余計なルールは要らない。木村石鹸が実践する「許容するマネジメント」とは

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こんにちは、ハブチンです。

今回は、東大阪にある石鹸メーカー木村石鹸の木村祥一郎社長と、外資系消費財メーカーから同社に転職された峰松加奈さんのお二人にお話を伺いにきました。

木村石鹸は、大正13年創業の老舗石鹸メーカー。近年は他社ブランドとして販売される製品の製造を請け負うOEMメーカーとして堅実な事業展開をされてきたのですが、お二人の入社を境に自社ブランドの開発や、新しい働き方の制度の導入など様々なイノベーションを起こしています。 その際にどのようなことに気をつけているのか?こだわりポイントは?…をざっくばらんに聞いてみました!

【プロフィール】
木村祥一郎(写真左):1972年生まれ。1995年大学時代の仲間数名と有限会社ジャパンサーチエンジン(現 イー・エージェンシー)を立ち上げ。以来18年間、商品開発やマーケティングなどを担当。2013年6月にイー・エージェンシーの取締役を退任し、家業である木村石鹸工業株式会社へ。2016年9月、4代目社長に就任。

峰松加奈(写真右):1990年生まれ。外資系消費財メーカーのユニリーバに新卒入社。2015年木村石鹸工業に転職。マーケティング室を自ら立ち上げ、自社ブランド「&SOAP」等の開発に取り組んでいる。

聞き手:ハブチン(写真中央)

自社ブランドを立ち上げたのは「強み」を持つため

ハブチン:木村社長は、いつ木村石鹸に入られたのですか?

木村:2013年ですね。

ハブチン:割と最近ですね。

木村:そうなんです。元々家業を継ぐつもりはなかったんですけど、まぁいろいろ経緯があって入ることになったんです。それまではITベンチャー畑だったので、石鹸については全くの専門外でした。

ハブチン:それなのに、なぜ自社ブランドを立ち上げようと思ったのですか?

木村:前職の経験から、自社ブランド・自社商品があることで、受託案件にも活かされると考えたからです。

ハブチン:どういうことでしょう?

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木村:前職のITベンチャーでも、受託開発の仕事をしていたのですが、売上比におけるある顧客の比重が非常に大きくなっていた時があったんです。

ハブチン:バランスが悪くなってきたんですね。

木村:そうなると、その顧客のちょっと無理なお願いも、失注するのが怖いから断れない。

ハブチン:現場の社員も疲弊しそうですね?

木村:フェアな取引をするためには自社に強みを持つことが必要と思い、自社サービスに切り替えて、そちらの比重を大きくしていったんです。

ハブチン:なるほど。

木村:木村石鹸はこれまでOEMメーカーとしてやってきました。しかし、これだけでは事業のポートフォリオとしては脆弱です。 前職で言うと受託案件だけやっているのと同じ状況です。 また、今後の成長性や競争においても、OEMだけに頼ってる状態はよくないと感じていました。

ハブチン:だから自社ブランドを?

木村:はい、自社ブランドで自ら販路を持ち、最終顧客との接点を持ってることは、OEM事業を展開していく上でも強みになりますし、事業的にはOEM事業だけよりも安定します。 また、何より強い自社ブランドを持つことができれば、社員が自信を持てるんじゃないかと思ったのです。

ハブチン:でもいきなり自社ブランドを立ち上げようと思っても、社内的にはなかなか発想が浮かばないですよね?

木村:発想とかよりも、何から手をつければいいのかまずわからない。OEMのビジネスから行くと、なぜそんなことをやらなきゃいけないんだ、っていうことがいっぱいあるんですよね。

ハブチン:OEMの方が一度の売上額も高いですよね?

木村:OEMだったら注文があって製造なので、製造したものが売れ残るということもありませんし、一回の注文で何千個、何万個と製造するので、当然、その分、売上も大きいわけです。 でも、自社ブランドは製造しても売れるか売れないかわからないし、販売単位も小さいので、OEMのように一気に売上が立ちません。

ハブチン:社内からも疑問がでそうですよね?

木村:疑問が出るたび説明しました。今のビジネスが安泰なうちにしか新しい事業には取り組めないんだよ、ということを。OEMがビジネスとして成り立ってるうちに自社ブランドを立ち上げたいと。そして、自社ブランドのメリットや、OEMビジネスとの違いなどをことあるごとに説明してきました。

ハブチン:でもそれは頭でわかってても、今の既存のビジネスをやってる人にとっては感情的にはなかなか理解できないことかもしれないですね。だから社内だけでなく、社外から人材を採用してきたわけですね。というわけで峰松さんにお話を聞きましょう。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

転職を決めたのは「自由に勝手に動ける」から

ハブチン:さて、峰松さんお待たせしました。峰松さんは外資系消費財メーカーでマーケティングをされていたということですが、なぜ木村石鹸に入社しようと思ったんですか?

