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異業界・競合転職も不可避か?
エンジニアの業種別年収 |
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日本経済は景気回復に向かっているが、その足取りは業種や企業によって濃淡がある。昨年は世界不況の影響で手取り年収が減った人も多いが、さて今年度はどうなるだろうか。エンジニア3000名の業種別平均年収を調査したその“驚くべき”結果は──
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/絵理すけ) 作成日:10.05.17
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やはり年収が高いのは金融・保険、サービス業系
今回の調査対象は、前回(学歴と給与)と同じエンジニア3000名。システム開発、システム運用・監視、コンサルタントなどのIT系職種(以下、IT系)と、機械設計、生産技術、品質管理、素材関連などの機械・電気・化学系職種(以下、機械・電気・化学系)に大きくわかれる。勤務先企業の規模は100人未満(26%)、100〜500人未満(24.3%)、1000〜5000人未満(20.6%)が多い。年齢は22歳から35歳、平均年齢は30.75歳となっている。 勤務先企業の業種で最も多いのが「ソフトウェア・情報処理系」で41.4%を占める。通信、インターネット関連などを含めるとIT関連業種は51%と過半数を超える。つづいて多いのが製造業系で39.1%。商社、流通、専門コンサルタント、マスコミ、金融・保険などのサービス業は合計しても7.8%と少数だ。ところが、業種別の平均年収をランキングしてみると、上位に並ぶのは、1位金融・保険系598万円を筆頭に、2位専門コンサル系559万円、4位商社系(総合商社・素材・医薬品など)551万円、7位電力・ガス・水道513万円、8位団体・連合会・官公庁505万円など、ほとんどがサービス業系業種なのである。(DATA1) 製造業では、総合電気メーカー556万円が3位につけているが、あとは5位に化学・石油・ガラスが、9位にコンピュータ・通信機器、10位に医療機器メーカーが顔を出すにすぎない。対象者の最も多い、ソフトウェア・情報処理系ははるかベスト10の下、25位と下位に沈み、その平均年収額443万円は、トップの金融・保険とは155万円もの開きがある。 これはかなり「痛い」結果ではあるまいか。もちろんこの調査は年収が数千万円に達する金融ディーラーと、ソフトハウスに勤める一介のプログラマの比較ではない。金融・保険に勤めている人も、社内情報システムなどを担当するエンジニアなのだ。同じエンジニア同士でも、勤めている会社の業種によってこれほど年収の開きがある。当たり前といえば当たり前とはいうものの、こうした現実をつきつけられて、「技術者としては同じようなレベルの仕事をしているのに」と悔しくなる人も多いのではないかと思われる。 DATA1 会社業種別の平均年収
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“金高造低”“造高情低”の構造は変わらないのか
技術系であれ事務系であれ、一般的に金融・保険業界は製造業よりも給与が高いことは、新卒で就職活動を経験してきた人であれば、わかりすぎる常識だ。同じ製造業でも総合電機と銘打つ大企業と、その子会社や、下請け・サプライヤーに甘んじる中小企業では、年収レベルで歴然とした差があることも常識の内。 またITやインターネット関連産業は時代の寵児とはいうものの、業界の歴史が浅く、明治時代から地道に資本を蓄積してきた金融業界とは、産業基盤が大きく異なる。金融ビックバン以降の業界再編はドラスティックだが、金融業界の高給与体質はそれほど簡単には崩れないのだ。かたやIT業界は、資本主義の歴史でみれば勃興期の産業。株式を上場する社員数1000人以上の企業はまれで、社員10数人規模の零細ベンチャーが多数を占める。さらに社員の平均年齢が若いということもあって、平均年収をとってみると金融や製造業の大手にははるかに歯が立たないのが現実だ。 もちろん、こうした平均年収からみた日本の産業構造が、これからも同じままであるとは言えない。いずれは、“金高造低”(金融が製造業より平均年収が高い)、“造高情低”(製造業が情報産業より高い)の順位が逆転する日が来るかもしれないけれども、はたしてそれはいつのことだろうか。 |
低い製造業、ソフトウェア産業の給与満足度。ほとんどが10年以内に転職を検討
それぞれの業界にいるエンジニアたちの給与満足度や転職意向度はどんなものだろうか。給与満足度が高いのは、専門コンサル、医薬品・化粧品メーカー、総合商社、金融・保険系、化学・石油系、団体・連合会・官公庁系など、平均年収で高位を占める業界がやはり多い。ちなみに専門コンサルタント業の満足度がダントツで高いのは、もともと高給与であることに加え、個人の業績次第で年収が大きくジャンプする成果主義が徹底しているためと考えられる。(DATA2) DATA2 会社業種別の給与満足度
