぜ、未経験の仕事で頭角を現すことができたのか。

“自分を出すこと”ですよ。仕事でもスポーツでも、うまくいっていないときは、自分の色が出せていないんです。自分の思いとか信念とか、なんでもいいから外に出す。周りから嫌われるんじゃないかとか、よく思われないんじゃないかとか、そんな思いが先に立って、自分をさらけ出せないでいる人、多いでしょ。自分をよく見せようと思わないで“ありのまま”を出したらいいんですよ。そしたら道が開けます。

私は“コーラ作戦”といっているんですが、思っていることがあったら、心のふたを開けて、プシューっと一気に表に出す。そうすることで、周りはあなたの長所や強みをわかってくれるんです。自分に合ったポジションに付くこともできる。そうすれば自分の持ち味を最大限に活かすことができるんですよ。

私は全国の高校生をスカウトして回っているのですが、将来活躍する選手は“自分の言葉”を持っています。例えば選手に「練習、頑張っている?」と話しかけるでしょ。そのとき、「はい!」しか言わないような子はダメ。「自分はこうなりたいから、こういう練習がしたい」と自分の言葉でハッキリ言えるような子でなければ、大成はしません。

伸びる選手は自分が好き。逃げずに戦えば、負けても自分が好きになる

伸びる選手の共通点をもう一つ上げると、それは「自分が好きなこと」。自分が好きな人は、自分のことをよく知っている。だから自分が生きる場所がどこかわかっているんです。自分流の戦い方を他人から教えられなくとも知ってるんですよ。

私も自分が好きですよ。自分が書いた本は何度も読むし、自分が出演した番組は何度も見ます。ほかの人が出ているところは倍速で飛ばしますけど(笑)。

なんでそこまで自分が好きかって? いつも戦っているからじゃないですか。自分が好きじゃないのは、戦っていない証拠ですよ。仕事で成果を出すためには、会社や上司が提示した目標や方針に合わせて、最大限努力することが大前提です。でも、それが自分と合わないなら、違う場所に移ってもいいと思います。ただしその時は、戦って辞めること。戦って負けたならしょうがない。気持ちを切り替えて次に行けばいい。でも、戦わずして辞めるのは、単なる逃げです。逃げたら自分が嫌いになるだけです。

負けてもね、本気で戦ったんだったら、自分が好きになる。戦って戦って、どんどん自分が好きになったら、いつの間にか、いい仕事ができるようになっていますよ。

【Profile】

はら・すすむ

1967年3月8日、広島県三原市出身。中学から陸上を始め、広島県立世羅高校、中京大学へ。3年時に日本インカレ5000mで3位入賞。卒業後、中国電力へ進み、選手、営業として活躍する。2004年から青山学院大学体育会陸上競技部監督に就任。09年に33年ぶりの箱根駅伝出場、12年に出雲駅伝優勝。15年の正月に行われた箱根駅伝では青学史上初となる総合優勝をおさめる。

information

『魔法をかける アオガク箱根駅伝制覇までの4000日』
原晋著
中国電力の敏腕営業マンf:id:k_kushida:20150611180606p:plainだった原監督が、弱小だった青山学院大学陸上競技部を率いて11年。悲願の総合優勝を果たすまでの軌跡が、赤裸々に書かれている。サラリーマン時代の「営業手法」を駆使した指導術、目標達成できるチームの必須条件、若い選手のやる気を引き出す方法など、仕事にも通じる成功法則が盛りだくさんで、非常に勉強になる。リーダーとして悩みを抱えている人はもちろんのこと、組織で自分の力を発揮できない人、自分に向いている職場がわからない人、必見の本だ。講談社刊。

※リクナビNEXT 2015年6月10日「プロ論」記事より転載

EDIT/WRITING高嶋ちほ子 PHOTO栗原克己

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