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峰松:私はゼロから新事業を生み出す「ゼロイチ」がやりたかったんです。 前職では上流のマーケティング戦略を本国が手がけていて、日本はローカライズするところしかできなかったので。このままでは自分でゼロからプロダクトを立ち上げる経験は積めないと思ったのが、転職を考えたキッカケです。

ハブチン:東京のイケてるスタートアップに転職するという選択肢もあったわけですよね?

峰松:イケてるスタートアップは、サービスがある程度成長していて、採用をどんどんやりますというフェーズなので、それだとゼロイチはできないのでそれはないなって。

ハブチン:本当に起業するしかなくなりますよね。

峰松:本当にゼロから起業するとなると、お金も不安定だからモチベーションを別に持たなきゃいけない。この人だから一緒に頑張りたいとか、この人のビジョンについていきたいとか。でもそういうご縁はなかったんですよね。

ハブチン:木村石鹸ならある程度収入を確保しながらゼロイチができますね。

峰松:はい、前職のリアルプロダクトの経験も活かせますし。それで木村石鹸にコンタクトしました。

木村:そもそも募集はウェブデザイナーだったんですけどね。

ハブチン:あ、ウェブデザイナーだったんですか!

木村:インターネットでの直販を伸ばしたかったからウェブデザイナー職を募集していたのですが、実際はウェブデザインよりも、自分で考えて動ける人が欲しかったんですよね。単にデザイナーという職種を求めてくる人はいらなかった。そうしたら案の定、全然違う人が来た(笑)

峰松:私、ウェブデザインはできません。

木村:面接のときに、「うちには商品企画もマーケティングのポジションもないけど大丈夫?自分で考えて勝手に動かないといけないけど」と確認しました。今も勝手に動いてもらってますね。

峰松:勝手に動かせてもらってます。社長は、自分が指示とか管理しなくても社員が自由に動いて成果をあげることが一番理想だといってますね。それが自分の目指すマネジメントのスタイルとも近いなと思いました。ただ自社ブランドの立ち上げというだけだったら、おそらく入社してないと思います。

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相性が良ければ「マネジメント」はいらない

ハブチン:自分が指示をしないとなると、丸投げのように聞こえます。

木村:いや、丸投げですけどね。

ハブチン:丸投げなんですか!

木村:経営者ってお金出して、最終的な意思決定をして、売り上げとか会社の業績に対して責任取るのが本来の役割で、実際やるのは現場じゃないですか?

ハブチン:そうですよね。

木村:現場の仕事は細かい作業の積み重ねでしょう?現場でスピード感をもって意思決定できるようにするには、できる限り管理しない方がいいだろう、というのが私の理想なんです。

ハブチン:面白い。

木村:そもそも管理がない方が多分効率は絶対良くなると思っていて。失敗してもスピードがあったらやり直しできますし。

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峰松:管理する人数にもよると思うんですけど、当社の規模だったら絶対そのやり方が私もいいと思います。

木村:それでこの前ね、イベントで一緒に登壇したさくらインターネットの田中社長が良いことをおっしゃっていたのですが、「欠員募集や、特定の職種の募集をしていたら駄目だ」と。

ハブチン:ほぉ!

木村:とにかく優秀な人を何でもいいからまず採用する、という方針に切り替えなきゃ駄目だ。その人が来たらその人の出来ることに合わせて仕事を作れ。大体優秀な人は仕事作っちゃうから。そういう考え方に変えないと駄目なんじゃないのと。

ハブチン:そういう意味では優秀さも変わって来てるのかもしれないですよね。単に言われたことをきちんとこなすという人材ではないのかな、と思うんですけど、どう思われますか?

木村:うーん、難しいですね。特定の職種に応募してもらえば、その職種に対しての能力が優秀かどうかは結構すぐわかるんですけど。

ハブチン:そうですよね、履歴書とか見てわかるじゃないですか。

木村:でも優秀だなって思う人は直感で結構わかりますよ。前職のITベンチャーときに東京支店の立ち上げで最初に採用した人間が、全くインターネットをやったことがないし、PCもすごく苦手で、キーボードも打てない人だったんですが、実際に会って話をしたら、直感的にめちゃめちゃすごい人なんじゃないか、と思って。最終的に役員にまで出世してくれて、彼がいてくれたからすごく成長できたんです。

ハブチン:なんなんでしょうね?

