「ビジネスパーソンは成果を出すべき」とよく言われますが、「頑張っても成果が出ない」「成果は出ているはずなのに評価されない」「仕事における成果ってどんなものだろう?」など、悩んでいる人も多いのではないでしょうか。そもそも、仕事における成果とは何のことであり、どうすれば成果を出すことができるのか。企業向けのビジネススキル研修を手がける株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ代表の高田貴久さんに伺いました。
仕事における成果とは?
一般的に、「成果」とは「人がある目的を持って行動し、成し遂げた良い結果」を意味します。結果を出せば何でもいいわけではなく、あくまでポジティブな良い結果であることが前提です。
では、仕事における成果とはどのようなことを指すのでしょうか。例えば管理職や経営職の人にとっては、売上高や利益などの数字や、製品・サービス提供による顧客満足など、社外から見てインパクトのあるもの。いわゆる「経営成果」となるでしょう。
一方、若手ビジネスパーソンは、主にその経営成果を支える役割を担っています。例えば、業務改善、情報収集、組織風土の醸成、ミスなく任務を遂行することなどが成果へとつながるでしょう。
また、期待される成果も、お客様や取引先といったステークホルダーに良い結果をもたらし、最終的に経営成果へ繋がることが前提となります。ですから、経営成果につながることは、仕事の成果として評価されやすいと考えて行動するようにしましょう。
成果を出すために、仕事の「成果指標」を設定しよう
仕事での成果が評価されるには、「何のためにそれを行ったのか」という目的も判断基準となります。つまり仕事の成果とは、目的の達成度合いや目的への貢献度合いも重要となります。
成果を出すには目的の達成度を測る「ものさし」が必要
成果を測るものさしの一つが、「KGI:Key Goal Indicator」=「重要目的達成指標」です。
ここでは簡単に「成果指標(KGI)」と呼ぶことにしましょう。
「成果指標(KGI)」とは一般的に、企業や部門、プロジェクトなどが最終的に目指すゴールの達成度を、「○カ月後までに」「○○円」「○○件」「○○人」などと数値化した指標のことです。
成果指標を設定するには「何をどうする」という仕事の最終目的を良く考える必要があります。それによって「いつまでに、どの程度」という目標と行動計画が明らかになり、成果を出すための道筋がクリアになるのです。
私がコンサルティングファームの若手だった頃、最終目的はクライアントに価値を提供することですが、とりあえず目先の目的は、コンサルタントへの昇進でした。
そこで社内の先輩にヒアリングして情報を集め、「1年後も社内で使われるスライドを各プロジェクトで最低1枚書く」「2年以内に5名のパートナーと仕事をする」「全てのプロジェクトで次のフェーズに必ず呼んでもらう」という3つの成果指標を自分なりに設定して、実際に行動に移しました。その結果、無事に目標期間内に昇進することができました。
そもそもの目的を間違えると成果は出ない
ただし最終的な目的を見誤ると、成果指標も大きくずれるので注意が必要です。例えば私の会社が海外進出をするために、現地で無料体験セミナーを立ち上げたときのお話をしましょう。
ある現地社員に「セミナーの集客をお願いするね」といって集客を任せました。最初は苦戦していましたが、しばらくすると参加者が順調に増えたので「うまくいっているな」と安心していました。
ところがセミナーは毎回満員なのに、数ヶ月経っても全く営業成績に繋がりません。おかしいなと思ってフタを開けてみると、参加者は任せた現地社員の友人や偵察に来た競合企業など、ターゲットではない参加者ばかりでした。セミナーの本来の目的は、企業の責任者クラスの人に気に入ってもらい、わが社の研修を導入してもらうことでしたが、この状況では契約が取れるはずもありません。
