『秒速5センチメートル』の新海誠監督、アニメーションという「天職」をつかむきっかけとは?

f:id:rikunabinext:20140909142040j:plain

『言の葉の庭』が12万人を超える観客動員数を記録。今、最も注目されているアニメーション監督だ。最初の就職先はゲーム会社という彼が、天職をつかむきっかけは何だったのだろうか。

■アニメーションなら、自分の作りたいものを1人で作れる

アニメーションを作ろうと思ったのは、社会人になってからです。大学時代はちょっとモラトリアムで。絵本を作るサークルに入っていて、何かで自分の考えを表現したいという気持ちはあったものの、これで食べていきたい、なんていう明確な目標はありませんでした。

ただ、どこかに就職しないといけないとは思っていたので、出版社やIT企業など、興味のあるところを数社受けて、最初に内定をもらったゲーム会社に就職しました。だから、どうしてもゲーム業界に就職したいと思っていたわけではないんです。たまたまだったんですよ。

入社したゲーム会社は50人ほどの規模でしたから、やる気があれば責任ある仕事を任せてもらえました。ゲームのパッケージやオープニング制作、ひいては採用情報を作成するなんてこともあったかな。上司にはさんざん怒られましたけどね。締切もあったし、毎日試されているような感じで、必死で仕事に取り組んでいました。仕事が楽しいと思えたのは、3年くらい経った後。そこからは仕事が面白くなっていきました。

当時は、インターネットの黎明期でもあったので、日々、新しい技術が生まれるんです。世の中でインターネットの可能性が広がっていくのと同時に、自分自身の手足が伸びる感じがして、どんどん仕事にのめりこんでいったんです。

アニメーションを作りたいと思うようになったのも、そのころです。毎日がむしゃらに仕事に打ち込んでいるうちに、会社から求められることではなくて、自分の作品を作りたいと考えるようになって。もともと自分の考えを何かで表現したいという思いがあったので、身につけた技術で何かしたくなったんでしょうね。誰かの仕事を助けることで満足できる人もいると思うけど、僕の場合は、「自分の作品をつくる」ということにこだわりがあったんです。それで、会社から帰って自宅にこもり、一人でアニメーションを作り始めました。

何でアニメーションだったんですか、とよく聞かれますが、ゲームのムービーを作る技術とアニメーションを作る技術はかぶるところが多いんですよ。ゲームよりもう少し自分自身の考えが盛り込める表現手法を考えたら、アニメーションかなと。なによりアニメーションなら一人で作れますからね。実写の映画だと役者が必要だけど、アニメーションなら、キャラクターを描いて、声を自分で吹き込むこともできる。背景も自分で描き込めばいいわけですから。

f:id:rikunabinext:20140909142041j:plain

■会社を辞める不安より、作りたいものを作れる喜びのほうが大きかった

会社勤めをしながら、半年かけて作ったのが『彼女と彼女の猫』という5分のモノクロ作品です。当時は完成させたこと自体に強い喜びがあって、内容も我ながら意外とよくできたなと(笑)、完成直後に何十回も繰り返し見たのを覚えています。第12回CGアニメコンテストでグランプリをいただくこともできて、それがきっかけで「もしかしたら、この道で食べていけるかも」と、自信のようなものが芽生え始めました。

その後、今度は『ほしのこえ』という25分のカラー作品に取り掛かったのですが、会社勤めをしながらだと、何年経っても完成しそうにない。それで会社を辞めて制作に専念することにしたんです。

会社を辞めた時に不安がなかったわけではないのですが、でも、それより「自分の作品を作れる」という喜びのほうが大きかった。もちろん生活していかなくてはいけませんから、最初から売れる物を作ろうという意識はありました。実は『彼女と彼女の猫』のCD-ROMは、手売りで3000枚ほど売れていたんです。だからカラーで中編作品を作れば、5000枚くらいはいけるかなと。

仕事ですから、食っていけなくては始まりません。生活していけるという大前提をクリアしつつ、自分が作りたいものを作る。そして自分が観て欲しいと思う人たちに見てよかったと言ってもらえるような作品であること。最初からこの3つを叶えることを目標としていたんです。

退職して自宅にこもって8カ月。やっと『ほしのこえ』が完成しました。予告編を自分で作ってインターネットに流したり、自分なりに宣伝も工夫して。すると、コミックス・ウェーブ・フィルムと出会い、下北沢のトリウッドという映画館で上映してもらえることになったり、メーカーからDVDが販売され店頭に並んだり、考えていた以上に多くの人たちに見てもらうことができました。新世紀東京国際アニメフェア21「公募部門優秀賞」など、いろんな賞もいただけて。それでやっと、「この道で食べていけるんじゃないか」と確信することができた。ただ、毎回手探りで進んでいくのは、現在に至るまで変わりませんけど(笑)。

f:id:rikunabinext:20140909142042j:plain

『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』など、制作したアニメーションはみんな、大ヒットとなった。自分が作りたいと思うものを制作して食べていきたい人は多いが、
実現できる人は、とても少ない。新海氏は、どこが違っていたのだろうか。

