映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」に学ぶ、事件のトリガーになるセリフ――人生を変えた映画の言葉

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(C) 1989 Universal Studios. All Rights Reserved.

たった一本の映画が人生を変えてしまうことがあります。そんな「運命の映画」には、必ず「刺さるセリフ」があるものです。

映像、音楽、衣装など、総合芸術と呼ばれる映画にはたくさんの見どころがあります。中でも私たちの胸を強く打つのが、登場人物たちが語るセリフ。悩んだとき、落ち込んだとき、人生に足踏みしてるとき。たった一本の映画の、たった一言が、その後の自分を大きく揺さぶることがあるのです。そんな「運命的な映画のセリフ」を、筆者の独断と偏見でお届けするこのコーナー

今回ご紹介するセリフは、タイムマシン「デロリアン」で過去や未来を駆け巡るSF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』(1989年)から。第一作で無事に1985年に帰ってきた登場人物たちが次に向かった未来は2015年という設定で、私たちはすでに「それより先の未来」を迎えているわけですが、それでも劇中に登場する「空飛ぶクルマ」や「ホバーボード」「自動乾燥機つきの服」といった、まだ実現していない、でも実現するかもしれない近未来にワクワクが止まりません。

そして個人的にも続編『2』の方が好きな理由がもうひとつ。それは主人公のマーティーが放つ「とあるセリフ」が、いや性格が、時代を変えるトリガーになってしまう面白さがあるからです。

マーティーの憎めない弱点

ちょっぴり背は低いけれど、爽やかなベビーフェイスの持ち主であるマーティー。悪い奴らにひるまない勇敢さと、彼らを手玉にとる抜群の運動神経があり、女心を鷲づかみにしてしまう男です。ジェニファーという美人の彼女がいるのも納得。しかし魅力的な登場人物には、必ずと言っていいほど「弱点」があるものです。むしろ弱点があるからこそ魅力的に映るのかもしれません。

その兆候は第一作からありました。とある場面でギターをかき鳴らす機会が訪れるのですが、初めこそ自慢のテクで客をノリノリにするものの、自分自身も客そっちのけでノリノリになってしまい、ステージ上でひんしゅくを買ってしまいます。マーティーにはふと我を見失ってしまう、少々抜けたところがあり、だからこそ私たちは彼に魅せられてしまうのでしょう。

ところが続編では、そんな性格が災いします。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

チキンにカチン

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頭のネジが外れたニードルス。頭がショートしているクリフ。現代でも未来でも、彼らは事あるごとに優等生のマーティーを挑発してきます。「このチキン(腰ぬけ)が」と。このチキンという言葉にマーティーはめっぽう弱い。心の奥底にひそむ臆病さをズバリ指摘されてしまった裏返しなのか、あるいはただの負けず嫌いなのか、マーティーはチキン呼ばわりされると怒りのスイッチが入り、いつも我を見失ってしまいます。そしてこう言い放つのです。

Nobody calls me chicken!(おれを腰ぬけと呼ぶな)

実はマーティー、「チキン~」よりもひどい侮辱をされることもあります。一番の悪役ビフに頭をコツコツ叩かれ、「Hello! Anybody home?(おーい、誰かいるか=お前の頭は空っぽなのか)」と馬鹿にされるシーンがあるのですが、これについてはマーティーの怒りスイッチは入りません。こちらもなかなかの挑発行為だと思うのですが、なぜか「チキン~」ほどではないようです。よほど言われたくない言葉なのでしょう。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

リアクションで未来は変わる

マーティーの「短気は損気」な性格のおかげで、物語は時代を超えて面白くなります。あくまでフィクションですから大いに笑い飛ばせばよいのですが、彼を反面教師にはできそうです。つまり自分は何を言われたら嫌なのか、何をされたら腹が立つのか、あらかじめ自覚しておくことが我を見失わない、カッとならない秘訣なのかもしれません。

何か事が起きるときは、実はリアクションする側の態度で決まります。相手の感情を刺激する言動ではなく、それを受けた人がどういう行動に出るか次第で、事は大きくも小さくもなります。事件のトリガーは、発信側ではなく受信側なんですよね。だから自分の身の回りでも「言われそうな人に言われそうなこと」「やられそうな人にやられそうなこと」をあらかじめ想定しておけば、実際に遭遇しても冷静になれるはず。最悪の事態も回避できるかも。

余談ですが、現在アメリカ大統領選の共和党候補になりつつあるニューヨークの不動産王ドナルド・トランプ氏は、本作品の荒廃した世界を牛耳るカジノ王ビフのモデルとされています(脚本家が参考にしたと明言)。しかもフィクション側のビフに負けず劣らず、妄言ともとれる過激な発言を繰り返しています。

まだ一候補に過ぎませんが、もしも今の調子のまま大統領になったとしても、彼の言葉をどう受け止め、どうリアクションするか。実は未来を決めるのは「こちら側」なのだということを、私たちは改めて自覚しておくべきなのかもしれませんね。

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※2016年3月29日の情報です。

※今回、取り上げたセリフは当該シーンの字幕を元にしています。原文の解釈や表現できる文字数の違いから、吹き替え版とは若干異なります。

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バック・トゥ・ザ・フューチャー トリロジー 30thアニバーサリー・デラックス・エディション ブルーレイBOX
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文:松岡厚志

1978年生まれ、ライター。デザイン会社ハイモジモジ代表。ヨットハーバーや廃墟になったプールなど、場所にこだわった映画の野外上映会を主催していた経験あり。日がな一日映画を観られた生活に戻りたい、育児中の父。

イラスト:Mazzo Kattusi

編集:鈴木健介
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