つまり、このとき現地社員は「セミナーの集客数」が成果指標だと思っていたのです。実際に大切なのは「わが社の研修導入につながる企業の責任者クラスの人の参加数」ですので、私自身も指示が正しくなかったと反省しました。
仕事のシーンでこうした認識のずれはよく起こります。ですから「自分の成果指標を正しく設定できる人」=「仕事ができる人」だと言えるのでしょう。
仕事で成果を出すための習慣とは
仕事の成果指標を正しく設定し、成果を出すために必要な習慣や考え方についてご紹介しましょう。
仕事の「目的」を正しく理解する
成果を出すためには、まず仕事の本来の目的を明確にすることが不可欠です。仕事を任されたときは、上司や顧客の視点になって「何のために必要か」「誰にとって何が成果となるのか」を常に考える習慣をつけましょう。
そうした仕事の「上位目的」を捉えることは、最終的には会社の経営理念や、ミッションにまで遡ることにも通じます。
経験が浅い頃は目先の作業に追われて、自分だけ視点になりがちですが、「レンガを積んでいる」のではなく「レンガで家を建てている」「城を建てている」と意識するだけでアウトプットの質は上がり、期待された成果に到達しやすくなるでしょう。
自分の強みを把握した上で「目標」を設定する
目標設定をするときは、周囲が期待するレベルを確認するとともに、仕事における自分の強みや得意分野を把握することが重要です。自己認識が十分でないと、目標が高すぎて達成できなかったり、逆に低すぎて期待に応えられず、評価されなかったりする可能性があるからです。
仕事量と時間を見積もるには、ワークロード(一定時間の間に行える仕事量や作業量)の把握が必要ですが、正確に見積もるのは難しいので自分なりの感覚を身につけることが重要です。私の場合、どうしても見積が甘くなりがちだということに気付いたので、「最初に思った時間の3倍かかる」という感覚で見積もるようにしてからは、無理なく仕事をこなせるようになりました。
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失敗の原因を振り返り改善に繋げる
成果指標とは、課題解決でいうところのWHAT=「あるべき姿」であり、仕事の最終的なゴールとなる指標です。これはPDCA(プラン、実行、評価、対策・改善)サイクルの中のP(プラン)に当たり、定量的で具体的な目標である成果指標を軸にPDCAを回すことで、課題点の洗い出しや、対策・改善に繋げていくことが大切です。
実行してみてギャップを感じたり、思うような成果に繋がらなかったりした場合は、しっかり原因を分析し、問題解決に取り組みましょう。それによって再び実行することで、最終的な目的を達成するためのプロセスがより明確化され、より高いゴールを達成することも可能になるでしょう。
「バリューを出す仕事」と「チャレンジする仕事」を分ける
ビジネスパーソンが成長するためには「バリューを出す仕事」と「チャレンジする仕事」のバランスが大切だと言われます。
前者は経験があって手堅くこなせて成果を着実に出せるものの、周りからは「できて当然」と評価されるし、自分としても達成感を感じたり成長したりしにくい面があります。一方、後者は成長が期待でき、達成すれば褒められるものの、難しすぎて全く成果が出ないおそれがありえます。
バリューを出す仕事の割合が多すぎると成長できず退屈してしまうかもしれませんが、逆にチャレンジする仕事の割合が多すぎると成果に繋がらず、自分自身が追い込まれてしまうかもしれません。
部下に仕事を振るのは上司の責任ですが、仕事を受ける側も「バリューを出す仕事」と「チャレンジする仕事」を見極めて仕事のバランスを取っていくことが大切です。
仕事で成果が出せない原因とは?