医薬品、化学など構造的に高給与の業種を除く製造業全体の満足度は、30%前後であり、金融にくらべて低いことがわかる。ソフトウェア業種も同様だ。電力・ガス・水道などは実際の平均年収は高いものの、満足度は低い。これは推測だが、これら公共サービスの企業は、いまだ年功序列型の賃金形態が一般的で、そのため今回のような比較的若年層を対象にしている調査では、不満度が高まるのではないかと思われる。流通・小売、サービス業では、平均年収も低く、同時に満足度も低いという結果になった。 給与の多寡は転職動機を形成する主要な要因である。「現在、転職活動を行っているかは別として、2〜3年後ぐらいには転職する意思があるかどうか」を指標にした転職意向度でみると、DATA3のような結果になった。安定業種と思われる、電力・ガス・水道で80%と高いのは意外だが、人材の流動化がそれほど活発ではないといわれてきた鉄鋼・金属、化学・石油なども50%台と、ソフトウェア・情報処理系の業種とほぼ同様に高い。医療機器メーカーやインターネット関連は一見、転職意向が低いように見えるが、実は「2〜3年後には」ではなく「現在、転職活動を行っていて、今すぐに転職する意思があるか」どうかという設問では、医療機器メーカーが23%、インターネット関連15%と高い数字になっている。 それにしても、業界の如何を問わず、回答者の転職意向は高い。「10年先には」という人は態度未定といえるにしても、「今すぐ」や「2〜3年後」というのは確実な未来。その割合が全体で78%に達するというのは、かなりの高率と見てよい。「エンジニアの転職は当たり前」という時代になっていることをあらためて痛感させられる。 DATA3 会社業種別の転職意向度
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より高い年収をめざして、異業種転職も視野に入れる
将来かなりの率の人が転職を希望しているわけだが、転職先に同業種を選ぶか、異業種を選ぶかは大きな違いだ。「同業種のほうが職務内容や経験が活かせて安心だ」とはいうものの、業界全体が不況に陥っている業種では、そもそも同じ業界の転職は募集案件が少なく、チャンスが少なくなる。もし、エンジニアの専門性をいかして、他の業界に転職することを受け入れれば、それだけチャンスは広がることになる。 同一業界の競合会社への転職について興味があるかどうかを聞いてみた結果が、DATA4だ。「興味がある」という回答率が高い(50%以上)のは、インターネット関連、医薬品・化粧品メーカー、家電・AV機器・ゲーム機器メーカー、金融・保険系、食料品メーカー、繊維・服飾雑貨・皮革製品メーカーの6種。 反対に「興味がない」という回答率が高い(50%以上)のは、団体・連合会・官公庁、教育、総合商社系、不動産・建設系、専門コンサル系など7種だった。 たとえ、同じ業界のライバル企業への転職に興味があっても、その可能性が低い場合はどうするだろうか。転職をあきらめてしまうのだろうか。そこで浮上するのが異業種転職の可能性だ。異業種転職とは具体的にどんなことかといえば、例えば、食料品メーカーの生産技術系のエンジニアが、工場での生産ライン設計の経験を活かして、別の製造業種やプラント設備会社に転職するような場合だ。全く同じとはいえないものの、ベルトコンベアラインの配置やそれに伴う電源設備の知識などは異業界でも十分活かせる。 あるいは金融・保険系で大規模なトランザクションを処理するインターネット・バンキングシステムを構築してきたようなエンジニアであれば、そのネットワークやデータベースの知識をSI業界やオンライン・ゲーム業界のインフラ整備に活かせる。このように、自分の専門と経験が他の業界でどのように活かせるかを調べることで、転職チャンスを広げるエンジニアが最近増えている。 もちろん、特殊な領域では異業種からのエントリーに難色を示す企業がないわけではないが、エンジニアも一つの専門性を極めると、例えば財務や経理の専門家と似て、そのスキルはかなりの部分で汎用性をもつものだ。いわばどこに転職しても“つぶしがきく”、汎用的な専門性を身につけることがこれからは重要になる。 このように異業種転職の壁が低くなれば、同じ仕事でも、いつまでも同じ業界、同じ会社ではなく、より給与の高い業界に移動して継続するという選択の可能性が高まる。業界構造や企業規模の違いで、給与格差がなかなか縮まらないのだとすれば、なおさらその壁を越える異業種転職に向けた戦略が、年収アップを考える上では重要なステップになっていくだろう。その材料の一つとして、今回の業種別平均年収の調査を活かしていただければうれしい限りである。 DATA4 「競合会社への転職について興味関心がある」会社業種ランキング
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