離職率の低いスターバックスが従業員に徹底している5つのポイント

 時給1000円や1500円を出してもアルバイトがなかなか集まらないと言われている外食産業において、とりわけ離職率の低さで知られているスターバックス。『就職四季報』(東洋経済新報社)によると、最近のデータは4.8%とかなり低い数字です。
 スターバックスコーヒージャパンに12年間勤め、店舗ヒューマンリソース部長、人事サービス部部長に着任した目黒勝道氏の近著『感動経験でお客様の心をギュッとつかむ!スターバックスの教え』(朝日新聞出版)によると、同社では、本社の正社員も店舗のアルバイトも、さらにはストアマネージャーも社長も「パートナー」と呼び合うことで、すべての人が対等な立場であり、垣根がないと示しているといいます。
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 父親が、低賃金の仕事に就き、不当な扱いを受けていたことに起因し、同社創業者のハワード・シュルツ氏は「社員を歯車のように扱いたくない」「社員には誇りを持って働いてもらいたい」という願いが人一倍強く、研修などの人材育成に多大な時間と費用を投じているのだとか。
 そこで今回は、評判の高いスターバックスの人材育成システムのポイント5つを同書よりご紹介いたします。

1.研修にかける時間は80時間

 一般的な飲食店で働く場合、研修に割かれる時間は2~3日ですが、スターバックスは学生アルバイトも正社員も分け隔てなく、のべ80時間、約2ヵ月に及ぶ研修を受けることが決められています。その研修では、スターバックスの基本理念である「お客様に感動経験を提供して、人々の日常に潤いを与える」を実現するために、コーヒーの淹れ方を教わる前に、スターバックスのミッションや歴史を学びます。たいていの企業では、社訓はお題目になってしまいがちですが、スターバックスの場合、80時間の研修を通して、働く一人ひとりがミッションを実行できるように人材育成するのです。

2.「是正」と「強化」のフィードバック

 80時間の研修を終え、お店に配属されたあとも、スターバックスのパートナー育成は続きます。そこで大事にされている教育スキルが行動に対する「是正」と「強化」のフィードバック。

・「是正」のフィードバック

「是正」とは、相手の行動を、正しい方向に導くこと。「是正」では、うまくいかなかったとき、相手を責めるのではなく、どうすればよかったのかを気づいてもらうのが目的。「なぜ?」「どうしたの?」と問いかけ、取った行動と取るべき行動を必ず本人に考えさせます。ここで正しい答えをポンと与えてしまうと、相手は自分の頭で答えを考えて行動しなくなるので、それは避けます。

・「強化」のフィードバック

 逆に、うまくいったときに行うのが「強化」のフィードバックです。「強化」のフィードバックでは、よい行動に対して、ほめるだけではなく、何がどうよかったのかを本人に問いかけ、具体的に分析させます。こうすることで「次もやってみよう」というモチベーションが生まれ、よい行動を慣習化できます。

3.仲良しチームにはしない

 人間関係やチームワークのよさで知られているスターバックスですが、どこの店へ行っても、よい意味での緊張感を保ちながら、皆がテキパキ働いています。スターバックスで働くパートナー同士が、お互いに抑止力のなくなる仲良しチームにならないのは、共通認識としてルールがあるから。そのルールとは、主に下記の3つです。

・明確な目標がある

 店の売り上げ目標/ストアマネージャーと考える個別の目標など、スターバックスでは常に目標を掲げることを求められています。

・1人1人の役割が決まっている

 トレーニー、バリスタ、シフトスーパーバイザー(時間帯責任者)など、それぞれの役割ごとにやるべきことが明確に決められており、協働における連帯感があります。

・お客様のために働くという意識を持つ

 お客様のために何ができるかを考えることが最大の使命。自分はよくやっていると内側からの評価ではなく、お客様がどう感じたかという外側からの評価を重視することで、抑止力を欠いた、自分本位の考え方から抜け出せます。
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4.助けを求めるスキルを身につける

 スターバックスでは、パートナー同士が仕事を進めるうえで、コミュニケーションを円滑に行うためのポリシーとして、3つのスタースキルを実践しています。

・自身を保ち、さらに高めていく

・相手の話を真剣に聞き、理解する努力を怠らない

・困った時は助けを求める

 中でも注目なのが、「困った時は助けを求める」。通常だと、わからないことがあってもなかなか聞けないものですが、それを「積極的に助けを求めてよい」と最初に示しているため、気後れすることなく、先輩や同僚に助けを求めることができます。また、これは、自分たちのためではなく、お客様へのサービスをよりよいものにするために助け合おうという意図があるのだそう。

5.接客の基本は「接する」

 スターバックスのサービスの基本には、「シンプリーサービス」という考え方があります。「シンプリーサービス」とは、「接する、発見する、対応する」の3つです。

・接する…対話や状況から気持ちを察す

・発見する…相手の状況に気づき、「ニーズはなにか」「どうやって行動に移すか」を考える

・対応する…対話をして、発見した相手のニーズを満たす行動をかたちにする

 こういった対応はマニュアルにはなく、自発的にパートナーが考え、判断します。結果、相手に喜んでもらえたら、パートナーはさらにモチベーションをあげることができ、働く原動力となるのです。

 いかがでしたか。スターバックス元役員のハワード・ビーハー氏は、「私たちはコーヒーを売っているのではない。コーヒーを提供しながら人を喜ばせるという仕事をしているのだ」と語っています。仕事に疲れて、ほっと一息つきたいとき、スターバックスへ立ち寄ると、確かにコーヒーとともに、ホスピタリティの高いパートナーさんたちの活気や思いやりも受け取っている気がします。
 お客様にもパートナー同士でも、最大限のホスピタリティをもって接し、「感動経験」を提供する。スターバックスの人材育成システムを知ることで、自身も成長できそうですね。

参考書籍:「感動経験でお客様の心をギュッとつかむ!スターバックスの教え」/目黒勝道/朝日新聞出版

文・山葵夕子

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