木村:彼の能力とか経歴で評価したわけじゃなくて、本当に人間性だったんですよね。あと、相性が良かった。この人なら一緒に仕事していったら面白いんじゃないかなと。この人がやることに対しては、そんなに怒ったり、反対したりすることもなさそうだな、というとこだけなんですよね。その相性って結構重要かなと思います。

ハブチン:何をするかよりも誰とするかですね。感覚が近いのは重要ですよね。

木村:重要ですよね。相性が合えばあとは優秀な人にまかせるのが良いですよ。あんまり管理したくない。でも人数が増えてくると、マネジメント側は管理したくないと思ってても、メンバー側は管理されたがるんですよね。

峰松:わかります。社員側からルールを作ろうとする。

木村:不思議なもんでね。自分で作ってる会社なのに、なんでこんなこと守らなきゃいけないんだろう、というルールが結構あります。

ハブチン:ルール作るのが好きな人いますもんね。

木村:ルールができたら、管理しなきゃいけないこともふえてくる。でもそれ意味あるの?ってことばかり増えて。それはすごく嫌なんですよ。

ハブチン:管理することで仕事をつくる人もいますからね。

木村:前職の時も、出勤時間とかどうでもいいと思っていました。夜遅くまで働くことが多かったので、逆に朝の定時には出社できない。だからフレックス制にしたんです。でもフレックスとはいえ、顧客から電話がかかってくる時間にはいなきゃいけない。そのうち部門内で不公平感も出てきて。そうすると「前日何時までいた人は、翌日何時からOK」とか新しいルールが追加されていったんです。

峰松:日本人っぽいですね。

ハブチン:あるあるですね。

木村:自分と違う働き方をしている人を認められない、寛容性がなくなってくる。それは良くなくて、やっぱり寛容性が大事だと。色んな人が色んな働き方をすることを許容しないと駄目なんじゃないでしょうかね。今まではみんな一律でみんな一緒のことをやって、生涯大体同じ会社で過ごして、というのが何十年前の成功モデルじゃないですか。でももうそのモデルは崩れていますからね。

ハブチン:崩れてますね。

新しい働き方を実現するには「マネジメント」のイノベーションが必要

木村:共働きの方の比率が圧倒的に多いのに、全員同じ出社時間を求めるのが当たり前なのがそもそもおかしいでしょうと。

ハブチン:本当にそれ。

木村:子供を預けたりするのに、必ず時間の問題があるじゃないですか。許容性がないために、わざわざ申請するとか、上司や同僚に一言断らなきゃいけないルールがそもそもおかしいんじゃないでしょうか。自分と違う、自分がわからないことをやってる人が感情的に嫌なんだよね、結局みんな。

峰松:通勤も、もっと人が分散したら同じ距離でも全然幸福度が違うと思うんです。

ハブチン:通勤時間をずらすとか、在宅ワークのような働き方をもっと広げていかないとですね。僕も独立して通勤時間がないだけでこんなに時間に余裕が出てくるのかと思いましたよ。

峰松:私は市内に住んでいるので通勤時間は片道40分なんですけど、ずっと座っていられるから本読めるし寝られるし、全然苦じゃないです。

木村:働き方を変えるには「マネジメントしない」っていうイノベーションが絶対必要で、それを実現する仕組みはなにかしら作っていきたいなと思っていますね。

ハブチン:余計なマネジメントしないのは本当に大切ですね。僕も会社員の時より仕事量は二、三倍くらいやってるんですが、工数は半分くらいな感じがします。これって余計な調整が無いからなんだと思います。

峰松:そうそう、そうですよね。

木村:弊社もまだ試行錯誤ではありますが、できるところから変えていきたいと思っています。

ハブチン:陰ながら応援しております。本日はありがとうございました!

まとめ

木村石鹸さんのインタビューを通じて「挑戦」の裏側には「許容」があることを改めて痛感しました。インタビュー中でも木村さんが「丸投げしている」とおっしゃっていましたが、「丸投げ」はなかなかできないです。私自身、メンバーに依頼するときに細かく指示を出しがちだったので、反省。「許容」がないところに「挑戦」はないのかもしれません。

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【羽渕 彰博(ハブチン】
1986年、大阪府生まれ。2008年パソナキャリア入社。転職者のキャリア支援業務、自社の新卒採用業務、新規事業立ち上げに従事し、ファシリテーターとしてIT、テレビ、新聞、音楽、家電、自動車など様々な業界のアイデア創出や人材育成に従事。2016年4月株式会社オムスビ設立。

habchin(Akihiro Habuchi)|Facebook

編集:鈴木健介
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