今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいた経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、そんな「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。
リレー第1回:Fringe81株式会社 代表取締役CEO兼CCO田中弦さん
(プロフィール)1999年、新卒でソフトバンクに入社。インターネット部門採用の第一期生として、入社2日目からYahoo!動画(当時はブロードキャスト・コム)の立ち上げに携わる。半年後にネットイヤーグループの創業に参加し、2005年ネットエイジグループ(現UNITED)執行役員時代にFringe81を創業する。2013年にMBO(マネジメントバイアウト=経営陣による買収)により独立。
■システム不具合の原因がわからぬまま、3週間…
私がFringe81を創業したのは2005年4月のこと。現在はインターネット広告技術の開発やコンサルティングをなりわいとし、MBO(マネジメントバイアウト)により独立しましたが、当時は勤務先のネットエイジグループの広告配信事業として立ち上げ、約2カ月で約1億円の出資を集めました。
中核事業となるネット広告配信システムの開発に4カ月を費やし、ようやく思い通りのシステムが完成。そして発売前のベータテストを行ったら…広告画像が全く読み込まれないのです。
画像は広告配信の要。慌てて、ソフトをすべて見直し原因を突き止めるよう、開発チームに指示を出しました。しかし、1日が過ぎ、2日が過ぎ、1週間が経っても、原因がわからない。自社のエンジニアを総動員して不眠不休で作業を行い、社外のブレーンにも助けを求め、約3週間をかけて隅々までチェックしたのですが、結局ソフトウェアに不具合は見つかりませんでした。
結論から言ってしまうと、原因はハードにありました。
原因がわからず「万策尽きた」と思っていたときに、あるエンジニアが「ためしに」と社内に転がっていた、いつのものとも分からぬ古い機材につなげ、テストをしてみたのです。すると、あっという間に画像が表示され、サクサクと動き始めたではありませんか。その場にいた全員、ヘナヘナヘナ…と腰から崩れ落ちました(笑)。
■不具合の原因はなんと「相性」。誰も悪くない、怒りをぶつける対象もない…
その新しい広告配信システムを市場に投入するに当たり、サーバーへの負荷分散装置である「ロードバランサ」を新たに導入しました。後日わかったことですが、その装置とシステムの「相性が悪い」ことが不具合の原因でした。
当社が開発したのは、それまでマーケットにはなかった全く新しいシステム。だからこそ、ハードとソフトに相性が合う・合わないがあることが、われわれにも、ハードメーカー側にも、全く予測できなかったのです。
結果的に、ロードバランサ購入代の700万円は、ドブに捨てる羽目になりました。立ち上げたばかりの会社での700万円の損失は、恐ろしくイタい。でも、誰が悪いわけでもない。運が悪かったとしか言いようがありません。
でも、原因がわかったことで、心底ほっとしましたね。だって、原因がわかったら、後は手を打てばいいだけですから。
原因がわからなかった3週間は、本当に辛かった。私自身は開発に直接関わっていないので、原因究明のために頑張っているエンジニアの後ろで、右往左往するばかり。その間にも、キャッシュはどんどん減っていく。余計に焦り、「どうなった?まだわからない?」とエンジニアをたきつける。さぞウザかっただろうと思います。2週目ぐらいには「いいから黙っててください!」とみんなに怒られ、何もできぬまま、でもじっとしていられなくて、栄養ドリンクばかりを毎日差し入れていました(苦笑)。だからこそ、原因がわかった時は、ヘナヘナ…ですよ。3週間、気を揉み続けただけで、バカみたいだったな俺って。
■身についたのは、ベンチャー経営者として大切な「動じない心」
この経験を機に、ちょっとやそっとのトラブルでは慌てなくなりましたね。そもそも社長…特にベンチャー社長って、社員を不安にさせないために、何があってもどーんと構えていなければならない。そんな「基本姿勢」をいきなり学べたので、今となってはいい経験だったと思っています。
新しい仕組みやサービスを世に広める際は前例がないから、トラブルなんてつきもの。トラブルを怖がってチャレンジできないなんて、本末転倒です。何事においても「トラブルはあって当たり前、うまくいったら超ラッキー!」ぐらいの気持ちで臨むぐらいがいいんじゃないかなって、思っています。
だから皆さん、何かにつまずいたり、ミスしたり、壁にぶつかったり、その結果めちゃくちゃ怒られたりしても、全然大丈夫です。命を取られるわけではないし、必ず何か学びがありますから。まだ1円も稼いでないのに、あっという間に700万円もの大金を水の泡にして、出資者からは「どうなってるんだ!?」と怒られたことも、3年目ぐらいには笑い話になりましたよ(笑)。
EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