■稚拙であっても、人前に出すこと。そのためには、開き直りも必要

まずは、どんなものでも世に出すことが大事だと思うんです。そのためには、プライドは捨てたほうがいい。恥を恐れないことです。

作品を世の中に出すと、いろいろなことを言われます。絵が下手だとか、声がなってないとか、僕自身もいろいろと叩かれました。こういう声を聞くと傷つくわけです。だからといって、ちゃんとした作品になるまで世の中に出さないのでは、いつまで経っても作品は出せません。

僕は、自分が作るものが稚拙であることはわかっていても、完成させて人前に出すことが何より大切だと思っていました。そして、どんなに悪く言われようと開き直る。精神的なタフさを持つことが必要だと思います。とはいえ、僕も作品の悪口をネット掲示板で初めて見た時は、3カ月くらい落ち込みましたけど(笑)。

だからといって、他人の批評や批判を全く聞かないのでは、商品として成立する作品は作れません。やはり客観性を持つことが大切ですから。

人の声を聞かずに人の心を動かせるものを作れるほど、自分は豊かではないけれども、人の声を聞きすぎると、自分が大事にしているものがなくなってしまう。このバランスをうまく保つためには、どうしても譲れない「芯」みたいなものを見つけて、最初から最後までしっかり持っておくこと。これが一番大事なんだと思います。

■苦辛をなめても生活していけば、その先に何かがある

『言の葉の庭』では、「孤独や孤立を否定しない作品」を作りたいと思っていました。仲間や愛する人がいたほうがいいとは思うけれども、そういう人がいない状態があってもいい。孤独は悪いものではないんです。孤独でいる時間が、結果としてその人を豊かにしてくれることもあるわけですから。だから今、仲間や愛する人に出会えなくて立ちすくんでしまっている人、孤独だと思っている人に向けて、孤独でいることを大切に扱う作品を作りたかったんです。

「自分が思うように他人が思ってくれなくても、絶望せずに前に進んでいこうよ」。これもこの映画で言いたかったことです。結局、生き続けることが大切なんだと思います。もっというと生活し続けること。苦辛をなめても生活を続けていれば、その先に何かがある。

ものを作ることも同じだと思うんです。自分の作ったものが世の中みんなに受け入れられるわけじゃない。ある人はダメだと言うし、ある人はいいと言う。その都度、傷ついたりもするんだけど、絶望しないで前に進んでいく。職人のように、黙って手を動かし続ける。その先にきっと何かがあるんだと思います。

しんかい・まこと●1973年長野県生まれ。2002年個人で作り上げた短編作品『ほしのこえ』で鮮烈なデビューを飾る。同作品は、新世紀東京国際アニメフェア21「公募部門優秀賞」はじめ多数の賞を受賞、人気に火がつく。2004年公開の初の長編映画『雲のむこう、約束の場所』では、その年の名だたる大作をおさえ、第59回毎日映画コンクール「アニメーション映画賞」を受賞。2007年公開の連作短編アニメーション『秒速5センチメートル』でアジアパシフィック映画祭にて「最優秀アニメ賞」、イタリアのフューチャーフィルム映画祭で「ランチア・プラチナグランプリ」も受賞している。2011年に全国公開された『星を追う子ども』では、これまでとは違う新たな作品世界を展開、第8回中国国際動漫節「金猴賞」優秀賞を受賞。2012年内閣官房国家戦略室より、「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」として感謝状を受賞 。2013年5月に最新作『言の葉の庭』が全国公開された。

■information
『言の葉の庭』新海誠監督作品
靴職人になることを目指す高校生のタカオ。雨の日の午前中だけ授業をさぼり、公園で靴のデザインを考えていた。そんなある日、ベンチでビールを飲んでいる年上の女性ユキノと出会う。万葉集の言葉を残して去っていった謎の女性ユキノ。タカオはユキノのことを何も知らないまま、自分の夢を語り、ユキノは自分の居場所を見失ってしまったことをタカオに打ち明ける。2人は約束もないまま雨の日の午前中だけ逢瀬を重ねるようになり、心を通わせていくが…。「今、孤独を感じている人に向けて、孤独は悪いものではないと思える作品を作りたかった」という新海監督。自分には仲間がいない、自分のことを思ってくれる人が誰もいないと、孤独を感じて動けなくなっている人に、ぜひ観て欲しい。自分一人で立ち上がり、歩いていくことの大切さ、そして孤独の先に自分の夢や仲間がいることを教えてくれる作品だ。2013年日本全国・香港・台湾で同時公開され、日本での観客動員数12万人を突破。DVD・Blu-rayも発売されている。

※リクナビNEXT 2013年918日「プロ論」記事より転載

EDIT&WRITING:高嶋ちほ子 PHOTO:栗原克己

Pagetop