「成果が出せない」「努力しても評価されない」という場合に、考えられる原因を紹介します。今の状況を変えるヒントにしてみてください。
仕事の目的の設定がずれている
そもそも仕事の目的の設定がずれていることは、成果が出ない大きな原因です。極端な例ですが「営業の目的は目標の数字を達成することだ」と考えて、顧客のニーズに合わない商品を無理に売ってしまってクレームが発生し、結果的に会社に損害を与えてしまうこともあるでしょう。
自身の視点で仕事の目的を決めていたり、よく理解できていなかったりする場合は、改めて仕事の目的を、先輩や上司に確認してみるといいでしょう。
周囲の期待に無理に応えようと背伸びをする
仕事への意識が高い人にありがちなのが、目標設定が高すぎて成果が出ないことです。原因の一つはワークロードの見誤りなのですが、仕事がどのぐらいのボリュームで、自分はどのぐらいこなせるのかが予測できていないと、気付かないうちに無理をしていることがあります。
もう一つは、周りの期待に答えようとするあまり、わざと背伸びをして仕事を請けてしまうケースです。しかし業務が滞ってしまうと、自分の成果に繋がらないだけでなく、組織全体にも迷惑をかけてしてしまうことになります。明らかに自分だけでは手に負えないと感じる仕事は、勇気を持って断ることが大切です。
直接の「仕事の依頼主」しか見ていない
特に若手ビジネスパーソンの場合、仕事を依頼してきた上司や先輩だけを見て仕事を進めてしまい、結果として期待されていた成果を出せないことがありがちです。
一例として、私がセミナー講師として、会社の教材開発担当者に「○月○日の教材を修正して」と依頼したときのことをお話しましょう。その担当は言われた通りの修正を行い、私に「完了しました」と報告してきましたが、本来その仕事にはまだ続きがありました。
営業に教材の変更を伝えて、顧客の手元にあるものを差し替え、さらに研修時間の調整や社内の登録システムの修正を行うなど、修正に伴う多くの業務があるのです。
仕事を頼まれたときは直接的な「仕事の依頼主」だけでなく、他部門や顧客などの関係者も幅広く視野に入れて動くことを忘れないでください。
「できることベース」でしか仕事を考えていない
仕事を任されたとき、例えば「別の仕事で忙しい」「今週は有休を取る」などの事情を優先して、「できることベース」で低い目標を設定してしまう人は、なかなか評価が上がらないでしょう。
成果を出せる人の多くは、「できることベース」ではなく「やるべきことベース」で仕事を捉え、作業負荷を適切に見積もりながら、業務の効率化を検討することができます。もちろん、自分が無理をしてはいけませんので、自分の能力や時間が足りなければ、ほかのメンバーに振るなどの方法で、目標に到達しようとする発想が大切です。
自分なりの仕事の成果指標を設定してみよう
成果目標を達成するために、みなさんにお勧めしたいのは、自分の努力で達成できる範囲の中で、中長期的な成果指標を設定してみることです。
例えば、私の成果指標は経営者として「人が辞めない会社」という設定をしています。社員の定着は会社にとって採用・育成コストの削減になるだけでなく、お客様との長期にわたる良い関係と、満足度のアップにも繋がります。
自分なりの成果指標を探すのは難しいかもしれませんが、一度見つかればあとは邁進するのみ。成果指標を持つことで、自身の達成度や成長度が認識でき、自己改善にも役立ちます。何より晴れやかな気持ちで仕事ができ、自己肯定感も上がるでしょう。
株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ
グローバルCEO・代表取締役社長 高田 貴久(たかだ・たかひさ)氏
東京大学理科Ⅰ類中退、京都大学法学部卒業、シンガポール国立大学Executive MBA修了。戦略コンサルティングファーム、アーサー・D・リトルでプロジェクトリーダー・教育担当・採用担当に携わる。マブチモーターで社長付・事業基盤改革推進本部長補佐として、改革を推進。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2006年にプレセナ・ストラテジック・パートナーズを設立。トヨタ自動車、イオン、パナソニックなど多くのリーディングカンパニーでの人材育成を手掛けている。著書に『ロジカル・プレゼンテーション』『問題解決―あらゆる課題を突破するビジネスパーソン必須の仕事術』がある。
▶プレセナ・ストラテジック・パートナーズ 公式サイト